上 下
52 / 56

第47話 女PK狩りとの戦い①

しおりを挟む
「しぃー!」

 後ろを歩くステラに静かにして周囲を警戒するように身振り手振りで教えた。
 地面に灯りが付いたままの懐中電灯が落ちている。マリク達と合流しようと思って探していたら、先にこんな物を見つけてしまった。
 二人でタチの悪いドッキリでもやりたいのか、女なら誰でもいいからと、レベッカを襲おうとして返り討ちに遭ったのか……理由は分からないけど探してみれば分かるはすだ。

「念の為に暗視マスクを付けていた方がいい。戦闘になるかもしれない」

「分かったけど……戦闘能力は期待しないでよね」

「ああ、分かっている。逃げずに後ろに隠れていてくれるだけで合格点だよ」

 出来れば最後まで見つからずに、PK狩りの追跡も頼みたいけど、深追いは禁物だ。レベル14の小娘の活躍を期待するほど、僕も落ちぶれていない。これ以上は話をする時間も惜しいので、早速捜索を開始した。二人が現在進行形で襲われている可能性が高い。
 肉体的にか、性的にかは不明だけど、仲間が命を懸けて時間を稼いでいるのだ。逃げられる前に絶対に捕まえる。

(あれは何だ?)

 手掛かりを探して周囲を見回していると、ユラユラと揺れる黒い何かが見えた。地面に落ちているそれを確かめに走ると、それは松明だった。アリサの暗視マスクを付けていると黒と白しか色を判別できないので、こういう時、面倒だ。

「この辺を探してみよう。地面に複数の足跡がある」

 地面には小さい足跡が二つと中ぐらいの足跡が一つ残っている。少なくとも三人はいたようだ。折れた枝や巨木に出来た斬られた傷など、戦った痕跡もあるので、この辺で襲われたらしい。

「レベッカ!」

 周辺を軽く捜索した結果、一人を見つけた。レベッカだ。手足をロープで縛られて状態で放置されていた。怪我は大した事はないようだけど、武器は取り上げられているようだ。近くに落ちていなかった。

「うっっ、くっ、私は大丈夫だから、あいつを追いなさい」

「ロープを切ったら直ぐに追いますよ」

 レベッカを瞬殺して、マリクを連れ去ったのなら、予想以上の手練れだ。この暗闇だと暗視マスクを使っている僕達が有利だと思ったけど、PK狩りも灯りを使わずに暗闇でも活動できるようだ。油断しているつもりはなかったけど、それが油断だったらしい。

「動けますか? 無理ならステラを残しておきますから……」

 出来れば戦力を減らしたくはないけど、戦えない負傷者をモンスターが出る森の中に一人で放置する事は出来ない。

「問題ないから、二人で行きなさい。それと女の武器は剣よ。身長は168センチぐらいの痩せ型だけど、力は私よりも上よ。あとは接近戦の格闘術にも気をつけて、殴られるとあんたの相棒のように一発KOもあり得るから」

「あの役立たずがぁ!」

 役立たずなのは知っていたけど、一撃KOはだらしなさ過ぎる。カブト虫探しに夢中になっていたのか、ヘタすればレベッカの尻でも見てたんじゃないのか。これは見つけたら要説教だな。

「お姉様……私の短剣を使ってください。一本あれば十分ですから」

「ありがとう。動けるようになったら直ぐに駆け付けるわ」

 ステラは腰に差している二本の短剣の一本を鞘ごとレベッカに渡した。多分、レベッカは駆け付ける事は出来ない。防具の破損箇所を見れば、手足を集中的に攻撃されていたのは分かる。
 打撲程度でも2~3日はまともに動けないだろう。女性は襲わないと聞いていたけど、どうやら間違いだったようだ。

「ステラ、お前もここに残っていろ。全員やられると助けも呼べなくなる。それが一番最悪の結果だろう」

「何馬鹿な事言ってんのよ! 一人で行っても倒されるだけよ!」

 レベッカが声を荒げて警告してきた。まぁ、気持ちは分かる。でも、全員で戦って、全員がやられる訳にはいかない。ステラ一人でも動ける人員を確保しないと駄目だ。

「大丈夫ですよ。逃げ足には自信はあるし、戦うつもりもないですから……被害者はマリク一人で十分ですよ。ただ襲われた後のあいつを助けるだけですから」

 例えPK狩りに見つかったとしても、捕まえた獲物を放り出して、逃げる獲物を追いかけて来ないだろう。二兎を追う者は一兎をも得ずだ。それに昨日の今日だ。女PK狩りもそこまで欲求不満な欲張りではないと信じたい。

「はぁ~~、動けない私がここで何を言っても無駄ね。好きにやればいいわ」

「そうさせてもらいますよ。でも、二時間ぐらい経っても戻って来ない時は、絶対に探しに来てくださいよ。捕まっている可能性が高いですから」

 手足をロープで縛られての強制パクリンチョの刑は嫌だ。それもマリクの直ぐ隣に並べられて、一緒に代わる代わる交代でやられたら、心に大きな傷を負って、他の被害者達のように僕も精神病院送りにされてしまう。

「はいはい、分かったから早く追いかけなさいよ。見失ったらそれこそ襲われ損なんだから」

「ええ、分かっていますよ。暗闇でパクリンチョしている瞬間のPK狩りの顔をしっかりと見て、ギルドに報告するつもりですから」

 最低でも顔さえ確認できれば、冒険者登録している女性の中から犯人を見つける事は出来る。犯人の身元さえ分かれば、ほぼ勝利と言っても間違いない。

 バックパックをステラに預けると、僕はマリクが連れ去られた方向に走り出した。山の方向とは違うので、おそらくは近場の茂みの中で楽しむつもりだろう。大の男を抱えて長時間移動するのは体力を消費するだけの無駄な行為だ。

(こっちか……下に下っている)

 PK狩りは人一人を抱えているので土の地面に足跡がくっきりと残っている。この足跡を追って行けば見つける事は出来そうだ。
 追って来た者を捕まえる為の罠の可能性もあるけど、今は余計な事は考えないようにしよう。疾風を連続で使えば、絶対に捕まられる事はない。

「ゔゔっ、うっ、ゔうっ~~!」

 巨木の森の中から微かに呻き声が聞こえて来た。その声を頼りに気配を消して接近していく。地面に押し倒された人とその上に馬乗りになっている人が見えた。
 マリクがPK狩りを逆PK狩りしている可能性もあるけど、その可能性は1パーセント以下だ。おそらく、上がPK狩りで下がマリクになる。

「そんなに興奮しなくてもいいわよ。やっぱり若い子って元気なのね。ほら、こんなに元気になっちゃって♪」

「ゔゔっ~! んんっ! ふっ、ふっ!」

 上半身裸のマリクが身体を撫で回されて暴れている。相当に嫌なのだろう。女PK狩りは一般的なMサイズのプレートアーマーを装備していて、兜は付けていない。肩まで伸びるウェーブががった長い髪に平べったい仮面を付けている。
 そして、予想外な事に若くて艶かしい声を発している。剣は左右の腰に長剣を一本ずつ差しているので、二刀流の可能性もありそうだ。

(仮面は取らないのかもしれないな)

 パクリンチョする時に仮面を外すと思っていたけど、ただの仮面ではないようだ。顔全体を隠せる仮面は鼻や唇の部分が浮かび上がっていて、両目の黒い部分がキラキラと輝いて見える。

 暗視マスクを付けているので色の判別は出来ないけれど、目の部分に宝石のような物が取り付けられているのは分かる。あの仮面には特殊な性能が付加されているのかもしれない。考えられる効果は、暗闇が見えるようになるとか、誘惑効果とか忘却効果だろうか。

 警戒するべきは武器だけかと思ったけど、安全に捕まえたいなら、仮面、武器、防具の全てを外した瞬間を狙うしかない。
 PK狩りがスッポンポンになる瞬間があるのか分からないけど、最低でも防具は脱がないと何も出来ないはずだ。その時を待つしかないだろう。

「んゔっ~~! んっ! ゔっ~~!」

「もうぉ~、焦っちゃ駄目よ。お姉さんが脱ぎ脱ぎするの手伝ってあげるわねぇ~♪」

 激しく暴れるマリクを無視して、女PK狩りはマリクのズボンを脱がそうと、その両手をズボンに伸ばした。

 カチャカチャとベルトの金具を外す音が聞こえて来た。

「くっっ~~!」

 もう、我慢の限界だった。だって、これから目の前でマリクと女PK狩りが激しくパクリンチョをするのだ。そんな汚いもの見せられたらトラウマになるじゃないか!

 剣を握って居合い斬りの構えを取ると、疾風を発動させた。PK女はズボンを脱がせているので両手が塞がっている。仮面に暗闇無効や誘惑効果があるのなら、まずは仮面を剥ぎ取って正体を暴いてやる。
 PK女の左後方から一気に接近すると、ガラ空きの左側頭部を狙って剣を引き抜いた。運が良ければ、仮面を破壊して気絶もさせられる。

「よっと!」
「なっ⁉︎」

 PK女は上半身を前に曲げて死角からの不意打ち攻撃を回避した。

「危ない、危ない。女の顔を狙うなんて悪い子ね。うっふふ。お仕置きが必要ね」

 ゆっくりとPK女はマリクの身体から離れると、僕の方を振り返って左右の腰から剣を引き抜いた。

 ♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 



 


 


 
しおりを挟む

処理中です...