第一王子『剣聖』第二王子『賢者』第三王子『泳ぐ』 〜使えないスキルだと追放された第三王子は世界を自由に泳ぎたい〜

もう書かないって言ったよね?

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第四章

第7話『スキルの覚醒』

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 ——修業七日目。

「地獄が終わった……」

【スキル『泳ぐLV MAX』が覚醒しました。
 覚醒スキル『游泳LV MAX』になりました。
 空中と水中を思い通りに泳げる。最高時速35キロ。】

 本当は始まったばかりですが、地獄の修業は終わりました。
 ウォルターは幻覚の海の中を自由に泳いでいます。
 もう苦しくありません。幻覚の海でも呼吸が出来ます。

「兄様、幻覚を解くよ。ビックリして床に落ちないようにしてね」
「ああっ、うん、分かった」

 幻覚の海の中にディアナが現れると、ウォルターにそう言いました。
 ウォルターは実際は稽古場の空中を泳いでいるだけです。
 間違ってスキルを解けば、床に墜落してしまいます。

 気絶せずに幻覚を解かれるのは初めてですが、ウォルターは目を閉じた後に、しばらく待ってから、落ち着いて目を開けました。

「本当に飛んでいる。これがスキルの覚醒なんだ」

 稽古場の天井すれすれにウォルターは浮いていました。
 調子に乗って全力で泳いでいたら、天井か、壁に頭が突き刺さって死んでいました。

「そうだよ。最初から持っているスキルがオリジナルスキル。あとから増えるのはオリジナルスキルのコピーみたいなものだから、オリジナルスキルが覚醒すれば、コピースキルにも変化が現れる。兄様も確認した方がいいかもしれないよ」

 ディアナに言われた通りに、ウォルターは三つのスキルを確認しました。
 でも、変化しているのは、一つだけでした。

【スキル『海洋探査LV MAX』が覚醒しました。
 覚醒スキル『探査LV MAX』になりました。
 直径15キロ範囲内の指定した物を完全探知できる。】

 海洋限定だった探査範囲が、地上でも使えるようになっただけでした。
 むしろ、この事がバレたら、土木トレジャーハンターのミファリスの発掘を手伝わされそうです。

「兄様、降りて来て」
「ああっ、直ぐに降りるよ」

 ディアナが天井に浮いているウォルターを呼びます。スキルを覚醒させて終わりじゃないです。
 降りて来たウォルターが床に着地すると、ディアナは話し始めました。

「これから兄様にはリランを倒しに行って欲しいの。でも、兄様一人で屋敷に乗り込んで行っても、返り討ちに遭うだけだから、仲間が必要になるの。また凄腕の冒険者を雇って、屋敷に乗り込んで」
「えっ? いや、でも、あの人達じゃ無理だよ。赤鬼みたいなヤバイのに手も足も出なかったんだから」

 リランの実力は分かりませんが、屋敷の中にロデリッククラスの実力者が何十人もいたら、凄腕冒険者を百人連れて行っても意味ないです。全員まとめて返り討ちに遭います。

「大丈夫。圧倒的に強いのは、リランと赤鬼みたいな大男だけだから、それ以外の人達なら、凄腕冒険者なら絶対に勝てる。兄様が赤鬼を倒せば、あとは問題ないと思う」
「いやいや、僕は無理だって! あんなに強い人には勝てないって!」
「大丈夫。兄様のその剣なら鉄の身体でも切れるから」
「じゃあ、この剣を誰かに貸すよ! 僕が戦うよりも、そっちの方が良いって!」

 ウォルターは別に怖い訳じゃないです。
 スキルは覚醒して強力になりましたが、圧倒的に戦闘能力に特化したスキルじゃありません。
 空中を海のように泳げるようになっただけです。
 勝率を上げるには、凄腕冒険者の中から一番強い剣士を選んで、水龍剣リヴァイアサンを貸すのがベストです。

「私は兄様に助けて欲しいの。兄様は私達を助けるのは嫌なの?」
「いや、そんな事は思ってないけど……」
「お願い兄様。助けてくれたら、私、何でもするから」

 悲しそうな表情で瞳をウルウル潤ませて、ディアナはウォルターに抱き付きました。
 いつもは無表情のディアナのこんな表情を見るのは、ウォルターは初めてです。
 ウォルターはどう答えようか戸惑っています。でも、その抱き付いているディアナは幻覚です。
 本物は少し離れた所で、無表情で見ているだけです。

「あっ、うっ、いや……」

 ウォルターは小さな肩を震わせて、必死に頼み込んでいる幻覚ディアナにどう答えようか、まだ葛藤しています。まだ押しが足りないと思ったのか、ディアナは更に押しを追加しました。

「分かった。私、兄様と結婚する。そしたら、兄様も家族になれるんだよ。ずっと母様と家族としていられるよ。もちろん、兄様が嫌なら偽装結婚でいいから。お願い、兄様。私達を助けて」

 もちろん、結婚するのも幻覚ディアナです。結婚式も盛大に行いますが、出席者は全員が幻覚です。
 本物の出席者は花婿と、花婿の一人芝居を見続けるディアナだけです。

「ディアナ……そこまで……分かった。ディアナがそこまで覚悟しているなら、僕も覚悟するよ。でも、結婚するなら好きな人とするんだよ」
「兄様、ありがとう! 大好き!」
「こらこら、ディアナ」

 可愛い幻覚ディアナに抱き付かれて、ウォルターも満更ではないようです。
 少しどころか、かなり嬉しそうです。
 ディアナは母親似なので、七年後の十六歳になる頃には、きっと美人に成長しているはずです。
 そう思うと結婚も悪くはないと、ウォルターは少しだけ思ってしまいました。

 ♦︎

 ウォルターは城から出ると、冒険者ギルドに向かいました。
 凄腕冒険者を雇わないといけません。お金はありますが、前回の件もあります。
 また屋敷まで付いて来てくれるかは微妙なところです。

「さてと、大丈夫かな……」

 受付カウンターは素通りで、ウォルターは偉い人の部屋に案内されました。
 預けた金貨は378枚と、一人の凄腕冒険者を103年間毎日働かせる事が出来る金額です。
 お金の問題は解決しています。あとは勇敢な冒険者が来るのを期待するしかありません。

「ウォルター様、お待たせしました。凄腕冒険者の護衛ですね」

 ウォルターはしばらくソファーに座って待っていると、黒髪をベタベタに塗り固めて、頭の後ろに撫で下ろした、四十代後半のオールバック男が入って来ました。

 男の後ろからもゾロゾロと冒険者っぽい男達が部屋の中に入って来ます。
 受付カウンターに並んでいた冒険者達に声をかけて連れて来たみたいです。
 今回は質よりも量といった感じです。

「申し訳ありません。一人金貨一枚で募集したところ、四十名程、集まってしまいまして……」

 オールバックの男はウォルターに向かって謝りますが、これからリランの屋敷を奇襲するので、人数はたくさん集まった方が安心です。全員採用する事にしました。

「いえ、人数は多い方が良いです。では、全員採用でお願いします。これから、この町のとある屋敷に奇襲をかけます。相手は元海賊で、違法な人身売買を続けている連中です。屋敷の人間を一人捕まえれば、報酬に金貨三枚追加します。皆さん、よろしくお願いします」

 破格の報酬に冒険者達はやる気を漲らせています。

「おいおい、本当に凄い額の報酬だ。参加するだけで金貨一枚なんてあり得ねぇだろ!」
「海賊の屋敷なら、剛腕のロデリックかよ。あれが現れたら逃げるしかねぇな」
「よくもタダ働きでトンネル工事させましたね! 給料を払って貰います!」

 元海賊の屋敷と言えば、誰もが行き先は分かりますが、行くだけで金貨一枚、門番二人を四十人で倒すだけでも、金貨六枚です。行かない冒険者はいません。
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