ダンジョンの隠し部屋に閉じ込められた下級冒険者はゾンビになって生き返る⁉︎

もう書かないって言ったよね?

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第二章:ゾンビ編

第72話 騙される女

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 カチ、カチ、カチ……

「もう我慢の限界だ」

 岩の右手で持っている時計の針を見るのをやめた。
 時計の短針が、1~12の数字が刻まれた、時計の中を二周した。
 溶岩の中で篭城してから一日が経過した。ヴァン達はもう居ないはずだ。

 溶岩が入って来ないように、ゴーレムLV2は完全密閉状態で、外の様子は見えない。
 たまにガンと何かに打つかるので、二十四時間流され続けている事は分かる。
 飛び込んだ場所と同じ場所じゃないなら、溶岩の外に出ても、すぐには襲撃されないだろう。

「あの恩知らず共め。進化したら、今度こそ三人まとめて地獄送りにしてやる!」

 あの三人は三ヶ月間も、俺が手取り足取り指導してやったから、今の実力になれた事を忘れている。
 それなのに俺の手足を千切り飛ばして、恩を仇で返しやがった。
 犬猫でも恩は忘れないのに、人間がやる事じゃない。

「くっ、それにしても上下が分からん。流れを頼りにするしかないか……」

 流石に溶岩の中を目を開けて泳ぐつもりはない。
 飛び込んだ瞬間に、仮面の目の穴も閉じた。
 失った手足は岩で代用できるが、目は無理だ。

 まずは適当にゴーレムの身体を真っ直ぐに発射する。
 強い抵抗があれば、流れに逆らっている。弱い抵抗だったら、上下の可能性がある。
 抵抗がなければ、流れに乗っていると考える。

「少し弱い気がするな……こっちはどうだ?」

 発射の力加減に気をつける。発射停止後の細かな動きの変化も感じ取る。
 そして、色々な方向に何度も発射した後に、流れに逆らって、斜め上を目指す事にした。

 これなら天井が溶岩の中でも、天井にぶつかりながらも、いつかは外に出られるはずだ。
 流れの抵抗を感じなくなったら、そこは溶岩の外の天井で間違い。

 ガン——

「んっ? 天井に当たったのか?」

 ゴーレムの頭に衝撃を感じた。頭の先が天井に当たったようだ。
 流れの抵抗は感じない。溶岩の外に出たのかもしれない。

 確認するには、頭や手足の先に覗き穴を作るしかない。
 溶岩の中なら、溶岩が流れ込んでくる前に塞げばいい。

 まずは指先から外に向かって、体内の弾丸を発射して大きな穴を開けた。
 指先の向こうに広い空間と赤い壁が見える。溶岩は流れ込んで来ない。

「フッ。脱出成功だな」

 念の為に覗き穴を足にも開けて、真下を確認した。溶岩の川が流れている。
 宙に空いているゴーレムが再び川に落下する前に、岩盤に向かって飛んだ。

「ぐごぉ!」

 ガガン! 無事に冷えた岩盤の上に激突着地を成功させた。
 さっさと計画通りにゴーレムから脱出して、俺がボコボコにした負傷者の中に紛れ込む。
 今ならまだ何人か自力で動けないのが残っているはずだ。
 一人で怪しまれずに階段を上るには、この方法しかない。

「死んだ仲間は、ウォリー、サムソン、モーリスの三人でいいな。よし、着替えるか」
 
 鞄の中から集めた冒険者カードを取り出して、ゴーレムにやられた仲間三人を選んだ。
 これで一人でいる理由は十分だ。あとは半袖半ズボンにされた服を着替えるだけだ。
 刺激的な青白い腐った太腿と、茶色い岩の足を見せるつもりはない。

「ヤバイな、靴がない……いや、逆にやられた感じが出るから、これでいいのか」

 服の着替えはあったが、流石に靴の替えはなかった。
 放棄した冒険者達の鞄の中にはあるけど、俺は馬鹿な犯人じゃない。
 犯行現場と戦闘現場に戻るつもりはない。

 仕方ないので、岩の裸足に包帯を巻いて誤魔化すしかない。
 最後に岩の右手の指に指輪を五本填めて、打撃の手袋を着けた。
 これで準備完了だ。

「おいおい、マジかよ! 戦力低下し過ぎだろう!」

 一応調べるを使って、岩の手でもアビリティが発動するのか確認してみた。
 だけど、右手に填めた指輪と手袋のアビリティの効果が発動していない。
 これだと素早さの靴を履いても、その辺に売っている靴と同じだ。

「ヤバイぞ、ヤバイ過ぎる! 進化すれば手足が生えるのか? それとも時間が経てば生えるのか?」

 こういう時こそ混乱せずに、落ち着いて冷静にならなければならない。
 危機的状況かもしれないが、何か手があるはずだ。
 手も足も無いけど、良い手はあるはずだ。
 考えて、考えて、考え続ければ、希望の光が見えてくる。

「……あぁー、駄目だ‼︎ 何も見えない!」

 考えた結果、結論は最初から出ていた。
 進化すれば、ダンジョンから出られて、手足も生える。そう信じるしかない。
 破れた服を溶岩の中に投げ捨てると、偽りの両足で歩き出した。

 ♢

 溶岩の川に流された所為で現在地が分からない。
 しばらく適当に歩いていると、冒険者と遭遇してしまった。

「チッ、捜索隊か……」

 相手は一人みたいだが、冒険者としては珍しい女だ。
 俺は男女平等だから平気で女も蹴れるが、こんな三十階に女一人は怪しすぎる。
 少なくとも実力はCランクはあると見た方がいい。
 靴欲しいさに襲ったら、返り討ちに遭いそうだ。

 だったら、仕方ない。最高の演技力を見せつけてやる。
 俺は加害者ではなく、被害者だ。大切な仲間を三人も奪われて、靴も奪われた哀れな被害者だ。
 元仲間三人に裏切られ、手足を奪われた今の俺なら、本物に近い完璧な演技が出来る。
 長い黒髪の女に向かって、助かった喜びに満ちた声を上げて走ってみた。

「あぁー、助かった! 救助隊の人ですか!」
「……」
「ここはどこですか? あの怪物は倒されたんですか?」
「……」

 女は無言で俺を見ているが、構わずに話し続ける。

 俺はゴーレムに襲われて、一人だけ戦わずに逃げて隠れていた臆病者の男だ。
 戻って来た時には仲間は全員死んでいて、悲しみのあまり混乱して、死体は溶岩の中に投げ捨ててしまった。
 今は仲間の家族の為に鞄を届けようとしている最中だ。
 この設定なら、他人の鞄を三つ持っていても、全然不思議じゃない。

「それで上に行く階段はどこにありますか? すみませんが、階段まで案内してほしいんですけど……?」
「……」

 これだけ俺が喋っても、一言も話さない女はちょっと不気味だ。
 きっと髪の色と同じで暗い女なんだろう。知らない男とは緊張して喋れないのかもしれないな。
 まあ、階段までの道案内ぐらいは出来るだろう。

「……こっちです」
「あっ、はい。ありがとうございます」

 女が喋らないので、俺も無言で対応して黙っていると、やっと喋った。
 小声で聞き取りにくいが、聴覚強化の耳飾りがあるから大丈夫そうだ。
 回れ右をして、女が歩き出したので後に続いた。

「俺の名前はポールです。本当に助かりました。お礼がしたいので、お姉さんの名前を教えてくれませんか?」

 根暗女の後ろを話しながら歩いていく。
 もちろん、偽名だがバレなきゃいい。ポール本人の冒険者カードを女に見せた。
 女がジッと冒険者カードを見た後に小声で名前を言った。

「……リエラです」
「リエラ……綺麗な良い名前ですね」

 ここは黙って冒険者カードを見せてほしかった。実力が未知数の相手は対応に困る。
 だが、最初と違って、すぐに返事を返すようになっている。心を開きかけている証拠だ。
 褒めて煽てれば、俺の言う通りに動く便利な仲間になるかもしれない。
 
「良かったら、十五階ぐらいの安全な場所まで護衛してくれませんか? お金は払いますから」

 早速、簡単な護衛依頼をお願いしてみた。まずは心の繋がりよりも、金の繋がりだ。
 リエラは少し考えているが、金なら冒険者達から借りた金がたくさんある。
 首を縦に振るまで、値上げ交渉するだけだ。

「……いいですよ」
「本当ですか!」

 そんな覚悟をしていたのに、すぐに良い返事が返ってきた。
 俺の顔は包帯を巻いているから、顔が好みのタイプではないだろう。
 だとしたら、臆病者の駄目男がタイプなのかもしれない。

「はい、ちょうど用事が済んだので」
「助かります! あなたは命の恩人ですよ!」

 どんな用事だよ、と言いたいけど、リエラは小さく微笑んでいる。
 でも、これでリエラがどんな人間なのか分かった。

 なるほど。ダンジョンで稼いだ金を駄目男に貢いでいたら、三十階まで来てしまった女だ。
 お前も可哀想な女だな。まあ、男を見る目はある。今の俺は駄目男の中の駄目男だ。
 お前の大好きな、騙された可哀想な女にしてやれるぞ。
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