神の剣~ミスガルド11世紀の戦い~

ジロ シマダ

文字の大きさ
6 / 33
1章:闇に殺された国

番外:配下たち

しおりを挟む
「ヒャルゴ様! ヒャルゴ様!」
 いくらヒャルゴの背に兵士が呼びかけても振り返ることも、馬の足を緩めることもない。ヒャルゴは悲痛な表情を浮かべたまま、手綱を握るだけ。煤を巻き上げ奔る馬の苦しそうな嘶きが悲しくヒャルゴの耳に届く。それでもヒャルゴは手綱を緩めなかった。


 城が見えない距離まで馬を走らせ、ようやくヒャルゴは速度を緩めた。ヒャルゴは振り返り兵士ではなく、見えない城に視線を送った。今すぐにアルロの元にとって返したいと下唇を噛む。
(私だけでも共に行こう、と言ってほしかった)
アルロの声を思い出し、ヒャルゴは悔しさに涙が浮かぶ。言い付けに背きたいがアルロの考えも思いも理解できる。不安そうな兵士の顔には無理な笑みを浮かべ
「お前たちのことは、クヴァシル卿に頼み今後の生活の支障のないようにしてもらう」
と返した。秘書官として、アルロに任された信用のためにヒャルゴは国を家族も国も失ったであろう兵士の気持ちをこれ以上、落とさせないために行動しなくてはいけない。
「そんなことどうでもよいのです!」
 ヒャルゴはそのような言葉が返ってくるとは思わなかった。叫んだのは小麦色の頭のいつもは大人しい男だった。目の前の男が叫び声を発したこと、発した言葉にさすがの氷の秘書官も頭が追い付かない。
「俺は、殿下と共にありたいと望んだ者です。ヒャルゴ様も同じでしょ!」
「・・・・・・」
「本当ならあの場に留まり、できることなら共に行きたかった!でも、自分ではあの方の足を引っ張ってしまい、自分の存在が障害となるから」
「おまえ」
言葉を失うヒャルゴを無視して、小麦の男は城の方角に視線を動かした。黒く焦げた大地から煤が風に乗り舞う。灰色に雲る空がより汚く不吉に見え、男の気持ちを収縮させる。
「怖いんです。俺、怖いです。でも俺たちが待っていたらあの方は戻ってきてくださる、そう思います」
どんどん弱くなる声にヒャルゴは目を閉じ
「そうだな」
と小さく返すことしかできなかった。

「自分たちが殿下の帰る場所なのだ」
ヒャルゴは自分にも言い聞かせ、戻りたいと疼く手で手綱を握りこんだ。
(戻ってはならない。私は言われた地で殿下をお迎えせねばならないのだ)
 ヒャルゴは振り返っていた馬を戻し手綱を捌いた。馬は嫌がるように嘶くが、すぐに主人の意を汲み奔り出す。ヒャルゴはひかれる後ろ髪を振り払い、約束の地に向かう。


奇跡と希望はあると信じ
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...