11 / 33
2章:南のエルフの館
旅の準備
しおりを挟む一方、会議が行われた東屋にはクヴァシル、ドンナトール、ダグザが残っていた。
「お主は2人についていかんのか」
仲間のドワーフを先に行かせ椅子に座ったまま腕を組み、難しい表情で座るダグザにドンナトールは尋ねた。ダグザは少し唸り、椅子から落ちるように降りた。部屋に戻るのではなく、真っ直ぐクヴァシルの前にやって来た。
「お願いがある。わしらに武器をくださらんか」
「そのくらい構わない」
クヴァシルは意外だという表情を隠さず、ダグザを見下ろす。ダグザはその視線の意味することを理解しており、不機嫌そうに目を横に反らす。
「まさかドワーフのほうからエルフに願うとは」
ドンナトールは意外な面白いものを見れたと、楽しそうな声を上げる。その笑い声にダグザの顔に皺が寄る。クヴァシルは笑うドンナトールを冷めた目で見てから、視線をダグザに戻した。
「さて、どんな武器が必要か」
「これはすごい!」
ダグザは案内された武器庫に入り感嘆の声を上げる。壁にかかる武器はどれも一級品。武器としてだけでなく、意匠性の面でも素晴らしかった。
武器をみて目を輝かせるダグザにクヴァシルは苦笑を浮かべ、扉から満足するのを待つ。10分とまではいかないがダグザが意識を戻し、気まずそうに髭を撫でた。
クヴァシルは落ち着いたダグザの横を通り、奥にかけられた斧を手に取った。
「これはどうだ」
ダグザはクヴァシルの手にある斧に後ずさる。
「それはまずいんじゃないか」
「そうかな」
「それはケラウノスだろ!」
歩み寄るクヴァシルから逃げるようにダグザは後ろに下がった。
「流石だ。一目でケラウノスと気が付くとは」
「流石だ、ではない!」
背中に壁が当たる感覚に、これ以上下がる術はない。ダグザはどうすべきかと頭を巡らせる。クヴァシルは混乱しているダグザの前に膝を付いた。
「この旅は辛く、厳しいものになる。私は行くことができない。せめてこれをもっていってはもらえないか」
クヴァシルの青い瞳がダグザをまっすぐに見ていた。ダグザはため息を付き、ケラウノスを見る。
「わしに扱えるかわからんぞ。暴走するかもしれんぞ」
「大丈夫だ。雷のような効果は発動しない」
「そうなのか」
ダグザは文献とは異なることに驚く。文献では雷を纏い、敵を薙ぎ払うと書かれていたはずだ。
「ソールの腕輪を持つものが振るうことで初めて、その斧は雷を纏う」
「そうだったのか」
「つまり、私が扱えば雷を纏うということだ」
「は?」
「昔はよく振るったのだがな」
ダグザは武骨ながらルーン文字が美しく彫り込まれたケラウノスを受け取った。ありがたく借りていくことにするが、目の前で楽しそうに笑う華奢なエルフが斧を振るう姿を想像することはできなかった。
「ベレン、それはこっちだ」
「わかった。アル、それ取ってくれ」
「投げるぞ」
「投げるな。汚れるだろ」
会議から3日が立ち、旅立ちの準備が着々と進められていた。
まずは神の剣の欠片を探すためにエントの森に向かわなくてはならない。エントの森には、船で川を下るのが一番早い。身軽な状態で館に来たベレヌスは、ほかの者より先に自分の用意が終了した。そして、食料などを船に積み込もうと船着き場に赴いたわけだが。
「目立つだろ」
シラカバで作られ、装飾を施された船は目をひいた。目立つことは避けるべきだ、と勝手知ったる館から土壺取って、船に染色を施し始めたのだ。
ベレヌスが染色を始めたころアルロも同じ船着き場に赴いた。そして茶色に染められかけている船と刷毛を動かすベレヌスの姿を認め、近くにあった壺と刷毛を手に塗り始めたのだった。
「そこ濃くないか」
「気のせいじゃないか」
肩を並べ、色を塗る姿は、王族、宰相家の人間だと思えない。途中で異変に気が付き、様子を見に来たクヴァシルは真剣に色を塗る2人に踵を返した。旅にでる者に任せるべきだ。そして何より楽しそうだった。
「アルは旅の経験は」
「それなりに。15の時に一人で生きる辛さを知れと城から出されたことがある。いろいろなところを旅した。辛いことも多いが、やはり楽しかった」
ベレヌスはアルロの父親 アスガル王の人柄を気に入った。しかし、そのアスガル王はこの世を去っている。
ベレヌスは刷毛を動かしながら、横目でアルロをみた。刷毛を楽しそうに動かすアルロにため息をついた。横から聞こえきたため息にアルロは刷毛を止める。
「なんだ」
「なんでもない。あとそこを塗れば終わりだな」
「あぁ、ベレンも旅の経験ありそうだな」
「それなりに」
ベレヌスは壺の底を覗き込み、残量を確認しつつ答える。アルロは最後の1列に刷毛を通すと立ち上がり、腰を伸ばした。
「いい感じだな」
「十分だろ」
満足そうに、木洩れ日に照らされた茶色の船たちを見渡す。
明日には乾いているだろうと、2人は道具を片付けようと振り返った先でダグザが腕を組んで立っていた。その顔は不満がありありと浮かんでいた。
「いかがしました、ダグザ殿」
「どうした、ダグザ」
嫌な予感を抱きつつ、声をかけるベレヌスとアルロの横をダグザは通り過ぎる。腕は組んだままだ。
ベレヌスは静かに足を後ろに下げ、また下げる。その様子に気が付いたアルロも同じ行動をとる。ダグザはしゃがみ込み船の側面を職人の目で観察している。4歩足を下げたころ、ダグザが勢いよく振り返った。
「なっとらん!」
「何がだ」
アルロは苦笑いを浮かべながら、ダグザに問いかけた。何がなっていないのか、わかっている。
「塗り方以外に何がある!」
「しかしだな。目立たなければいいんだ、これで十分だろ」
話をしようとするアルロをおいてベレヌスは、まだ足を下げる。
(これ以上の作業はごめんだ)
「ベレン、逃げるなよ」
アルロから3歩離れたところで、アルロの背から声がかかった。ベレヌスは両手の壺を床に置き、腰に手を当てた。
「俺を巻き込むな」
「私を巻き込んだのは、ベレンだろ」
染色を始めたのがベレヌスであることを理由に出す。ベレヌスは口を歪めると首を振った。
「勝手に巻き込まれに来たんだ」
「仲が良いのは良いがな・・・・・・こっちにこい」
ダグザの低い声にアルロは3歩下がった。ダグザは
(無視とはいい度胸じゃ)
と職人魂に火をつけた。逃げるのかと思われたアルロはベレヌスの肩に腕をかけ、ダグザの前に来た。ダグザは目の前の2人の仲の良さに驚きつつ、指示を出した。
(にしても、アルロには砕けた話し方だな)
会議で受けた印象と違うベレヌスの姿に、ダグザは小さく笑う。そして、自分にもそのくらい砕けてほしいと後で願うかと髭を撫でた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
犬の散歩中に異世界召喚されました
おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。
何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。
カミサマの許可はもらいました。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる