巻き込まれ転移者の特殊スキルはエロいだけではないようです。

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おまけ②

おまけ②・友と言うにはあまりに歪

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 純一郎のフェロモンの香水化に伴い、純一郎の伴侶であるモモが監修する事となった。
 事情を汲み取り、協力してくれたモモと対面しているカスミは顔面蒼白となっていた。
 マサヒリナが助手として隣にいるとは言えど、一般常識を持つカスミからしたら肉体関係を持った相手の旦那が目の前にいる状況に肝が冷えて仕方がない。

「ジュンが世話になっている」
「ぃ、ぃぇ……」
「こちら試作品です」

 モモは、試験管に入った微量の香水に鼻を寄せて香りを確認すると表情を曇らせる。

「……蜂蜜、ソルトベニア、ハルゲニア、ローズモニア、アルトロン……コカルトニアが強い。甘い酒気……ワインか」
「!?」

 香水に使われている素材をズバズバと的確に言い当てるモモに調香師二人が目を剥く。
 多少の知識を齧っただけのにわかの癖にそれっぽくいちゃもんをつけてくる厄介客とは違う。
 
「素材選びは悪くないが、バランス調整が必要だ。酒気は醸造酒のワインでは無く、蒸留酒のブランデーをモデルにした方がいい」
「……は、はい!」

 モモのアドバイスにカスミがメモを取り、ブーケの内訳表を見ているかのように要らないもの足らないものを告げる。

「(一回で全て嗅ぎ分けたのか? 人間では無いと聞いていたけど……次元が違い過ぎる……)」
「……これぐらいか」
「素晴らしい嗅覚をお持ちですね。感服しました」

 マサヒリナが関心のあまりに拍手する中、カスミは脳内で製作工程を組み立てていた。

「…………早速、調合し直します」

 一時間後、出来立てホヤホヤの試作品を差し出された。
 モモが再度確認する。

「………………あってるな」
「はい! 私もそっくりだと思います!」
「…………」

 思っていたより早くに純一郎の色香の再現が成されたが、モモは仏頂面であった。愛しい人の香りを他人が纏う……モモにとって面白い話ではない。
 だが、純一郎と子ども達を守る事に繋がる。そういった事情で監修を請け負っただけ。
 最近の純一郎が色っぽ過ぎて困っているのは、本人だけでは無い。
 出来れば一切人目に触れさせたくない程の独占欲を滾らせるモモ。

「あの方、こういう香りがするのね……苦労してるでしょう」
「全くもってその通りだ……はぁ」

 モモの溜め息にビクッと肩を震わせるカスミ。
 
「悪い輩に手を出されていないか……気が気ではない」
「まぁ、ふふ。仲がよろしいことで」
「はは……大丈夫デスヨ」

 冷や汗の止まらないカスミの様子にモモが目を細める。

「すみませーん」
「あらお客さんだわ。カスミさん、話進めておいていただけます?」
「はい」

 店頭へ対応に行ってしまったマサヒリナを見送った後、カスミはモモと二人っきりになってしまった。

「そ、それでは、モモさん。この試作品を元に完成へと持っていきますが、問題ありませんか?」
「ああ……それにしても、試作品の段階で途轍もない再現度だったが、何かサンプルでも採ったのか?」
「はい。汗をいただきました」
「…………はぁぁ」

 『汗』と聞いたモモが重々しく息を吐く。

「ジュンは汗を全くかかない」
「あ……」
「体力が無尽蔵で疲れを知らないからだ。そんなジュンの汗をしっかり摂る方法は、三つ。性的興奮を促すか、肝を冷やすか、痛みを与える」
「ぁ……その……」
「…………」

 俯いて口籠るカスミにモモは一つだけ確認を取る。

「……合意か?」
「え?」
「合意かと聞いている」
「勿論……合意です。ぁ、でも、既婚者相手に合意があったからと言って手を出していいわけじゃないのはわかってるんですけど、良い発汗方法が思いつかなくてそれで」

 自分の罪は認めるが、合意であった事と選択肢がなかった事を伝える。
 純一郎を大切にしているモモからの鉄拳制裁を覚悟していたが、飛び出したのは拳ではなく意外な言葉だった。

「ジュンが同意したなら良い」
「へ!?」
「ん?」
「良いんですか? 他の男と肉体関係を持ったのに」
「ジュンが許したのなら、私からは何も言わない」

 貞操観念がズレている二人の関係にカスミは頭がこんがらがっていた。

「なんで?? えぇ、嫌じゃないんですか??」
「嫌と言っても今更だからな。ジュンは他人に身体を許しても、心や口に触れさせる事はない。それだけで私への操は充分だ」
「…………ふぇ……すごい価値観ですね」

 キスはダメだと言われた事を思い出す。身体を重ねても、心の距離は一方的に近くなっただけで、純一郎は変わらない。
 男娼であったカスミにもその心の距離に身に覚えはある。
 自分の美貌やしなやかな身体に惹かれた客が気安くなり、変な温度差が生まれる事が多々あった。
 それと同じようなものだ。

「じゃあ……ジュンイチローさん、なんでモモさんがいるのに、他人に身体許しちゃってるんですか?」
「価値観が変わったからだろう。性行為の基準が極めて低くなっているだけだ」

 純一郎はセックスのハードルがとても低く、必要とあらば速攻で一肌脱いでしまう。
 
「へぇ……なんか、世界って広いですね」
「そうだな。で、ジュンを抱いて、何回で出した」
「は?」
「何回腰を振れた」
「………………………………三回です」
「ハッ!」

 正直に答えれば、勝ち誇ったように鼻で笑った。

「脆弱な人間だな」
「ムッ……ならモモさんはあの凶悪なジュンイチローさんの名器にどれぐらい耐えられるんですか?」
「ふふ……十回だ!」
「いや、ドヤ顔で言える回数じゃないですよ。少ないですって」
「なっ! あのジュンのナカで耐えきっているんだぞ。多いといって良いはずだ」

 最低などんぐりの背比べじみた言い合いに発展していく。

「それに、私は三回でジュンイチローさんイかせましたよ?」
「なに!?」
「数が多くても、やはり受け身のジュンイチローさんに快感を与えてこそでしょ?」

 今度はカスミが勝ち誇った笑みを浮かべてモモを煽る。
 浮気では無いとわかった瞬間、カスミはモモへ強気に接し始めた。

「ふ、ふん。何か興奮する要素でもあったのだろう。ジュンは感受性が豊かだからな。お前の技量ではない」
「負け惜しみですか?」
「違う。決して負け惜しみではない。そもそも負けてない」
『ガチャ』
「モモ、迎えに来たよ。そろそろお暇しようか」
「あ、ジュンイチローさん」

 モモを迎えに店に来た純一郎を見て、カスミが立ち上がる。だが、それより早く。

「んっ!!」

 モモが純一郎へキスをかましていた。
 急になんでそんな事を!? と言わんばかりに純一郎は忙しく瞬きを繰り返す。
 触れるだけのキスだが、深く重なり合わせ、押し付けられる。
 唇が離れるまでの僅か三秒の接吻だが、体感時間はそれ以上にも思えた。

『ちゅ……』
「……ぇ……え? モモ?」
「……それでは、カスミ調香師。仕上がりを期待しておく」
「…………はい」

 事態が飲み込めず、混乱したままの純一郎の手を引いて退出する。
 その際、カスミへ振り返り、モモがベッと舌を出して嘲笑を浮かべた。

「(なんだアイツ!)」

 ムカッと腹が立ったが、なんだか不思議な気持ちになった。
 あんなマウントを取り合う無意味な言い合いをしたのはいつぶりだろうか。

「(内容が下品過ぎるが、ちょっと楽しかったな……ジュンイチローさんには悪いけど、この依頼が終わるまでモモさんとの会話のネタにさせてもらおう)」

 退出した後、一部始終を見ていたマサヒリナが若い客とお熱い二人にあらあらと口端を上げていた。

 店を出た後の帰路、漸くハッと我に返った純一郎がモモを引き止める。

「モモ……なんなんだ急に……人前で、あんな」

 純一郎は片手で顔を覆って隠しているが、耳が真っ赤に染っており羞恥心を隠しきれていない。
 
「……すまん。したくて、してしまった」
「理由がないのか?」
「ああ。強いて言うなら、香りの所為かもな」
『ちゅ』
「ッ……だ、から、人目に付く場所での不用意な接触はやめてくれ」
「…………家に帰ったら、いいのか?」
「キスまでなら、いいよ」

 純一郎の返答に大股で帰路を急くモモ。
 露骨な態度にクスクスと笑ってモモの手を握り返す純一郎。

「……モモ、良い事あった? なんだか、ご機嫌だ」
「…………お前以外と言い合いをしたのは、初めてだった。なかなか悪くない」
「カスミさんと? なに言い合ってたんだ?」
「………………秘密だ」
「ええ!」

 はぐらかすモモに驚愕の声を上げる純一郎。モモが自分に隠し事をするのは初めてだった。

「お前が介入する話ではない。さ、帰るぞ」
「気になるなぁ……秘密とか……ふふ、でも、モモに友達ができたのは嬉しい」
「友ではない」

 俗に言う穴兄弟である。


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