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第27話 街道の騎士団遭遇イベント

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 スケッチブックの清をクレアに預けると、強は丸太小屋に引き返していった。
 カイルとクレアはそれを見送ると、予定通りに二頭の馬を走らせて、フォルクの町を目指した。

「アイツ、結局何者なんだよ? キヨシの事、キヨシと呼んでいたぞ。キヨシ騎士団でもあるのかよ」

 名前が清しか入れない清騎士団は存在しない。
 やべぇ奴が消えて、カイルはやっと我慢せずに好きな事が言える。

「案外、キヨシのお兄さんなのかも? 雰囲気が似てたよ」
「いや、似てたけど……ほぼ服装だけだぞ。あれが騎士団の制服なら、俺なら絶対に入らねえな」
「私もあれはちょっと無理かな。私に似合わないだけで、キヨシには似合っているけど」

 流石に言い過ぎだ。温泉に入っている清に二人の会話は丸聞こえだ。
 ショックを受けているのか、ちくわを食べようとしている体勢で止まっている。

「まあ、キヨシの事はどうでもいいよ。野盗の幹部を捕まえたんだ。それに野盗に現役騎士団員がいたんだ。これは大事件だ。俺達、国内新聞に絶対に載るぞ。そしたら、国王とかに呼ばれて、金一封貰えるんじゃないのか!」
「はぁ……カイルはそうやって話を大きくするのは悪い癖だよ。野盗と言っても、街道を荒らす小さな野盗団だよ。金貨20枚貰えればいい方だと思うよ」

 カイルは大興奮しているが、クレアの方はいたって冷静だ。
 確かに大きな事件だが、新聞の一面の4分の1ぐらいに載ればいい方だ。
 カイルが期待するような国王からの招待状は届かない。

「やれやれ。クレアは夢がないな。まだ分かんねえだろ。魔法使いの野盗三人は賞金が出ると思うぜ。一人最低でも金貨5枚だ。あれだけ強かったんだ。俺の見立てだと、一人金貨20枚は出るな」

 だが、興奮している人間に何を言っても無意味だ、
 今のカイルの頭の中は、国中の人達に賞賛される自分の姿しか想像できていない。
 でも、ちょっとは冷静な部分も残っているようだ。

「でも、これで銅貨5枚だったら最悪だな。なあ、クレア。盗まれた金は返さないと駄目なのか?」
「当たり前でしょ。盗まれたお金を盗んだら、今度は私達が捕まるよ」
「くっ、そうだよな。ちぇっ、キチンと報酬払えよな」

 丸太小屋から見つけた金品をネコババしようかと、クレアに聞いている。
 もちろん答えは決まっている。駄目だという返事にカイルは嫌々ながらも同意した。


「うわぁ……あれ、どっちだよ?」

 しばらく街道を進んでいると、道の先に四頭の馬に乗った、青と赤の制服を着た騎士団員を見つけた。
 カイルは嫌な顔して馬を止めると、野盗なのか本物なのか警戒している。
 本物だとしても、本物の中にも野盗の協力者がいた。
 素直にジブロを渡して、野盗達が森の中にいると報告しても、野盗の協力者だったら意味がない。
 ジブロを奪われて、口封じに殺されるだけだ。

「おい、キヨシ。出て来いよ。お前の出番だ。あの強い奴を呼んでくれ」

 流石はカイルだ。清の使い方を心得ている。
 馬から降りると地面にスケッチブックを置いて、清に強を呼んでくれと頼んでいる。

「い、今忙しいみたいなんだな。だ、駄目なんだな」

 ちょっと待って出て来たのは、強ではなく清だった。
 しかも浴衣を着ている。温泉入って、おでん食って、布団に寝転んでいた。
 野盗の似顔絵は誰が描いているのかと、大至急聞きたい状況だ。

「はぁー、仕方ねえ。強そうなフリでもしてろ。本物の騎士団じゃない可能性があるからな」
「わ、分かったんだな」
「あと、その服を着替えろ。ここは家じゃないぞ!」

 猫の手も借りたい状況だ。カイルはため息を吐くと、清の方で妥協した。
 清は一度スケッチブックの中に戻ると、いつもの服に着替えた。
 ついでにガジェットの大剣を持って、急いで外に出て来た。
 出て来た時にはちょうど馬に乗った男三人、女一人の騎士団に包囲された後だった。

「——っ⁉︎ やっぱり地面から出て来たぞ。何者だ、貴様! 武器を捨てろ!」

 少し遠くの方だったが、地面のスケッチブックに出入りする清はバッチリ目撃されていた。
 騎士団の茶髪の男は驚き、馬に乗ったまま剣を抜くと、切っ先を清に向けた。

「ぶ、武器なら捨てるんだな。で、でも、この魔力紋を見てほしいんだな」

 言われなくても、重い大剣は捨てるに決まっている。
 清は素直に大剣を捨てると、左の二の腕に刻まれている、角の生えたイカの魔力紋を見せた。
 自分が魔法を使える、強い人間だとアピールしている。

「左腕に魔力紋だと⁉︎ 違法な方法で魔力紋を手に入れたのか! ますます怪しい奴だな!」

 別のアピールに成功したようだ。違法魔法使いだと認定された。
 剣を抜いた人数が一人から四人全員に増えた。

「待ってください! 私達は野盗を捕まえたので、騎士団に引き渡しに来ただけです。コルの町を襲った野盗達はまだクテツの森にいます。早く捕まえてください!」
「何故、それを知っている⁉︎ それは極秘——いや、本当か! 野盗はクテツの森にいるのか!」

 これ以上は男達に任せてられないと、クレアが声を上げた。
 すでにコルの町が襲われた事は、近隣の町の騎士団に伝わっているようだ。
 その極秘情報を知っているクレアに茶髪の男は驚いたが、すぐに野盗の居場所に意識を切り替えた。

「はい、野盗達はこのジブロのように騎士団の制服を着ています。コルの町の騎士団に所属するセインという茶髪の男が、裏で野盗と繋がっていました。コルの町で盗まれた物は、この人が取り返してくれました」
「ちょっ、クレア⁉︎ 俺! オレオレ!」

 クレアが青い制服を着ているジブロを指差して、次にジブロを倒した清を指差した。
 カイルが慌てて自分を指差して、オレオレ詐欺をしようとしているが、時すでに遅しだ。
 野盗を倒した英雄は清になりそうだ。

「そうだったのか……疑って済まな——」
「待て。迂闊に信用するな。そいつらが野盗の可能性もある。仲間を一人犠牲にして、助かるつもりかもしれない。悪いが、身分証明書を見せてもらおうか」

 茶髪の男が清に謝罪しようと近づこうとしたが、慎重な金髪の仲間が冷静に止めた。
 野盗が騎士団のフリをしたのなら、今度は野盗を捕まえた一般人のフリも出来る。
 カイル、クレア、清から身分証明書——冒険者許可証を回収した。

「全員冒険者で、二人が魔法使いか……」
「さっき話した騎士団のセインが、俺の仲間のクレアを勧誘したんだよ。俺は最初から怪しいと思っていたから、後を付けたら大正解だった。森の中で野盗に襲われたけど、全員返り討ちにしてやったぜ!」

 冒険者許可証に記載されている情報は、名前、年齢、登録した町、冒険者ランク、魔力の有無などだ。
 カイルが聞いてもない事をペラペラ喋っているが、信用されてない状態では、何を言っても無意味だ。
 事件と同じで、被害者と加害者の双方から話を聞かないと、どちらが本当の事を言っているのか分からない。

 だから、馬の背から地面に降ろしたジブロからも話を聞かないといけない。
 騎士団の男二人にジブロは青い騎士団の制服を脱がされて、身体を調べられている。

「ジーザス。コイツも魔法使いだ。胸に壺型の魔力紋がある」
「おい、起きろ。おい、起きろ」
「うぅぅ……」

 銀髪の男が金髪の男に報告した。
 ペチペチと頬を茶髪の男に何度も叩かれて、やっとジブロは意識を取り戻した。

「誰にやられた?」
「うぅっ……あの、化け物だ……」

 銀髪の男に聞かれて、ジブロは縛られている両手を震わせながら清に向けた。
 カイルの武勇伝が嘘だという事が証明された。
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