上 下
13 / 33

第13話 クレアの家訪問と魔力紋の成長

しおりを挟む
「いいか、キヨシ。お前が魔法を使えるのは内緒だからな。絶対に言うんじゃないぞ。命を狙われるからな」
「わ、分かったんだな」

 誰が狙っているのかは言わなくても分かる。カイルが後ろを歩く清に念押しする。
 清はリュックサックと赤傘を土部屋に置かされると、杖と弓を持たされた。
 パーティに入れてくれるらしいが、荷物持ちみたいだ。

 カイルはクレアの家を目指して歩いていく。
 清が持つ杖には赤色のリボンが結ばれている。明らかにプレゼントだ。
 銀色の杖=シルバーロッドの先端には、拳大の水色の魔法玉まほうぎょくが付けられている。
 魔法玉は魔法使いの魔力を高めてくれる力がある。
 回復魔法が使えるクレアが使えば、回復力と回復速度が上がるはずだ。

 トントントンとカイルが木扉を叩いた。クレアの家に到着した。
 歩いて5分の距離なのに幼馴染扱いとは、全国の学生に夢を与える長距離幼馴染だ。
 クレアの家も石垣に囲まれた家で、白壁には花畑を泳ぐ魚の絵が描かれている。
 花屋なのか、魚屋なのか分からないが、おそらく普通の民家だ。

「あら、カイちゃん。どうしたの?」
「あー、おばさん。クレアさんいますか? 明日の仕事の件で話があるんですけど……」

 扉が開いて、家の中から老けたクレアが出て来たと思ったら、クレアの母親・ベルナだった。
 肩まで伸びる薄黄色髪のベルナに、カイルが愛想よく丁寧に話している。

「仕事ねぇー。カイちゃん、うちとしては大事な一人娘に冒険者なんてさせたくないんだよ。カイちゃんから辞めるように言ってくれないかい?」
「えっ、いや、それは~……」
「分かってるよ。カイちゃんが誘ったから言いづらいんだろ。でもねぇー、死んだらどうするんだい? 私も若い頃は刺激的な人生が楽しいと思っていたよ。でもねぇー、平凡で退屈な人生の方が良いんだよ」
「はぁー、まあ、そうですね……」

 カイルがベルナの愚痴に完全に捕まっている。清にとっては逃げ出す絶好のチャンスだ。
 カイルはまったく辞めさせるつもりはないが、辞めさせる気持ちもありますよ、みたいな感じに相槌を打っている。
 下手に反論したり、意見するとお義母さん(仮)に嫌われてしまう。それは回避しないといけない。

「カイちゃんも18なんだから、もう大人にならないと駄目だよ。親に食べさせてもらえるのは子供だけで——」
「ちょっとお母さん! またその話! 簡単に仕事を辞めるような奴は、どんな事も長続きしないって言ってたじゃない!」

 カイルが困った顔で、ベルナの長い愚痴を聞かされていると、家の奥から怒ったクレアがやって来た。
 カイルの表情が一瞬で助かったに変わった。おそらく家に行くと毎回愚痴愚痴言われるのだろう。
 うちとしては大事な一人娘に、悪いが近づくのも認めてないのだろう。

「あーはいはい、そうでしたね。カイちゃん、あとは頼んだよ」
「あっ、はい、お任せください」
「まったく……それでどうしたの? キヨシの事で問題でもあったの?」

 ベルナがカイルの肩を叩いて家の奥に引っ込むと、交代するようにクレアが玄関に立った。
 家の中に入れてくれないのか気になるが、おそらく両親に男を連れ込む事を禁止されているのだろう。
 そう思った方が傷は浅くて済む。

「キヨシは問題ないよ。上手くやっている。良い武器が手に入ったから渡しに来たんだ。ジェシカもいるのか?」
「うん、いるよ。待ってて呼んでくるから」

 絶対に家に入れるつもりはないようだ。玄関の扉を閉めて呼びに行った。
 50秒ほど待っていると、クレアと長い赤髪をツインテールにしていないジェシカがやって来た。

「ふわぁ~……もうー、何? 渡したい物があるなら、明日渡せばいいでしょ。昨日あんたの顔を見たばかりなんだから、今日は気を遣って見せないようにしなさいよ」
「明日渡したら練習出来ないだろ。仕事の話もしたいんだよ。キヨシ、持って来い」
「は、はいなんだな」

 ジェシカが欠伸すると、眠そうな目でカイルを見ながら毒舌を吐いている。
 男の扱いが酷いわけではない。立場の弱い相手の扱いが酷いだけだ。
 カイルに犬のように呼ばれて、後ろに控えていた清が杖と弓を持って来た。
 つまりはこんな感じだ。

「ほら、凄いだろ! 最高級品だぞ!」
「これって……武器屋で売っている一番高い弓じゃない⁉︎ こっちの杖も⁉︎ あんた盗んだの!」
「は、はぁー⁉︎ 盗んでねえよ! 模造品だよ! これで野盗を誘き出すんだよ! 当たり前だろう。盗むわけないだろう。馬鹿なんじゃないのか? なに本物だと騙されてんだよ」
「まったく、紛らわしい物持って来るんじゃないわよ!」

 高額のプレゼントを貰えば、大喜びするとでも思ったのだろうか。
 弓と杖を見たジェシカは泥棒だと大声で叫んだ。家の奥からベルナが顔を覗かせている。
 カイルは慌てて本物を偽物だと言って、模造品を用意したそれっぽい理由を言っている。
 確かに高価な武器を持っていれば、野盗に襲われやすそうだ。
 特に雑魚冒険者が持っていれば、高確率で狙われる。

「ねえ、カイル。野盗を誘き出すのは分かったけど、誘き出した後はどうするの? 私達じゃ倒すのは無理よ」
「あー、それは秘密だ。でも、安心していいぜ。野盗なんて何十人来ても、俺が全員返り討ちにしてやるよ。明日は大船に乗ったつもりで、俺に付いてくれば大丈夫だ!」
「はぁ? 何それ。キチンと何するか教えなさいよ。無謀な作戦で巻き添えになるのはゴメンだからね」
「秘密は秘密なんだよ。明日まで我慢しろよ」

 明らかに危険な作戦だ。キチンと計画しているのか、クレアがカイルに聞いてみた。
 カイルは秘密だと言っているが、今適当に考えた作戦を説明できるわけがない。
 何度聞いても無駄だ。明日の朝までには考えるから、それまで持ってもらうしかない。


「よし。最強の剣に最強の盾に最強の鎧だ。負ける気がしないな」

 クレアの家から自宅の部屋に帰ると、カイルは清に描いてもらった武器と防具を完全装備した。
 これで最強の冒険者になったみたいだ。魔法金属で作られた鎧や盾は布のように軽い。
 銀色の紋章が施された青白く輝く鎧と五角形の盾は、遠くから見ても異様な存在感を放っている。

「キヨシ、明日の朝までに明日の食事を用意してくれよ。おにぎり以外に美味しいニホン料理もあるんだろ? 女子ウケするお菓子も忘れるなよ。俺は寝るから、あとは頼んだぞ」
「お、おやすみなんだな」

 カイルは鎧を着たままベッドに寝転んだ。
 清は荷物持ち以外にも食事係もしないといけないらしい。
 清使いが荒いが、清は逃げずにやるようだ。
 カイルの部屋から土部屋に行くと、スケッチブックを取り出した。

「や、やっぱりお饅頭なんだな。よ、ようかんも美味しんだな。た、たこ焼きも美味しいだな」

 カイルの為というよりも自分の為みたいだ。よだれを垂らしそうな顔で何から描こうか悩んでいる。
 おそらく全部描くつもりだが、そんなに食べきれるわけがない。

「あ、熱ッ‼︎」

 だが、予想外の事態が起きた。
 たこ焼きの次の焼きそばを描いていると、清の二の腕の魔力紋に変化が起こった。
 清が熱いと左腕をさすっている。お祭りの屋台料理を描くのは中止のようだ。

「ふぅー、ふぅー、お、終わったんだな」

 魔力紋の変化が終わった。清は息を吹きかけて冷ましている。
 魔力紋が六本の角が生えた、四本足のイカみたいな紋章に変化した。
しおりを挟む

処理中です...