ダンジョンの隠し部屋に閉じ込められた下級冒険者はゾンビになって生き返る⁉︎

もう書かないって言ったよね?

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第一章:人間編

第32話 十五階ワイルドボア

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「ふぅー、これでいつでも帰れるな」

 ホーンディアを十八匹倒して、目標の皮五枚と角五本を手に入れた。
 途中、神器の靴を強化して素早さ上昇LV2になったから、少し楽になった気もする。

【神器の靴:使用者に素早さ上昇LV2を与える】
【LV3強化素材:デスアウルの翼五個、槍魚人の穂五本、獅子王の爪五本】

「デスアウルは十六階だけど、魚人は二十二階、獅子王は二十四にいる……うん、無理だな」

 考える必要もないぐらいに答えは明白だった。命を懸けても、二十四階の獅子王には勝てない。
 このまま町に帰りたいが、筋力上昇の手袋を強化するには、十五階まで行かないといけない。

「仕方ない。行くしかないか」

 今回の目的はメルの戦力強化だ。
 キツイのは今回だけで、ここで頑張れば後が楽になる。
 そう思えば、この苦労は最後の試練のようなものだ。

 やる気を何とか出して、地下十四階への階段がある道を進んでいく。
 そして、明るい山道と暗い洞窟の中を交互に進んでいくと、洞窟の中の十四階への階段に到着した。
 時刻は日曜日の午前二時を過ぎている。もう休んでもいい時間だ。

「ふぅー、帰りは月曜になりそうだな」

 無理は良くないので、階段に座って休む事にした。
 一日ぐらい遅くなっても、メルなら金を持っているから大丈夫だろう。
 
 ♢

「ガグゥ‼︎ グルル!」
「チッ……」

 睡眠時間四時間。寝起きの洞窟グリズリーは流石にキツイ。
 星空のようにキラキラ輝く暗い洞窟の中を走って逃げる。
 鉄のように硬く黒い体毛に覆われたグリズリーには、岩杭が直撃しても短剣で刺された程度だ。
 四足歩行で向かってきたグリズリーの腹に岩杭が直撃したが、僅かに怯んだだけで、また向かってくる。

「食らえ!」
「ガグゥ、ガグゥ‼︎」

 勝つには逃げながらの遠距離魔法攻撃しかない。走る速さはグリズリーの方が少し上だ。
 顔面を狙って尖らせた岩塊を発射して、怯ませつつ地味にダメージを与えていく。
 岩壁や岩杭は地面に足を接触させないと使う事が出来ないので、逃げながらは使えない。

「グガァ……グガァ……」
「そろそろいいな!」

 グリズリーの左目に尖った岩塊が突き刺さっている。それでも戦意を失わずに追いかけてくる。
 俺も右目に岩塊が命中するまで逃げるつもりはないので、急反転して剣で襲い掛かった。
 
「行くぞ、死にかけ! オラッ!」
「グガァー‼︎」

 ザァン! 四足歩行で向かってくるグリズリーと交差する瞬間、右目を狙って剣を斜めに振り抜いた。
 グリズリーの苦痛の叫び声が上がるが、俺が聞きたいのは断末魔の絶叫だけだ。
 素早く剣を横に振り抜いて、右脇腹を横に切り裂いた。

 ザァン——

「ガウッ‼︎」
「悪いが楽に死ねると思うなよ」

 俺の剣の腕はまだまだ未熟だ。
 普通はこの剣で一撃で倒せる相手も、倍の手数が必要になる。
 最初の一撃で頭を真っ二つにする事も、次の二撃目で胴体を真っ二つにする事も出来ない。
 もうグリズリーはほとんど死にかけだが、本当に死ぬにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 ♢

「あぁ、疲れた……」

 洞窟グリズリーの皮を五枚入手すると、地下十五階に向かった。
 今度はワイルドボアの皮を五枚入手する。

 地下十五階は森林地帯だ。
 蒸し暑いジャングルと違って、こっちは快適な気温に保たれている。
 高低差のある丘のような濃茶色の大地には、三角形の針葉樹がたくさん生えている。

 だが、生息するモンスターはこっちの方が遥かに凶悪だ。
 ワイルドボアは鋼色の硬い体毛を持つ大猪で、岩壁でも岩杭でも構わずに破壊して向かってくる。
 逃げながらの目潰し攻撃をする余裕もない。倒す方法があるとしたら、逃げずに立ち向かうしかない。
 
「あぁー、早く上位職業になりたい」

 ワイルドボアを探しながら、森の中を歩いていく。
 これだけ苦労しているから、そろそろ魔法剣士か魔術師になってもいいぐらいだ。
 魔術師になれれば、もっと硬い岩杭を作って大猪も一撃で倒せると思う。

「フゴォーッ!」
「んっ? ちょっ、早過ぎだ‼︎」

 何かの気配を感じて振り返ると、鋼色のワイルドボアが真っ直ぐに突進して来るのが見えた。
 急いで太めの大木に移動して、背中をくっ付けて、足元の地面に魔力を集めていく。
 鞘から剣を抜くと、あとはタイミングを間違わなければ死にはしない。

 ダッダッダッ——

「一、二、三!」

 目の前にワイルドボアが迫ってくる。
 俺に激突するタイミングに合わせて数を数えて、打つかる前に足元に岩壁を迫り上げた。
 岩壁の上に両足を乗せて、身体を無理矢理に上に押し上げていく。

「くっ……」
「フゴォ!」

 ドゴォン‼︎ ワイルドボアの突進で岩壁が破壊され、後ろの大木が激突の衝撃で激しく揺れている。
 俺は岩壁が壊される前に上に大きくジャンプして、剣の切っ先を真下に見えるワイルドボアの背中に向けた。
 あとは両手で握った剣を全力で突き刺すだけだ。

「ハァッ‼︎」
「フゴォーッ‼︎」

 ドスッ‼︎ 背骨を狙った一撃がワイルドボアを貫いた。だが、刀身の半分しか突き刺さっていない。
 筋力トレーニングで筋力上昇LV4になったのに、効果はいまいち薄い。

「チッ……またか」

 半年前と同じように地魔法で両手を岩の小手で覆うと、背中に座り込んだ。
 あとは剣の柄頭を手でガンガン叩いていく。足りない分は追加で与えるだけだ。
 だが当然、痛みでワイルドボアが暴れ回る。

「フゴォ! フゴォ!」
「くっ! ぐっ!」

 振り落とされないように柄をしっかり握り締める。
 そっちも命懸けかもしれないが、こっちも命懸けだ。絶対に振り落とされない。

「フゴォ……」
「ハァ、ハァ、ハァ……手間取らせやがって」

 そして、暴れ猪との一分か二分かの長い格闘がやっと終わった。ワイルドボアが地面に力尽きた。
 これならギルドに金を払って、筋力上昇の手袋をLV5にした方が良さそうだ。
 どうやら俺に必要なのは頭脳や技術ではなく、筋力だったようだ。
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