催淫魔法士の日常

7ズ

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16: ロイヤルな依頼②

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 翌日、ノトスはスカイドラゴン“トーム”の不調を突き止める為、とある場所を訪れていた。
 
「……禍々しい雰囲気は相変わらずだな」

 深い森の奥。人間を誘い様にぽっかりと口を開けた洞窟がそこにあった。
 ノトスは特に警戒するでもなく、灯りひとつない闇へ堂々と歩を進める。

『ズル……ズルズル』
『ペチャ……ベチャ……』

 洞窟内に粘り気のある水音が響く。
 そして、視界の外から何かがこちらへ飛びかかって来た。

『シュルル!』
「ぉ、おお」

 複数の触手が絡み付き、ノトスの動きを封じる。

『ジュワ……』
「待て待て待て待て! 俺だ! ノトス・ロルールだ!」
『!!』

 ノトスの声に触手が動きを止めて、拘束を緩めていく。
 絡み付いた相手が誰なのか、はっきり知覚した瞬間、勢いよくノトスに身を擦り付けた。

『スリスリスリ!』
「おいおい擽ったい……ふふ、久しぶりの顔ぶれも多いな」

 ノトスの姿を確認した途端、洞窟の奥から無数の触手が床を滑りながらこちらに近付いてくる。

「……良かった。まだみんな生きてるな」
『ピーン!』

 別れて間も無い子どもの触手達がノトスの前で嬉しそうに背筋を伸ばす。

「村長に会いに来たんだ。中に入れて貰えるか?」
『コクコク』

 ノトスが訪れたのは、巷で噂の『エロトラップダンジョン』と呼ばれる地下洞窟。
 多種族が共に暮らしを営む希少な共存戦略を取っている。
 そこの村長をしているホブゴブリンとノトスは交友関係がある。
 人間であるにも関わらず、村の防人の教育を任せる程にはノトスへ信頼を寄せている。
 
『グパァ……』
「……肉襦袢のカーテン」

 洞窟に犇く触手達が糸を引きながらノトスへ道を開ける。技巧を凝らした触手部屋を通り抜けながら奥に進むごとに、地面の凹凸は無くなったり、活気ある騒めきが耳に届き始めた。
 肉厚な細道の先にあったのは、至る所に吊橋や梯子のかかった高低差の大空洞。
 石造りと木造の建築物が半々の集落だ。
 水路が引かれ、運ばれた土と植物、見事な耕作地が広がっていた。
 
『ポインポイン』
『フシャーフシャー』
「スライムがスプリンクラーやってる……あ、サラ!」
《!……え? ノトスさん、いらっしゃってたんですね! こんにちは》
「こんにちは。村長いる?」
《はい。今、サンライトを冬に合わせて調整して──》
「あ! 先生だ!」

 小さな影がノトスへ近付いて、ぽてっと足にぶつかる。
 それに続いてぞろぞろとノトスの元へ駆け寄ってくるのは、ゴブリンやスライムの子ども達だ。

「先生~遊びに来たの?」
「ノトス先生だ!」
『ピョンピョン』
「今日は仕事関係だよ。遊んでやれなくてごめんな」
「「ええー」」

 子ども達のブーイングを笑っていなしながら、村長のいる洞窟の最上部まで梯子と吊橋を使って上がっていく。

「よっと。うお、眩し!」
「ん? ああ、ノトスか」
「久しぶり」

 緑肌のホブゴブリンが幹のような両腕でこの洞窟の光源の一つである、魔法具サンライトを抱えていた。
 スキンヘッドが相まって貫禄のある厳つい顔をしているが、穏健派のモンスターで話しが通じる相手だ。
 サンライトの調整を終えたら、天井に戻してノトスへ向き直る。

「予防接種にはまだ早いぞ」
「違う違う。ちょっと聞きたい事があって」
「私に?」

 ひとまず、場所を変えて村長になトームの事を伝えた。
 
「スカイドラゴンとは、また難儀な相手をさせられているな」
「不調の原因がわからなくてさ。各地を放浪してた村長なら何か知ってるかもと思って」
「確かに、この村で直接竜種を見た事あるのは俺ぐらいだろう。スカイドラゴンは名の通り飛行に特化した竜種だ。一日をほぼ空で過ごす。翼に異常が無い限り、常に地上にいる状況は絶対におかしい」
「そこの異変は俺でもわかる。でも、翼は至って正常で、外傷も歪みも無い」

 ノトスはトームのスケッチを村長に見せた。
 
『ペラ……ペラ……』
「千鳥足で……座る瞬間はゆっくりと……悪いが検討もつかん」
「そうか……あ、こっちはスカイドラゴンの成長過程のスケッチだ。貸してもらってるだけだから、汚すなよ」
「どれ……」

 セレティアのカラースケッチも一から見ていく村長。ページを捲り続けていくとピタッと手を止めた。

「ん?」
「どうした?」
「……いや」

 セレティアのスケッチを凝視する村長の視線は、トームではなく背景へ注がれいた。
 ノトスは何かヒントになる物でもあったかと、村長が見つめる箇所へ視線を移す。
 そこには鮮やかなトームのスケッチがあるだけで、ノトスにはピンとくるものはない。
 次のページを開くが特に変わったものは描かれていない。

「おかしいな……」
「何処が?」
「このスケッチをした主は遠近感をしっかり描き出せている。コレは……日付けから見るに約十年は経過しているはずだ。しかし、このドラゴンは身体が小さ過ぎる」
「!」

 背景とトームの比率を指摘し、村長は眉間に皺を寄せて牙の覗く口元に手を当てた。

「……竜種は卵を選定するが、それは各竜によって基準が存在するからこその習性だ。このスカイドラゴンが捨てられたのは、卵のうちから基準値に満たなかったからだろう」
「…………卵の基準値か」
「恐らく、大きさだ。早々に捨てられたのなら、一眼見て分かるほどに小さかったのかもな」

 小型の竜種を代表するスカイドラゴンだが、限度というものがある。トームの身体の小ささは先天的かもしれないが、しっかり食事が出来る環境にいるというのに、それでも小さかった。

「けど、小さいだけで急に不調をきたすなんて……」
「……ノトス」
「?」
「このスカイドラゴン…………メスか?」
「!!?」

 村長の言葉にハッとするノトスの脳内で全てのピースが繋がっていく。
 時期的にもドンピシャの不調に納得がいき、ポンと膝を打つ。

「無精卵の産卵期か!」
「小さな身体の中に、基準値の卵が入っていたら──」
「……重くて飛べないし、バランスが取れずに歩き辛い」

 恐らく、トームの不調の原因はコレだろう。腹部を打たぬようにゆっくりと座る様子から見るに、小さな身体で懸命に卵と自分を守っていたのだ。
 無精卵の産卵は竜種にとっての月経のようなものだ。身体が大人になった証であり、身体がそれなりに成長していれば負荷は無く、排泄と変わらない。
 だが、トームの場合は成竜よりもずっと小柄だ。故に身体が不調を起こしている。

「この身体で産卵するにも出口が小さい。卵が詰まってパニックからのショック死なんて事も有り得る」
「……はぁぁ……」

 村長の言葉を受けてノトスは項垂れた。
 トームの不調の原因にたどり着いた。産卵に悩まされているならば、直ぐに対処すべきだろう。
 しかし、ただ助ければいい訳ではない。
 今後の対策を講じなければ毎度毎度命の危険が伴ってしまう。

「……村長に聴きに来て正解だった」
「礼ならその絵を描いたヤツに言え。それがなけりゃ、何もわからなかったからな」

 ひとまず解決の糸口が見えたノトスは、村長に謝礼の品を渡してから地下洞窟を後にした。
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