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第6章 虹ヶ丘小学校、その歴史のはじまり〔美代乃の視点〕
48 第6章第10話 それぞれの道へ
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〔多田野の視点〕
僕は、多田野等。最後の後片付けは、いつも僕の仕事なんだ。仕事というより、きっと僕の役目なんだと思っている
先ほどまで、たくさんの人が集まって、あんなに喜びの声で満たされていたこの虹ヶ丘小学校の教室は、もう誰もいなくガランとして物静かなんだ。そんなに広くはないけど、誰もいなくなると、やけに広さを感じてしまう。
気を利かせて、村長の奥さん達が家からお茶や漬物などを持って来てくれた。知らせを待っていた人達にとっては、緊張を忘れられるいいご馳走だったんだ。
ある程度みんなで片づけは終わらせてくれたが、最後の確認は、いつも僕の役目なんだ。別に、誰に言われたからでもないんだ。僕は、みんなで使う物を大切にしたいだけなんだ。
僕は、口数は少ないけど、いつも笑顔だって褒められる。ちょっと小太りで、背も高くはないけど、美代乃先生はいつもよく見てくれている。人前で動くことは少なく、いつも人の後ろに居ては、最後に動く感じなのに、必ず見てくれているんだ。
そして、最後の後始末とか、誰かの手助けとか、ちょっとした手直しなど、他の人が見逃してしまいそうなことしかできない僕をちゃんと見ていて褒めてくれるんだ。美代乃先生は……。
僕は、それを自慢するつもりは全く無いんだ。一時が万事“終わりよければすべて良し”でいいと思っている。終わりさえ良ければ、みんな幸せになれるんだ。
今回も、すべての片付けを確認し、明日からまた子供達が学校に来た時に、教室を違和感なく使えるように整えていただけなんだ。
その時、帰ったと思っていた桜山先輩が、静かに教室に戻って来たんだ。
「とうちゃん、いつもすまんなー。また、後片付けの確認してくれているんだね……」
僕はは、名前が“等”なので、仲のいい人達からは“とうちゃん”と呼ばれているんだ。
「いやあ、いつものことです」
照れながら、小声で返した。そう言えば、桜山先輩も見てくれるんだよな。そして、いっつも声を掛けてくれる。
「僕たち年長者は、瞬くの間留守にすることにしたんだ。大人は、仕事で忙しくて、学校どころではないと思うんだ…………だから……」
「分かってますよ……。頼りないかもしれないけど、残った僕たちに任せてください」
「いや、君達は、頑張ってくれているよ。試験だって、見事、合格したじゃないか」
桜山先輩は、お世辞じゃなく、本当にいつもそうやって褒めてくれるんだ。今も体中からそのことは伝わっている。
「僕は、みーが……美代乃が、心配なんだ。彼女もまた、きっと、頑張ってくれると思うんだ……だから、心配なんだよ」
「え? 頑張ったら、心配なんですか?」
「頑張りすぎるんじゃないかと、心配なんだ。だから、とうちゃん、頼む。いつものように、みーだけじゃなく、みんなを、いやみーも、見ていてほしいんだ。きっと、とうちゃんが、見ていてくれるだけで僕は安心できると思うんだ」
桜山先輩は、ここを離れてしまうことを後悔でもするかのように、僕に美代乃先生のことを頼んでいるように感じた。
「…………僕は……一太のようにおしゃべりが得意ではありません。北野君のように先生らしいことも得意ではないのです。でも、黙ってみんなの後ろから見守ることはできます。困っている人がいたら、助ける気持ちはあります。自分の得意なことはありませんが、一緒に頑張ることはできます。僕は、今まで、ずーっとそうやって、生きてきました」
僕は、精一杯の声を出し、精一杯の気持ちを乗せて、話した。
「だから、今も、虹ヶ丘小学校の先生の試験を受けて、みんなで学校を作るために頑張っているんです。桜山先輩、『安心してください』なんて大げさなことは言えませんが、みんなが、自分のできることを頑張っているんですから、僕も自分のできることを頑張っていきます」
僕は、ちょっとだけ胸を張って言ったんだ。
「そうだね。それで、大丈夫だ。さすが『とうちゃん』と呼ばれるだけはあるな」
何となく、僕は嬉しかった。僕も、大切な仲間なんだと認められた気がしたんだ。
…………………………………
〔桜山の視点〕
次の日の朝早く、荷馬車の出発に合わせて、僕達は虹ヶ丘を出発することにした。交通機関はまだ荷馬車しかなかったんだ。近くの大きな町まで行けば鉄道がある。もう、そこまで鉄道は敷かれているんだ。
早朝ということで、見送りは家族のみであったが、村長一家はみんなで来ていた。大きな馬車ではあったが、僕達は荷台に乗った。そして、見送りの人達に手を振りながら出発したんだ。
「建造さん、聞こえますか?」
馬車の中で、上杉君が見送りの人達を見ながら声を掛けてきた。
「ああ、みーの歌が聞こえるよ」
「美代乃先生、また、歌ってくれているんですね。あの頃もよく歌ってくれましたよね。元気が出たなー」
「……………………………」
透き通るみーの歌声は、いつまでも聞こえるような気がしたんだ。みーの姿は見えなくても、あの歌声はいつまでも響いていたんだ。
そして、なぜか元気が出る歌なのに、僕も、そしてみんなも涙が零れてしまうんだ。
(第6章 完 ・ 物語は続く)
僕は、多田野等。最後の後片付けは、いつも僕の仕事なんだ。仕事というより、きっと僕の役目なんだと思っている
先ほどまで、たくさんの人が集まって、あんなに喜びの声で満たされていたこの虹ヶ丘小学校の教室は、もう誰もいなくガランとして物静かなんだ。そんなに広くはないけど、誰もいなくなると、やけに広さを感じてしまう。
気を利かせて、村長の奥さん達が家からお茶や漬物などを持って来てくれた。知らせを待っていた人達にとっては、緊張を忘れられるいいご馳走だったんだ。
ある程度みんなで片づけは終わらせてくれたが、最後の確認は、いつも僕の役目なんだ。別に、誰に言われたからでもないんだ。僕は、みんなで使う物を大切にしたいだけなんだ。
僕は、口数は少ないけど、いつも笑顔だって褒められる。ちょっと小太りで、背も高くはないけど、美代乃先生はいつもよく見てくれている。人前で動くことは少なく、いつも人の後ろに居ては、最後に動く感じなのに、必ず見てくれているんだ。
そして、最後の後始末とか、誰かの手助けとか、ちょっとした手直しなど、他の人が見逃してしまいそうなことしかできない僕をちゃんと見ていて褒めてくれるんだ。美代乃先生は……。
僕は、それを自慢するつもりは全く無いんだ。一時が万事“終わりよければすべて良し”でいいと思っている。終わりさえ良ければ、みんな幸せになれるんだ。
今回も、すべての片付けを確認し、明日からまた子供達が学校に来た時に、教室を違和感なく使えるように整えていただけなんだ。
その時、帰ったと思っていた桜山先輩が、静かに教室に戻って来たんだ。
「とうちゃん、いつもすまんなー。また、後片付けの確認してくれているんだね……」
僕はは、名前が“等”なので、仲のいい人達からは“とうちゃん”と呼ばれているんだ。
「いやあ、いつものことです」
照れながら、小声で返した。そう言えば、桜山先輩も見てくれるんだよな。そして、いっつも声を掛けてくれる。
「僕たち年長者は、瞬くの間留守にすることにしたんだ。大人は、仕事で忙しくて、学校どころではないと思うんだ…………だから……」
「分かってますよ……。頼りないかもしれないけど、残った僕たちに任せてください」
「いや、君達は、頑張ってくれているよ。試験だって、見事、合格したじゃないか」
桜山先輩は、お世辞じゃなく、本当にいつもそうやって褒めてくれるんだ。今も体中からそのことは伝わっている。
「僕は、みーが……美代乃が、心配なんだ。彼女もまた、きっと、頑張ってくれると思うんだ……だから、心配なんだよ」
「え? 頑張ったら、心配なんですか?」
「頑張りすぎるんじゃないかと、心配なんだ。だから、とうちゃん、頼む。いつものように、みーだけじゃなく、みんなを、いやみーも、見ていてほしいんだ。きっと、とうちゃんが、見ていてくれるだけで僕は安心できると思うんだ」
桜山先輩は、ここを離れてしまうことを後悔でもするかのように、僕に美代乃先生のことを頼んでいるように感じた。
「…………僕は……一太のようにおしゃべりが得意ではありません。北野君のように先生らしいことも得意ではないのです。でも、黙ってみんなの後ろから見守ることはできます。困っている人がいたら、助ける気持ちはあります。自分の得意なことはありませんが、一緒に頑張ることはできます。僕は、今まで、ずーっとそうやって、生きてきました」
僕は、精一杯の声を出し、精一杯の気持ちを乗せて、話した。
「だから、今も、虹ヶ丘小学校の先生の試験を受けて、みんなで学校を作るために頑張っているんです。桜山先輩、『安心してください』なんて大げさなことは言えませんが、みんなが、自分のできることを頑張っているんですから、僕も自分のできることを頑張っていきます」
僕は、ちょっとだけ胸を張って言ったんだ。
「そうだね。それで、大丈夫だ。さすが『とうちゃん』と呼ばれるだけはあるな」
何となく、僕は嬉しかった。僕も、大切な仲間なんだと認められた気がしたんだ。
…………………………………
〔桜山の視点〕
次の日の朝早く、荷馬車の出発に合わせて、僕達は虹ヶ丘を出発することにした。交通機関はまだ荷馬車しかなかったんだ。近くの大きな町まで行けば鉄道がある。もう、そこまで鉄道は敷かれているんだ。
早朝ということで、見送りは家族のみであったが、村長一家はみんなで来ていた。大きな馬車ではあったが、僕達は荷台に乗った。そして、見送りの人達に手を振りながら出発したんだ。
「建造さん、聞こえますか?」
馬車の中で、上杉君が見送りの人達を見ながら声を掛けてきた。
「ああ、みーの歌が聞こえるよ」
「美代乃先生、また、歌ってくれているんですね。あの頃もよく歌ってくれましたよね。元気が出たなー」
「……………………………」
透き通るみーの歌声は、いつまでも聞こえるような気がしたんだ。みーの姿は見えなくても、あの歌声はいつまでも響いていたんだ。
そして、なぜか元気が出る歌なのに、僕も、そしてみんなも涙が零れてしまうんだ。
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