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第5章 ありふれた日常の変化
44 第5章第7話 研究の継承者
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ここは、上杉南中子の家
「お姉ちゃんに報告はできたのかい?」
「うん、大丈夫よ、たぶんあともう少しなの、お父さん!」
「そーっか、よくがんばったなぁ~南中子!」
「そりゃそうですよ、ナッチャンは私達の子どもよ! 研究者としての遺伝子は受け継いでるの……ね! うふふふ……」
姉、布礼愛への報告を仏壇で済ませた上杉南中子は、夕食の食卓で母の楽しそうな笑顔を見て、内心ホッとしていた。ようやく楽しい会話ができるようなったことに、彼女は時の流れを感じていたのだ。
今日の夕食は、ご馳走だ。
あれから、毎年、この日に家族で集まって祝ってきた。
姉が亡くなってからも…………。
「じゃあ、フーチャンの論文入賞を記念して……『カンパーーイ!』」
恒例の乾杯は、母親の音頭で行われた。
そう、10年前に布礼愛が、懸賞論文で最優秀賞をとった時から、行われている家族の記念行事なのだ。
5年目までは良かった。
全員が笑顔で集まった。姉も元気だった。南中子も嬉しかった。
『いつかは、自分も姉の手伝いがしたい。姉を助けられる研究者になりたい』
そう思って、張り切っていたのだ。
だが…………6年目からは…………
6年目は、皆涙を流しながらの会食だった。
母は、『布礼愛のことを忘れたくない』と言って、この会食会を意地でも続けたのだ。
南中子も父も、気持ちは同じだった。
7年目は、涙も減ったが、布礼愛の思い出話ばかりで、少しずつ気持ちも沈んでしまった。楽しい思い出も、すべて悲しい現実に繋がってしまう。
正直、南中子は、居たたまれない気持ちの方が強かった。
8年目の頃から、南中子も論文を書き始めた。
姉に習って、地球温暖化について調べ始めた。遅々として進まない研究に対して、自分を責めることもあった南中子だったが、両親はいつでも温かい手を差し伸べて、彼女の味方になっていた。
そして、10年目の今年、南中子の論文が認められ姉と同じ研究者の道を進めることになった。
だから、今年の記念食事会は、布礼愛の論文入賞記念だけでなく、南中子の論文入賞記念も加わったのだった。
自分を祝ってくれることが嬉しかったというより、姉に報告できる成果が、この家族の記念食事会で話題にできることが、とても嬉しかった。
「フーチャンもきっと喜んでいるわね~」
「ああ、母さんが言う通り、南中子も私達と同じ道を歩くことになったもんな~」
「そう言えば、お父さんとお母さんは、職場結婚なのよね」
「な、何を急にそんなことを言い出すんだい? 南中子?」
父親は、少し噎せながら目が泳いでいた。
「いいじゃあ、ありませんか。ナッチャンにも、私達の研究について話して聞かせてあげましょうよ」
母親は、落ち着いた笑顔で、少し遠い目をした後、静かに話し始めた。
「今はね、お父さんは市役所務め、私は専業主婦をしているけど、若い頃はアメリカの『地球温暖化研究所……Global warming institute of USA(略して G-WIN)』に所属して研究をしていたの」
「え? 2人ともアメリカにいたの? ……初めて聞いたわ!」
南中子は、両親の経歴に驚いていたが、母親は構わずに話を続けた。
「私達は、日本政府の派遣研究員だったの。その頃、日本は『冷水ミスト』も順調に一般化し町に浸透していたの。それだけ、日本の技術力は世界でも一目置かれていたのね」
南中子にとっては、とても興味深い話だった。
「最初、僕達は別々のテーマに取組んでいたんだが、ある時から同じテーマでテータを集めるようになったんだ……な、母さん!」
「もう、あなたったら! ……それはね、あなたが毎日のように私の研究室に顔を出すようになったからよ! ……用もないのにね!」
「いや、大事な用事があったんだよ。……美味しいお菓子が手に入ったとか、……いい写真が撮れたから見て欲しいとか、……新曲を覚えたから一緒にカラオケ行こうとか、……まだまだあるぞ~」
「えっと、お父さん、それって……デートに誘ってるんじゃないのかあ~……わたしにも分かるんだけど」
「まあ、そうとも言うかな……な! 大事な用事だろ?」
「そうよね! 大事な用事だったわ!……お陰であなたと結婚できたし、ね!」
「お、おお……そうだよな!」
「ん、ん、んん! ……えっと、アメリカまで行って何してんですか? ……それで、研究の方はどうなったの?」
呆れた様子で、南中子は2人を見比べていたが、肝心の研究の成果がとても気になっていた。
「そうよね……成果は……無かったの!」
「ええ?!」
南中子は、あまりの驚きに、手に持っていたショートケーキを危うく落としそうになってしまった。
「まあ、成果はなかったの。でもね、私達は世界に広がるアメリカの情報網を使って、地球規模のデータ収集をしたのよ! 極秘でね!」
「え、何? ……極秘って何????」
(つづく)
ここは、上杉南中子の家
「お姉ちゃんに報告はできたのかい?」
「うん、大丈夫よ、たぶんあともう少しなの、お父さん!」
「そーっか、よくがんばったなぁ~南中子!」
「そりゃそうですよ、ナッチャンは私達の子どもよ! 研究者としての遺伝子は受け継いでるの……ね! うふふふ……」
姉、布礼愛への報告を仏壇で済ませた上杉南中子は、夕食の食卓で母の楽しそうな笑顔を見て、内心ホッとしていた。ようやく楽しい会話ができるようなったことに、彼女は時の流れを感じていたのだ。
今日の夕食は、ご馳走だ。
あれから、毎年、この日に家族で集まって祝ってきた。
姉が亡くなってからも…………。
「じゃあ、フーチャンの論文入賞を記念して……『カンパーーイ!』」
恒例の乾杯は、母親の音頭で行われた。
そう、10年前に布礼愛が、懸賞論文で最優秀賞をとった時から、行われている家族の記念行事なのだ。
5年目までは良かった。
全員が笑顔で集まった。姉も元気だった。南中子も嬉しかった。
『いつかは、自分も姉の手伝いがしたい。姉を助けられる研究者になりたい』
そう思って、張り切っていたのだ。
だが…………6年目からは…………
6年目は、皆涙を流しながらの会食だった。
母は、『布礼愛のことを忘れたくない』と言って、この会食会を意地でも続けたのだ。
南中子も父も、気持ちは同じだった。
7年目は、涙も減ったが、布礼愛の思い出話ばかりで、少しずつ気持ちも沈んでしまった。楽しい思い出も、すべて悲しい現実に繋がってしまう。
正直、南中子は、居たたまれない気持ちの方が強かった。
8年目の頃から、南中子も論文を書き始めた。
姉に習って、地球温暖化について調べ始めた。遅々として進まない研究に対して、自分を責めることもあった南中子だったが、両親はいつでも温かい手を差し伸べて、彼女の味方になっていた。
そして、10年目の今年、南中子の論文が認められ姉と同じ研究者の道を進めることになった。
だから、今年の記念食事会は、布礼愛の論文入賞記念だけでなく、南中子の論文入賞記念も加わったのだった。
自分を祝ってくれることが嬉しかったというより、姉に報告できる成果が、この家族の記念食事会で話題にできることが、とても嬉しかった。
「フーチャンもきっと喜んでいるわね~」
「ああ、母さんが言う通り、南中子も私達と同じ道を歩くことになったもんな~」
「そう言えば、お父さんとお母さんは、職場結婚なのよね」
「な、何を急にそんなことを言い出すんだい? 南中子?」
父親は、少し噎せながら目が泳いでいた。
「いいじゃあ、ありませんか。ナッチャンにも、私達の研究について話して聞かせてあげましょうよ」
母親は、落ち着いた笑顔で、少し遠い目をした後、静かに話し始めた。
「今はね、お父さんは市役所務め、私は専業主婦をしているけど、若い頃はアメリカの『地球温暖化研究所……Global warming institute of USA(略して G-WIN)』に所属して研究をしていたの」
「え? 2人ともアメリカにいたの? ……初めて聞いたわ!」
南中子は、両親の経歴に驚いていたが、母親は構わずに話を続けた。
「私達は、日本政府の派遣研究員だったの。その頃、日本は『冷水ミスト』も順調に一般化し町に浸透していたの。それだけ、日本の技術力は世界でも一目置かれていたのね」
南中子にとっては、とても興味深い話だった。
「最初、僕達は別々のテーマに取組んでいたんだが、ある時から同じテーマでテータを集めるようになったんだ……な、母さん!」
「もう、あなたったら! ……それはね、あなたが毎日のように私の研究室に顔を出すようになったからよ! ……用もないのにね!」
「いや、大事な用事があったんだよ。……美味しいお菓子が手に入ったとか、……いい写真が撮れたから見て欲しいとか、……新曲を覚えたから一緒にカラオケ行こうとか、……まだまだあるぞ~」
「えっと、お父さん、それって……デートに誘ってるんじゃないのかあ~……わたしにも分かるんだけど」
「まあ、そうとも言うかな……な! 大事な用事だろ?」
「そうよね! 大事な用事だったわ!……お陰であなたと結婚できたし、ね!」
「お、おお……そうだよな!」
「ん、ん、んん! ……えっと、アメリカまで行って何してんですか? ……それで、研究の方はどうなったの?」
呆れた様子で、南中子は2人を見比べていたが、肝心の研究の成果がとても気になっていた。
「そうよね……成果は……無かったの!」
「ええ?!」
南中子は、あまりの驚きに、手に持っていたショートケーキを危うく落としそうになってしまった。
「まあ、成果はなかったの。でもね、私達は世界に広がるアメリカの情報網を使って、地球規模のデータ収集をしたのよ! 極秘でね!」
「え、何? ……極秘って何????」
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