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20・一念発起
しおりを挟む何時間眠ったのか、起きたら再び日が昇っていた。
「ジュン、おはよう。腹が減っただろう。たくさん食え」
「……うん」
身体が重怠い。手足を動かすのが億劫だ。すげぇ腹は減っている。
「……俺、本当にモモの子授かれるのか? なんか、一回の産み付けですごい身体が怠い。精液じゃないから回復しないからか?」
「ん? 何を言っている。ほら……触ってみろ」
俺がぐだぐだと言っているとモモが俺の手を取って、下腹部に添える。
その手の上に更に俺の手を重ねた。そして俺の目を見ながら言った。
「オメデタ……と、人間は言うのか?」
「……ぉぉ」
少し張っている。へっこんでいる筈の部分がなだらかに、ささやかながら膨れている。
「便秘みたいだ」
「言い方……」
俺のクソみたいな情緒の無さに呆れるモモだったが、ふと真剣な表情になる。
「……お前の身体に負担を掛けたくない。当分の間、冒険者も男娼仕事も休め。家の事も私に任せろ」
「あーー……うん。でも、支配人には、一言言わないと」
好きなタイミングで働ける冒険者と違って、娼館には雇われているバイトの身だ。休むならしっかり伝えないとな。
「クゥーン」
「あ! 昨日カムフラの散歩行けてなかった! ごめんなぁ……後で行こうな」
「ワフ!」
ベッドに前足を乗せて顔をペロペロ舐める。俺が起きたのを喜んでいるようだ。そんなカムフラの頭をよしよしと撫でていた時だ。
『コンコンコン』
朝から来客のノックが響く。俺もモモも、顔を見合わせる。
こんな時間に訪ねてくる知人を知らないからだ。
俺は軽く着替えて、一応二重妨害セットを身に付けてから扉を開ける。
モモは人型から肉兎に戻って俺の肩に乗る。
「……おはようございます。こんな早朝に申し訳ない。ジュンイチロー殿」
「ぉ、王子? 何故、ココへ?」
目深くローブを被った姿だが見間違えようもない。
ドトーリン王子だ。
「この国の王族は、民草の家に訪問する事があるんですか?」
「あまりない。だが、今は用入りなものでな。ジュンイチロー殿、少し場所を変えても?」
提案のような口ぶりだが、有無を言わせない圧を感じる。
俺は仕方なく頷いて、王子に付いて行こうとしたら。
「出来れば、使い魔は無しで」
『……コイツ、絶対裏があるぞ』
「(王子を疑うのは罰当たりだが、何かあるかもな)」
しかし、俺は素直に従うことにした。
モモに何かされたら嫌だし。モモが置いてかれるのを嫌がっていたので、気配を消して後を付いてくることを条件に離れる事を了承してもらった。
王子が言う場所を変えると言うのは、木々に隠した馬車の中だったようだ。
簡易的な個室でローブを外した王子と向かい合って座るとすぐに本題に入った。
「改めて、連絡も無く唐突な来訪、大変失礼した。こちらも、急ぎだったので……許して欲しい」
「勿論、訪問自体は問題ありません。どちらかと言うと訪問内容の方が、ですね。そちらの方が気になります」
「……単刀直入に聞く」
背筋を正す王子。そして衝撃の言葉を告げた。
「貴方は、こちらの世界へ召喚された異世界の者か?」
「はぁ?」
何故バレて……いや、俺の事知ってる王宮の誰かが漏らしたのか。
「……なんの話ですか? 御伽噺ですか?」
「とぼけずとも結構。ハラノ・ジュンイチロー殿」
そういえば、俺は原野って苗字だったな。忘れかけてた。
「城に貴方の資料が残っている。男性の身でありながら搾精のスキルを与えられた異世界人」
「…………王子、俺が搾精のスキルを持ってる男なだけで、異世界人である証拠は何処にも有りませんよ」
「はぁ……しらを切り通すつもりなら仕方ない」
ピリッと張り詰めた空気が漂う。
王子が懐からスクロールを取り出した。
俺がそれを鑑定する前にスクロールが光の粒となって弾けた。
「わっ!」
「コレは重複している鑑定妨害さえも看破する特殊魔法。これでボクには、貴方のステー……タス……が」
名:ハラノ ジュンイチロー
LV:69
HP:4180(+91039)
MP:0(+6755)
ATK:3275(+13528)
EDF:3275(+13528)
スキル:搾精超強化Lv4、肉体性感度(高)
∟搾精スキル抽出
∟魅了Lv2、鑑定Lv4、気配遮断、追跡、生成術Lv2、状態異常耐性(中)、神聖治癒術Lv3
「…………」
「ぉ、王子?」
「…………」
王子が俺のステータスを見てショートしてしまった。大丈夫だろうか?
「この数値は勇者以上……いや、いやいやいや! おかしい! 何故、神聖治癒術を貴方が持っている! コレは選ばれた聖職者のみに与えられるスキル!」
「…………俺の事を暴き立てたからには、こっちも言わせてもらいますね」
「!」
「聖女様が俺に精をお与えになった。ただそれだけの事ですよ。天に授けられたのでは無く、聖女様に与えられたのです」
自分から見ておいて騒がないでほしい。
聖女様との事をオブラートに包んで伝えると、信じられないといった表情だった。
「言っておきますが合意の上です」
「……はぁ……ぁあーー頭が痛い。このレベル……魔王を倒さなければ到達出来ない。そして、魔力ゼロという表記は異世界人以外はあり得ない」
完全に全てバレてしまった。余計な部分も。
「……何故、名乗り出なかった?」
「俺は勇者になりたいわけでも、富や名声が欲しいわけでもありません。ただ、勇者が怪我をしたって聞いて……少しでも手助けになりたいと思ったんです」
「普通、自分より強い者に怪我を負わせた相手に立ち向かうなんて事、考えないがな」
「俺より勇者がずっと強いのは知っていました。けれど、俺は勇者が子どもだった事も知っています」
「子ども?」
コレはただの常識の違い。地球でもよくあるカルチャーショックというものだ。
「俺達の国では一応正式な大人と言われるのは20歳からです。この国では15歳が成人なのは知っています。それも受け入れてるんですけど……俺にとって、未成年の子ども達が戦って怪我をしたって聞いたら俺だけぬくぬく心穏やかに生きてはいられませんでした」
強くなる方法が方法だけに、勇者達にはあまり誇れないけど。手段を選んでいられる立場でもない。
「……魔王討伐の動機は、理解した。常識の齟齬があったのだな」
「…………」
「我々が魔王討伐者を探していた動機は、その討伐者を勇者達の指導者としてスカウトする為だったが……それも良くないな。ジュンイチロー殿の常識は同郷である勇者達の持つ常識のはず。ボク達は何も知らず、何も知らない子どもに剣を持たせて、戦えと死地に送り出してきた事になる」
王子が眉間を押さえて悲痛な表情で俯いてしまった。
「(おかしい……魔王を人為的に生み出している人のリアクションにしては善良過ぎる。演技には見えない)」
もしかして、魔王が人の手で産まれてるのを知らないのか?
第二王子は国の防衛面を任されるが、マッチポンプに気付いていないのなら……それはそれで気の毒だな。
「だから、時折彼等は苦しそうな顔を見せていたのか……」
……苦しいだろうさ。役目を全うしようと命をかけるには、若過ぎる。死に対する恐怖は異世界人より強い筈だ。
平和な日々を過ごしていたのだから。
ああ、うん。わかっているさ。理不尽な目に遭っているのは俺だけじゃない。
まだ、やりたい事が沢山あっただろうに……それを奪われた彼等の現在を思うと胸が痛む。どうしようもなく、虚しい。
深く考えないようにしていた事に突っ込んでいく。
そして、自分の子どもがもしそんな目に遭わせられたら、自分の感情を制御できる気がしない。
あの子達は、誰かにとってかけがえのない子どもだったんだ。
このままじゃダメなんだよな。
なんとか出来る大人が、なんとかしないと。
「…………………………魔王を討伐するぐらいなら、俺が勇者の変わりにやってもいいですよ。条件はありますけど」
「条件?」
「第一に、人間の戦争には出兵しません。対魔王兵器としての運用のみにしていただきたい」
「……歴代勇者の戦死もご存じか」
戦争をするかどうかのいざこざは国の政殿を纏める第一王子と王の意向に寄るらしく、第二王子である自分の独断で約束は出来ないと素直に言われた。
しかし、今のところ魔王討伐の実績と勇者の存在は他国が攻め込むデメリットとして必要不可欠だと付け加えられた。
魔王を屠る力が人間に向けばどうなるかなど、わかりきっているからだ。
ココ二十年は戦争の無い平和な統治が続いている。そしてそれを続けていくつもりだと言い切った。
「お恥ずかしながら、この国に目立った特産物も資源もない。魔王の素材で作る強力な武具は勇者ありき……」
「……そういえば、観光客とか全然居ませんね。見かけたのは、建国記念日ぐらいですか?」
「うーん、活気が無いのも問題なんだ。内で回るばかりでは豊かにならない」
あ、話がデカくなってしまった。本題に戻るか。
「今の勇者達が魔王討伐をしたいと言うのならそれでもいいと思います。けど、もし彼等が魔王討伐をもうしたくないと思っていた場合、先程言った通り、俺が魔王討伐の任を変わります。王宮に住み込むのは嫌なので通う形で」
「……勇者の管理はボクの管轄。討伐に嫌気が差して亡命される可能性もゼロでは無いし、されても武力では止められない。けど、勇者達はあまり本音を話さない。特にボクや聖女様には……」
そりゃあ、大丈夫か聞かれたら、大丈夫としか言えない状況にあるのだから。
しかし、思ったよりも第二王子は勇者達を王宮に拘束しておく気は無いようだ。
特定の勇者に拘りは無く、魔王討伐と国防を優先的に考えている。
うーん……思いっきり首を突っ込んでしまった。当分、冒険者も男娼も休みだし……
「俺が勇者と話しましょうか? 臨時指導者として」
「え?」
「戦闘指導じゃないですけど、話だけなら出来るので」
ああ……言っちゃったよ。俺なんでこんな面倒臭い事を自分から……はぁ……ダメだ。やっぱり、勇者……学生さん達の顔が頭に浮かんでモヤモヤする。
モモの事で嘘を吐いた罪悪感があるし、待遇に若干嫉妬もしていたが、俺は勇者になりたいわけではない。
ただ、心の平穏を保ちたいだけだ。
「(じゃないと困る……身体に悪い)」
腹部に触れてストレス原因を自分で排除する決断をした。
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