【R18】乾き潤いワッハッハ!【BL】

7ズ

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番外編①

第七話・静かな心

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 盃の帰りを待っていた竹葉が寝落ちしてから、暫くして盃が帰ってきた。
 私は、妙にザワザワとした胸騒ぎを覚えた。
 何かが起きそうな気がしてならない。
 私は不安な気持ちを抱えながら、眠る二人の寝室で佇んでいた。
 私が死んだ日の事を思い出していた。
 彼氏と同棲を始めた頃は順調だった。けれど、彼の仕事が段々と忙しくなってすれ違いが多くなり、喧嘩も増えた。
 ストレスがお互い溜まっていたんだと思う。
 そして、仕事から帰って来た彼は酒臭い息を吐き散らしながら私の身体を乱暴に扱い、怒鳴り散らす事が増えていった。
 休日も会話はなく、大音量のテレビの音が私達の沈黙を誤魔化していた。
 それでも最初は我慢していた。
 いつか、彼が前みたいに戻ってくれると信じていたから……
 でも、それはただの願望に過ぎなかった。
 ある日、私が一人で出掛けている間に、彼は女を家に連れ込んでいた。
 彼と女の情事に鉢合わせしてしまい、怒りと悲しみと絶望が混ざった感情が沸いて出た。
 その日は私の誕生日だというのに……私よりも若い女と……ああ、思い出したくもない。
 もう一緒には居られない。
 荷物を纏めて出ていこうと決意して夜逃げを図ったが、見つかってしまった。
 激昂した彼に刺された。激痛と出血により意識が薄れていく中、彼が狂喜に満ちた表情でナイフを振り下ろす姿が見えた。
 それが、最後に見た生前の光景だ。
 次に目覚めた時は、ガランとしたこの部屋の中にいた。
 喉のつっかえが取れたようにホッと息が吐けた。もう死んでいるのに。
 静寂が堪らなく愛おしかった。
 この静寂を脅かされるのが嫌で、追い出し続けた。
 この二人も例外なく追い出す気だったのに……今は、何故か……死因の傷がズキズキと痛む。
 今だけは、出て行かないで欲しい。一人にしないで欲しい。

「……はっ、盃?」
「んぁ?」
「おはよう……昨日何時に帰ったんだ?」
「二時ぐらい……はぁぁ……ああ、ちょっといろいろあって」

 昨日あった出来事を、竹葉に話している。
 通り魔に襲われた女性を助けた事と、男と共に通勤鞄が無くなっていた事。
 鞄の中には特に重要な書類は入っていなかったが、社員証や個人情報が書かれたカード類が入っていたらしい。もし会社や家族に連絡されて大事になっていたら面倒な事になる。
 
「怪我は?」
「無いよ」
「そうか……」

 竹葉は未だに眠そうな盃に口付けながら、頭を撫でた。

『ピンポーン』
「ん?」

 早朝からインターホンが鳴る。
 ドアホンのテレビには、警察官が写っていた。
 盃がボタンを押して外の警察官に声をかける。

「おはようございます。どうしました?」
『あ、おはようございます。朝早くにすみません。こちらは八手 盃さんのお宅でしょうか?』
「はい」
『通勤鞄が見つかりましたので、お届けにあがりました』

 私は二人の後ろからテレビを覗き込む。和かな警察官の笑顔を見て、私は戦慄した。
 彼だ。

「ありがとうございます」

 玄関へ向かう盃を止めようと、体に触れるが怪奇現象に慣れ過ぎてしまっている所為で振り払われてしまう。
 彼へどんどん近づいていく盃。焦燥感に駆られる。

『ガチャ』
「わざわざありがとうございます」
「いえいえ」

 盃は素直に玄関を開けて通勤鞄を両手で受け取った。
 盃は、まだ気がついていない。
 目の前の男が警官ではないことに。
 次の瞬間、先程の穏やかな笑顔とはかけ離れた鬼の形相をした警察官に扮した彼が、刃物を取り出した。
 
『ドスンッ』

 重々しい刺突音。

「!?」

 私の起こせる怪奇現象は強く意識したものに触れられる程度だけど、刃物に触れて軌道を逸らす事ぐらいは出来る。
 深々と壁に突き刺さった刃物に気を取られた彼に対して、盃がすごいスムーズに腕を捻り上げて背後に回った。そのまま、床に押さえつけて身動きを封じた。

「竹葉! 警察に連絡して!」
「わか、わかった!!」

 竹葉は混乱しながらも、携帯を操作して警察に通報する。
 
「くそ! なんだ今の!」
「ココは殺人未遂のあった事故物件で不思議な事が起こるんだよ!」

 彼は抵抗するが、盃の力の方が強いのかビクともしない。
 それから直ぐにパトカーが到着し、盃が押さえ付けた彼の手首に手錠がかけられた。
 流石に観念したようで、大人しくパトカーの後ろに乗せられた。
 土曜の早朝であり、パトカーのサイレンの音に野次馬が群がり始めた。
 竹葉は情けなく半泣きになりながら、警察の事情聴取に盃と受けていた。
 警察の方からも二人に後日連絡を入れると約束してから、解散となった。

「はぁ……幽霊ぇ~ありがとうぉ助かったよ」
「何供えればいいんだ? 女性ならコスメか?」

 警察には流石に私の話は出していなかったようだが、盃は刃物の軌道が不自然に逸れた事は私の仕業だと勘づいたようだ。
 二人が虚空に向かって拝む仕草をするが、そこに私はいません。
 しかし、あの男はもう二度と、ここへは来ない。
 やっと……本当の静けさが心に訪れる。

 ……ん? あれ? 殺人の事故物件?
 “未遂”って事は……え??
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