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第2章 本当の研修
第2章第6話 研修の成果?
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飛行機は定刻通り離陸した。しばらくして、シートベルトのサインも消えた。
「片桐先生、今回の研修はとても有意義でした。また、いろいろとアドバイスもいただき、ありがとうございました」
「いやあー、北野先生は熱心だなあ。ぜひ、君にはこの研修を続けて受けてもらいたんもんだ」
僕は、隣の席の片桐先生に、今回のことも含め、学校のことなどいろいろ話し相手になってもらった。
そのうち、飛行機の揺れも気持ち良く、いつの間にか眠ってしまったんだ。
目的地到着のアナウンスが流れた。再びシートベルト着用のランプが灯る。
僕は、ふと隣の席を見た。おばあさんが、シートベルト着用で手間取っているので、手を貸した。
「すみませんね~、また、お世話になって……」
おばあさんは、丁寧にお礼を言ってくれた。先ほどの離陸の時も手を貸したので、僕には違和感はなかった。? 違和感……。僕は、1人で?……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日、学校へ行くと、まず教頭先生に口頭復命をした。つまり、簡単に研修についての内容を自分の言葉で報告するのである。
これは、形式でという事より、気持ちの問題だと思う。研修に参加するためには、学校を休まなければならない。そのために、誰かが代わりに業務を行ってくれる。特に小学校なら担任をもっている場合が多く、その業務代行のお礼や引継ぎが主なものになる。
その後、復命書と言って、研修期間の出先での業務内容を書面で報告するのである。
『……研修名……日付は、……(木)……(金)……と、1日目と2日目の研修内容だな…………?どうして、すぐ土曜日に帰ってこなかったんだっけ?……』
書類を作っていると、早央里先生が声を掛けてくれた。
「おかえりなさい、北野先生」
「あ、ありがとうございました。学級の方もいろいろお世話になって……」
「大丈夫よ、みんないい子だったわ。それより、研修会は勉強になった?」
「ええ、もちろんです。行く前にいろいろ聞いた……?……えっと、……誰に聞いたんだっけ?」
研修に出かける前に、確か誰かに詳しく内容を聞いたような気がするんだけど……………?
だから、今回の研修には安心して参加できたんだと…………思う?
僕が、何となくスッキリしない顔で書類を書いていると、早央里先生が1冊のファイルを持って戻って来た。
「北野先生は、きっとこれを見たよの!」
早央里先生が見せてくれたファイルには、『生徒指導問題解決と心に浸みる生徒指導研修会覚書』と表題が書かれていた。
僕にとっては、初めて見るファイルなんだが、その記録者の名前には心あたりがあるような気がした。
「…………片桐?」
「ああ、その先生は、私の同期なのよ。今は、行政の方に出向していて、噂では中央で研修担当の責任者になって、頑張っているそうよ……」
「……今は、うちの学校には居ないんですね…………」
「ええ、つよポンったら、昔はあんなに生徒指導で苦労して、夜中まで仕事をしてたのにねえ……。それが今じゃ、偉くなっちゃってさ……」
「…………………」
僕は、何とも言われぬ不思議な感覚に襲われた。そっか、片桐剛か……。その時、ふと片桐先生の言葉を思い出した。
『北野先生、思い切ってやりなさい……そうすれば、3日目の研修が役に立つから……』
ん? 3日目の研修? ……いや、今回の研修は2日日程だったはず……。
そんな時、受け持ちの男の子が、べそを掻きながら他の学年の先生と一緒に職員室に入って来た。
「どうした? タロウ?」
僕は、彼の頭を撫でながら、漠然と様子を見ていた。すると僕の頭には、次に何をしたらいいのかが、浮かんで来たんだ。そして、自然にタロウに声を掛けていた。
「タロウ、それは、先生が持っている道具を貸してあげるから、心配しなくていいよ。それよりも、泣かなくてもいいから、口で話せるようになったら嬉しいな……」
「……先生?……絵具セット忘れてきたの、……どうして知ってるの?」
「ん?……何となくな……」
タロウは、『えへっ』と、はにかみながらすぐに泣き止み、教室へ戻って行った。
タロウを連れて来てくれた先生は、不思議そうに職員室を出て行く子どもの背中を見ながら、驚いた顔で僕に尋ねた。
「北野先生、よく分かりましたね。……教室を覗くとあの子が泣いているんですよ。周りの子に聞いても分からなかったんです。あの子も私には何も言ってくれなかったので。…………まるで、北野先生は、魔法でも使ったようにあの子の心を読み取ったみたいですね」
魔法か?……そんなことを教えてくれる研修があれば、行ってみたいなぁ。
(第2章 完 ・ 物語はつづく)
「片桐先生、今回の研修はとても有意義でした。また、いろいろとアドバイスもいただき、ありがとうございました」
「いやあー、北野先生は熱心だなあ。ぜひ、君にはこの研修を続けて受けてもらいたんもんだ」
僕は、隣の席の片桐先生に、今回のことも含め、学校のことなどいろいろ話し相手になってもらった。
そのうち、飛行機の揺れも気持ち良く、いつの間にか眠ってしまったんだ。
目的地到着のアナウンスが流れた。再びシートベルト着用のランプが灯る。
僕は、ふと隣の席を見た。おばあさんが、シートベルト着用で手間取っているので、手を貸した。
「すみませんね~、また、お世話になって……」
おばあさんは、丁寧にお礼を言ってくれた。先ほどの離陸の時も手を貸したので、僕には違和感はなかった。? 違和感……。僕は、1人で?……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日、学校へ行くと、まず教頭先生に口頭復命をした。つまり、簡単に研修についての内容を自分の言葉で報告するのである。
これは、形式でという事より、気持ちの問題だと思う。研修に参加するためには、学校を休まなければならない。そのために、誰かが代わりに業務を行ってくれる。特に小学校なら担任をもっている場合が多く、その業務代行のお礼や引継ぎが主なものになる。
その後、復命書と言って、研修期間の出先での業務内容を書面で報告するのである。
『……研修名……日付は、……(木)……(金)……と、1日目と2日目の研修内容だな…………?どうして、すぐ土曜日に帰ってこなかったんだっけ?……』
書類を作っていると、早央里先生が声を掛けてくれた。
「おかえりなさい、北野先生」
「あ、ありがとうございました。学級の方もいろいろお世話になって……」
「大丈夫よ、みんないい子だったわ。それより、研修会は勉強になった?」
「ええ、もちろんです。行く前にいろいろ聞いた……?……えっと、……誰に聞いたんだっけ?」
研修に出かける前に、確か誰かに詳しく内容を聞いたような気がするんだけど……………?
だから、今回の研修には安心して参加できたんだと…………思う?
僕が、何となくスッキリしない顔で書類を書いていると、早央里先生が1冊のファイルを持って戻って来た。
「北野先生は、きっとこれを見たよの!」
早央里先生が見せてくれたファイルには、『生徒指導問題解決と心に浸みる生徒指導研修会覚書』と表題が書かれていた。
僕にとっては、初めて見るファイルなんだが、その記録者の名前には心あたりがあるような気がした。
「…………片桐?」
「ああ、その先生は、私の同期なのよ。今は、行政の方に出向していて、噂では中央で研修担当の責任者になって、頑張っているそうよ……」
「……今は、うちの学校には居ないんですね…………」
「ええ、つよポンったら、昔はあんなに生徒指導で苦労して、夜中まで仕事をしてたのにねえ……。それが今じゃ、偉くなっちゃってさ……」
「…………………」
僕は、何とも言われぬ不思議な感覚に襲われた。そっか、片桐剛か……。その時、ふと片桐先生の言葉を思い出した。
『北野先生、思い切ってやりなさい……そうすれば、3日目の研修が役に立つから……』
ん? 3日目の研修? ……いや、今回の研修は2日日程だったはず……。
そんな時、受け持ちの男の子が、べそを掻きながら他の学年の先生と一緒に職員室に入って来た。
「どうした? タロウ?」
僕は、彼の頭を撫でながら、漠然と様子を見ていた。すると僕の頭には、次に何をしたらいいのかが、浮かんで来たんだ。そして、自然にタロウに声を掛けていた。
「タロウ、それは、先生が持っている道具を貸してあげるから、心配しなくていいよ。それよりも、泣かなくてもいいから、口で話せるようになったら嬉しいな……」
「……先生?……絵具セット忘れてきたの、……どうして知ってるの?」
「ん?……何となくな……」
タロウは、『えへっ』と、はにかみながらすぐに泣き止み、教室へ戻って行った。
タロウを連れて来てくれた先生は、不思議そうに職員室を出て行く子どもの背中を見ながら、驚いた顔で僕に尋ねた。
「北野先生、よく分かりましたね。……教室を覗くとあの子が泣いているんですよ。周りの子に聞いても分からなかったんです。あの子も私には何も言ってくれなかったので。…………まるで、北野先生は、魔法でも使ったようにあの子の心を読み取ったみたいですね」
魔法か?……そんなことを教えてくれる研修があれば、行ってみたいなぁ。
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