神の剣~ミスガルド11世紀の戦い~

ジロ シマダ

文字の大きさ
21 / 33
4章:南のエルフ

神の剣

しおりを挟む
ベレヌスは目を瞬かせた。そしてフレイが心配の色を湛えて覗きんでいることに気が付いた。ベレヌスは目を見開き、その目を見つめた。
「また見てしまったのか」
声にも心配が込められていた。その声にベレヌスの心は沈み込んでしまう。
「大丈夫です。ご迷惑を」
ベレヌスはそれだけ答えると一歩足を引いた。
「大丈夫なはずがなかろう。本当ならばこのような旅をすべき身ではない」
フレイは身の丈ある体をかがめ、ベレヌスに視線を合わせた。
「迷惑をかけていることは重々承知しております。抑え込まないといけないことも」
ベレヌスは悔しそうな表情を浮かべそう答えた。その横で手を伸ばしそうになるアルロをフレイの手がさりげなく止めた。
「迷惑をかけるなと余は言っておらんぞ。余が心配しておるのはお主のことよ。この旅は未来を変える旅。変化する未来に予知の発動も増すだろう。お主の体に大きな負担を強いる。しかし、この旅にはお主の力が不可欠なのだろう?そしてお主も止まるつもりはない」
フレイの言葉は人形のようなエルフのお里は思えぬほどぬくもりがあった。フレイの言葉にベレヌスは頷いた。
 
「ベレヌス、予知の力を持ちしヴォルバの子よ。主が生きていることに感謝する。そして、浄化と治癒の力を持ちしヴォルバの子、アルロ。お主もだ」
ベレヌスとアルロは視線を交わせ、フレイをみた。フレイはその目をまぶし気に見つめると立ち上がった。
「2人はついて参れ。神の剣を渡す」

 アルロとベレヌスがフレイとともに消えた。それを見送った6人は顔を見合わせる。こうもすんなりと神の剣が手に入るなど考えもしなかった。
「なぁ、ヴォルバというのは、そうも尊ばれるものなのか」
ドルドナは腕を組み言った。フレイの変わりように驚きと戸惑いしかない。
「ヴォルバのおかげで、千年前の滅びを回避できたといわれている。それにエルフはヴォルバに救われている」
ミーミルは3人が消えたほうを見たまま答えた。その答えにドワーフたちは首を傾げた。
「エルフはこことは違う所に住んでおった。草原の国レイモンの東の海の向こうにあった大陸にの」
ドンナトールは地図を広げ見せた。ドンナトールが指さすところには何もない。
「載ってないぞ」
ダグザがミーミルとカムロスを見上げた。
「ないよ。僕たちが生まれる前の話だよ」
カムロスは曇らせたダグザたちの顔に笑いかけた。
「ヴォルバはエルフに国を捨てるように言ったんだ。海の底に沈むといってね」
ミーミルの言葉にダグザは見上げていた顔を地図に戻した。エルフの故郷は地図から姿を消したと理解した。

「滅びを回避したすぐでヴォルバの力を皆が信じていた。だからエルフの長たちはすぐに故郷を捨てる選択をしたみたい。で、海の下に沈む故郷を見送ったそうだ。エルフはヴォルバに多くの命を救われているんだ」
 ミーミルの言葉にドワーフたちは得心がいった。同族以外を基本認めないエルフがアルロとベレヌスにのみ、礼を尽くしたのかを。しかし、結局はヴォルバをみてアルロとベレヌス自体を見ていないことはとても腹立たしかった。自分たちのこともそもそも見ていない。
「クヴァシル卿とは大違いじゃの」
ダグザはついつぶやいた。
「父上は広い視野をお持ちだ。種族など小さいことは気にする方じゃない」
カムロスは得意げにそういった。周りに控えるエルフに聞こえないように小さく、本当に小さくダグザの耳元でささやいた。
「言っておくけど。フレイ王の前で父上の名前を出さないようにしてよ」
ミーミルが突然、思い出したように言った。不思議そうな顔をするドワーフ、ドンナトールは苦笑を浮かべた。
「どうもフレイ王は父上のことが好きではないみたい。会うとすぐに喧嘩腰になるんだよ」
カムロスは仕方がないと首を横に振りながら言った。ミーミルはその言葉に呆れた表情で頷く。
「どちらかといえば、フレイ王がひとり地団駄を踏んでおるだけじゃが。すまし顔がきにいらぬ! と以前申しておられたの」
ドンナトールの言葉に2人が並んだ姿が簡単に想像できた。ダグザたちは絶対に口にしないと心に決めた。必ず、面倒なことになるとわかったからだ。


 戻ってきたアルロとベレヌスの表情はさえなかった。神の剣はやはり渡してもらえなかったかと6人は動揺した。
「どうしたの?神の剣もらえなかった?」
カムロスは直球で聞いた。
「いや、もらえた」
顔色をさらに悪くしたベレヌスが答えた。ではなぜそんなに表情がさえないのかと疑問が残る。
「神の剣の力がすごくて私が持った瞬間、隠されていた部屋がめちゃくちゃになってしまった。それでフレイ王が怪我を」
アルロが困ったように報告した。その報告に全員が驚いた顔をする。
「怪我は酷いのかい?」
ミーミルはフレイ王の怒りに触れたらと不安になった。
「腕を少し切ったが、ほかは大丈夫だおっしゃっておられた」
アルロの言葉に胸をなでおろした。そして、真っ青な顔のベレヌスをみた。
「予知を見たのかの」
「違う。神の剣の力が強すぎてあてられた」
ベレヌスはアルロの腰の金箱を見ないように顔を背けていた。ベレヌスの中のヴォルバの血が神の剣を危険だと判断している。

「神の剣を部屋から出した以上、この地にとどまってもらっては困る。食料などを用意した済まないがすぐに出立するように」
 現れたフレイ王は間を置かずそういった。一同は急なことに戸惑うが、それほど恐れるものであることを再認識した。
「必ず神の剣をヘイム島に運びます。そしてスルトルから剣先を奪い取ります」
頭を下げアルロは宣言した。その宣言にフレイは言った。
「確信はないが、スルトルより奪わずとも橋を封じることはできるだろう」
フレイの言葉にどういうことかとアルロたちは驚いた。
「神の剣に刻まれる神の言葉は欠けておらん。十分に鍵としての役割を果たすだろう」
フレイの言葉にアルロは金箱を押さえた。
「スルトルから奪わなくてよいなら、勝算は高いぞ」
ベレヌスから嬉しそうな声がでた。その声にアルロも力強く同意した。
「あぁ」
久しぶり全員が顔を輝かせていた。その姿を見るフレイは反対に辛そうな表情を浮かべていた。
「辛く厳しい旅には変わりない。無理をするでないぞ」
フレイはアルロとベレヌスをみてそういった。2人は頷き頭を下げる。
「どうか。酷な宿命を背負いしヴォルバの子に祝福を」
フレイ王は祈った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

処理中です...