糸魔術師の日常

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帰り道

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爆炎の中、ゆらりと漂うロックリザードのシルエット。やがて悶える動きも小さくなり、力が抜けたように首を垂れた。

「やった、みたいだね」

首から上が黒焦げになり、左脇腹が大きく陥没しているロックリザードの死体から糸を解き、地面に落とす。
ドサリと抵抗なく横たわった体は動く気配はなく、そこに生命がもう宿っていないことを感じさせた。

「何とかなりましたわね」
「凄い、本当に倒せた」
「死ぬかと思ったよぉ」

腰に手を当てて満足げなユーリと、ロックリザードの死体を信じられないとばかりに覗き込むミーファ達。
ロックリザードはその硬さより武器が通りにくく、初心者には辛い相手だ。駆け出しで買えるか武器なんてエゲツない程通らない。蚊に刺された程度にも感じてもらえない可能性もある。その大きな要因は岩の装甲を使った防御の上手さにあり、普通に攻撃しようとしても装甲に覆われた部分を前に出して牽制し、その装甲を武器とした肉弾戦で攻め立ててくる。
巨体からの一撃は駆け出しが着る程度の鎧など無いものとして粉砕し、押しつぶす。
抵抗もできずに倒されることすらあり、ロックリザードは中級以降の傭兵にしか討伐依頼は回ってこない、そんな相手だ。
そんな魔物を4人がかりとはいえ、学生と駆け出しとで倒したことが信じられないのだろう。レミなどまだ生きてるかもと不安になりながら、その辺に落ちてた一番長い枝で恐る恐るロックリザードの死体を突いている。

「うぉーい。無事かぁー!!」

ガッシャガッシャと鎧を鳴らしながら少し離れた位置で手を振るのはアンダーウッドの印章を付けた軽装騎士。恐らく街道見回りの警邏隊だろう。
声からしてまだ若い男性騎士だろう。鎧の所々に葉っぱや草を付けながら、軽快な足取りで近寄ってくる。

「森の奥から悲鳴とかすごい音がするって商人に通報受けてさ。来てみたんだけど……凄いな。これ倒したのか。この辺には居ない魔物のはずなんだけど……」
「随分とまぁ、ゆっくりとしたご到着ですわね。これはお父様に報告しなければ」
「ん? ってお嬢!? え、なんで、なんでここに!?」

驚く男性騎士。知り合いだろうか。

「ちょっと冒険しに出てみただけですわよ。それより丁度いいですわ。このトカゲを運びたいから荷車な何かありませんの?」
「ちょっと冒険てお嬢……はぁ、まあいいやお嬢だし。ちょっと待っててくださいよ、今同僚呼んできますんで」

どこか諦めた風の騎士が来た道を戻っていく。
数分後、騎士4人を加えたメンバーでロックリザードは無事、街道まで運び出された。



ユーリの実家である伯爵家は、代々騎士を輩出してきた家系である。ユーリの上には兄が1人おり、現在はアンダーウッド西門側を守る第二騎士隊の中隊長を務めている。
若干20歳にして隙を見せない技巧の剣技と鉄壁とも思える土属性を駆使する様から、将来の騎士団長を有力視されている期待の星だ。
その妹であるユーリも騎士との訓練を幼い時より見学し、いつしか一緒に身体を動かすようになり、気がついたら本格的に参加していた経緯を持つ。
兄のエリウッドはそんなユーリを可愛がり、というか甘やかし、好きなように望むように受け入れていた。
騎士達も内心「いいのかなー」とは思っていたが幼い少女を無碍にもできず、無理しない程度に見守るうちに、ユーリはいつしかすっかり騎士団に馴染んでしまった。
今も騎士団の訓練には勉学などに支障がない範囲と父親に釘を刺されたが参加しており、割と騎士達とは気安い関係を築いている。

「いやまさかロックリザードをねえ。冒険者のお二方、うちのお嬢を有難うございました」
「いえいえ、えと、助けて貰ったのはこちらですし」
「そうなんですか? お嬢」
「ええ。殴り飛ばして差し上げましたわ!」
「あちゃあ、平常運転ですね」

困ったもんだと首を振る兵士に先導され、西門をチェックなしに素通りする一行。その後ろからロックリザードを乗せた台車が続き、通行人が物珍しさに騒めいている。

「また伯爵様にどやされますよ? 何度も淑女らしくしろと言ってるのにって」
「まぁ! これ以上ないほど淑女の嗜みに溢れてますわよ?」
「多分伯爵様が望まれてる淑女と、お嬢に溢れる淑女とは別物なんでしょうね」
「あら? お父様もズレてますのね」
「ズレてるのはお嬢の方かなぁと思いますがねぇ。でしょ?」

話のキャッチボールが回ってきたので、顔をそらして話題をスルーするエグジム。巻き込まれては敵わない。

「ほら、彼氏さんも目を逸らしちまいましたよ?」

面白そうに言う騎士。鎧に覆われていない脇腹部分にユーリの膝が突き刺さったのはその一瞬後の事だった。

「ねえ、やっぱりユーリさんとその、付き合ってるの?」

後ろで騒ぐ2人に聞こえないよう、そう耳打ちしてきたのはミーファ。レミも興味津々といったご様子。
だが残念、そんな浮いた話はない。

「俺がお嬢様となんて恐れ多いよ。友人だよ多分、きっと」
「曖昧ですね??」
「俺もよく分かってないからね」

いや実際どうなんだろう。
客と仕立て屋と言うには少し濃ゆい気がするし、貴族と気軽に「友達だ!」というのも平民メンタル的には気がひける。
巻き込まれた人? お付きの人? どれも近いようで遠い気がする。

「エグジムと私は仲間ですわよ、仲間!」

さてどう言おうかと悩んでいると、騎士と話していたユーリが此方を振り向いて快活な笑顔でそう言った。
仲間、なんだかむず痒い。

「いやー。巻き込まれた一般人と暴走お嬢様の間違いでは?」

むず痒いから、なんだか誤魔化すために少し意地悪に言い返してしまった。

「あ、エグジムまでそんなこと言いますの!? いいですいいです。あの繭はギルドに全部引き取ってもらいます!」
「それずるっ! うそですごめんなさい勘弁して!!」
「へー、なら私は?」
「清楚で可憐でございます」
「宜しい」

騒ぐ2人を微笑ましそうに見守る騎士。ロックリザードを乗せた荷車を押す騎士の中には凄まじい視線をエグジムに向ける若い騎士もいたが、そうこうしているうちに傭兵ギルドに一向は到着した。
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