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リル・スタットレイ 〜小さな町の小さな家に住む生命の錬金術師〜

第7話・リルと新しいお友達

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 10ターンという長い戦いの末に、冒険者3人は《ケルベロス》を倒してしまいました。

「次はあの娘の番だ。リル、この扉を開けてくれないか? 今すぐに開ければ、手荒な事はしないと約束しよう」

「わぁ~~、本当に倒してしまうなんて凄いです! 絶対に勝てないと思っていたのに、どうしましょう?」

 リルは首を左に傾げて悩んでいます。冒険者が倒したケルベロスの素材は魔物素材なので、かなり高度な錬金術にも使う事が出来ます。それに貴重な素材が3人もいます。どうしましょう?

「リル、よく聞くんだ。私達は冒険者だ。ケルベロスの討伐にやってきた。そして、私達が町に戻らなければ、次の冒険者がこの町にやってくる。私達をここに閉じ込めていたら、君にとって良くない事が起きるかもしれないんだよ」

 確かにその通りです。でも、扉を開けたら、捕まってしまいます。行き先は牢獄か、それとも知っている錬金術の全てを無理矢理に喋らされるかです。困った事になりました。

「そうですか。皆さんをここに閉じ込めておけば、もっと人間さんが来るんですね。それは凄く助かります! これで町を早く元通りに出来そうです! やった~♬」

「巫山戯んな! さっさと出さねぇと、扉をぶっ壊して燃やすぞ! コラ!」

「わぁ~~、怖いです。もう絶対に開けません! 絶対の絶対に開けませんからねぇ~」

 リルは逃げるように階段を駆け上がっていきます。いつものように、閉じ込めた獲物が弱るまで放置するのでしょう。

「クソッ! やっぱり頭のイカれた奴だ。どうするんだよ。この部屋から脱出するには、この馬鹿みたい頑丈な扉を破壊しないと駄目だろう」

「いや、その前に扉には窓が付いていない。それなのにどうやって、リルは音だけで私達がケルベロスを倒した事を知る事が出来たのだろう。もしかすると、覗き穴のようなものが何処かにあるのかもしれない。その穴から、何とか水魔法や風魔法で外の鍵を外せないだろうか」

「おいおい、その方法は不可能じゃないが、鍵が見えている状態でも難しいだろ。水魔法で飲み水ぐらいは作れるから、もって1週間だ。その間にあのイカれ女を説得するか、脱出方法を見つけるしかねぇ。まったく最悪だぜ」

 冒険者ならば、こんなピンチは何度も経験していますが、破壊不可能の部屋に閉じ込められた事は今まで一度もありません。暴れ回るケルベロスさえも、1ヶ月間も閉じ込める事があるのです。どんなに知恵を振り絞っても、出来ない事はできません。素直に諦めてしまいましょう。

 ♦︎

 ホー、ホーとフクロウの鳴き声が聞こえます。夜の町はさらに不気味です。幽霊がウジャウジャと出そうな雰囲気の中、リルは地下実験室の非常扉の前に立っています。地下実験室の隠されたもう1つの出入り口です。

「さて、まずは回復魔法の僧侶さんからゲットです」

 リルの手にはロープが握られています。これで僧侶をグルグル巻きにして、捕まえるようです。ポチっ! とリモコンのスイッチを押すと、扉が静かに横にスライドして開きました。

(しめしめ、皆さん、疲れて寝ています。では、1人ずつ確実に連れて行きましょう)

 冒険者3人は座って眠っています。戦士のファイが鍵のかかった扉の前に、魔法使いのマークと、僧侶のリストは部屋の角のそれぞれ離れて眠っています。リルはゆっくりと足音を立てないように、僧侶に忍び寄っていきます。

「スゥー、スゥー」と、僧侶は寝息を立てています。こんなピンチによく眠れると、思わず感心です。長期戦を覚悟して、体力を温存しているようですが、それは無意味に終わります。

(ホイ!)

 リルは僧侶の首に、ロープの端で輪っかを作って通しました。クイッ、クイッとロープを引っ張ると、輪っかが小さくなって、僧侶の首にジャストフィットして、締まっていきます。

「うぐっ! ううっ…ぐっ!!」

(フッフフフ、負けませんよ)

 目を覚ました僧侶は、苦しみながらも必死にロープを引っ張ります。リルも負けずに力を入れて引っ張ります。

 力比べでは戦士には負けますが、後衛職の僧侶に、前衛もやるリルが負ける訳がありません。僧侶はズルズルとリルの方に引き摺られていきます。

(フッフフフ、このまま外まで引っ張っていきましょう)

 リルはとっても嬉しそうです。人間は最高の万能素材の1つです。ほとんどの生物、物質と上手く合体してくれます。しかも、完成した生物はまあまあ頭が良いです。単純に犬、猫と合体させるだけでも、町の復興にも、戦力としても期待できます。

 ♦︎

「リル、こんな事をしたら引き返せなくなりますよ! 自らの行いをキチンと反省し、懺悔すれば神様はお許しになります。さあ、その棒を捨てて、ロープを解くのです」

 僧侶の頭目掛けて、リルは木の棒を振り上げています。多くの動物達を倒してきた、必殺の《スイカ割り》です。僧侶は優しい口調で、リルの良心に語りかけるように説得しますが、それは無理そうです。

 ブン、ボォカ! と無慈悲な一撃が僧侶の頭を砕きました。これは死ではありません。リルは生命の錬金術師です。

 カッカッ、カッカッと地面に白いチョークで魔法陣を素早く描いていきます。僧侶に似合いそうな動物は癒し系の《ウサギ》です。

「んんっ? ちょっと待ってくださいよ。さすがに男の人と暮らすのは、色々と危険があります。ここは雌ウサギを入れて、性別を変えましょう」

 リルは15歳の女の子です。まだまだ男の人と暮らすのは早過ぎます。実際には、町の中の廃屋に住んでもらいますが、それでも小さな町に男を置くのは危険です。雌ウサギを使って、しっかりと去勢しないといけません。

 ポイっと、ポイっと、魔法陣の中に僧侶のリストと雌ウサギを放り込みます。あとは、「ちちんぷいぷい、なんたら、かんたら」と呪文を唱えたら完成です。

「さて、完成した兎人間を何と呼びましょう。小人の《ホビット》がいるのです。ここは《ラビット》と呼ぶ事にしましょうか」

 ラビットはウサギという意味です。リルは考えるのが面倒なんですね。

 ボン! と魔法陣が爆発すると、白い煙の中から、金色の長い髪と真っ白な長いウサ耳を持つ綺麗な女の子が現れました。

 まだ意識を失っているようで地面に倒れたままですが、すぐにモゾモゾと動き出しました。錬金術は成功したようです。

「うっ? ここは、私は死んでいないのか?」

「ああ、無理しては駄目です。ゆっくり動いてください。これ、粗茶ですがどうぞ」

「うっ、ありがとう。んぐっ…んぐっ…んんっ? 水?」

 はい、水です。

「くっ! お前はリル・スタットレイ! この耳⁉︎ この身体⁉︎ 私に一体何をした!」

 意識をしっかり取り戻した僧侶がピョン、と飛び上がります。自分の頭についているウサ耳と、胸に付いている小さな膨らみを確認すると、ワナワナと震えて怒り出しました。

「錬金術で雌ウサギと合体させて、ついでに女体化させてもらいました。動物の力が加わったので、以前よりも少しだけ身体が強くなったはずですよ。あっ! お礼はいいですよ」

「巫山戯るなよ、この悪魔め! 今すぐに神の名の下に成敗してやる!」

 以前の優しい僧侶さんが、人が変わったように激しい口調で、リルをののしります。でも、可愛いウサ耳僧侶ちゃんに罵られても、全然怖くありません。可愛いだけです。

「ふふっ、そう来ると思って、新しいお友達を用意しています。リルが考えもなしに、自分よりも強い人達と1人で戦うと思ったんですか?」

 パチン! とリルが指を鳴らすと、ズン、ズンと暗闇の奥から大きな魔物のお友達が姿を現しました。

獅子熊ししぐま 体力80 攻撃力40 防御力40 魔法攻撃力0 魔法防御力10

「mew Roar」と猫のような、熊のような恐ろしい鳴き声です。熊の巨体に、ライオンの頭と立て髪、二足歩行と四足歩行を器用に使い分ける事が出来ます。対するラビット僧侶リストの強さはこちらです。

☆ラビット僧侶 体力50 攻撃力10 防御力20 魔法攻撃力30 魔法防御力30

「リルは弱いので、この獅子熊と2人がかりで相手しますね。あっ! 死んだ場合でも身体は何度でも使えますから、安心して死んでいいですよ」

「くぅぅ!! ケルベロスだけではなく、こんな化け物まで作るとは………」

 ラビット僧侶は風魔法と回復魔法を使って必死に抵抗しますが、リルと獅子熊の圧倒的な力の前に、呆気なく敗れてしまいました。

「ふっふふふふ、やっと大人しくなりましたね」

 倒れて動けない僧侶に近づくと、「ちちんぷいぷい、なんたら、かんたら」と、素早く呪文を唱えました。服従の魔法です。これで、絶対にリルの命令に逆らう事は出来なくなりました。

「可愛いお友達の完成です。お喋りが出来るお友達が出来て、とっても嬉しいです。残りの2人とも、すぐにお友達にならないといけませんね。ふっふふ…」

 リルの町の人口が1人増えました。すぐに2人増える予定です。この調子でドンドン、町に移住者が来るといいですね。

 ♦︎

 

 





 





 
 

 

 

 
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