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おまけ
14・二度目の告白
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俺は、元々は普通の男だった。
野球少年で、丸坊主。肌の日焼けや、顔の怪我なんて気に求めた事が無かった。
しかし、人生の転機は予想もしない時に訪れるものだ。
高校二年生の文化祭、俺の人生は一八〇度変わった。
百均素材で集められたメイド服と黒いハイソックス。長髪のウィッグ、施された本格的な化粧。
鏡に映る自分じゃない自分が、俺のなりたい自分だと確信した。
そこからひっそりと、女装を楽しむ趣味が出来た。
別に女の子になりたいわけじゃない。なりたい自分になるだけ。
そうはいっても、男が女の格好をするのは世間一般的には異常だろう。
だから、普段は隠して、人がいる場所では絶対に見せない。
その分、家で存分に楽しむのだ。
親がいない時は、スカートを履いて、メイクをして、鏡の前で回ってみたり。
それを両親に見られた時の俺の絶望感たるや。
まぁ、両親もすごいショックを受けて腰抜かしてたけどな。
父は特に、俺を汚いものを見るような目で時折見てくるようになった。
母は化粧品の使い方だけ間違えないように指導してくれたが、異様な者を見るような目で俺を眺めている時がある。
大学生になったら、女装喫茶で働くようになった。メイド服ではなく、給仕の個性に合わせたスカート丈や服装を店側が取り揃えてくれている。
そこには様々な理由で働く人達が居たし、そんな人達の為に喫茶に足を運んでくれるお客さんがいる。
そこでは、女装は肯定される。喜んでもらえる。
しかし、外に一歩出れば奇異の目を向けられる。
その事が逆に俺のやる気に火をつけた。化粧の技術とファッションセンスを磨いて、俺はナンパされる程には女装のプロになってきた。
堂々と胸を張って道を歩けるようになり、一人暮らしを始めてからさらに自分磨きを怠らなかった。
しかし、どんなに女性的な姿になっても、俺は男。
あの人の身体に、視線を奪われて止まない。
羨ましいまでのプロポーションと存在感。スーツの上からでもわかる。きっと柔らかくて、抱き心地も……などと、下卑た妄想に囚われて、頭を振る。
意志の弱い卑怯者が彼に手を出しているのを見て、バクッと心臓が飛び跳ねた。
自分の妄想を実践しているのだから。
明らかな痴漢行為だが、彼は抵抗らしい抵抗はしていない。
ただ、震えているだけ……泣きそうになりながら、耐えている。
そんな姿を見てしまったら、身体が勝手に動いた。
痴漢を駅で引き渡した後、彼と少し話した。
俺は、震える彼を見て自分が恥ずかしくなった。
こんな繊細な人に欲目を向けていた事に。
そして、その人は俺の女装を見て堂々としていてかっこいいと言ってくれた。
天然なのか計算なのか、嬉しい言葉を並び立てる彼に……胸が高鳴った。
現金な自分に呆れてしまう。
それから再び出会い、交流を持った日からずっと……彼は俺の女装を変な目で見る事もなく、普通に接してくれた。
女装をしている事実を忘れてしまう程に彼は俺の姿を気にしない。
彼の隣は心地良かった。
今でも、俺はこの人……希さんの身体目当てじゃないのかと、自分に問いかけている。
希さんは俺を優しいと言うが、俺は希さんが思っている程優しい男じゃない。
俺はこの人の全てが欲しい。
この人の全てを独占したい。
俺に笑いかけてほしい。
俺だけを愛してほしい。
俺以外の奴に触れさせたくない。
俺だけの希さんになって欲しい。
「はぁ……」
エゴもここまでくると末期症状だ。
「どうしたの? うらちゃん、ため息吐いて」
「江口先輩。いや、自分が思ったより独占欲強くてビビってるところです」
「あら、可愛いと噂の彼氏さんとの事?」
「はい」
「普通じゃない? 可愛いと尚更、監禁しときたくなる程よ」
物騒な事をサラリと笑顔で言うこの人、江口先輩は、俺よりも年上なのに、見た目は女子大生のような若さと美貌を保っている。
年齢を感じさせない女装のプロフェッショナルだ。
「監禁まではちょっと……」
「じゃあ首輪の代わりに指輪でもあげたら?」
「指輪……ですか」
確かに、それは良いかもしれないと思った。
常に繋がりを感じられる物が手元にあるだけで、この醜くドロついた感情が薄まる気がする。
「ありがとうございます。参考にします!」
「えぇ、頑張ってね。何かあったら相談してちょうだい」
江口先輩はひらりと手を振って去って行った。
俺は早速スマホで検索をかけて、指輪のデザインを調べ始めた。
……結構種類あるんだな。値段もピンキリだし。うーん、やっぱり給料三ヶ月分とか言うくらいだから高い方が良いんだよなぁ。でも、あんまり高価な物をプレゼントしても引かれるだろうし。何が正解なんだろ。デザイン的にはシンプルな方が使いやすいかな。
お揃いのものだし、一人で突っ走るのはよくない。希さんに聞いてみよう。
「指輪、ですか?」
「はい。希さんはどんなデザインのが好みですか?」
「……あの、僕もそういうのよくわからないんですけど、その、ペアリングという事は、お互い同じものを身につけるんですよね?」
「そうですね。俺としては、お揃いのもので繋がっていたいなって思って」
俺の言葉に、希さんの顔がみるみると赤くなっていく。
俺、変な事言ったかな?
「すごく、嬉しいです。あの、麗華さんが選んでくれたものなら何でも嬉しいです。身に付けるのも勿体無くて、飾っちゃいそうですけど……」
「それだと意味無いので、ちゃんと付けてくださいね」
「あ、はい」
「じゃあ、一緒に選びに行きましょうか。俺の買い物に付き合ってください」
「はいっ!」
楽しみだと言わんばかりに体育座りで前後に揺れている。
可愛い。本当に可愛い。
「(……そういえば、俺ずっと可愛い可愛い言ってるけど、希さんは普通の成人男性だ。嫌がってはないけど、そろそろ自重しないと……)」
俺は今まで無意識のうちに、彼を可愛いと言っていた。
仕草や言動が、俺の心をくすぐってくる。まるで小動物を愛でるように。庇護欲を掻き立てられると言えばいいだろうか。
けれど、中身の愛らしさと対局的な欲望を煽るプロポーション。
男とは思えない甘い香り。沈み込むような柔らかさ、すべやかな肌触り。
俺の腕の中に収まってしまう程に小柄な彼に欲情している自分。
髭がなければ、俺よりうんと幼く見えるのに、大人の色気を纏っている。
どこまでもチクハグな印象を抱える希さんが、俺の情緒を狂わせる。
「あの、どうしました? 真剣な顔で黙り込んで」
「いや、なんでもありませんよ。行きましょうか」
俺は誤魔化しながら立ち上がり、ショッピングへ出かけた。
※※※
希さんと一緒に選んだのは、シンプルなシルバーの細身リングだった。内側に互いのイニシャルを刻印してもらう事にした。
シンプル故に普段から着けていてもらいたい。仕事中は外せば良いだけだし。
数日後、出来上がった物が届いた。
「おお、個包装」
「丁寧にラッピングされてますね」
小さな箱の中、厳重に仕舞われた光輝く銀は、それだけで特別感を醸し出している。
指輪を眺めていると、隣に居た眼鏡姿の希さんが頬を赤らめながら口を開いた。
「着けて、いただけますか?」
俺にスッと左手を差し出す希さんに、心臓が大きく跳ね上がった。ドキドキと脈打つ音がうるさい。
「失礼します」
希さんの手と指輪を手に取った。
俺の手よりも小さくて、凹凸の少ない綺麗な指に通した指輪は当然だが、ピッタリと嵌まった。
「……ふふっ。なんだかくすぐったくて恥ずかしいですね。こういうの」
薬指に輝く銀の輪っかを見て、瞳を潤ませてふんわりと花が咲くように微笑む姿は可憐そのものだった。希さんのそんな姿を見ているだけで、心が満たされていく。胸の内が暖かくなって、心地よい幸福感に包まれる。
この人のこんな姿を見られただけでも、買って良かったと思える。
「……俺にもお願いします」
「はい」
希さんも同じように、俺の左の掌に優しく手を添えて、指輪を通してくれた。
冷たい銀のリングがすぐに俺の体温と馴染んでいく。
「……僕は幸せ者です。麗華さんのような素敵な方に出会えて。こんな素敵な贈り物まで……本当に、嬉しい」
うっとりとした表情のまま、嵌めた指輪にキスを落とす希さんが、この上なく尊く感じられて……衝動的に抱きしめてしまった。
彼はビクっと肩を揺らし驚いた様子だったが、おずおずと背に腕を回してくれた。
「俺も嬉しいです。貴方とこうしてお付き合いが出来て。毎日が楽しいです」
背中をさすって落ち着かせて、耳元で囁いた。
すると希さんも嬉しかったのか、首筋にすり寄ってきてくれた。
愛おしい。俺も幸せだ。この人と出逢えた事に感謝するしかない。
「希さん、これから先、もっと沢山の事を経験して……二人で一緒に歳を取っていきましょう。どうか、俺と共に生きて下さいませんか?」
「……はい。こちらこそよろしくお願い致します。僕の人生は麗華さんと共にありますから……」
「ありがとうございます……」
まるでプロポーズ。二度目の告白。
見つめ合い、ゆっくりと唇を重ねた。
互いの存在を確かめるかのように、何度も啄み合う。
舌先で彼の下唇を舐めると、お返しと言わんばかりに希さんからも俺の下唇を食んできた。
「ん……あっ」
「?」
顔を離すと、希さんの唇が赤くなっていた。俺の口紅にが移って、まるでルージュを引いたみたいになっている。
「すみません。口紅が……んっ」
俺の言葉を遮って、今度は希さんの方からキスをしてきた。
ぬるりと生暖かいものが入ってきて、俺の口内を蹂躙していく。
希さんからのディープな接吻に、腰に熱が集まるのを感じた。
息継ぎの合間に漏れる吐息すら甘くて、理性が崩れそうになる。
「んぅ……うらぁか、さ……んっ」
「希、さん」
いつの間にか攻守逆転して、俺は希さんの頭を抱え込んで逃がさないように力を込める。
俺達は暫くの間、夢中で互いの口を貪り合った。
唇が離れ、絡み合っていた舌が解かれると紅の混ざった赤い糸を引いた。
蕩けた顔で荒い呼吸を繰り返す希さんは、とても艶やかで色っぽかった。
「希さん……まだ、日は高いですけど、いいですか?」
俺の誘いに、希さんは少し迷った素振りを見せたが、コクリと小さく首を縦に振ってくれた。
野球少年で、丸坊主。肌の日焼けや、顔の怪我なんて気に求めた事が無かった。
しかし、人生の転機は予想もしない時に訪れるものだ。
高校二年生の文化祭、俺の人生は一八〇度変わった。
百均素材で集められたメイド服と黒いハイソックス。長髪のウィッグ、施された本格的な化粧。
鏡に映る自分じゃない自分が、俺のなりたい自分だと確信した。
そこからひっそりと、女装を楽しむ趣味が出来た。
別に女の子になりたいわけじゃない。なりたい自分になるだけ。
そうはいっても、男が女の格好をするのは世間一般的には異常だろう。
だから、普段は隠して、人がいる場所では絶対に見せない。
その分、家で存分に楽しむのだ。
親がいない時は、スカートを履いて、メイクをして、鏡の前で回ってみたり。
それを両親に見られた時の俺の絶望感たるや。
まぁ、両親もすごいショックを受けて腰抜かしてたけどな。
父は特に、俺を汚いものを見るような目で時折見てくるようになった。
母は化粧品の使い方だけ間違えないように指導してくれたが、異様な者を見るような目で俺を眺めている時がある。
大学生になったら、女装喫茶で働くようになった。メイド服ではなく、給仕の個性に合わせたスカート丈や服装を店側が取り揃えてくれている。
そこには様々な理由で働く人達が居たし、そんな人達の為に喫茶に足を運んでくれるお客さんがいる。
そこでは、女装は肯定される。喜んでもらえる。
しかし、外に一歩出れば奇異の目を向けられる。
その事が逆に俺のやる気に火をつけた。化粧の技術とファッションセンスを磨いて、俺はナンパされる程には女装のプロになってきた。
堂々と胸を張って道を歩けるようになり、一人暮らしを始めてからさらに自分磨きを怠らなかった。
しかし、どんなに女性的な姿になっても、俺は男。
あの人の身体に、視線を奪われて止まない。
羨ましいまでのプロポーションと存在感。スーツの上からでもわかる。きっと柔らかくて、抱き心地も……などと、下卑た妄想に囚われて、頭を振る。
意志の弱い卑怯者が彼に手を出しているのを見て、バクッと心臓が飛び跳ねた。
自分の妄想を実践しているのだから。
明らかな痴漢行為だが、彼は抵抗らしい抵抗はしていない。
ただ、震えているだけ……泣きそうになりながら、耐えている。
そんな姿を見てしまったら、身体が勝手に動いた。
痴漢を駅で引き渡した後、彼と少し話した。
俺は、震える彼を見て自分が恥ずかしくなった。
こんな繊細な人に欲目を向けていた事に。
そして、その人は俺の女装を見て堂々としていてかっこいいと言ってくれた。
天然なのか計算なのか、嬉しい言葉を並び立てる彼に……胸が高鳴った。
現金な自分に呆れてしまう。
それから再び出会い、交流を持った日からずっと……彼は俺の女装を変な目で見る事もなく、普通に接してくれた。
女装をしている事実を忘れてしまう程に彼は俺の姿を気にしない。
彼の隣は心地良かった。
今でも、俺はこの人……希さんの身体目当てじゃないのかと、自分に問いかけている。
希さんは俺を優しいと言うが、俺は希さんが思っている程優しい男じゃない。
俺はこの人の全てが欲しい。
この人の全てを独占したい。
俺に笑いかけてほしい。
俺だけを愛してほしい。
俺以外の奴に触れさせたくない。
俺だけの希さんになって欲しい。
「はぁ……」
エゴもここまでくると末期症状だ。
「どうしたの? うらちゃん、ため息吐いて」
「江口先輩。いや、自分が思ったより独占欲強くてビビってるところです」
「あら、可愛いと噂の彼氏さんとの事?」
「はい」
「普通じゃない? 可愛いと尚更、監禁しときたくなる程よ」
物騒な事をサラリと笑顔で言うこの人、江口先輩は、俺よりも年上なのに、見た目は女子大生のような若さと美貌を保っている。
年齢を感じさせない女装のプロフェッショナルだ。
「監禁まではちょっと……」
「じゃあ首輪の代わりに指輪でもあげたら?」
「指輪……ですか」
確かに、それは良いかもしれないと思った。
常に繋がりを感じられる物が手元にあるだけで、この醜くドロついた感情が薄まる気がする。
「ありがとうございます。参考にします!」
「えぇ、頑張ってね。何かあったら相談してちょうだい」
江口先輩はひらりと手を振って去って行った。
俺は早速スマホで検索をかけて、指輪のデザインを調べ始めた。
……結構種類あるんだな。値段もピンキリだし。うーん、やっぱり給料三ヶ月分とか言うくらいだから高い方が良いんだよなぁ。でも、あんまり高価な物をプレゼントしても引かれるだろうし。何が正解なんだろ。デザイン的にはシンプルな方が使いやすいかな。
お揃いのものだし、一人で突っ走るのはよくない。希さんに聞いてみよう。
「指輪、ですか?」
「はい。希さんはどんなデザインのが好みですか?」
「……あの、僕もそういうのよくわからないんですけど、その、ペアリングという事は、お互い同じものを身につけるんですよね?」
「そうですね。俺としては、お揃いのもので繋がっていたいなって思って」
俺の言葉に、希さんの顔がみるみると赤くなっていく。
俺、変な事言ったかな?
「すごく、嬉しいです。あの、麗華さんが選んでくれたものなら何でも嬉しいです。身に付けるのも勿体無くて、飾っちゃいそうですけど……」
「それだと意味無いので、ちゃんと付けてくださいね」
「あ、はい」
「じゃあ、一緒に選びに行きましょうか。俺の買い物に付き合ってください」
「はいっ!」
楽しみだと言わんばかりに体育座りで前後に揺れている。
可愛い。本当に可愛い。
「(……そういえば、俺ずっと可愛い可愛い言ってるけど、希さんは普通の成人男性だ。嫌がってはないけど、そろそろ自重しないと……)」
俺は今まで無意識のうちに、彼を可愛いと言っていた。
仕草や言動が、俺の心をくすぐってくる。まるで小動物を愛でるように。庇護欲を掻き立てられると言えばいいだろうか。
けれど、中身の愛らしさと対局的な欲望を煽るプロポーション。
男とは思えない甘い香り。沈み込むような柔らかさ、すべやかな肌触り。
俺の腕の中に収まってしまう程に小柄な彼に欲情している自分。
髭がなければ、俺よりうんと幼く見えるのに、大人の色気を纏っている。
どこまでもチクハグな印象を抱える希さんが、俺の情緒を狂わせる。
「あの、どうしました? 真剣な顔で黙り込んで」
「いや、なんでもありませんよ。行きましょうか」
俺は誤魔化しながら立ち上がり、ショッピングへ出かけた。
※※※
希さんと一緒に選んだのは、シンプルなシルバーの細身リングだった。内側に互いのイニシャルを刻印してもらう事にした。
シンプル故に普段から着けていてもらいたい。仕事中は外せば良いだけだし。
数日後、出来上がった物が届いた。
「おお、個包装」
「丁寧にラッピングされてますね」
小さな箱の中、厳重に仕舞われた光輝く銀は、それだけで特別感を醸し出している。
指輪を眺めていると、隣に居た眼鏡姿の希さんが頬を赤らめながら口を開いた。
「着けて、いただけますか?」
俺にスッと左手を差し出す希さんに、心臓が大きく跳ね上がった。ドキドキと脈打つ音がうるさい。
「失礼します」
希さんの手と指輪を手に取った。
俺の手よりも小さくて、凹凸の少ない綺麗な指に通した指輪は当然だが、ピッタリと嵌まった。
「……ふふっ。なんだかくすぐったくて恥ずかしいですね。こういうの」
薬指に輝く銀の輪っかを見て、瞳を潤ませてふんわりと花が咲くように微笑む姿は可憐そのものだった。希さんのそんな姿を見ているだけで、心が満たされていく。胸の内が暖かくなって、心地よい幸福感に包まれる。
この人のこんな姿を見られただけでも、買って良かったと思える。
「……俺にもお願いします」
「はい」
希さんも同じように、俺の左の掌に優しく手を添えて、指輪を通してくれた。
冷たい銀のリングがすぐに俺の体温と馴染んでいく。
「……僕は幸せ者です。麗華さんのような素敵な方に出会えて。こんな素敵な贈り物まで……本当に、嬉しい」
うっとりとした表情のまま、嵌めた指輪にキスを落とす希さんが、この上なく尊く感じられて……衝動的に抱きしめてしまった。
彼はビクっと肩を揺らし驚いた様子だったが、おずおずと背に腕を回してくれた。
「俺も嬉しいです。貴方とこうしてお付き合いが出来て。毎日が楽しいです」
背中をさすって落ち着かせて、耳元で囁いた。
すると希さんも嬉しかったのか、首筋にすり寄ってきてくれた。
愛おしい。俺も幸せだ。この人と出逢えた事に感謝するしかない。
「希さん、これから先、もっと沢山の事を経験して……二人で一緒に歳を取っていきましょう。どうか、俺と共に生きて下さいませんか?」
「……はい。こちらこそよろしくお願い致します。僕の人生は麗華さんと共にありますから……」
「ありがとうございます……」
まるでプロポーズ。二度目の告白。
見つめ合い、ゆっくりと唇を重ねた。
互いの存在を確かめるかのように、何度も啄み合う。
舌先で彼の下唇を舐めると、お返しと言わんばかりに希さんからも俺の下唇を食んできた。
「ん……あっ」
「?」
顔を離すと、希さんの唇が赤くなっていた。俺の口紅にが移って、まるでルージュを引いたみたいになっている。
「すみません。口紅が……んっ」
俺の言葉を遮って、今度は希さんの方からキスをしてきた。
ぬるりと生暖かいものが入ってきて、俺の口内を蹂躙していく。
希さんからのディープな接吻に、腰に熱が集まるのを感じた。
息継ぎの合間に漏れる吐息すら甘くて、理性が崩れそうになる。
「んぅ……うらぁか、さ……んっ」
「希、さん」
いつの間にか攻守逆転して、俺は希さんの頭を抱え込んで逃がさないように力を込める。
俺達は暫くの間、夢中で互いの口を貪り合った。
唇が離れ、絡み合っていた舌が解かれると紅の混ざった赤い糸を引いた。
蕩けた顔で荒い呼吸を繰り返す希さんは、とても艶やかで色っぽかった。
「希さん……まだ、日は高いですけど、いいですか?」
俺の誘いに、希さんは少し迷った素振りを見せたが、コクリと小さく首を縦に振ってくれた。
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