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第3章 天気に恵まれたら
第3章第2話 あっ晴れ
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「早央里先生、昨日で本当に良かったですよね」
「北野先生のお陰じゃなない」
僕は、職員室で昨日の見学について話をしていた時、早央里先生にそう言われて、悪い気はしなかったんだ。でも、この功労者は、音楽担当教諭の天日去先生なんだよな~。
そう、6年生の遺跡見学学習は、木曜日の昨日、無事晴天の中で行われたんだ。しかも、今日は、朝から雨模様だ。そんなに雨量は多くはないが、1分たりとも雨の止む時は無いような降り方だ。
「本当にいい日を選んだものだね~」
傍を通った教頭先生にも褒められてしまったんだ。
「それにしても、前日の水曜日は、あんなに大雨だったのに、午後から一転快晴になり、地面もすっかり乾くんだもの。遺跡の見学には、最高だったわよ」
早央里先生は、満面の笑みで褒めてくれた。
「早央里先生、僕は天日去先生にお礼を言いに行った方がいいでしょうか?」
今度は、小声で聞いてみた。
「別に、いいんじゃない?……何かの時についでに報告しておけば……」
早央里先生は、案外、あっさりとした感じで、天日去先生についてはあまり触れようとはしなかった。
ちょうど週末の日曜日に、近くの公園で野外演奏会が開かれる。出演するのは市民楽団の人達で、その中に天日去先生も混じっているそうだ。
彼女は、ティンパニーの名手なんだって。職員打合せでも紹介があり、「ぜひ、日曜日の午後は見に来てほしい」と、告知があった。定期演奏会で、保護者や子ども達もたくさん見に来るらしい。
先日のこともあるし、僕は見に行くことにしたんだ。参加は、無料なんだけど、急な変更等の連絡もあるということで、メール登録をしなきゃならないんだ。
僕は、少し楽しみな気持ちで、週末を迎えた。
演奏会を明日に控え、僕が少し浮かれた気持ちにもなっていた午前中に、1本のメールが届いたんだ。
明日の演奏会を午前9時開催にするという開会時間の変更案内だった。
何が予定変更の原因なのかは、メールに記載していなかった。
とりあえず天気予報も確認したが、明日は一日中「晴れマーク」だったなあ。きっと、団員さんの都合でも悪くなったのかなあと考えてみたが、よく分からず、その日はそのままにしておいた。
次の日、演奏会は9時に始まった。風もなく、太陽が降り注ぎ、気持ちの公園で、楽しい一時を過ごすことができた。
11時には、すべてが終了して、楽器搬出もお昼までには済んだ。
僕は、天日去先生に一声掛けてから帰ろうと、しばらく待っていたんだ。楽器の搬出時にでも傍に行って声を掛けようと思ってたんだけど、どうもそんな雰囲気ではなかった。
どの団員さんも、無言でテキパキと作業を進め、持って来た楽器を運搬用のトラックに積み込んでいた。まるで、何かに追われているような感じで、声など掛ける隙間はなかったんだ。
12時を回り、トラックの扉を閉めた瞬間に、眼鏡に水滴が付いた。ふと、空を見上げたが、雲は全くなかった。
それから、5分もしないうちに、上空一面が真っ黒い雲で覆われ、12時30分には、大粒の雨が降り出して来たんだ。
もちろん、その頃には、楽器を積んだトラックも、演奏会を楽しんだ僕も、もう公園には居なかったんだ。
(つづく)
「北野先生のお陰じゃなない」
僕は、職員室で昨日の見学について話をしていた時、早央里先生にそう言われて、悪い気はしなかったんだ。でも、この功労者は、音楽担当教諭の天日去先生なんだよな~。
そう、6年生の遺跡見学学習は、木曜日の昨日、無事晴天の中で行われたんだ。しかも、今日は、朝から雨模様だ。そんなに雨量は多くはないが、1分たりとも雨の止む時は無いような降り方だ。
「本当にいい日を選んだものだね~」
傍を通った教頭先生にも褒められてしまったんだ。
「それにしても、前日の水曜日は、あんなに大雨だったのに、午後から一転快晴になり、地面もすっかり乾くんだもの。遺跡の見学には、最高だったわよ」
早央里先生は、満面の笑みで褒めてくれた。
「早央里先生、僕は天日去先生にお礼を言いに行った方がいいでしょうか?」
今度は、小声で聞いてみた。
「別に、いいんじゃない?……何かの時についでに報告しておけば……」
早央里先生は、案外、あっさりとした感じで、天日去先生についてはあまり触れようとはしなかった。
ちょうど週末の日曜日に、近くの公園で野外演奏会が開かれる。出演するのは市民楽団の人達で、その中に天日去先生も混じっているそうだ。
彼女は、ティンパニーの名手なんだって。職員打合せでも紹介があり、「ぜひ、日曜日の午後は見に来てほしい」と、告知があった。定期演奏会で、保護者や子ども達もたくさん見に来るらしい。
先日のこともあるし、僕は見に行くことにしたんだ。参加は、無料なんだけど、急な変更等の連絡もあるということで、メール登録をしなきゃならないんだ。
僕は、少し楽しみな気持ちで、週末を迎えた。
演奏会を明日に控え、僕が少し浮かれた気持ちにもなっていた午前中に、1本のメールが届いたんだ。
明日の演奏会を午前9時開催にするという開会時間の変更案内だった。
何が予定変更の原因なのかは、メールに記載していなかった。
とりあえず天気予報も確認したが、明日は一日中「晴れマーク」だったなあ。きっと、団員さんの都合でも悪くなったのかなあと考えてみたが、よく分からず、その日はそのままにしておいた。
次の日、演奏会は9時に始まった。風もなく、太陽が降り注ぎ、気持ちの公園で、楽しい一時を過ごすことができた。
11時には、すべてが終了して、楽器搬出もお昼までには済んだ。
僕は、天日去先生に一声掛けてから帰ろうと、しばらく待っていたんだ。楽器の搬出時にでも傍に行って声を掛けようと思ってたんだけど、どうもそんな雰囲気ではなかった。
どの団員さんも、無言でテキパキと作業を進め、持って来た楽器を運搬用のトラックに積み込んでいた。まるで、何かに追われているような感じで、声など掛ける隙間はなかったんだ。
12時を回り、トラックの扉を閉めた瞬間に、眼鏡に水滴が付いた。ふと、空を見上げたが、雲は全くなかった。
それから、5分もしないうちに、上空一面が真っ黒い雲で覆われ、12時30分には、大粒の雨が降り出して来たんだ。
もちろん、その頃には、楽器を積んだトラックも、演奏会を楽しんだ僕も、もう公園には居なかったんだ。
(つづく)
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