先生の憂鬱

根 九里尾

文字の大きさ
13 / 17
第3章 天気に恵まれたら

第3章第2話 あっ晴れ

しおりを挟む
「早央里先生、昨日で本当に良かったですよね」
「北野先生のお陰じゃなない」

 僕は、職員室で昨日の見学について話をしていた時、早央里先生にそう言われて、悪い気はしなかったんだ。でも、この功労者は、音楽担当教諭の天日去先生なんだよな~。

 そう、6年生の遺跡見学学習は、木曜日の昨日、無事晴天の中で行われたんだ。しかも、今日は、朝から雨模様だ。そんなに雨量は多くはないが、1分たりとも雨の止む時は無いような降り方だ。

「本当にいい日を選んだものだね~」

 傍を通った教頭先生にも褒められてしまったんだ。

「それにしても、前日の水曜日は、あんなに大雨だったのに、午後から一転快晴になり、地面もすっかり乾くんだもの。遺跡の見学には、最高だったわよ」

 早央里先生は、満面の笑みで褒めてくれた。

「早央里先生、僕は天日去先生にお礼を言いに行った方がいいでしょうか?」

 今度は、小声で聞いてみた。

「別に、いいんじゃない?……何かの時についでに報告しておけば……」

 早央里先生は、案外、あっさりとした感じで、天日去先生についてはあまり触れようとはしなかった。

 ちょうど週末の日曜日に、近くの公園で野外演奏会が開かれる。出演するのは市民楽団の人達で、その中に天日去先生も混じっているそうだ。
 彼女は、ティンパニーの名手なんだって。職員打合せでも紹介があり、「ぜひ、日曜日の午後は見に来てほしい」と、告知があった。定期演奏会で、保護者や子ども達もたくさん見に来るらしい。

 先日のこともあるし、僕は見に行くことにしたんだ。参加は、無料なんだけど、急な変更等の連絡もあるということで、メール登録をしなきゃならないんだ。


 僕は、少し楽しみな気持ちで、週末を迎えた。


 演奏会を明日に控え、僕が少し浮かれた気持ちにもなっていた午前中に、1本のメールが届いたんだ。
 明日の演奏会を午前9時開催にするという開会時間の変更案内だった。

 何が予定変更の原因なのかは、メールに記載していなかった。

 とりあえず天気予報も確認したが、明日は一日中「晴れマーク」だったなあ。きっと、団員さんの都合でも悪くなったのかなあと考えてみたが、よく分からず、その日はそのままにしておいた。


 次の日、演奏会は9時に始まった。風もなく、太陽が降り注ぎ、気持ちの公園で、楽しい一時を過ごすことができた。
 11時には、すべてが終了して、楽器搬出もお昼までには済んだ。

 僕は、天日去先生に一声掛けてから帰ろうと、しばらく待っていたんだ。楽器の搬出時にでも傍に行って声を掛けようと思ってたんだけど、どうもそんな雰囲気ではなかった。
 どの団員さんも、無言でテキパキと作業を進め、持って来た楽器を運搬用のトラックに積み込んでいた。まるで、何かに追われているような感じで、声など掛ける隙間はなかったんだ。

 12時を回り、トラックの扉を閉めた瞬間に、眼鏡に水滴が付いた。ふと、空を見上げたが、雲は全くなかった。
 それから、5分もしないうちに、上空一面が真っ黒い雲で覆われ、12時30分には、大粒の雨が降り出して来たんだ。

 もちろん、その頃には、楽器を積んだトラックも、演奏会を楽しんだ僕も、もう公園には居なかったんだ。



(つづく)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...