15 / 56
第14話 冒険者ギルドでクエスト探し
しおりを挟む
土曜日の朝、相棒のマリクと一緒に街の冒険者ギルドにやって来た。クエストボードに貼られた色々な依頼の中から素早く二枚を選んだ。
『レッドウルフの毛皮5匹分。火山。銀貨7枚』
『鉄鉱石30キロ以上。火山。銀貨6枚』
どちらも同じ場所で比較的に楽な仕事内容だ。明日のレベッカとのクエストの負担にはならないだろう。
「この二つにするけどいいか?」
「おおぅ。いいぜ。誰でも掛かって来い」
隣に立って同じようにクエストボードを見ていたマリクに聞いた。コイツはクエストを選ぶ決断力がないので、僕が誰かに取られる前にいつも決めている。それにしても誰でもはマズイだろう。何でもにした方がいい。
「すまんすまん。明日の婚活パーティーが楽しみでテンション上がっちゃってたよ。あっははは!」
朝からかなりご機嫌なご様子だ。結果が分かっているのに懲りずにまた参加するらしい。もちろん僕は断った。今はそんな無駄な事はしないで、地道にレベル上げを優先した方がいい。
クエストボードから依頼票を取ると、ご機嫌な相棒を連れて、一番少ない受付カウンターに並んだ。前には14人の冒険者が並んでいた。ソロ冒険者もいるだろうけど、パーティーを組んでいる人も何人かいるはずだ。最大で10分ぐらい待てば自分達の番がやって来るだろう。
「そんな調子だと、前回みたいに女に喧嘩売られてしまうぞ。控えめで、大人しくしていた方が好印象に見えるんじゃないのか?」
「おいおい、やめてくれよ。お姫様じゃないんだからさぁ……好印象じゃなく、印象に残らないと駄目なんだよ。そんなんじゃ、『あの人良い人ねぇー』で終わるんだよ。俺はグイグイ積極的に攻めてアピールしていくぜ!」
「はいはい、お前のお好きなようにしたらいいさ」
前回の反省はまったく出来ていないようだ。まあ、僕は参加しないのでどうなろうと関係ない。マリクには悪いけど、僕も明日は好きにさせてもらう予定だ。
コイツが婚活パーティーで遊んでいる間に、レベッカと少し高額のクエストを受ける約束をしている。クエスト報酬金の合計が、残り金貨11枚でレベル32になれる予想なので、一週間ちょっともあれば十分だろう。
現在のマリクのレベルは33。コイツが気づいた時にはもう僕が追いつき、追い越しているかもしれない。それを考えると連日のクエストも俄然やる気が出るというものだ。
「それよりもモニカさんはどうしたんだよ? 婚活パーティーに行くって事は諦めたって事なのか? 一緒に飲みに行ったぐらいなんだから、まだ心残りとかあるんじゃないのか? どうなんだよ?」
好きな女性への気持ちを忘れる為に、他の女性を好きになろうとしても無駄なだけだ。例え好きだと思う事は出来ても、好きになる事は絶対に出来ない。愛とはそういうものだ。
「あっはははー♪ ないない! 年上だし、魔法使いだぜ。それに中級になるんだから、一緒に初級クエストは受けられないんだぜ! 付き合うメリットが無いのに付き合えないって」
「好きなんだろう?」
「フッ、坊や……愛と恋は違うんだぜ。俺は偽りの恋をしてただけなのさぁ」
哀愁を漂わせながらキメ顔で答える相棒をキモイと思う前に、答えの意味が分からん。
「言っている意味は分かんないけど、それで今度は愛を見つけに行くのか? そもそも愛と恋の違いなんてないだろう?」
「ノンノン。分かってないね、坊やは……愛と恋とは別モノなんだよ」
「「「くっふ……ふっふふ……」」」
ウザイ。本当にウザイ。いつから愛やら恋やらの探求者になったのか知らないけど、その大人びた顔は見ているだけで殴りたくなるからやめてくれ。それに前後に並んでいる同業者さんが笑いを噛み殺しているぞ。僕まで馬鹿の仲間だと思われたら恥ずかしいだろう。もう話しかけるなよ。
「愛と恋の文字を見れば分かるように、愛とは心が胸にあるだろう? つまり愛とは心=ハートで感じるものなんだ。そして、恋は心が下半身に付いているだろう? つまりは——」
「——言わせねぇよぉー‼︎」
「ぐはっ⁉︎」
「「「ヒィィッ‼︎」」」
変態が黙るように腹を力一杯殴って、ギルドの床に這いつくばらせた。聞くだけ時間の無駄だったし、こんな人が多い場所で話すような内容じゃない。俺達が知り合いだと思われたらどうするんだよ。
「へっへっ……ア、アベル……お前の拳、ここでしっかりと感じたぜぇ」
「知らねぇよ。早く冒険者カードを寄越せよ。もうすぐ受付だぞ」
苦しそうに腹を両手で抑えながら、マリクはぎこちなくも微笑んでいる。ロビーにいる同業者の皆さんに、余裕のある大人の姿を見せたいのか、喧嘩じゃありませんよ、とアピールしたいのか。おそらくは後者だろう。でも、本当に余裕があるのなら早く立ち上がった方がいいぞ。医務室に運ばれちゃうからな。
「ポケットの中に入っているから、今度は優しく取り出してね……」
「はいはい、どっち?」
「ライトッー」
はいはい、よく出来ましたね。綺麗な発音でしたよ。
まだまだ動けなさそうな相棒のズボンの右ポケットから、古びた革財布を取り出すと中から冒険者カードを取り出した。チラッとお金が見えたけど、銀貨4枚しか入っていなかった。これが全財産だとしたらヤバイかもしれない。家賃が払えないとか言って、うちに泊まりに来ないだろうか。分かっていると思うけど、玄関スペースも貸さないぞ。
「おはようございます。クエスト登録をお願いします」
「はい、かしこまりました。それと今度からロビーでは騒がないように気をつけてくださいね。他の冒険者の方にご迷惑になりますので」
「はい、申し訳ありませんでした」
やっぱり受付女性に怒られてしまった。つい、ムカついて殴ってしまった僕にも責任はあるかもしれないけど、公共の場で堂々と下ネタを言おうとしたアイツが悪い。もしも殴らなかったら、同業者達に僕も品の無い男の仲間だと思われてしまっていた。それだけは勘弁してほしい。
「お待たせしました。登録は完了です。二つとも期限は一週間以内ですので、早めに達成するようにお願いしますね」
「ありがとうございます。ほら、行く……何処に行った?」
27歳ぐらいのブロンドヘアーの受付女性に、謝罪の気持ちも込めて、しっかりと頭を下げてお礼を言って、後ろにいるはずのマリクを連れて行こうしたら、何故か姿を消していた。この時間帯は人が多いんだから探すのは大変なんだぞ。
まったく……おそらく、ロビーの何処かにいるはずだ。勝手も外に出て行くほど馬鹿じゃないし、腹を殴ったから、もしかするとトイレに行ったのかもしれない。戻って来るまで、クエストボードの中から高額な依頼でも見つけて時間を潰すとしよう。
『グール20体の駆除。古代神殿。銀貨6枚』
『ポイズンスライム20体の駆除。古代神殿。銀貨6枚』
(毒と病気にならなければ、やってもいいんだけどなぁー)
僕もレベッカも接近戦主体の戦い方をしているので、近づくだけで毒や病気などの状態異常になるようなモンスターは敬遠している。レベッカは大型モンスターが得意で、僕は人型モンスターが割と得意な方だ。昨日初めて二人っきりで、クエスト報酬金貨2枚分の依頼を三件受けて達成したばかりなので、まだまだお互いの長所と短所が分からない状態だ。
アリサが前に言ってたように、レベッカの知り合いを紹介してもらってもいいかもな。幅広い依頼を受けるには異なる職業の人がいた方がいい。モニカさんが抜けて、遠距離攻撃の手段がないので、出来れば弓が使える人が希望なんだけど……。
「いやぁー、悪い悪い。女の子にナンパされちゃって」
両手と装備が水で濡れている。トイレから戻って来たようだ。とりあえず、戦士は足りているから、レベッカに遠距離攻撃が出来る人を紹介してもらおう。でも、よく考えれば、そんな友人がいれば僕とパーティーを組もうと思う訳ないか……聞かない方がいいだろう。さて、さっさと依頼を達成して、夕方には街に帰って来ないとな。
♢♦︎♢♦︎♢
灼熱のマグマが噴き出す火山地帯。この場所にやって来る初級冒険者の主な目当ては、『鉄鉱石』と『レッドウルフの毛皮』だ。
鉄鉱石は武器や防具の製造に必要不可欠なアイテムで、レッドウルフの毛皮を使用した衣服は、耐火性能と防寒対策に優れている。特に『火狼のマント』と呼ばれる最高級マントで全身を包めば、裸の状態でも雪山で暮らせると言われているぐらいだ。
「ふぅ、ふぅ、こうも暑いと、折角作ったばかりのクロコダイルアーマーが痛んじゃうぜ」
また、ガブガブと水を飲んでいる。コイツのバックパックの中身は半分以上が水なんじゃないのか。まったく……。
「また無駄遣いしたのか? プロトスクスの鉤爪を売ったお金でそんなの買ったのかよ」
「自分で倒したモンスターの装備を着る……これほど、実力をアピール出来るものはないだろう? これは未来の花嫁に出会う為の投資なんだよ。安心しな、無駄にはしないぜ」
だったら無駄なんだよ。プロトスクスの皮を使った革鎧は綺麗な茶色をしている。茶色は大人っぽさや、落ち着いた雰囲気をイメージさせる色だ。テンションの高い、子供っぽいお前の性格とは明らかに正反対のイメージカラーになる。良くて相殺、悪いと逆効果にしかならない。まだ着ない方がマシだ。
「それじゃあ、いつものように鉱石を集めながら、レッドウルフを見つけるぞ。戦闘はお前に任せるから頑張れよ。そのピカピカの革鎧も少しは焼き焦げた痕がある方が、少しは魅力的になるだろうからな」
「本当かぁー? 新品の装備に傷とか付けたくないんだけどなぁー」
「いやいや、傷が無い方が女は引くって。逃げ回っているだけの腰抜けに思われるだけだぞ。傷を沢山付けて勇敢な印象を植え付けるんだ!」
「勇猛果敢な男マリクか……確かに悪くはない」
「そうだ、頑張れ。お前の愛を俺は応援しているからな」
「しょうがねぇなぁー。腰抜けの坊ちゃんは」
さて、馬鹿にやる気を出させる僕の仕事は終わった。レッドウルフと接近戦をするのは馬鹿がする事だ。レッドウルフは攻撃するだけでも武器が損傷するような炎属性のモンスターだ。武器や防具の修理代を考えれば、マリクに任せた方がいい。
レッドウルフは別名『火炎狼』と呼ばれる体長90~120センチ、体重30キロの触れると火傷する真っ赤な体毛に覆われた肉食モンスターだ。3、4匹の群れで行動する事が多いので、見つける事が出来れば毛皮を手に入れる事はそこまで難しいクエストではない。
鉄鉱石の採取はもっと簡単で、鉄鉱石と岩の区別が出来る人ならほぼ問題ない。岩よりも重かったり、ハンマーで叩いた時に金属音がしたり、磁石に反応したりするなら、とりあえず街まで持って帰ればいい。
出発の準備を簡単に済ませると、マリクを先頭にして、まずは溶岩洞窟と呼ばれる山の中に空いた入り口に入って行く。ここから先は気温も急上昇するので、洞窟内部での長時間の活動は控えた方がよい。時間的に最大30分を目安に、適度に風通しのある場所で休憩しよう。
『レッドウルフの毛皮5匹分。火山。銀貨7枚』
『鉄鉱石30キロ以上。火山。銀貨6枚』
どちらも同じ場所で比較的に楽な仕事内容だ。明日のレベッカとのクエストの負担にはならないだろう。
「この二つにするけどいいか?」
「おおぅ。いいぜ。誰でも掛かって来い」
隣に立って同じようにクエストボードを見ていたマリクに聞いた。コイツはクエストを選ぶ決断力がないので、僕が誰かに取られる前にいつも決めている。それにしても誰でもはマズイだろう。何でもにした方がいい。
「すまんすまん。明日の婚活パーティーが楽しみでテンション上がっちゃってたよ。あっははは!」
朝からかなりご機嫌なご様子だ。結果が分かっているのに懲りずにまた参加するらしい。もちろん僕は断った。今はそんな無駄な事はしないで、地道にレベル上げを優先した方がいい。
クエストボードから依頼票を取ると、ご機嫌な相棒を連れて、一番少ない受付カウンターに並んだ。前には14人の冒険者が並んでいた。ソロ冒険者もいるだろうけど、パーティーを組んでいる人も何人かいるはずだ。最大で10分ぐらい待てば自分達の番がやって来るだろう。
「そんな調子だと、前回みたいに女に喧嘩売られてしまうぞ。控えめで、大人しくしていた方が好印象に見えるんじゃないのか?」
「おいおい、やめてくれよ。お姫様じゃないんだからさぁ……好印象じゃなく、印象に残らないと駄目なんだよ。そんなんじゃ、『あの人良い人ねぇー』で終わるんだよ。俺はグイグイ積極的に攻めてアピールしていくぜ!」
「はいはい、お前のお好きなようにしたらいいさ」
前回の反省はまったく出来ていないようだ。まあ、僕は参加しないのでどうなろうと関係ない。マリクには悪いけど、僕も明日は好きにさせてもらう予定だ。
コイツが婚活パーティーで遊んでいる間に、レベッカと少し高額のクエストを受ける約束をしている。クエスト報酬金の合計が、残り金貨11枚でレベル32になれる予想なので、一週間ちょっともあれば十分だろう。
現在のマリクのレベルは33。コイツが気づいた時にはもう僕が追いつき、追い越しているかもしれない。それを考えると連日のクエストも俄然やる気が出るというものだ。
「それよりもモニカさんはどうしたんだよ? 婚活パーティーに行くって事は諦めたって事なのか? 一緒に飲みに行ったぐらいなんだから、まだ心残りとかあるんじゃないのか? どうなんだよ?」
好きな女性への気持ちを忘れる為に、他の女性を好きになろうとしても無駄なだけだ。例え好きだと思う事は出来ても、好きになる事は絶対に出来ない。愛とはそういうものだ。
「あっはははー♪ ないない! 年上だし、魔法使いだぜ。それに中級になるんだから、一緒に初級クエストは受けられないんだぜ! 付き合うメリットが無いのに付き合えないって」
「好きなんだろう?」
「フッ、坊や……愛と恋は違うんだぜ。俺は偽りの恋をしてただけなのさぁ」
哀愁を漂わせながらキメ顔で答える相棒をキモイと思う前に、答えの意味が分からん。
「言っている意味は分かんないけど、それで今度は愛を見つけに行くのか? そもそも愛と恋の違いなんてないだろう?」
「ノンノン。分かってないね、坊やは……愛と恋とは別モノなんだよ」
「「「くっふ……ふっふふ……」」」
ウザイ。本当にウザイ。いつから愛やら恋やらの探求者になったのか知らないけど、その大人びた顔は見ているだけで殴りたくなるからやめてくれ。それに前後に並んでいる同業者さんが笑いを噛み殺しているぞ。僕まで馬鹿の仲間だと思われたら恥ずかしいだろう。もう話しかけるなよ。
「愛と恋の文字を見れば分かるように、愛とは心が胸にあるだろう? つまり愛とは心=ハートで感じるものなんだ。そして、恋は心が下半身に付いているだろう? つまりは——」
「——言わせねぇよぉー‼︎」
「ぐはっ⁉︎」
「「「ヒィィッ‼︎」」」
変態が黙るように腹を力一杯殴って、ギルドの床に這いつくばらせた。聞くだけ時間の無駄だったし、こんな人が多い場所で話すような内容じゃない。俺達が知り合いだと思われたらどうするんだよ。
「へっへっ……ア、アベル……お前の拳、ここでしっかりと感じたぜぇ」
「知らねぇよ。早く冒険者カードを寄越せよ。もうすぐ受付だぞ」
苦しそうに腹を両手で抑えながら、マリクはぎこちなくも微笑んでいる。ロビーにいる同業者の皆さんに、余裕のある大人の姿を見せたいのか、喧嘩じゃありませんよ、とアピールしたいのか。おそらくは後者だろう。でも、本当に余裕があるのなら早く立ち上がった方がいいぞ。医務室に運ばれちゃうからな。
「ポケットの中に入っているから、今度は優しく取り出してね……」
「はいはい、どっち?」
「ライトッー」
はいはい、よく出来ましたね。綺麗な発音でしたよ。
まだまだ動けなさそうな相棒のズボンの右ポケットから、古びた革財布を取り出すと中から冒険者カードを取り出した。チラッとお金が見えたけど、銀貨4枚しか入っていなかった。これが全財産だとしたらヤバイかもしれない。家賃が払えないとか言って、うちに泊まりに来ないだろうか。分かっていると思うけど、玄関スペースも貸さないぞ。
「おはようございます。クエスト登録をお願いします」
「はい、かしこまりました。それと今度からロビーでは騒がないように気をつけてくださいね。他の冒険者の方にご迷惑になりますので」
「はい、申し訳ありませんでした」
やっぱり受付女性に怒られてしまった。つい、ムカついて殴ってしまった僕にも責任はあるかもしれないけど、公共の場で堂々と下ネタを言おうとしたアイツが悪い。もしも殴らなかったら、同業者達に僕も品の無い男の仲間だと思われてしまっていた。それだけは勘弁してほしい。
「お待たせしました。登録は完了です。二つとも期限は一週間以内ですので、早めに達成するようにお願いしますね」
「ありがとうございます。ほら、行く……何処に行った?」
27歳ぐらいのブロンドヘアーの受付女性に、謝罪の気持ちも込めて、しっかりと頭を下げてお礼を言って、後ろにいるはずのマリクを連れて行こうしたら、何故か姿を消していた。この時間帯は人が多いんだから探すのは大変なんだぞ。
まったく……おそらく、ロビーの何処かにいるはずだ。勝手も外に出て行くほど馬鹿じゃないし、腹を殴ったから、もしかするとトイレに行ったのかもしれない。戻って来るまで、クエストボードの中から高額な依頼でも見つけて時間を潰すとしよう。
『グール20体の駆除。古代神殿。銀貨6枚』
『ポイズンスライム20体の駆除。古代神殿。銀貨6枚』
(毒と病気にならなければ、やってもいいんだけどなぁー)
僕もレベッカも接近戦主体の戦い方をしているので、近づくだけで毒や病気などの状態異常になるようなモンスターは敬遠している。レベッカは大型モンスターが得意で、僕は人型モンスターが割と得意な方だ。昨日初めて二人っきりで、クエスト報酬金貨2枚分の依頼を三件受けて達成したばかりなので、まだまだお互いの長所と短所が分からない状態だ。
アリサが前に言ってたように、レベッカの知り合いを紹介してもらってもいいかもな。幅広い依頼を受けるには異なる職業の人がいた方がいい。モニカさんが抜けて、遠距離攻撃の手段がないので、出来れば弓が使える人が希望なんだけど……。
「いやぁー、悪い悪い。女の子にナンパされちゃって」
両手と装備が水で濡れている。トイレから戻って来たようだ。とりあえず、戦士は足りているから、レベッカに遠距離攻撃が出来る人を紹介してもらおう。でも、よく考えれば、そんな友人がいれば僕とパーティーを組もうと思う訳ないか……聞かない方がいいだろう。さて、さっさと依頼を達成して、夕方には街に帰って来ないとな。
♢♦︎♢♦︎♢
灼熱のマグマが噴き出す火山地帯。この場所にやって来る初級冒険者の主な目当ては、『鉄鉱石』と『レッドウルフの毛皮』だ。
鉄鉱石は武器や防具の製造に必要不可欠なアイテムで、レッドウルフの毛皮を使用した衣服は、耐火性能と防寒対策に優れている。特に『火狼のマント』と呼ばれる最高級マントで全身を包めば、裸の状態でも雪山で暮らせると言われているぐらいだ。
「ふぅ、ふぅ、こうも暑いと、折角作ったばかりのクロコダイルアーマーが痛んじゃうぜ」
また、ガブガブと水を飲んでいる。コイツのバックパックの中身は半分以上が水なんじゃないのか。まったく……。
「また無駄遣いしたのか? プロトスクスの鉤爪を売ったお金でそんなの買ったのかよ」
「自分で倒したモンスターの装備を着る……これほど、実力をアピール出来るものはないだろう? これは未来の花嫁に出会う為の投資なんだよ。安心しな、無駄にはしないぜ」
だったら無駄なんだよ。プロトスクスの皮を使った革鎧は綺麗な茶色をしている。茶色は大人っぽさや、落ち着いた雰囲気をイメージさせる色だ。テンションの高い、子供っぽいお前の性格とは明らかに正反対のイメージカラーになる。良くて相殺、悪いと逆効果にしかならない。まだ着ない方がマシだ。
「それじゃあ、いつものように鉱石を集めながら、レッドウルフを見つけるぞ。戦闘はお前に任せるから頑張れよ。そのピカピカの革鎧も少しは焼き焦げた痕がある方が、少しは魅力的になるだろうからな」
「本当かぁー? 新品の装備に傷とか付けたくないんだけどなぁー」
「いやいや、傷が無い方が女は引くって。逃げ回っているだけの腰抜けに思われるだけだぞ。傷を沢山付けて勇敢な印象を植え付けるんだ!」
「勇猛果敢な男マリクか……確かに悪くはない」
「そうだ、頑張れ。お前の愛を俺は応援しているからな」
「しょうがねぇなぁー。腰抜けの坊ちゃんは」
さて、馬鹿にやる気を出させる僕の仕事は終わった。レッドウルフと接近戦をするのは馬鹿がする事だ。レッドウルフは攻撃するだけでも武器が損傷するような炎属性のモンスターだ。武器や防具の修理代を考えれば、マリクに任せた方がいい。
レッドウルフは別名『火炎狼』と呼ばれる体長90~120センチ、体重30キロの触れると火傷する真っ赤な体毛に覆われた肉食モンスターだ。3、4匹の群れで行動する事が多いので、見つける事が出来れば毛皮を手に入れる事はそこまで難しいクエストではない。
鉄鉱石の採取はもっと簡単で、鉄鉱石と岩の区別が出来る人ならほぼ問題ない。岩よりも重かったり、ハンマーで叩いた時に金属音がしたり、磁石に反応したりするなら、とりあえず街まで持って帰ればいい。
出発の準備を簡単に済ませると、マリクを先頭にして、まずは溶岩洞窟と呼ばれる山の中に空いた入り口に入って行く。ここから先は気温も急上昇するので、洞窟内部での長時間の活動は控えた方がよい。時間的に最大30分を目安に、適度に風通しのある場所で休憩しよう。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
12
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる