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第12話 幻の白色巨大カブト虫①
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ゴシゴシと気合を入れて、お風呂場の床タイルをタワシで擦っていく。クエスト前にこんな事をして体力を消費するなんて馬鹿みたいだけど、やるしかない。それに一人暮らしのマリクはいつも一人で寂しく、誰にも褒められずにやっている事だ。まあ、あいつの場合はカビだらけのお風呂場の方が容易に想像できるけど……。
さて、昨日の夜中に風呂に入ったばかりなので、今回は全身を軽く洗うと風呂は終わりだ。色々とやっていると直ぐに時間は経ってしまう。時間的にもアリサが起きて来るかもしれない。
バスタオルで急いで身体を拭くと、シャツと短パンを着て、脱衣所から脱出した。アリサが起きているのなら、キチンと洗われる可能性がある。女性と会う=デートなのだと、アリサの頭の中では変な公式が成り立っている。集合時間は午後6時なので、まだまだ4時間ぐらいはのんびり出来るけど、浴槽の中でアリサの小言を聞きながら、のんびりしたくはない。
「こんな感じでいいか」
鍋でお湯を沸かして、乾燥ワカメ、タマネギ、白身魚を投入していく、最後に出汁入り味噌を投入してかき混ぜれば、『白身魚とワカメのお味噌汁』は完成だ。あとはテーブルの上に炊き立てご飯や温め直した肉じゃがを並べれば、遅めの昼食を始められるぞ。
「いただきます」
熱々の味噌汁を飲みながら、忘れ物がないか最終チェックする。包帯はいいけど、傷薬や解毒薬の使用期限は大丈夫だっただろうか。夜の森は寒いから厚手の服を着た方がいいかもしれない。家を出るまで、まだ3時間ちょっとは余裕があるけど……アリサが全然起きて来ないから、僕が晩ご飯も用意しないといけない。
冷蔵庫にはマトモな食材が残っていなかったので、今から食材の買い出しに行って、家に戻って作るのは面倒だ。だとしたら、何処かでお弁当を買ってくるべきかもしれないけど……二日連続でそんな贅沢をしたくないし……。
「んんっ……? この匂いは何?」
「おはよう、アリサ。僕が味噌汁を作ったんだよ。なかなか美味しいよ」
我が家の眠り姫がやっと起きたようだ。アリサには、「あと1時間だけ」と言われたけど、優しい兄は2時間も起こさずに、洗濯物を洗って、風呂掃除をして、昼ご飯も作った。我ながら出来た兄だ。
「へぇー、お兄ちゃんが作ったんだ……ねぇ、お兄ちゃん?」
「んっ? どうしたの? 美味しくなかったの?」
キッチンのコンロの上に置いてある味噌汁の鍋の中を覗き込んだまま、アリサが動かなくなった。あれ? 出汁入り味噌の量が少なかったかな? それとも多かったのか? 味を確認しながら入れてたから上手く出来たと思ってたんだけどなぁー。
「何でお味噌汁の中に魚が入っているの?」
「ああ、冷蔵庫に余っていたから使ったよ。早く使わないと傷むでしょう」
「ふぅーん、そう……」
何だか、アリサの声のトーンが少し下がった気がする。もしかすると、魚は使ったら駄目な食材だったんじゃないのか? だとしたら、機嫌を良くしてもらわないと困る。
「それよりもアリサがこんな時間まで寝ているなんて珍しいね? 疲れているなら今日はゆっくり休んでいていいんだよ。2、3日ぐらいならお金に余裕があるから」
「いいよ、別に……私、疲れていないから……」
キッチンから戻ってきたアリサは明らかに不機嫌なご様子だ。それでも、手に持っているお椀には魚多めの味噌汁が注がれている。味は悪くはなかったようだ。これで不味ければ兄として終わっていた。
「うっ……じゃあ、今度の休みに何処か行こうか? たまには贅沢しないと気が滅入るでしょう。アリサも欲しい服とかあるんじゃないの?」
「服? んんっ……今はそこまで欲しくないかな。それよりもお兄ちゃん、昨日の夜に話していた暗視ゴーグルっぽい物を二人分作ったから。今度、家に来る彼女さんと一緒に使ってね」
「またまた、そんな事言って……そんなに簡単に作れる訳ないでしょう。話したのは昨日の夜だよ」
昨日の夜から作り始めたとしても、僕が起きた時にはアリサは隣に寝ていた。僕が起きる少し前に寝たとしても、制作時間は11時間ぐらいしかない。作るのに必要な材料があったとしても、絶対無理だ。
「むぅぅー! 昨日の夜から頑張って作ったのに信じないの!」
「いやぁー、アリサが嘘を吐いているとは思っていないよ。でも、アリサは暗視ゴーグルの事を知らなかったし、暗視ゴーグルの値段は金貨30枚だよ。簡単には作れないって」
今日のアリサは寝不足なのか、かなり怒りっぽい。下手に何か言うべきではないけど、冒険者として適当な道具を戦闘で使う訳にはいかない。駄目な物は駄目だと教えないと、アリサが変な物を作るようになって、恥をかく事になる。
「お兄ちゃんは分からないだろうけど、暗闇を良く見えるようにするぐらい簡単だよ。使えば分かるから、いいから持って行って、使ってね。絶対だよ! 分かった!」
「はいはい、分かりましたよ」
ここまで言われたら仕方ない。下手に反論して怒らせるよりも、騙されたと思って持って行くしかない。それにアリサの機嫌がこの程度の事で良くなるなら、別に使えなくても問題はない。いつものように松明を地面に刺して、大木の樹液を吸いに来たギガースビートルを倒せばいいんだから。
♢
♦︎
♢
♦︎
♢
「という訳でレベッカに渡して使って欲しいって」
「へぇー、小さいのに器用な妹さんね。会うのが楽しみだわ」
「……」
待ち合わせ場所は街側の転移ゲートの前だ。モニカさんを除いた、マリクとレベッカが待っていた。アリサから半ば無理矢理持たされた『防塵マスク型の暗視ゴーグル』——つまりは『暗視マスク』をレベッカは喜んで受け取ってくれたけど、おそらく社交辞令だ。マスクの時点でもうゴーグルではない。
アリサの説明では、状態異常の『暗闇』を治す薬品を加工して、それをマスクの中に仕込んでいるらしく、その薬品を吸い込み続ける事で、常時暗闇状態を治し続ける事が出来るそうだ。正直、状態異常の暗闇と普通の真っ暗な場所は違うとは思うけど、効果はあったそうだ。
「ちょっと、アベル。こっちに来い。二人っきりで話したい事があるから」
「何だよ? お前の分は無いからな。お前と間接マスクは嫌だから貸さないぞ」
「いいから来い!」
黙っていたかと思ったら、マリクが急に怒り出した。強引に僕の右腕を引っ張って、人気の無い場所に連れて行こうとする。そんなにこの暗視マスクが欲しかったのだろうか?
「おい、アベル。お前、ヤバイ薬とかやってんのか?」
「何言ってんだよ、いきなり⁉︎ これは市販の薬を少し加工しただから、ヤバイ副作用とかないよ。まったく、そんなヤバイの使わせる訳ないだろう」
……多分。そういえば長時間薬草を吸い続けると、気持ち良くなってくるとか聞いた事があるような。昨日の虫除けリングと同じで、これだと人体実験じゃないか。やっぱりマリクに貸した方がいいんじゃないのか。
「ちーがーうー‼︎ 俺が言っているのは、妹と風呂入って、一緒に寝て、あーんしている事だよ! 何やってんだよ! 妹だろう!」
「ハッハッ♪ 何馬鹿な事を言ってんだよぉー。アリサはまだまだ子供だし、妹だぞ。兄妹なんだから一緒に風呂に入るぐらいはするだろう。気持ち悪い想像してないで、さっさと行くぞ」
思わず笑ってしまった。声を荒げて何を言うかと思ったら、くだらない。馬鹿だとは思っていたけど、ここまで大馬鹿だったとは思わなかった。まあ、馬鹿は治らないから仕方ない。諦めよう。
「いいか、アベル。本当に我慢できなくなったら、そういう店とか知っているから言うんだぞ。変な気は起こすんじゃないぞ? 分かったな?」
「はいはい、分かりましたよぉー。さあ、行くぞ」
「いいか、変な気だけは起こすなよ」
「はいはい……」
馬鹿は適当に相手してクエストに出発しよう。時間はあるけど、ギガースビートルの報酬はたったの銀貨3枚だ。昨日のプロトスクスの稼ぎで、何とかレベッカ達の婚活パーティー参加費の弁償はチャラにしてもらったけど、三人で報酬を分ければ、一人銀貨1枚だ。最低ランクのJランクよりは高いけど、それでもGランク冒険者には物足りない金額だ。
「いきなり、どうしたのよ、あんた達?」
「ああ……コイツがモニカさんがいないなら、今日は行きたくないって我儘言ってるんですよ。大丈夫です。説得しましたから」
「ハァッ? モニカは試験の準備で忙しいから、私が来なくていいって言ったのよ。さっきも言ったでしょう? 嫌なら来なくてもいいのよ。人手は二人いれば十分だから」
「いやいや! 行きますよ。喜んで行きますよぉー!」
「だったら、文句言ってないで行けばいいのよ! くだらない事で時間取らせんじゃないわよ!」
「はい……すみません」
そうだ。しっかりと反省しろよ。レベッカに怒られてマリクは身体の芯まで反省しているようだ。相棒の事を邪な目で見た当然の罰だ。僕が妹と仲良く暮らしているから嫉妬するなんて、なんて気の小さい男なんだ。彼女じゃなくて、妹だぞ。一人暮らしがそんなに寂しいなら、猫ちゃんでも飼っていろよ‼︎
……と、流石の僕も心の中で思うだけで我慢した。言ってしまうと、マリクが再起不能になってしまう。それは困る。言うなら、クエストが終わった後だ。
「じゃあ、歩きながら作戦をするわよ。まあ、そんな作戦を用意するようなモンスターじゃないけどね」
転移ゲートを抜けると、レベッカの話を聞きながら、大木が多く生息している西の森を目指して歩き出した。今日、倒す予定のギガースビートルは、新米冒険者でも攻撃を当てる事が出来れば倒せるような弱いモンスターだ。けれども、高い場所の幹に張り付いている巨大カブト虫を攻撃する手段がないと、途端に難しくなる。
「あんた達も何度か倒したようだから、分かっているとは思うけど、殺したら勿体ない奴もいるから気をつけるのよ」
「分かっていますよ。レベッカ姉さん! 赤、青、白ですよね!」
「そうそう、その三色は生け捕りが基本よ。殺してもいいらしいけど、身体が欠損していると、マニアは絶対に買取らないわよ。今日は目標数を倒しても、朝まで粘って探すから覚悟しなさい!」
「了解っす!」
お前達、昨日飲み会に行っただろう? と聞かなくても分かるテンションだ。僕が荷車に揺られて頑張っている時に三人で楽しく盛り上がりやがって……だいたい、「朝まで寝かせないぞ」とか言う奴ほど早く寝るのは分かっている。
(クッククク♪ 僕は紳士だから、寝込みの女性に悪戯はしないけど、寝込みの男には容赦はしない。マリク、今夜が楽しみだな……)
♢♦︎♢♦︎♢
さて、昨日の夜中に風呂に入ったばかりなので、今回は全身を軽く洗うと風呂は終わりだ。色々とやっていると直ぐに時間は経ってしまう。時間的にもアリサが起きて来るかもしれない。
バスタオルで急いで身体を拭くと、シャツと短パンを着て、脱衣所から脱出した。アリサが起きているのなら、キチンと洗われる可能性がある。女性と会う=デートなのだと、アリサの頭の中では変な公式が成り立っている。集合時間は午後6時なので、まだまだ4時間ぐらいはのんびり出来るけど、浴槽の中でアリサの小言を聞きながら、のんびりしたくはない。
「こんな感じでいいか」
鍋でお湯を沸かして、乾燥ワカメ、タマネギ、白身魚を投入していく、最後に出汁入り味噌を投入してかき混ぜれば、『白身魚とワカメのお味噌汁』は完成だ。あとはテーブルの上に炊き立てご飯や温め直した肉じゃがを並べれば、遅めの昼食を始められるぞ。
「いただきます」
熱々の味噌汁を飲みながら、忘れ物がないか最終チェックする。包帯はいいけど、傷薬や解毒薬の使用期限は大丈夫だっただろうか。夜の森は寒いから厚手の服を着た方がいいかもしれない。家を出るまで、まだ3時間ちょっとは余裕があるけど……アリサが全然起きて来ないから、僕が晩ご飯も用意しないといけない。
冷蔵庫にはマトモな食材が残っていなかったので、今から食材の買い出しに行って、家に戻って作るのは面倒だ。だとしたら、何処かでお弁当を買ってくるべきかもしれないけど……二日連続でそんな贅沢をしたくないし……。
「んんっ……? この匂いは何?」
「おはよう、アリサ。僕が味噌汁を作ったんだよ。なかなか美味しいよ」
我が家の眠り姫がやっと起きたようだ。アリサには、「あと1時間だけ」と言われたけど、優しい兄は2時間も起こさずに、洗濯物を洗って、風呂掃除をして、昼ご飯も作った。我ながら出来た兄だ。
「へぇー、お兄ちゃんが作ったんだ……ねぇ、お兄ちゃん?」
「んっ? どうしたの? 美味しくなかったの?」
キッチンのコンロの上に置いてある味噌汁の鍋の中を覗き込んだまま、アリサが動かなくなった。あれ? 出汁入り味噌の量が少なかったかな? それとも多かったのか? 味を確認しながら入れてたから上手く出来たと思ってたんだけどなぁー。
「何でお味噌汁の中に魚が入っているの?」
「ああ、冷蔵庫に余っていたから使ったよ。早く使わないと傷むでしょう」
「ふぅーん、そう……」
何だか、アリサの声のトーンが少し下がった気がする。もしかすると、魚は使ったら駄目な食材だったんじゃないのか? だとしたら、機嫌を良くしてもらわないと困る。
「それよりもアリサがこんな時間まで寝ているなんて珍しいね? 疲れているなら今日はゆっくり休んでいていいんだよ。2、3日ぐらいならお金に余裕があるから」
「いいよ、別に……私、疲れていないから……」
キッチンから戻ってきたアリサは明らかに不機嫌なご様子だ。それでも、手に持っているお椀には魚多めの味噌汁が注がれている。味は悪くはなかったようだ。これで不味ければ兄として終わっていた。
「うっ……じゃあ、今度の休みに何処か行こうか? たまには贅沢しないと気が滅入るでしょう。アリサも欲しい服とかあるんじゃないの?」
「服? んんっ……今はそこまで欲しくないかな。それよりもお兄ちゃん、昨日の夜に話していた暗視ゴーグルっぽい物を二人分作ったから。今度、家に来る彼女さんと一緒に使ってね」
「またまた、そんな事言って……そんなに簡単に作れる訳ないでしょう。話したのは昨日の夜だよ」
昨日の夜から作り始めたとしても、僕が起きた時にはアリサは隣に寝ていた。僕が起きる少し前に寝たとしても、制作時間は11時間ぐらいしかない。作るのに必要な材料があったとしても、絶対無理だ。
「むぅぅー! 昨日の夜から頑張って作ったのに信じないの!」
「いやぁー、アリサが嘘を吐いているとは思っていないよ。でも、アリサは暗視ゴーグルの事を知らなかったし、暗視ゴーグルの値段は金貨30枚だよ。簡単には作れないって」
今日のアリサは寝不足なのか、かなり怒りっぽい。下手に何か言うべきではないけど、冒険者として適当な道具を戦闘で使う訳にはいかない。駄目な物は駄目だと教えないと、アリサが変な物を作るようになって、恥をかく事になる。
「お兄ちゃんは分からないだろうけど、暗闇を良く見えるようにするぐらい簡単だよ。使えば分かるから、いいから持って行って、使ってね。絶対だよ! 分かった!」
「はいはい、分かりましたよ」
ここまで言われたら仕方ない。下手に反論して怒らせるよりも、騙されたと思って持って行くしかない。それにアリサの機嫌がこの程度の事で良くなるなら、別に使えなくても問題はない。いつものように松明を地面に刺して、大木の樹液を吸いに来たギガースビートルを倒せばいいんだから。
♢
♦︎
♢
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「という訳でレベッカに渡して使って欲しいって」
「へぇー、小さいのに器用な妹さんね。会うのが楽しみだわ」
「……」
待ち合わせ場所は街側の転移ゲートの前だ。モニカさんを除いた、マリクとレベッカが待っていた。アリサから半ば無理矢理持たされた『防塵マスク型の暗視ゴーグル』——つまりは『暗視マスク』をレベッカは喜んで受け取ってくれたけど、おそらく社交辞令だ。マスクの時点でもうゴーグルではない。
アリサの説明では、状態異常の『暗闇』を治す薬品を加工して、それをマスクの中に仕込んでいるらしく、その薬品を吸い込み続ける事で、常時暗闇状態を治し続ける事が出来るそうだ。正直、状態異常の暗闇と普通の真っ暗な場所は違うとは思うけど、効果はあったそうだ。
「ちょっと、アベル。こっちに来い。二人っきりで話したい事があるから」
「何だよ? お前の分は無いからな。お前と間接マスクは嫌だから貸さないぞ」
「いいから来い!」
黙っていたかと思ったら、マリクが急に怒り出した。強引に僕の右腕を引っ張って、人気の無い場所に連れて行こうとする。そんなにこの暗視マスクが欲しかったのだろうか?
「おい、アベル。お前、ヤバイ薬とかやってんのか?」
「何言ってんだよ、いきなり⁉︎ これは市販の薬を少し加工しただから、ヤバイ副作用とかないよ。まったく、そんなヤバイの使わせる訳ないだろう」
……多分。そういえば長時間薬草を吸い続けると、気持ち良くなってくるとか聞いた事があるような。昨日の虫除けリングと同じで、これだと人体実験じゃないか。やっぱりマリクに貸した方がいいんじゃないのか。
「ちーがーうー‼︎ 俺が言っているのは、妹と風呂入って、一緒に寝て、あーんしている事だよ! 何やってんだよ! 妹だろう!」
「ハッハッ♪ 何馬鹿な事を言ってんだよぉー。アリサはまだまだ子供だし、妹だぞ。兄妹なんだから一緒に風呂に入るぐらいはするだろう。気持ち悪い想像してないで、さっさと行くぞ」
思わず笑ってしまった。声を荒げて何を言うかと思ったら、くだらない。馬鹿だとは思っていたけど、ここまで大馬鹿だったとは思わなかった。まあ、馬鹿は治らないから仕方ない。諦めよう。
「いいか、アベル。本当に我慢できなくなったら、そういう店とか知っているから言うんだぞ。変な気は起こすんじゃないぞ? 分かったな?」
「はいはい、分かりましたよぉー。さあ、行くぞ」
「いいか、変な気だけは起こすなよ」
「はいはい……」
馬鹿は適当に相手してクエストに出発しよう。時間はあるけど、ギガースビートルの報酬はたったの銀貨3枚だ。昨日のプロトスクスの稼ぎで、何とかレベッカ達の婚活パーティー参加費の弁償はチャラにしてもらったけど、三人で報酬を分ければ、一人銀貨1枚だ。最低ランクのJランクよりは高いけど、それでもGランク冒険者には物足りない金額だ。
「いきなり、どうしたのよ、あんた達?」
「ああ……コイツがモニカさんがいないなら、今日は行きたくないって我儘言ってるんですよ。大丈夫です。説得しましたから」
「ハァッ? モニカは試験の準備で忙しいから、私が来なくていいって言ったのよ。さっきも言ったでしょう? 嫌なら来なくてもいいのよ。人手は二人いれば十分だから」
「いやいや! 行きますよ。喜んで行きますよぉー!」
「だったら、文句言ってないで行けばいいのよ! くだらない事で時間取らせんじゃないわよ!」
「はい……すみません」
そうだ。しっかりと反省しろよ。レベッカに怒られてマリクは身体の芯まで反省しているようだ。相棒の事を邪な目で見た当然の罰だ。僕が妹と仲良く暮らしているから嫉妬するなんて、なんて気の小さい男なんだ。彼女じゃなくて、妹だぞ。一人暮らしがそんなに寂しいなら、猫ちゃんでも飼っていろよ‼︎
……と、流石の僕も心の中で思うだけで我慢した。言ってしまうと、マリクが再起不能になってしまう。それは困る。言うなら、クエストが終わった後だ。
「じゃあ、歩きながら作戦をするわよ。まあ、そんな作戦を用意するようなモンスターじゃないけどね」
転移ゲートを抜けると、レベッカの話を聞きながら、大木が多く生息している西の森を目指して歩き出した。今日、倒す予定のギガースビートルは、新米冒険者でも攻撃を当てる事が出来れば倒せるような弱いモンスターだ。けれども、高い場所の幹に張り付いている巨大カブト虫を攻撃する手段がないと、途端に難しくなる。
「あんた達も何度か倒したようだから、分かっているとは思うけど、殺したら勿体ない奴もいるから気をつけるのよ」
「分かっていますよ。レベッカ姉さん! 赤、青、白ですよね!」
「そうそう、その三色は生け捕りが基本よ。殺してもいいらしいけど、身体が欠損していると、マニアは絶対に買取らないわよ。今日は目標数を倒しても、朝まで粘って探すから覚悟しなさい!」
「了解っす!」
お前達、昨日飲み会に行っただろう? と聞かなくても分かるテンションだ。僕が荷車に揺られて頑張っている時に三人で楽しく盛り上がりやがって……だいたい、「朝まで寝かせないぞ」とか言う奴ほど早く寝るのは分かっている。
(クッククク♪ 僕は紳士だから、寝込みの女性に悪戯はしないけど、寝込みの男には容赦はしない。マリク、今夜が楽しみだな……)
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