第一王子『剣聖』第二王子『賢者』第三王子『泳ぐ』 〜使えないスキルだと追放された第三王子は世界を自由に泳ぎたい〜

もう書かないって言ったよね?

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第六章

第1話『王妃の失われた記憶』

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 ——とある港町の冒険者ギルド。

「ほぅほぅ……お母さん、生きてたんだ」

 赤茶色の髪が肩まで伸びている、白の半袖シャツとジーンズを着た若いネコ顔の女性が、ウォルターから送られて来た手紙を楽しそうに読んでいます。

 ネコ顔の女性の元には週に一、二通、ウォルターから近況報告が書かれた手紙が送られて来ます。
 遠い異国の土地でも上手くやっているようです。弟のような少年の無事に一安心していました。
 五通目の手紙が届くまでは……。

「うわぁ、何これ?」

 ネコ顔の女性は手紙に書かれている内容というか、ウォルターの愚痴に驚いています。
 異国の土地で悪い女と知り合ってしまい、心が荒んでいるようです。
 手紙には多額の金品を要求して、暴力で物事を解決する恐ろしい女の存在が、生々しく書かれています。

「これはもう助けに行くしかない」

 ネコ顔の女性はタチの悪い女と別れさせる為に、ウォルターの所に向かう事に決めました。
 このままだと、ズルズルと悪い女との関係が続いて、結局は結婚する事になります。
 結婚後の人生が墓場になるか、楽園になるかは相手次第です。この手紙の女だと、地獄です。

 ネコ顔の女性は冒険者ギルドの同僚に、「しばらく旅に出ます」と長期休暇なのか、退職するのか分からない言葉を伝えると、船に乗って、国を出て行きました。

 ♦︎

「ウォルター君、ワシは覚悟を決めたよ」
「えっーと、よく分からないのですが、なんの覚悟ですか?」

 王様に二人っきりで話がしたいと、ウォルターは王様の部屋に付いて行きました。
 椅子に座らされると、王様が淹れた、よく分からないお茶を出されます。
 雰囲気的には、また娘を頼むとか言われそうで嫌ですが、正式に断るチャンスだと思う事にしました。

 ディアナは父親が違うとはいえ、母親似の外見は実の妹にしか見えません。
 まあ、それでも成長すれば考えも変わります。
 成長して、十六歳の美少女になったら、もう断れる自信はありません。
 断るなら、幼い今のうちしかありません。
 
「ワシは王妃と別れる覚悟を決めたよ」
「はい? えっ、えっ、どういう事ですか⁉︎ 母さんと喧嘩でもしたんですか?」

 王様の予想外の言葉にウォルターは少し動揺しながらも、王様に話の続きを要求します。
 今の王様は体重84キロ→63キロまで激痩せしているので、少しかっこ良くなっています。
 今の三十六歳の王妃を捨てて、若い王妃と再婚するつもりかもしれません。
 ある意味、それはそれでアリなので、ウォルターとしては大歓迎です。

「いや、喧嘩はしておらんよ。ワシは王妃の記憶が戻るのがずっーと怖かった。だから、ロクに医者にも見せずに治す努力はしなかった。けれども、ウォルター君が現れた。そろそろ、潮時だと思うんだ。記憶を取り戻した王妃がワシは選ぶ自信は無いからの……」

 王様は寂しそうに話し続けます。
 ウォルターが現れた時から、自分にとっての苦渋の決断を下そうと悩んでいたようです。
 でも、別れるという以前に、一番肝心の問題があります。それは記憶が戻る可能性があるかです。

「王様の気持ちは分かりました。その気持ちだけで十分です。無理に母さんの記憶を戻す必要はありませんから」
「いや、それは出来ない。ワシやウォルター君の都合で何も知らない王妃を騙し続ける事は出来ない。ウォルター君、王妃の失われた二十六年間を一緒に取り戻さないか?」
「王様……」

 ウォルターは断りましたが、王様は一人でもやる覚悟があるようです。
 協力するか、王様に任せるか、選べるのはどっちかしかありません。
 ウォルターは少しだけ考えます。もしも自分の記憶が消えてしまったら、どうするか……。

 記憶を失った自分が町の漁師に助けられて、なんの目的もなく平凡に暮らす姿を想像します。
 そこには幸せに暮らす自分の姿しか見えません。辛い記憶なんて思い出す必要はありません。

 でも、現実は記憶を失わずに助けられました。
 その結果、母親を助けられなかったという後悔の日々を送る事になりました。
 それでも、諦め続けずに母親を探した事で、母親と再会する事が出来ました。
 母親が生きている息子に会いたいか、会いたくないか、それを考えれば答えは決まりました。
 
「分かりました。僕の方でも母さんの記憶が戻る方法を探してみます」
「そう言ってくれると助かるよ。実は記憶を戻す方法が見つからなくての……」
「そうですか。僕の方も心当たりはありませんが、なんとか探してみます。ディアナなら分かるかもしれませんから」

 ウォルターは椅子から立ち上がると、王妃の部屋にいるだろうディアナの元に行く事にしました。
 手掛かりはないですが、未来が見える王女がいれば、何とかなりそうな気がします。
 けれども、部屋から出て行こうとするウォルターを王様が呼び止めました。

「ウォルター君、それは試したけど無理だったよ。もしも見つからないようならば、王妃にウォルター君の事を、本当の息子だと紹介するつもりだ。王妃には悪いが、ショック療法というものもある。最後の手段だと思って、ウォルター君も覚悟してほしい」
「あっ、はい……」

 王様の余計な親切で、いきなり手掛かりが無くなりました。
 ウォルターは少しやる気を落としましたが、確かにショック療法もありません。
 でも、王妃に息子だと言っても、ショックを受けてくれなかったら、それこそショックです。
 そうならないように、ちょっとは頑張らないといけません。
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