神の剣~ミスガルド11世紀の戦い~

ジロ シマダ

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1章:闇に殺された国

闇に国を殺された国

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 場所は変わり、トゥナ国の南東に位置する兄弟国 デドナンでも悲劇が起きていた。
第23代デドナン国王クザヌス、宰相家次男ボルトルがこの世を去った。それはあまりに突然のことで、慌てふためくかと思えばそうではなかった。
「まことに愚か、忠告したというのに」
 デドナン宰相ラヴァルは無表情に目の前に横たわる遺体を見て呟く。心の底から愚かしい者達だと思っていた。その横で長男トールは悲しみの色を瞳に乗せ弟の遺体を見ていた。
「弟ながら愚かとしか言いようがない。しかし、これではっきりしました。ベレヌスが予知したことが起きている」
 2人のそばにただ立つ男は薄い琥珀の瞳を伏せているだけだった。ベレヌスは知っていた。この2体の遺体が自分たちの前に来ること知っていた。
「国葬の準備を始めなくてはいけませんね」
「そうだな・・・ベレヌス」
ベレヌスはラヴァルのほうを向いた。
「なんでしょう、父上」
「クヴァシル卿から至急、顔合わせをしたいという申し出があった。闇のことについてだろう」
「そうでしょうね」
「国王に出向いてほしいとあったが、お亡くなりになったのだ。代わりにお前がいけ」
 ベレヌスは思わぬ言葉に目を見開き、手のひらを胸に突き当てた。
「私ですか?」
父ラヴァルは頷き、兄トールはベレヌスを不思議そうに見て言った。
「国王が崩御し、することが多い。それにお前は血が濃い。お前ならばクヴァシル卿も納得するだろう」
「兄上」
ベレヌスは父と兄からの視線にため息をついた。決定事項だなと諦める。物言わなくなったクザヌスとボルトルに視線を送る。この二人が忠告を無視しなければこんなことにはならなかったはずだ。しかし、無視することも知っていた。何をしたところで死んでいたのだ。
(忌々しい、本当に忌々しい)
ベレヌスはもう一度大きなため息をつくと手で目を覆った。
そんなベレヌスの肩にラヴァル、トールが手を載せる。ベレヌスが手を外し2人を見れば、力強い焦げ茶色の目とぶつかる。
「すぐに立ちなさい」
「わかりました」
「気をつけろ」
「はい、行ってまいります」
頭を下げ、講堂から出ていくベレヌスを見送り2人は同じことを思った。

「二度と会えないような、そんな気がします」
「不吉なことを言うでない。しかし、私も感じてしまった」
ラヴァルとトールは顔を見合わせ、小さく笑った。
「我々にベレヌスのような力はありません」
「そうだな。気のせいだな」

 ベレヌスの行動は早かった。
自室に戻るといつでも出ていくことができるようにまとめてある荷物を持ち、城門に向かう。夜も明けきっていない町中を馬を連れて歩く。レンガ造り街並みは本当に静かだ。時折感じる気配は仕込みを行う料理人といったところだろう。
ベレヌスはこの夜明け前の静けさが好きだ。もしかすれば、二度と感じることができないかもじれないと、ゆっくりと歩いた。
 環状区を抜ければすぐに城門が姿を現す。

 閉じられた門の前では最大警戒態勢で兵士が警備にあたっている。兵士たちは近づいてくる馬と人の音を訝しんだ。しかし、現れたのが宰相家の人間で背筋を伸ばす。
「ベレヌス様!」
「早くからすまないが、開けてくれるか」
「かしこまりました」
2人ほど門を開けるため、外殻塔に消える。
 ベレヌスは振り返り目に焼き付けた。綺麗で愛嬌のある街並み、その奥にそびえる城。深く息を吸い込み、吐きだすと頭を下げ騎乗の人となった。
 その様子に兵士は不安な気持ちが湧きだす。ベレヌスがどこか遠いところに行き、戻ってこないのではないかと。
国王と宰相家次男が死んだことで気が立っている兵士たちは、よりざわつく。不安な心に余裕がなくなり、ひとりの兵士がベレヌスに近づいた。
「ベレヌス様!っすいません、そのどちらへ」
「南のエルフの地まで」
「戻ってきますか」
兵士の言葉は「来ますか」だったが「来てくれますよね」に聞こえた。
 だが、ベレヌスはそれにこたえることなく微笑みを一つくれると馬を走らせた。兵士たちは遠ざかる背を見ることしかできなかった。
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