23 / 26
22: 残忍酷薄な悪夢③※
しおりを挟む残酷描写有り
※※※※※※※※
終戦を迎え、勝利を収めたセブンズ王国は敵国へ終戦協定の調印や賠償金の支払い等、戦後処理に追われていた。
その忙しない空気の中、捕虜から帰還した者達へ王から労われる場が設けられた。
しかし、何故かそこは厳かな謁見の場ではなく捕虜から帰還した兵達が集められた救護室であった。
「非道な仕打ちに耐え凌ぎ、貴殿らが祖国へ帰ってきたことを心から嬉しく思う」
王の労いの言葉に膝をつき、頭を垂れる捕虜帰還兵達。
皆がホッと息を吐くが、王はそれを無視してサラリと告げる。
「しかし、悲しい事に貴殿らの殆どが情報を敵へ譲渡し、生き延びた反逆者でもある」
「「!!?」」
ノトス以外の捕虜帰還兵の顔色が一気に青褪めていく。
長期に及ぶ苛烈な捕虜環境で生き延びるには情報を渡すしか手がなかった。情報の真偽を確かめる時間は十分あったと考えられ、正しい情報をリークした者だけが生き残っている。
「我が国では戦時下においてそのような裏切り行為をする兵は問答無用で死罪と定めている。無論、しっかりと証拠は奪還作戦時に拠点を制圧した際に確認し、齎された情報による被害も照合済みだ」
王の言葉に幾人かは震え出すが、それは自分が死罪を免れないという絶望。
そして、王の後ろに控えていた処刑人と魔法士が前へ出る。
「“拘束”」
「これより、刑を執行する」
罪人となった兵達の身体が床に縫い付けられ、身動きが取れなくなった。
ノトスは対象外だったが唐突な処刑宣告に茫然自失となり、その場から動く事が出来ない。
彼らがリークした情報により数千では利かない兵士が死んだ。ノトス達、後衛部隊である第五部隊が身を隠していたにもかかわらず奇襲されたのも、リークによるもの。
被害者であるノトスはその事実を知る由も無かった。
「……始め」
『カチャリ』
王の冷徹な一声により、処刑人が死刑を執行した。
『ダァン!』
上から大斧が落とされ、乾いた音が救護室に響いた。
一人、また一人と首を刎ねられていく様を見せしめにするように目の前で繰り広げられた。
「何卒お赦しください! お慈悲を! お慈悲をぉぉ!!!」
「どうか! 命だけはぁぁ!」
必死に命乞いをする兵達だったが、もはや王の口は開かれる事は無かった。
首が落ちる。首が転がる。処刑人の手は緩まる事は無く、斬首は執行された。
夥しい量の血が床を濡らす中、ノトスは敵陣内で後輩の首が飛んだ瞬間の光景よりも、命辛辛帰還した者達が祖国の地で切り捨てられていく光景が脳裏に刻み込まれていく。
『ダァン……』
最後の一人が処刑され、静まり返る。
「ご苦労であった」
「ハッ」
ノトスの事を気にかける事もなく、王は踵を返し、部屋を去っていった。
「……君、立てるか?」
「…………はい」
魔法士に声をかけられ、放心状態のままのっそりと立ち上がる。
「最後まで口を継ぐんだ其方には敬意を評する」
「……いえ……いえ、俺は……何も」
きっと、それなりの情報を持っていたならば、ノトスの首も床に転がっていただろう。
愛国心は持っているが、生への執着がそれを凌駕してしまう。その程度の忠誠を評されてもノトスは喜べない。
処刑人と魔法士が遺体の処理を始めた為、ノトスはボーっとしたまま部屋をトコトコと出て行った。
デュラの素直な報告書で従軍の継続は精神的にも肉体的にも困難と記された為、退役が決定しており、数少ない荷物を持って城を出た。
数年振りとなる実家への帰宅。
母や父に会いたい気持ちの加速と共に帰路を進む歩が徐々に駆け足へと変わる。
郊外にある薬屋、変わらぬ佇まいに安堵の溜息を漏らしながらノトスは飛び付くように扉を開けた。
『バン』
「ただいま!」
ガランとした薬屋を見渡しても誰の姿も無く明かりも灯っていない。
実家は物はそのままに、もぬけの殻となっていた。
家中を探し回っても家族の姿がどこにも見えない。
「母さん? 父さん?」
『ギィ』
「!?」
背後から物音がした。人の気配に振り向いたノトスの期待は悉く打ち砕かれる。
「うぇ!? 人!?」
「……誰だ」
「怪しいもんじゃねえですよ! あっしはしがない薬売りです!」
木箱を背負った怪しい風貌の男を警戒心たっぷりの視線で見つめる。
その風貌に見覚えのあるノトスはハッとして食い付くように質問する。
「まさかっ! オーゴのおじさん!?」
「ん? なんであっしの名前を……んん~~? あんたどっかで」
「ココの店主、ドレス・ロルールとルーブル・ロルールの息子だ。父さんと母さんは!?」
「ああ! ノトスか~~おっきくなったな!」
ノトスの質問をスルーして感慨に耽る薬売り・オーゴ。
懐かしい顔によって記憶が溢れかえっているのはノトスも同様である。
「俺の事はいいから、父さんと母さんは!?」
「……あぁ~~、ノトス……気を確かに持てよ」
「?」
「二人とも死んだ。薬草採取の帰りに戦争で居場所を追われたモンスターに襲われて」
オーゴの告げた内容に目の前が真っ暗になる。
両親の死を告げられたノトスはガクッと膝を付き、目が虚ろになっていく。
地獄のような捕虜の日々の中で精神の支柱となっていた最後の砦である家族を失った喪失感に、もはや抗う気力は無かった。
「ぉ、おい。ノトス……」
「…………なんの……ために…………俺は」
何もかもが崩れ落ちる。尊厳を失い、精神を支えていた家族も失い、立ち直る手立てもこれから生きていく理由さえ……ノトスには、もう何も無い。
「くそ! くそっ! くそぉお!!」
『ガン! ガンガン! ガァン!』
頭を床に叩き付けて悔しさから泣き叫ぶ。涙がボロボロと流れて床を濡らす。
自分や物に当たっても怒鳴っても自分が無力なままだという事には変わりはない。
「くっそがあァぁああアぁぁあぁぁ!!!!!!!」
静まり返った家に慟哭が木霊する。
「やめなさい!! ノトス!!」
「ああっ、ああああああ!!」
時間差で訪れた全ての絶望に心が磨り潰され、精神が崩壊寸前のノトスを、オーゴは抱き止める。
ノトスはオーゴに縋り、子どものように泣き続ける。
「あァぁ……ぁぁ、あああ」
「大丈夫、お前は疲れてるんだ……ゆっくり休んでなさい」
泣き続ける彼の背をオーゴは優しく叩きあやし、泣き疲れて眠るまで寄り添っていた。
「(あのドレスの魔法を継いだ子だ……戦場でどんな扱いを受けたのか、想像にかたくない)」
少しの間だが共に時を歩んだ。記憶にあるのは、ただのやんちゃな普通の子ども。青年になったその子が絶望に打ちのめされた姿を見たオーゴは、戦争の惨たらしさを改めて思い知る。
「今、感情を乗り越えなくていい……ただ、生きていればいい」
額が割れたノトスの手当てをしながら、オーゴは眠ったノトスをソファーに横たわらせる。
「……はぁ……さて、掃除掃除」
オーゴは家主を失った家の掃除を月に一度している。
そして、ドレス・ロルールとノーブル・ロルールの残した薬草達の手入れを行っていた。手間賃として育った薬草は一部拝借していたが、ノトスが帰って来たならそれも出来なくなると苦笑いを浮かべる。
「おやすみ、明日から……頑張れよ」
0
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる