催淫魔法士の日常

7ズ

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22: 残忍酷薄な悪夢③※

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 残酷描写有り
※※※※※※※※


 終戦を迎え、勝利を収めたセブンズ王国は敵国へ終戦協定の調印や賠償金の支払い等、戦後処理に追われていた。
 その忙しない空気の中、捕虜から帰還した者達へ王から労われる場が設けられた。
 しかし、何故かそこは厳かな謁見の場ではなく捕虜から帰還した兵達が集められた救護室であった。

「非道な仕打ちに耐え凌ぎ、貴殿らが祖国へ帰ってきたことを心から嬉しく思う」

 王の労いの言葉に膝をつき、頭を垂れる捕虜帰還兵達。
 皆がホッと息を吐くが、王はそれを無視してサラリと告げる。

「しかし、悲しい事に貴殿らの殆どが情報を敵へ譲渡し、生き延びた反逆者でもある」
「「!!?」」

 ノトス以外の捕虜帰還兵の顔色が一気に青褪めていく。
 長期に及ぶ苛烈な捕虜環境で生き延びるには情報を渡すしか手がなかった。情報の真偽を確かめる時間は十分あったと考えられ、正しい情報をリークした者だけが生き残っている。

「我が国では戦時下においてそのような裏切り行為をする兵は問答無用で死罪と定めている。無論、しっかりと証拠は奪還作戦時に拠点を制圧した際に確認し、齎された情報による被害も照合済みだ」

 王の言葉に幾人かは震え出すが、それは自分が死罪を免れないという絶望。
 そして、王の後ろに控えていた処刑人と魔法士が前へ出る。
 
「“拘束ボンド”」
「これより、刑を執行する」

 罪人となった兵達の身体が床に縫い付けられ、身動きが取れなくなった。
 ノトスは対象外だったが唐突な処刑宣告に茫然自失となり、その場から動く事が出来ない。
 彼らがリークした情報により数千では利かない兵士が死んだ。ノトス達、後衛部隊である第五部隊が身を隠していたにもかかわらず奇襲されたのも、リークによるもの。
 被害者であるノトスはその事実を知る由も無かった。
 
「……始め」
『カチャリ』

 王の冷徹な一声により、処刑人が死刑を執行した。

『ダァン!』

 上から大斧が落とされ、乾いた音が救護室に響いた。
 一人、また一人と首を刎ねられていく様を見せしめにするように目の前で繰り広げられた。

「何卒お赦しください! お慈悲を! お慈悲をぉぉ!!!」
「どうか! 命だけはぁぁ!」

 必死に命乞いをする兵達だったが、もはや王の口は開かれる事は無かった。
 首が落ちる。首が転がる。処刑人の手は緩まる事は無く、斬首は執行された。
 夥しい量の血が床を濡らす中、ノトスは敵陣内で後輩の首が飛んだ瞬間の光景よりも、命辛辛帰還した者達が祖国の地で切り捨てられていく光景が脳裏に刻み込まれていく。
 
『ダァン……』

 最後の一人が処刑され、静まり返る。

「ご苦労であった」
「ハッ」

 ノトスの事を気にかける事もなく、王は踵を返し、部屋を去っていった。

「……君、立てるか?」
「…………はい」

 魔法士に声をかけられ、放心状態のままのっそりと立ち上がる。

「最後まで口を継ぐんだ其方には敬意を評する」
「……いえ……いえ、俺は……何も」

 きっと、それなりの情報を持っていたならば、ノトスの首も床に転がっていただろう。
 愛国心は持っているが、生への執着がそれを凌駕してしまう。その程度の忠誠を評されてもノトスは喜べない。
 処刑人と魔法士が遺体の処理を始めた為、ノトスはボーっとしたまま部屋をトコトコと出て行った。
 デュラの素直な報告書で従軍の継続は精神的にも肉体的にも困難と記された為、退役が決定しており、数少ない荷物を持って城を出た。
 数年振りとなる実家への帰宅。
 母や父に会いたい気持ちの加速と共に帰路を進む歩が徐々に駆け足へと変わる。
 郊外にある薬屋、変わらぬ佇まいに安堵の溜息を漏らしながらノトスは飛び付くように扉を開けた。

『バン』
「ただいま!」

 ガランとした薬屋を見渡しても誰の姿も無く明かりも灯っていない。
 実家は物はそのままに、もぬけの殻となっていた。
 家中を探し回っても家族の姿がどこにも見えない。

「母さん? 父さん?」
『ギィ』
「!?」

 背後から物音がした。人の気配に振り向いたノトスの期待は悉く打ち砕かれる。

「うぇ!? 人!?」
「……誰だ」
「怪しいもんじゃねえですよ! あっしはしがない薬売りです!」

 木箱を背負った怪しい風貌の男を警戒心たっぷりの視線で見つめる。
 その風貌に見覚えのあるノトスはハッとして食い付くように質問する。

「まさかっ! オーゴのおじさん!?」
「ん? なんであっしの名前を……んん~~? あんたどっかで」
「ココの店主、ドレス・ロルールとルーブル・ロルールの息子だ。父さんと母さんは!?」
「ああ! ノトスか~~おっきくなったな!」

 ノトスの質問をスルーして感慨に耽る薬売り・オーゴ。
 懐かしい顔によって記憶が溢れかえっているのはノトスも同様である。

「俺の事はいいから、父さんと母さんは!?」
「……あぁ~~、ノトス……気を確かに持てよ」
「?」
「二人とも死んだ。薬草採取の帰りに戦争で居場所を追われたモンスターに襲われて」

 オーゴの告げた内容に目の前が真っ暗になる。
 両親の死を告げられたノトスはガクッと膝を付き、目が虚ろになっていく。
 地獄のような捕虜の日々の中で精神の支柱となっていた最後の砦である家族を失った喪失感に、もはや抗う気力は無かった。

「ぉ、おい。ノトス……」
「…………なんの……ために…………俺は」

 何もかもが崩れ落ちる。尊厳を失い、精神を支えていた家族も失い、立ち直る手立てもこれから生きていく理由さえ……ノトスには、もう何も無い。

「くそ! くそっ! くそぉお!!」
『ガン! ガンガン! ガァン!』

 頭を床に叩き付けて悔しさから泣き叫ぶ。涙がボロボロと流れて床を濡らす。
 自分や物に当たっても怒鳴っても自分が無力なままだという事には変わりはない。

「くっそがあァぁああアぁぁあぁぁ!!!!!!!」

 静まり返った家に慟哭が木霊する。

「やめなさい!! ノトス!!」
「ああっ、ああああああ!!」

 時間差で訪れた全ての絶望に心が磨り潰され、精神が崩壊寸前のノトスを、オーゴは抱き止める。
 ノトスはオーゴに縋り、子どものように泣き続ける。

「あァぁ……ぁぁ、あああ」
「大丈夫、お前は疲れてるんだ……ゆっくり休んでなさい」

 泣き続ける彼の背をオーゴは優しく叩きあやし、泣き疲れて眠るまで寄り添っていた。

「(あのドレスの魔法を継いだ子だ……戦場でどんな扱いを受けたのか、想像にかたくない)」

 少しの間だが共に時を歩んだ。記憶にあるのは、ただのやんちゃな普通の子ども。青年になったその子が絶望に打ちのめされた姿を見たオーゴは、戦争の惨たらしさを改めて思い知る。

「今、感情を乗り越えなくていい……ただ、生きていればいい」

 額が割れたノトスの手当てをしながら、オーゴは眠ったノトスをソファーに横たわらせる。

「……はぁ……さて、掃除掃除」

 オーゴは家主を失った家の掃除を月に一度している。
 そして、ドレス・ロルールとノーブル・ロルールの残した薬草達の手入れを行っていた。手間賃として育った薬草は一部拝借していたが、ノトスが帰って来たならそれも出来なくなると苦笑いを浮かべる。
 
「おやすみ、明日から……頑張れよ」
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