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23:変化
しおりを挟む「……ん……朝?」
長い長い悪夢から目が覚めたノトスは、見慣れた自室の天井を見て夢の内容を思い出そうと目を瞑った。
「……はぁぁ……もう思い出せないな……嫌な夢だった気がする」
軋む身体に鞭を打って、朝食を作り、洗濯や薬草の手入れを行う。
朝のルーティーンが終われば、媚薬を作り瓶に詰める。
日課の仕事も終われば、後は自由時間。
『コンコンコン』
「はい」
『ガチャ』
「ノトス、久しぶり~」
「オーゴさん、お久しぶりです」
そんな時に家を訪ねて来たのは、白髪混じりとなった薬売りのオーゴだった。
「こんにちは」
「! こんにちは、こちらの方は?」
「ああ、こっちはあっしの弟子。ミナ・ココレット」
ペコっと頭を下げる黒髪の好青年、ミナにノトスも会釈を返す。
「お弟子さん取られたんですね」
「あっしも歳だかんね。薬売りの需要は減っても、減ってるだけで必要な人は何処にでもいる。今後の為にも継承は必須さ」
「あの、師匠。こちらは……」
「おおっと、すまんすまん。薬師のノトス・ロルールだ。薬師と言っても、魔法使ってる事のが多いがな」
「どーも」
ノトスはオーゴがいつも買っていく薬草を包みながら世間話をする。
「調子はどうだ?」
「まぁまぁです」
「生きていけそうなら、それでいい。あの時のように失踪しなければ」
「悪かったって……何度も何度も蒸し返されると、胃がキリキリするんで」
「あの時?」
ノトスとオーゴの会話に店を見回していたミナが興味を示した。
「ノトスが戦争でズタボロになって帰って来てそこに不幸な報せ。ちょーっと目を離した隙に、失踪して……もう、生きて帰ってこないと思った」
「だから、本当に……その節はご心配をおかけしましたー」
帰還したあの日、ノトスはすぐに目を覚まし……家を出て行ってしまったのだ。
「三日後に付き物が落ちた顔付きで帰って来て……あっしに薬師としてのノウハウを教わりたいと言ってきた時は大笑いしたもんよ」
「いろいろあったんですよ」
ノトスは確かに、命を絶とうと家を飛び出して戻る気は無かった。
宛てなく彷徨い、一人静かに死のうと思っていたのだ。
だが、何時間も歩き続けた先で、出会ってしまった。
モンスター達に。とある洞窟で、ガタガタと震える弱い弱いモンスター達に、出会ってしまった。
両親をモンスターに殺された事を報されても、全て諦めてしまったノトスに怒りなどは湧かなかった。
《おとぉしゃん……おかぁしゃん……》
だが、違う感情は芽吹いた。
気が付けば、ノトスは身を寄せ合う若いモンスター達に歩み寄っていた。
ノトスに気付いたモンスター達は子どもを庇いながら威嚇をしていたが、ノトスは杖を振るって彼等の傷を癒した。
襲われて殺されてもいい。子ども達の糧にされるならただ死ぬより有意義だと思ったからだ。
しかし、モンスター達は傷を癒してくれた敵意の無いノトスに対して感謝を示した。
『ありがとう』
そのたった一言で、空っぽのノトスの中にカランっと何かが落っこちてきた。
まるで魔法のように、視界に明かりが灯る。
そして、モンスター達に対して、慰めるように対話を始めた。
人間の戦争によって居場所を失ったモンスター達がノトスの両親同様、弱小モンスター達の仲間を食い殺してしまったらしい。別々の場所で同時多発した狩りから逃げ延びた種族が一つの洞窟に集まり、必死に隠れていた。
ノトスはモンスター達に三日程付き合い、洞窟を地下洞窟へ開拓する事を提案し、群れのリーダーであるゴブリンに魔法を教えた。
希死念慮が失せたノトスは、家へと帰る途中……フと、思い出した。父から催淫魔法を教わった日の事を。
青年になったノトスは、それをエロいだけの魔法と決め付けていたが、ドレスは別の角度で役に立てていた。
娼婦達の苦痛を和らげ、建築現場での工事効率を上げ、個人的性の問題解決に尽力を注ぐ。
決してエロいだけではない用途があった催淫魔法。
『お父さんの魔法を卑猥だと言う人は多いけれど、継承されてきた意味はきっとあるわ。貴方にはまだわからないでしょうけど』
母ルーブルと交わした会話が脳裏によぎったノトスは、すぐに行動に移すことにした。
形見となった催淫魔法に意味を持たせる為に。
「……はい、コレでいいですか?」
「おお。ありがたい。ミナ、何の材料かわかるか?」
「えっと、整腸剤……ですか?」
「ブッブー! 正解は潤滑油でしたー!」
斜め上の解答にミナはムッと頬を膨らませる。
「薬じゃない」
「けど、良い線いってる。下方面に優しい薬草が揃ってるし、コレにこの薬草を加えたら整腸剤になるから」
「なるほど……では、こちらを抜いて、あっちの花を煎じたら胃腸薬?」
「そうそう。よく勉強してるじゃないか、こっちは食道の──」
ミナに薬草の説明をするノトス。ミナは好奇心を刺激され、目をキラキラさせて話に聞き入っている。
年齢以上に幼さを感じさせる反応に、微笑ましい気持ちになる。
「おーおー、ノトス。お前も弟子を取ってみてはどうだ?」
「俺はまだ教えられる程達者でも無いですから」
「じゃあ、たまにミナの面倒を見てやってくれ。歩き仕事の薬売りは老いぼれでは頻繁に出来んでさ」
「それぐらいだったら……」
「よろしくお願いします!」
ノトスの日常に新たな変化が加わった。
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