41 / 57
41 エルフィーナの手が押したもの 5(見えたもの)
しおりを挟む
※エル先生の視点
「エル先生、次の時間はいつもの自由行動だね!」
「ええ、そうよ」
「ぼくは、やっぱり1年2組に行くよ」
「私は、2年1組で呼ばれてるの、今日は、合唱の練習をするんだって!」
「オレは、5年1組だぜ。もうすぐ運動会だろ、今日はリレーをやるって言うんだよ。リレーの見本を見せたいんだけど、一緒に行くやつはいないかなあ」
「いいよ、ぼくもちょうど走りたかったんだ」
「ぼく、バトンの受け渡しは、得意だぜ!」
「なあ、あと1人いないか? …………。じゃあさ、残りの1人は、エル先生お願いしますよ、いいでしょ?」
「まあ、いいわよ。じゃあ、今日は勝君達に付き合うわね」
これは、木曜日の2時間目終了後の休み時間での会話だったの。そしたら、向井さんが、急に私のところに来て、不思議そうに尋ねてきたの。
「エル先生、今の話は何ですか?」
「ああ、あれは、4月から子ども達が他の学級へ行っている訪問学習です。最初は、いろんな時間を使って行っていたのですが、最近では、“週に1時間か2時間”の“総合的な学習の時間”を使って、子ども達自信の計画で動いています」
「他の学級に行って何をしているんですか?」
「まあ、勉強を教えたり、話し相手になったり、時には授業をする先生の手伝いをしたり、何をするかは子ども達自信が決めているようですよ。この間の給食訪問のように、授業以外で訪問している子どももたくさんいますよ」
「え? エル先生が、決めているんじゃないですか?」
「私は、何もしていませんよ。私は、ただ、子ども達が“やりたい”と、言ったことを他の先生に伝えているだけです」
「この取組、他のクラスの先生は、嫌がりませんか?……あ、いえ……どうしても小学校って、自分の学級に、他の先生やお客さんが入ると、嫌がる先生が多いでしょう? 私は、仕事柄、よくいろんな学校へ行くんです。でも、喜ばれたことなんて一度もありませんよ。…………顔では、みんなニコニコしていますが、心の中は“邪魔くさい”“早く帰ればいいのに”と、思っているのが分かるんです。だから、ここで……この学級の子ども達がこんなに歓迎してくれたのは、本当に夢のようなんですよ」
最初あんなに無口だった向井さんが、私には自分の気持ちをすべて話せるようになったのね。向井さんの話す様子を見ていると、なぜか嬉しくなってくるの。
ただそれは、本人にとっても不思議なことだったんじゃないかな。
「そうね……最初は、3つのクラスのだけだったわね。でも次第に他のクラスの方から6年生に来てほしいって言われるようになったのよ。今では、どのクラスもフリーパスなの」
私は、笑い話のように話してあげたの。そして、もちろん6年1組も同じことをしていると付け加えたわ。
向井さんは、まだ疑ってるみたい。
「それでも、他の教室へ行く時に、何か約束事は決めておいたんですよね」
私は、ちょっと考えて、最初の約束について話したの。
「そうね、私がお願いしたのは、自由にすることだけ。決して、人を誘ったり、無理に頑張ったりしないことだけね」
「え? 本当にそれだけですか?」
「もちろんそうよ、私からはね。後は、全部、子ども達同士で考えていたわね。自分達のこれまでの人生経験を引っ張り出して、自分達が嫌だったことはしないようにしようとか、言い合っていたわ」
「エル先生は、すべて子ども達に任せたんですか?」
「そうね…………子ども達が、そうさせてくれたのよ」
「あたなは、すごい先生なんだ……」
向井さんは、もう一度、私の方を見ていたわ。心なしか、向井さんが、不思議そうに見つめてるの。あれ? 何か私、変な事言ったかしら?
「向井さん?……どうかした?」
「はー、エルフィーナ先生が、薄っすらと光っていて、背中……あ! いえいえ、何でもありません」
なぜか、向井さんは、ちょっと慌てるような仕草をしたの。
「向井さん、次の時間は、あなたもフリーなのよ。子ども達と一緒に、どの教室でも自由に行ってください、先生達には話してありますから」
「は、はい、ありがとうございます……」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3時間目になったの。向井さんは、子ども達にくっついて、いろいろな教室をまわっていたわ。
「驚いたなあ……6年生が観察している。自分が何をしたらいいか、自分で決めるために、自分で考えているんだ。……先生は何も言わないなんて…………自分はどうだった?」
向井さんは、この間給食について、1年生の教室に行ったことを思い出したんだって。
「1年生と給食を食べた男の子は、どうだった? あの子は、自分のできることを黙々とやっていたな。決して出しゃばったりするのでもなく、押しつけがましくもなく……黙々と。……あれすら自分は、できていなかったんじゃないかな」
昨日の私の言葉も思い出したんだって。
『……あなたのできることをやればいいのよ……』
「僕のできること?……僕のできることと言えば、教えることじゃなく、ただ絵を描くことだけなのに。……それだけしか今はできない……。いや! それが、できるんだ!!」
向井さんは、子ども達の様子と何かが重なった気がしたんだって。自分の中で、何か子ども達に“お返し”がしたいという気持ちが高まったのね。
教室へ戻って来た向井さんは、自分で感じ、考えたことを私に話してくれたの。そして、自分から、授業をしたいと言ってくれたわ。
「明日が、僕にとって最終日です。この学校とお別れする前に、みんなに伝えたいことがあります。授業を……いえ、時間をください。エル先生、お願いします」
「ありがとうございます、向井さん。楽しみにしています」
(つづく)
「エル先生、次の時間はいつもの自由行動だね!」
「ええ、そうよ」
「ぼくは、やっぱり1年2組に行くよ」
「私は、2年1組で呼ばれてるの、今日は、合唱の練習をするんだって!」
「オレは、5年1組だぜ。もうすぐ運動会だろ、今日はリレーをやるって言うんだよ。リレーの見本を見せたいんだけど、一緒に行くやつはいないかなあ」
「いいよ、ぼくもちょうど走りたかったんだ」
「ぼく、バトンの受け渡しは、得意だぜ!」
「なあ、あと1人いないか? …………。じゃあさ、残りの1人は、エル先生お願いしますよ、いいでしょ?」
「まあ、いいわよ。じゃあ、今日は勝君達に付き合うわね」
これは、木曜日の2時間目終了後の休み時間での会話だったの。そしたら、向井さんが、急に私のところに来て、不思議そうに尋ねてきたの。
「エル先生、今の話は何ですか?」
「ああ、あれは、4月から子ども達が他の学級へ行っている訪問学習です。最初は、いろんな時間を使って行っていたのですが、最近では、“週に1時間か2時間”の“総合的な学習の時間”を使って、子ども達自信の計画で動いています」
「他の学級に行って何をしているんですか?」
「まあ、勉強を教えたり、話し相手になったり、時には授業をする先生の手伝いをしたり、何をするかは子ども達自信が決めているようですよ。この間の給食訪問のように、授業以外で訪問している子どももたくさんいますよ」
「え? エル先生が、決めているんじゃないですか?」
「私は、何もしていませんよ。私は、ただ、子ども達が“やりたい”と、言ったことを他の先生に伝えているだけです」
「この取組、他のクラスの先生は、嫌がりませんか?……あ、いえ……どうしても小学校って、自分の学級に、他の先生やお客さんが入ると、嫌がる先生が多いでしょう? 私は、仕事柄、よくいろんな学校へ行くんです。でも、喜ばれたことなんて一度もありませんよ。…………顔では、みんなニコニコしていますが、心の中は“邪魔くさい”“早く帰ればいいのに”と、思っているのが分かるんです。だから、ここで……この学級の子ども達がこんなに歓迎してくれたのは、本当に夢のようなんですよ」
最初あんなに無口だった向井さんが、私には自分の気持ちをすべて話せるようになったのね。向井さんの話す様子を見ていると、なぜか嬉しくなってくるの。
ただそれは、本人にとっても不思議なことだったんじゃないかな。
「そうね……最初は、3つのクラスのだけだったわね。でも次第に他のクラスの方から6年生に来てほしいって言われるようになったのよ。今では、どのクラスもフリーパスなの」
私は、笑い話のように話してあげたの。そして、もちろん6年1組も同じことをしていると付け加えたわ。
向井さんは、まだ疑ってるみたい。
「それでも、他の教室へ行く時に、何か約束事は決めておいたんですよね」
私は、ちょっと考えて、最初の約束について話したの。
「そうね、私がお願いしたのは、自由にすることだけ。決して、人を誘ったり、無理に頑張ったりしないことだけね」
「え? 本当にそれだけですか?」
「もちろんそうよ、私からはね。後は、全部、子ども達同士で考えていたわね。自分達のこれまでの人生経験を引っ張り出して、自分達が嫌だったことはしないようにしようとか、言い合っていたわ」
「エル先生は、すべて子ども達に任せたんですか?」
「そうね…………子ども達が、そうさせてくれたのよ」
「あたなは、すごい先生なんだ……」
向井さんは、もう一度、私の方を見ていたわ。心なしか、向井さんが、不思議そうに見つめてるの。あれ? 何か私、変な事言ったかしら?
「向井さん?……どうかした?」
「はー、エルフィーナ先生が、薄っすらと光っていて、背中……あ! いえいえ、何でもありません」
なぜか、向井さんは、ちょっと慌てるような仕草をしたの。
「向井さん、次の時間は、あなたもフリーなのよ。子ども達と一緒に、どの教室でも自由に行ってください、先生達には話してありますから」
「は、はい、ありがとうございます……」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3時間目になったの。向井さんは、子ども達にくっついて、いろいろな教室をまわっていたわ。
「驚いたなあ……6年生が観察している。自分が何をしたらいいか、自分で決めるために、自分で考えているんだ。……先生は何も言わないなんて…………自分はどうだった?」
向井さんは、この間給食について、1年生の教室に行ったことを思い出したんだって。
「1年生と給食を食べた男の子は、どうだった? あの子は、自分のできることを黙々とやっていたな。決して出しゃばったりするのでもなく、押しつけがましくもなく……黙々と。……あれすら自分は、できていなかったんじゃないかな」
昨日の私の言葉も思い出したんだって。
『……あなたのできることをやればいいのよ……』
「僕のできること?……僕のできることと言えば、教えることじゃなく、ただ絵を描くことだけなのに。……それだけしか今はできない……。いや! それが、できるんだ!!」
向井さんは、子ども達の様子と何かが重なった気がしたんだって。自分の中で、何か子ども達に“お返し”がしたいという気持ちが高まったのね。
教室へ戻って来た向井さんは、自分で感じ、考えたことを私に話してくれたの。そして、自分から、授業をしたいと言ってくれたわ。
「明日が、僕にとって最終日です。この学校とお別れする前に、みんなに伝えたいことがあります。授業を……いえ、時間をください。エル先生、お願いします」
「ありがとうございます、向井さん。楽しみにしています」
(つづく)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる