神の剣~ミスガルド11世紀の戦い~

ジロ シマダ

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2章:南のエルフの館

ヴォルバの血を引く二人

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 会議が終了し、与えられた部屋に向かうベレヌスに後ろから声がかけられた。
 「ベレヌス殿、少しよろしいか」
 「アルロ殿」
ベレヌスは振り返り頭を下げる。すぐにアルロはその必要はないと、頭を上げさせ自らが頭を下げた。突然のことにベレヌスは手を伸ばし、戸惑いの声をかける。
「何を」
「私はあなたに助けていただいた」
頭を上げるよう、ベレヌスがアルロの肩に手を置いても上がらない。
「しかし、間に合いませんでした。私の方こそ不甲斐ないばかりです」
「それは違う!予知の力は制御が難しいと聞いている。あなたは何も悪くない」
ばっと顔を上げたアルロの言葉にベレヌスは驚いた顔をした。すぐに静かな笑みに変わった。
「ありがとうございます」
 アルロは何に対する礼か悩む。静かな笑みの意味するところがアルロには判断が付かない。
「どういたしましてで良いのかな」
「えぇ」
「どうにもおかしい気がするが」
 ベレヌスは家族以外に予知の能力で気味悪く思われないことに、心が安らいでいた。同じヴォルバの血を引く王族であるラヴァルとアルロの違いに悲しみを感じる。
「殿下!」
回廊の向こうからアルロを呼ぶヒャルゴの声が届く。アルロは「ここだ」と返しベレヌスにもう一度感謝を述べた。
「本当に助かった。ありがとう」
「こちらこそありがとうございます」
頭を下げ合い、一時の別れを告げる。
 濃紺の上着の裾を翻し、背を向けたアルロ。その姿を見送るベレヌスは違う景色を見た。
—夏の夕空を写し取ったようなマントを風になびかせ、威風堂々たる姿
 ベレヌスはその光景に心を奪われた。


「ベレヌス殿!」
 ベレヌスはアルロの呼びかけに意識が現実に戻った。ベレヌスは何度か目を瞬き、現実をはっきりさせる。肩を掴み、心配を張り付けたアルロの姿が夕暮れのマントを纏った王ではないことに気が付く。

「アルロ殿?すいません・・・大丈夫です」
 ベレヌスは情けない姿を見せたと額を押さえた。目を閉じ息を吐き出しながら、ベレヌスは今見たものを考えそうになるが、アルロがいるところで行う事柄ではない。頭を下げ部屋に向かおうと一歩足を下げ、気が付いた。
ベレヌスはアルロの服を掴んでいた。
「申し訳ありません!」
 ベレヌスはすぐに手を離し、少し皺になった服を整える。皺の具合から自分がどれほどの力で掴んだか理解し、恥じ入る。
「構わないが、大丈夫か」
「大丈夫です。ご心配をおかけしました。部屋に戻ります」
ベレヌスはこれ以上、恥をさらしたくなかった。しかし、アルロからしたらそうはいかない。
(予知を見たのだろう、酷い顔色だ)
ベレヌスの顔色は血の気が引き、今にも倒れそうだった。

「ベレヌス殿は供を連れていないのだろう。その状態で1人でいるのはいけない。我らの部屋に来るといい」
「殿下のおっしゃる通りです」
回廊を来ないアルロのもとにやってきたヒャルゴも同意する。
「しかし」
「来なさい」
アルロはつい、強めの言葉を発してしまった。気を悪くしないだろうかとアルロは不安になったが、ベレヌスが
「少しの間、お邪魔いたします」
と答えたことに安心した。
 


「さぁ、ここに座られよ」
「ご迷惑をおかけしてしまい」
 ベレヌスが案内された場所は少し離れた館だった。その一室に案内され長椅子に座るように促され、ベレヌスは大人しく従った。
「予知を見られたのか」
「予知なのか判断付きかねております。いつもとは違いましたから」
 
 ヒャルゴが差し出す器を包み込むように受け取ったベレヌスは香りをかぐ。落ち着く花の香りがベレヌスを包み込む。
「いつもと違う?」
アルロはつい出てしまった言葉にバツの悪そうな顔になる。
「大丈夫ですよ」
ベレヌスは自分を気遣うアルロに感謝の念を込め、大丈夫であることを告げ、説明をする。
「いつもは悲しいものばかり予知で見るのです。人が死に、街は燃え、自然は朽ち果てる」
ベレヌスは言葉にし、予知の記憶に目を閉じた。

「今回は違いました。あれは良いものでしょう。もっとはっきり見たいと思えるものでした」
 ベレヌスは素晴らしい予知を思い出す。焼けつくようなマントの色が鮮明に思い起こされる。ベレヌスの様子にアルロは安心の息をついた。
 
「辛くないものだったなら良かった。しかし、予知は体に負担を強いるもの。あまり見てほしくはないな」
 アルロがお茶を飲みながら言った言葉にベレヌスは信じられないものを見る目を向けた。目を伏せていたアルロはベレヌスの息をのんだような様子を感じ、視線を上げる。
「どうかしたか、ベレヌス殿」
「いえ、なんでもございません」
ベレヌスもアルロのように目を伏せ、お茶を飲む。ベレヌスは少し言葉を交わしただけのアルロとラヴァルを比べてしまう。
(比べるなど烏滸がましいことだ)
ベレヌスは器の中にため息を小さく吐き出し、横目でアルロを伺う。
(私がこんな短い間に信頼できると判断するとは。アルロ殿がともに来てくれるのは心強い)

「ベレヌス殿?」 
「私のことはベレヌスかベレンとお呼びください」
 ベレヌスはアルロに敬称で呼ばれるのが、違和感のような寂しさを感じていた。アルロは突然の申し出に抜けた表情をした。しかし、すぐに嬉しそうに笑った。
「そうか。ではベレンと呼ばせてもらおう。ではベレン」
「はい」
「私のことはアルと呼べ。そして敬語はなしだ」
「はい?」
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