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第6章 紡ぐ繋がりの中で
80 第6章第15話 職人の願い
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「キャアアアアアアアアアアアーーーーーー!」
「どうした?ピンク!」
悲鳴を聞いて、一瞬慌てたのは、ブルーだった。
「うーーっふうーーーん! ミーせんぱ~~い~~これ、見て~~!」
が、しかし、どうやらそれは、喜びの声だったようだ。
「ブ、ブルー! こ、この陳列は……」
「おーイエロー、まぎれもない『全国煎餅10選』だなあ~」
「だからか! ブルー、これを目にしたピンクは、抑えが利かなくなってます!」
「きっとピンクは、この煎餅に魅了されてしまったんだ!」
『虹ノ森海苔巻煎餅~霰チェーン店1番店』の奥の間に足を踏み入れた3人が目にしたものは、なんとまだ地球が正常な気温を保っていた100年前の『あるべき姿の煎餅達』だった。
100年前までは、まだ普通に煎餅が焼かれていたのだ。
中でも老舗の煎餅屋に必ずいた『煎餅職人』は、店の宣伝も兼ね、店の1番目立つところで煎餅焼きの実演販売をしていたのである。
そして、年に1回開催される『全国煎餅合戦』に出場する煎餅職人は、1000人を超えていた。そして、その中から『味・硬さ・焼きのパフォーマンス』の総合評価で高得点を出した煎餅と煎餅職人は、『全国煎餅10選』として、全国の駅の売店に特等席が用意されるのである。
ただ、気温の上昇が始まって、煎餅を高温で焼くことができる職人が減ってくると、いつしか『全国煎餅10選』も行われなくなってしまったのである。
それが、この『虹ノ森海苔巻煎餅~霰チェーン店1番店』には、蘇っていた。眩しいくらいに煎餅が輝いているのである。
「ミ、ミ、ミー先輩、あたし、も、も、もう我慢できない! た、食べてもいいよね?」
イエローに後ろから羽交い絞めされているピンクが、ものすごい力で彼を引きずってまで、煎餅に手を伸ばそうとしていた。
しかし、その時、背中を向けて座っていた一人の中年の男が、ゆっくりと振り返りピンクを見つめて、話し出した。
「ああ、思う存分に、食べてくれ! この焼き立てのパリパリ煎餅を」
男は、作務衣のズボンのみを身に付け、上半身は裸だった。しかし、頭に巻く豆絞りの手ぬぐいは、まさに煎餅焼きの職人といった感じだ。
ここは、煎餅焼きの工房で、何か所にも炭火が起こされていた。おまけに、この部屋にはミストの噴霧器は無く、異常なほど室内の温度は高かった。
「お前が、この煎餅を焼いたのか?」
「ああそうだ! 好きなだけ、食べるがいい!」
「な、なにを、馬鹿な、あ! ピンク!」
「うへえーーー〔バリ、バリ……バリ〕ウッメーーー!」
「あ、マナ!」
「アッツも食べなよ! 食べていいって、言ってんだもん! ほら、ミー先輩も!」
「あーー、もーマナ~、ホント、食いしん坊なんだから、あ! ぶ、部長!」
「お、おおおー、危なかった。うかつに気を抜けないな!」
「もー、部長まで、ホントに、ウチの部員は、オヤツが好きなんだから! 俺達は、オンダンVなの! ほら、早く、戻って、戻って!」
「す、すまん、イエロー! ところで、職人? どうしてお前は、この暑い中で、平気で煎餅を焼いていられるんだ? 私達は、この冷却コスチュームのお陰で、辛うじて頑張れるんだ! 何も着ていない、お前など、一瞬で熱中症になるはずだろう?」
「ふっ! 確かにな。煎餅焼きは、暑いんだ! だから、今は煎餅を焼く職人なんて、ほとんど居なくなった! 例え居たとしても、工場で隔離された部屋の外から、リモコンを操作して熱が漏れない密閉された空間の外で、煎餅焼きの機械を操作するだけなんだ!…………そんなのは、もう煎餅じゃない!」
煎餅焼きの職人は、はっきりとした口調で自分の職人魂をぶつけて来た。しかし、その顔面はもちろん剥き出しの上半身には、流れるように汗が噴き出している。
「仕方がないじゃないか! 今は、温暖化で、これ以上暑いことなんてできないんだから!」
イエローが、職人に向かって、力を込めて訴えた。
「ああ、そうかもな。でも、例え工場で煎餅を作ったとしても、あのミストにやられてフニャフニャになった煎餅だけは、……あのフニャフニャ煎餅だけは、許せないんだ!」
8畳間ぐらいの窓もない密閉された空間に、いくつもの炭焼きコンロを並べ、煎餅を焼きながら職人は話を続けた。
「確かに暑かったよ! いや熱かったんだ! アレを手に入れるまではな! 突然だった。オレは、暑さを感じなくなったんだ! これで、幾らでも煎餅を焼けるって」
職人は、薄っすらと笑みを浮かべながら、網の上で焼けてきた煎餅に甘醤油を塗り始めた。
ジューー………シューー………ジュジュジューー………
醤油の焼ける音が聞こえた。
同時に、心地よい香ばしい甘い匂いが、鼻の粘膜にひっついて来た。
「う、ううう、ゴクッ!」
3人は、溢れてきた唾液を一気に喉に流し込んだ。しかし、その唾液は止まることを忘れたように、また溢れ出したのだ。
(つづく)
「どうした?ピンク!」
悲鳴を聞いて、一瞬慌てたのは、ブルーだった。
「うーーっふうーーーん! ミーせんぱ~~い~~これ、見て~~!」
が、しかし、どうやらそれは、喜びの声だったようだ。
「ブ、ブルー! こ、この陳列は……」
「おーイエロー、まぎれもない『全国煎餅10選』だなあ~」
「だからか! ブルー、これを目にしたピンクは、抑えが利かなくなってます!」
「きっとピンクは、この煎餅に魅了されてしまったんだ!」
『虹ノ森海苔巻煎餅~霰チェーン店1番店』の奥の間に足を踏み入れた3人が目にしたものは、なんとまだ地球が正常な気温を保っていた100年前の『あるべき姿の煎餅達』だった。
100年前までは、まだ普通に煎餅が焼かれていたのだ。
中でも老舗の煎餅屋に必ずいた『煎餅職人』は、店の宣伝も兼ね、店の1番目立つところで煎餅焼きの実演販売をしていたのである。
そして、年に1回開催される『全国煎餅合戦』に出場する煎餅職人は、1000人を超えていた。そして、その中から『味・硬さ・焼きのパフォーマンス』の総合評価で高得点を出した煎餅と煎餅職人は、『全国煎餅10選』として、全国の駅の売店に特等席が用意されるのである。
ただ、気温の上昇が始まって、煎餅を高温で焼くことができる職人が減ってくると、いつしか『全国煎餅10選』も行われなくなってしまったのである。
それが、この『虹ノ森海苔巻煎餅~霰チェーン店1番店』には、蘇っていた。眩しいくらいに煎餅が輝いているのである。
「ミ、ミ、ミー先輩、あたし、も、も、もう我慢できない! た、食べてもいいよね?」
イエローに後ろから羽交い絞めされているピンクが、ものすごい力で彼を引きずってまで、煎餅に手を伸ばそうとしていた。
しかし、その時、背中を向けて座っていた一人の中年の男が、ゆっくりと振り返りピンクを見つめて、話し出した。
「ああ、思う存分に、食べてくれ! この焼き立てのパリパリ煎餅を」
男は、作務衣のズボンのみを身に付け、上半身は裸だった。しかし、頭に巻く豆絞りの手ぬぐいは、まさに煎餅焼きの職人といった感じだ。
ここは、煎餅焼きの工房で、何か所にも炭火が起こされていた。おまけに、この部屋にはミストの噴霧器は無く、異常なほど室内の温度は高かった。
「お前が、この煎餅を焼いたのか?」
「ああそうだ! 好きなだけ、食べるがいい!」
「な、なにを、馬鹿な、あ! ピンク!」
「うへえーーー〔バリ、バリ……バリ〕ウッメーーー!」
「あ、マナ!」
「アッツも食べなよ! 食べていいって、言ってんだもん! ほら、ミー先輩も!」
「あーー、もーマナ~、ホント、食いしん坊なんだから、あ! ぶ、部長!」
「お、おおおー、危なかった。うかつに気を抜けないな!」
「もー、部長まで、ホントに、ウチの部員は、オヤツが好きなんだから! 俺達は、オンダンVなの! ほら、早く、戻って、戻って!」
「す、すまん、イエロー! ところで、職人? どうしてお前は、この暑い中で、平気で煎餅を焼いていられるんだ? 私達は、この冷却コスチュームのお陰で、辛うじて頑張れるんだ! 何も着ていない、お前など、一瞬で熱中症になるはずだろう?」
「ふっ! 確かにな。煎餅焼きは、暑いんだ! だから、今は煎餅を焼く職人なんて、ほとんど居なくなった! 例え居たとしても、工場で隔離された部屋の外から、リモコンを操作して熱が漏れない密閉された空間の外で、煎餅焼きの機械を操作するだけなんだ!…………そんなのは、もう煎餅じゃない!」
煎餅焼きの職人は、はっきりとした口調で自分の職人魂をぶつけて来た。しかし、その顔面はもちろん剥き出しの上半身には、流れるように汗が噴き出している。
「仕方がないじゃないか! 今は、温暖化で、これ以上暑いことなんてできないんだから!」
イエローが、職人に向かって、力を込めて訴えた。
「ああ、そうかもな。でも、例え工場で煎餅を作ったとしても、あのミストにやられてフニャフニャになった煎餅だけは、……あのフニャフニャ煎餅だけは、許せないんだ!」
8畳間ぐらいの窓もない密閉された空間に、いくつもの炭焼きコンロを並べ、煎餅を焼きながら職人は話を続けた。
「確かに暑かったよ! いや熱かったんだ! アレを手に入れるまではな! 突然だった。オレは、暑さを感じなくなったんだ! これで、幾らでも煎餅を焼けるって」
職人は、薄っすらと笑みを浮かべながら、網の上で焼けてきた煎餅に甘醤油を塗り始めた。
ジューー………シューー………ジュジュジューー………
醤油の焼ける音が聞こえた。
同時に、心地よい香ばしい甘い匂いが、鼻の粘膜にひっついて来た。
「う、ううう、ゴクッ!」
3人は、溢れてきた唾液を一気に喉に流し込んだ。しかし、その唾液は止まることを忘れたように、また溢れ出したのだ。
(つづく)
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