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第四章
第4話『王女の取り引き』
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「まさか……母様ではなく、私をそんな目で見ていたなんて……ケダモノ」
ウォルターは両手を腕立て伏せの格好で、ディアナを押し倒しています。
少し腕を曲げるだけで、顔と顔がくっ付いてしまいます。
「ち、違う⁉︎ そんなつもりじゃあ⁉︎」
「母様のお願いで偽りのプレイをしているとはいえ、兄と妹でこんな事をするなんて。母様がこんな場面を見たら泣いてしまいますよ」
「何を言ってるのか分かんないけど、少し落ち着いて! それに人の心を勝手に見るのは駄目だよ!」
ウォルターは慌てて、ディアナの言葉を否定したり、行為を叱りつけました。
けれども、身長百三十センチの冷静な女の子を、身長百七十センチの取り乱している男の子が、押し倒している状況は分が悪いです。
王妃とコンラッドが散歩から帰って来る前に、離れた方がいいです。
見つかたら、檻の中で怖い兵士の話し相手をしないといけません。
「心なんて見てないです。何となく嘘か、本当か分かるだけです。それよりも退いてくれませんか? 床に寝転んだまま話すのは得意じゃないんです」
「ああっ、ごめん……立てる?」
「子供じゃないので大丈夫です」
ウォルターはゆっくりと立ち上がると、ディアナに右手を差し出して、起き上がるのを手伝おうとしました。
でも、必要なかったようです。差し出した右手は無視されました。
ディアナは一人で、まるで何事もなかったように平然と立ち上がりました。
「……兄様。私と取り引きしませんか?」
「取り引き? どうして、僕がそんな事をしないといけないんですか?」
「私が兄様の秘密を知ってしまったからです。ねぇ、兄様」
ディアナは微かに微笑みながら聞きました。
けれども、その笑顔にウォルターは気づける余裕もありません。
秘密が何なのか、取り引きしていいのか、そんな事を必死に考えています。
「悪いけど、僕の秘密って何? 人に言えないような隠し事は持っていないつもりだよ」
リランからはディアナが持っているスキルは、凄いスキルだとしか聞いてません。
ウォルターの印象では、沢山ある鍵のかかった記憶の扉を、強引に開けられて、思い出を見られているような感覚でした。押し倒して、何とか見られるのを阻止したので、もしかしたらという希望があります。
「綺麗な海の中で、若い母様とあなたにそっくりな小さな子供が楽しそうに泳いでいた。母様の消えてしまった思い出が、あなたの中にはある……ねぇ、兄様。取り引きしましょう。私は城の外に出てみたい。どんなに面白い話でも、話を聞くだけなら、本を読んでいるのと変わらない。そうでしょう?」
ディアナは秘密を話さない代わりに、外に出たいとお願いしてきました。
それが難しいのか、簡単なのか、ウォルターには分かりません。
むしろ、誰かの口から、王妃と自分が本当の親子である、と言ってくれた方が良いような気もします。
「話したければ話せばいいけど、子供の作り話としか思われないと思うよ。王妃様と僕は無関係だし、証拠はないんでしょう?」
弱腰な態度を見せれば、取り引きではなく、一方的な支配関係が始まります。
ウォルターはあえて強気な態度で、取り引きする必要性がないと伝えました。
「そう……断るんだ。でも、コンラッドに嫌われて、私にも嫌われたら、兄様は城に来れなくなるよ。兄様は私達には興味はないかもしれないけど、母様には興味があるんじゃないの? それとも、もう十分なの?」
「もしかして、僕を脅しているつもりなの?」
「脅す? 私は事実を言っているだけだよ。兄様が私の言葉で不安になっているなら、それは兄様がこの城にいたいという事だよ。いたいなら、嫌われないように頑張らないと」
「……」
あのプヨプヨ腹の国王から、どうやったらこんな賢い子供が生まれるのか不思議です。
ウォルターは六つも年下の妹に苦戦しています。
ウォルターが何も答えず黙っていると、ディアナはまたゆっくりと近づいて行きました。
「ねぇ、兄様は何の為にこの城に来たの? 母様に会って、それで幸せなの? 終わりなの? また一緒に暮らしたいと思わないの? 母様の記憶はいつかは戻るかもしれないんだよ。その時、一緒にいなくても平気なの?」
「僕は……」
ディアナの矢継ぎ早の質問に、ウォルターは思考が追いつかず、何も答えられません。
会えるだけで幸せだから、その先を考える事はまったくしていませんでした。
そんな困っているウォルターの右手を手に取ると、ディアナは両手で優しく包み込みました。
「兄様が母様と一緒に暮らしたいなら、私が協力してあげる。だって、母様は元々は兄様の母様なんでしょう?」
「……そんなの出来る訳ない」
「どうして出来ないの?」
「王妃様だし、君とコンラッドがいる。それに王妃様は僕の事を覚えていない。赤の他人なんだよ」
種違いの妹が何を考えて言っているのか分かりません。
でも、王妃の連れ子として、城に住むのが難しい事は分かります。
例え暮らせたとしても、王妃の記憶が戻らなければ、結局は気まずい関係になってしまいます。
「連れ去られたんだよ。兄様には奪い返す権利があるんだよ。どうして、また我慢するの? ここまで来たのに、悪い海賊をいっぱい殺したのに、本当に一緒に暮らしたいなら、城から連れ去ればいいんだよ」
「僕に誘拐犯になれっていうの? そんな事したら、一生追われる事になる。そんな馬鹿な事は出来ない」
ディアナはウォルターの記憶の奥底に隠していた暗い過去を、次々と引き摺り上げていきます。
年下の妹の言葉にウォルターの感情は激しく揺れ動いています。
でも、そこまで理性を失った訳じゃありません。
お城から王妃を誘拐して無事で済むはずがありません。
お尋ね者になれば、まともな暮らしを送る事は出来なくなります。
それに記憶を失った母親と一緒に暮らせたとしても、自分と母親が幸せになれるかは、また別の問題です。
「誘拐じゃないよ。人助けだよ。このままだと私は戦争の道具として、怖い人達と無理矢理に戦わされるの。だから、私が協力してあげる。私も城から出たいの。母様と一緒にこの城から助けて……お願い、兄様」
正直、年下の妹が何を言っているのかウォルターには分かりません。
それでも、本当に助けを求めているか、どうかは分かります。
自分の右手を両手で包み込んでいるディアナの右手を、ソッと左手で握ると、事情を聞く事にしました。
ウォルターは両手を腕立て伏せの格好で、ディアナを押し倒しています。
少し腕を曲げるだけで、顔と顔がくっ付いてしまいます。
「ち、違う⁉︎ そんなつもりじゃあ⁉︎」
「母様のお願いで偽りのプレイをしているとはいえ、兄と妹でこんな事をするなんて。母様がこんな場面を見たら泣いてしまいますよ」
「何を言ってるのか分かんないけど、少し落ち着いて! それに人の心を勝手に見るのは駄目だよ!」
ウォルターは慌てて、ディアナの言葉を否定したり、行為を叱りつけました。
けれども、身長百三十センチの冷静な女の子を、身長百七十センチの取り乱している男の子が、押し倒している状況は分が悪いです。
王妃とコンラッドが散歩から帰って来る前に、離れた方がいいです。
見つかたら、檻の中で怖い兵士の話し相手をしないといけません。
「心なんて見てないです。何となく嘘か、本当か分かるだけです。それよりも退いてくれませんか? 床に寝転んだまま話すのは得意じゃないんです」
「ああっ、ごめん……立てる?」
「子供じゃないので大丈夫です」
ウォルターはゆっくりと立ち上がると、ディアナに右手を差し出して、起き上がるのを手伝おうとしました。
でも、必要なかったようです。差し出した右手は無視されました。
ディアナは一人で、まるで何事もなかったように平然と立ち上がりました。
「……兄様。私と取り引きしませんか?」
「取り引き? どうして、僕がそんな事をしないといけないんですか?」
「私が兄様の秘密を知ってしまったからです。ねぇ、兄様」
ディアナは微かに微笑みながら聞きました。
けれども、その笑顔にウォルターは気づける余裕もありません。
秘密が何なのか、取り引きしていいのか、そんな事を必死に考えています。
「悪いけど、僕の秘密って何? 人に言えないような隠し事は持っていないつもりだよ」
リランからはディアナが持っているスキルは、凄いスキルだとしか聞いてません。
ウォルターの印象では、沢山ある鍵のかかった記憶の扉を、強引に開けられて、思い出を見られているような感覚でした。押し倒して、何とか見られるのを阻止したので、もしかしたらという希望があります。
「綺麗な海の中で、若い母様とあなたにそっくりな小さな子供が楽しそうに泳いでいた。母様の消えてしまった思い出が、あなたの中にはある……ねぇ、兄様。取り引きしましょう。私は城の外に出てみたい。どんなに面白い話でも、話を聞くだけなら、本を読んでいるのと変わらない。そうでしょう?」
ディアナは秘密を話さない代わりに、外に出たいとお願いしてきました。
それが難しいのか、簡単なのか、ウォルターには分かりません。
むしろ、誰かの口から、王妃と自分が本当の親子である、と言ってくれた方が良いような気もします。
「話したければ話せばいいけど、子供の作り話としか思われないと思うよ。王妃様と僕は無関係だし、証拠はないんでしょう?」
弱腰な態度を見せれば、取り引きではなく、一方的な支配関係が始まります。
ウォルターはあえて強気な態度で、取り引きする必要性がないと伝えました。
「そう……断るんだ。でも、コンラッドに嫌われて、私にも嫌われたら、兄様は城に来れなくなるよ。兄様は私達には興味はないかもしれないけど、母様には興味があるんじゃないの? それとも、もう十分なの?」
「もしかして、僕を脅しているつもりなの?」
「脅す? 私は事実を言っているだけだよ。兄様が私の言葉で不安になっているなら、それは兄様がこの城にいたいという事だよ。いたいなら、嫌われないように頑張らないと」
「……」
あのプヨプヨ腹の国王から、どうやったらこんな賢い子供が生まれるのか不思議です。
ウォルターは六つも年下の妹に苦戦しています。
ウォルターが何も答えず黙っていると、ディアナはまたゆっくりと近づいて行きました。
「ねぇ、兄様は何の為にこの城に来たの? 母様に会って、それで幸せなの? 終わりなの? また一緒に暮らしたいと思わないの? 母様の記憶はいつかは戻るかもしれないんだよ。その時、一緒にいなくても平気なの?」
「僕は……」
ディアナの矢継ぎ早の質問に、ウォルターは思考が追いつかず、何も答えられません。
会えるだけで幸せだから、その先を考える事はまったくしていませんでした。
そんな困っているウォルターの右手を手に取ると、ディアナは両手で優しく包み込みました。
「兄様が母様と一緒に暮らしたいなら、私が協力してあげる。だって、母様は元々は兄様の母様なんでしょう?」
「……そんなの出来る訳ない」
「どうして出来ないの?」
「王妃様だし、君とコンラッドがいる。それに王妃様は僕の事を覚えていない。赤の他人なんだよ」
種違いの妹が何を考えて言っているのか分かりません。
でも、王妃の連れ子として、城に住むのが難しい事は分かります。
例え暮らせたとしても、王妃の記憶が戻らなければ、結局は気まずい関係になってしまいます。
「連れ去られたんだよ。兄様には奪い返す権利があるんだよ。どうして、また我慢するの? ここまで来たのに、悪い海賊をいっぱい殺したのに、本当に一緒に暮らしたいなら、城から連れ去ればいいんだよ」
「僕に誘拐犯になれっていうの? そんな事したら、一生追われる事になる。そんな馬鹿な事は出来ない」
ディアナはウォルターの記憶の奥底に隠していた暗い過去を、次々と引き摺り上げていきます。
年下の妹の言葉にウォルターの感情は激しく揺れ動いています。
でも、そこまで理性を失った訳じゃありません。
お城から王妃を誘拐して無事で済むはずがありません。
お尋ね者になれば、まともな暮らしを送る事は出来なくなります。
それに記憶を失った母親と一緒に暮らせたとしても、自分と母親が幸せになれるかは、また別の問題です。
「誘拐じゃないよ。人助けだよ。このままだと私は戦争の道具として、怖い人達と無理矢理に戦わされるの。だから、私が協力してあげる。私も城から出たいの。母様と一緒にこの城から助けて……お願い、兄様」
正直、年下の妹が何を言っているのかウォルターには分かりません。
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