第一王子『剣聖』第二王子『賢者』第三王子『泳ぐ』 〜使えないスキルだと追放された第三王子は世界を自由に泳ぎたい〜

もう書かないって言ったよね?

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第八章

第2話『ロムルス王国への招待状』

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 ——スカンドス王国王城。

 ディアナは椅子に座って、新聞を読んでいました。
 記事の内容は、プルトス王国の王都が、ラドン王国の兵士達によって陥落させられたという内容です。
 小国が大国を圧倒的な勝利で破り、裕福な暮らしを謳歌おうかしていた国民のほとんどが、その資財を没収されたそうです。事実上のプルトス王国の消滅と、ラドン王国という大国の誕生で、両国の戦争は決着がつきました。

「大変な目に遭ったんですね。兄様は不幸体質なんですね」

 ディアナは新聞をテーブルに置くと、対面の椅子に座っている、傷だらけのウォルターに向かって言いました。
 剣聖エウロスから薬を奪う時間も力も無く、戦場をラドン王国の兵士達に追われながら、ウォルターはミファリスとキアラが待つ王都に急いで引き返しました。
 王都の街が陥落するのは時間の問題です。プルトス王国から急いで避難しないと、身の安全は保証されませんでした。

「それはもういいよ。それよりもどうしたらいいと思う? エウロスが本物の剣聖で、母さんの記憶を治せる薬を持っているんだ。欲しければ、ロムルス王国に取りに行かないといけない」

 戦場で正体を明かしたエウロスは、ウォルターの正体、元王妃の居場所、周辺にいる人達のスキルまで、正確に知っていました。それをネタに元王妃とディアナを連れて、ロムルス王国に来るように、ウォルターを脅して来ました。

 当然、そんな要求は聞けないと、ウォルターは薬を奪う為に、勇敢にエウロスに戦いを挑みました。
 その結果、水龍剣でも擦り傷一つ付ける事が出来ずに、地面に倒されて、頭を踏み踏みされるという屈辱を味わわされる事になりました。力で勝てない事は痛い程に分かりました。

 そんな情けないウォルターを無視して、ディアナは、これから何をどうすればいいのか、当然のように話し始めました。

「とりあえず、私と母様を連れて行けばいいなら、行けばいいと思う。どうせ会わないといけないなら、もてなすよりは、もてなされた方がお得でしょう?」
「う、うん。そう言われれば、そうだけど……第二王子と婚約しないといけないかもしれないんだよ? ディアナはそれでいいの?」

 王族同士が婚約すれば、もうほとんど決定事項のようなものです。
 八歳も歳の離れた年上の婚約者に、ディアナを預けるのは、ウォルターはちょっと抵抗があります。
 けれども、そんなのは要らぬ心配だったようです。ディアナの方は満更でもなさそうです。

「王女なら、いつかは他所の国の王族と結婚しないといけない。それなら、早く決めた方がいい。賢者が婚約者なら、条件としては最高だと思う」
「まあ、頭だけじゃなくて、見た目も良いとは聞いた事はあるけど……」

 ちっとも物怖ものおじしないディアナに、ウォルターは警戒し過ぎている自分が変なのかと思ってしまいます。
 確かに血の繋がった兄達との友好的な関係を結ぶ事が出来れば、最高だとは思います。
 自分を追放した国王がいないのならば、それも可能かもしれません。
 このまま待っていても結果が同じならば、攻められるよりは、攻めた方が確かにお得です。

 残る問題は誰と行くかになります。
 流石にウォルター、ディアナ、セレナの三人旅は危険過ぎると分かっています。
 それにエウロスには、少人数で来るように言われているので、護衛に兵士千人とかは無理そうです。
 やっぱり、あの二人に頼むしかなさそうです。

「それじゃあ、明日にも出発しよう。僕はミファリスとキアラ姉さんに話すから、ディアナは母さんをお願い」
「分かった。母様の説得は任せて」

 ウォルターは旅のお供を決めると、発掘作業中のミファリスと、港の裏カジノでスキル強化中のキアラの元に向かいました。最終手段として、ディアナの身代わりにミファリスを嫁に貰ってもらいます。

 ♦︎

 ——ロムルス王国。

 ロムルス王国は海岸沿いにある小国です。
 国民達は能力に応じて、街ごとに生活させられています。
 町や村といったものは完全に廃止され、農業、畜産業、林業、鉱業、漁業を担当する、資源の生産に特化した街と、それらの資源の加工に特化した、職人の街に分けられています。

 余計な事を考えずに、出来る仕事と与えられた仕事をやり続けろ、という賢者様の指示に国民達は黙々と従っています。
 問題を起こせば、死刑です。国の外に出れるのは年齢六十歳を超えた時だけです。
 その時も持って行けるのは、我が身と働いて得た収入だけです。家族は連れて行けません。

 それでも、仕事と住む家は国が用意してくれます。
 休みの日ならば、別の街との行き来も自由に出来ます。
 今は国民の一人も衣食住には困ってはいません。
 支配される事に不満を感じなければ、悪くはない国です。

「建物だけあって、人が住んでいないと、野盗に襲われた後みたいですね」
「でも、家具とかは見えないから、本当に住民全員が引っ越したみたい」

 ミファリスとキアラが馬車の中から、まだまだ住めそうな町の建物を見ながら言いました。

 漁業を担当する城砦のような港街で、ウォルター達は船を降りると、あとは馬車で王都の街に、真っ直ぐに向かうだけです。その途中にある人が住んでいない町は、静かなものです。

「ここが私の生まれた国なんですね。でも、何も思い出せない……」
「母様、無理しなくても大丈夫です。すぐに思い出す事が出来ます」

 馬車の窓から外を眺めているロムルス王国の元王妃セレナは、失った何かを取り戻そうとしていますが、何も思い出せないようです。
 ディアナはそんな母親を気遣って言いました。自力で思い出せるのならば、それもいいですが、薬があるので、無理する必要はないからです。

 誰もいない町を抜けて、馬車は進みます。目指す王都は小高い丘の上に建てられています。
 丘をグルッと囲んでいる街の高い城壁には、一ヶ所だけ王都の中に入れる道が続いています。
 緩やかな傾斜のある道を何度か登ると、馬車は目的地の王都に到着しました。

「ここが僕の産まれた国なのか……」

 歴史情緒あった王都の古びた街並みは、今は見る影もありません。
 ウォルターは真っ白に磨かれた王都の尖塔や建物を見て感動しています。
 けれども、元々は長年の土や埃で薄茶色に汚れたアンティークのような街並みでした。
 何百年も時間をかけて作られた歴史的な詫び寂びも、賢者の汚いの一声で綺麗に磨かれた後です。

「兄様、今日は観光は出来ないよ。さっさと城に行かないと」

 丘の上にある王城を指差して、ディアナが言いました。
 実際に観光を始めようとしているのは、ミファリスとキアラの二人だけですが、ウォルターを連れて行けば、二人は勝手に付いて来ます。使う労力は最小限で済みます。

「……うん。行こうか」

 ウォルターは覚悟を決めると、ディアナに返事をしました。
 ここまで来て、女性四人を引き連れて、楽しく観光して帰るつもりはありません。
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