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【毎日8時間かけて水汲みをする13歳の少女】

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「さて、これを読んでいるという事は、現在、あなたは不幸なのかもしれない。もしくは、自分は幸福であり、そんな自分よりも不幸な存在を再確認したいだけなのかもしれません。では、時間もない人もいるでしょうから、結論から言いましょう。私は『不幸』です。あなたの事は分かりません。世の中そんなものです」

 では、タイトルにあるように、毎日8時間かけて水を汲みに行く13歳の少女がいるとしましょう。私達日本人は大体1日8時間労働ですが、休憩時間に、移動時間に、出勤前の準備時間も合わせれば、私の場合は週末以外の毎日12時間を仕事に使っている事になります。

 労働時間だけならば、週7日56時間の少女と、週6日72時間で私の方が不幸な目に遭っていると言えるでしょう。

「さて、労働に縛られる時間が長い方が不幸だという決まりはありません。問題は少女の過酷な労働内容です。そう思う人は多いと思います。わざわざ8時間もかけて水を汲みに行かずとも、水が欲しいなら水道の蛇口を捻るだけで、日本ならば簡単に水を手に入れる事が出来ます」

 少女が8時間かけて1日分の水を手に入れるのに、私は1分もあれば、その1日分の水を手に入れる事が出来るのです。そんな日本に生まれた事を幸福だと思い、感謝するように学校でも、家庭でも教えられた事でしょう。

 そして、不幸な子供達の写真が貼られた募金箱に善意の寄付をするのです。または、するように教育されるのです。

「では、世界の最低平均月収を調べてみましょう。私が利用するスーパーにドミニカ共和国への募金箱が設立されていたので、ドミニカ共和国の平均月収を調べてみました。約4万円(不確かな情報)です。一番低い月収はソマリア連邦共和国で約2万2000円(不確かな情報)です」

 正直な感想を言うと、意外と多い月収です。まあ、日本人の平均年収が約441万円という大嘘なデータもあるので、おそらくはこの半分ぐらいが実際のリアルな月収だと思った方がいいでしょう。つまりは1~2万円ぐらいです。

「恵まれた環境に、数十倍の月収……これだけで私達は幸福な人間であり、幸福な国に生まれた事を感謝しますか? 今まで生きていて不幸だと思った事は一度もありませんか? 自信を持って、不幸だと思った事がないと答えられる人は……」

『あなたは洗脳されていますよ』

「幼稚園(保育園)、小学校、中学校、高校、大学と義務という名のもとに私達は教育を受けさせられます。もちろん、義務なのは中学校までの事です。学校教育の意味を考えるならば、《年単位での意欲的な労働が持続可能か》《集団の中でのコミニケーション能力があるか》《高度な学習能力、才能があるか》そんな所でしょう」

 さて、お気づきのようにドンドン不幸なのか、幸福なのかという問題から遠去かっていますね。ここで元の問題に戻るとしましょう。我々は学校や社会から徐々に徐々に自分は幸福だと、恵まれていると頭と身体に教え込まれていきます。それは直接的な言葉ではなく、間接的な方法で無意識に教え込まれるのです。

「間接的な方法とは、《児童・母子福祉》《障害者福祉》《高齢者福祉》《生活困窮者の生活保護》などです。遠く離れた発展途上国にも困っている人はいるでしょうが、我々の身近にも困っている人は沢山います。私も困っているぐらいです。むしろ、困っていない人がいるのでしょうか?」

 身近にいる困っている人を助ける事で、日常的に我々は助け合いの素晴らしさを実感する事になります。

 困っている人を見かけたら助けるのが当たり前。自分が困っている時は誰かが助けてくれるのが当たり前。このように教えられたはずです。

 実際には困っている人がいても、見て見ぬ振りをする人が多いですが、確かに助けようとする人は必ずいますし、何度もそのような助け合いのシーンを日常で見た事があるでしょう。そのようなシーンを見て、『良い人だな』と、その人や、その人達の優しさに感動するのです。

「《助け合い》と、《助ける》は全く違います。《助け合い》は素晴らしい考えですが、大抵は《助ける》で終わってしまいます。一方的に上の者が下の者を助けて完結する物語を想像しているようならば、それは大きな間違いです。現在の多くの国は下の者が上の者を助けるような仕組みに作られてしまっています。下の者から生命、時間、財産を奪い、一部の上位数%が幸福を実感できる世界になっているのです」

 これが事実ならばと、今から国民一揆でも起こして、政府を転覆させようと考える人達がいるかもしれませんが、世界の中でも最低月収のソマリア連邦共和国は内乱で無政府状態です。

 仮に国民一揆を起こしても、上位数%が不幸になるだけではなく、下位の大多数の数十%が更に不幸になります。戦争を起こして、皆んなを幸福にしようと思っている人がいるのなら、もう手遅れです。世界は不幸に満ちているのです。

「では、次回のテーマは【毎日8時間の水汲みから解放された少女】です。我々が12時間の労働から解放される日は来るのでしょうか? おそらく、この話を読んでいる人は暇人か、勉強熱心なのでしょう。では、また次回お会いしましょう」


 







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