糸魔術師の日常

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親方

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第2回戦に入ろうとしていたユーリを回収して受付に向かうと、そのままカウンター横から裏へと通される。職員用なのだろう、装飾も最低限で実用性が重視された作りになっている通路を進むこと少し、空気に生臭さが混ざってきたあたりで案内の職員が立ち止まった。

「ではこちらの部屋になります。中はまぁ今の段階でお分かりかと思いますが、臭いが強いかと思いますのでお気をつけください」

注意を述べ、エグジムたちが頷くのを確認すると職員は鉄でできた扉を押し開ける。その途端、濃厚な血の匂いが通路に流れ込み、ユーリがえずくのが聞こえた。

「あ、ユーリ様にエグジム君。さっきぶりー」

部屋の入り口付近には簡素な敷物が敷いてあり、その上ではミーファとレミが両足を投げ出して座り込んでいた。
2人とも防具を脱いで薄着になっており、汗で上着が肌に張り付いて、なんともギリギリな装いになっている。
傍らには血で汚れたいくつかの金具が転がっており、ニッパーには小さな鱗の破片が張り付いていた。

「解体手伝ってたんですね。お疲れ様です」
「ありがとーエグジム君。もう見学のつもりだったんだけど、いつの間にかね」

こき使いやがってーと愚痴るミーファと対照的に無口なレミ。感情の死んだ目で鱗のついたニッパーを見つめていた。

「解体……しばらくしたくない……」

心なし、顔色も青く生気を感じられない。解体作業はレミには刺激が強かったらしい。

「おうおう嬢ちゃんたちご苦労だったな! 報酬は出しとくからよ!」

解体所の奥からツナギを着た少女が、やたら蓮っ葉な口調で労ってきた。この解体所の娘だろうか?

「やった! 愛してる親方!」
「いいお酒飲みたい!」
「親方??」
「うん。あの人が解体所の親方だよ。ドワーフ族なんだって」

ドワーフ族は総じて人間の子供程度の背丈しかなく、職人肌で、手先が器用なことで知られた種族だ。男性は豊満なヒゲに筋肉質な身体、対して女性はいつまでも少女のような見た目になるという。この親方も少女のような見た目をしているが、実年齢は外見通りとはいかないのだろう。身の丈ほどもあるノコギリを担いで歩く様子は、この解体場に馴染み切っていた。この少女が解体場の中心だと自然に納得できる。

「はっはっは、このなりだからな。初めましてじゃ親方とは思わねえさ。お前らがこのトカゲを持ち込んだ客だな」
「あ、は……」
「そうですわ! ぶちのめしてやりましたのよ!」

 返事しようと口を開いたエグジムに被せるように宣言するユーリ。後ろでクレイが額を押えている。

「お嬢、仮にも令嬢たるもの自慢にはなりませんよ……というか言葉使い」
「まったく細かいですわね。剥げますわよ?」

 二十台も後半の男性には鋭すぎる言葉を食らい、思わず額の生え際に手をやるクレイ。まだ額は広くない、フサフサだと激励を込めサムズアップするエグジム。苦労の絶えない男に髪の毛の話は禁句に等しい。

「面白い嬢ちゃんだな、気に入ったよ。令嬢ってことは貴族かい?」
「ええ、ユーリ・エルフェンと申します」
「ほぉ! ならあんたがエルフェン家のじゃじゃ馬姫かい! やるとは聞いていたが、まさかロックリザードを仕留めるとはね。どうやったんだい?」
「どうって、これで殴っただけですわよ」

 そう言って、細く華奢な手指を握りこんだ拳を突き出す。ロックリザードどころか同年代との喧嘩すら出来るか怪しい見た目だが、解体所長はそれを見て眉を顰めることなく、楽しそうに笑った。

「へえ、見た目によらず良いモノ持ってるじゃないか。また何か狩ったら持ってきな! しっかりと解体してやるよ」
「ありがとうございます。なら今度我が家にもお茶を飲みにいらして。それとも火酒がいいかしら?」
「あっははは! いいねえ、もちろん火酒で頼むよ。遅くなったがここの所長しているバロメッサだ、よろしくな」
「よろしく!」

 がしっと、なんだか漢らしい握手を交わす美女と少女。

「よかったですねクレイさん。お友達出来ましたよ、見た目は同年代の」
「エグジムさん、ぜひ実年齢でカウントしてください」

 伯爵令嬢は年上に好かれる模様です。
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