神の剣~ミスガルド11世紀の戦い~

ジロ シマダ

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5章:デドナンの戦い

仲間のために走る

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 件のベレヌスはカムロスと共に野原を走り続けていた。
「あいつら全く速度を緩めないぞ」
ベレヌスは耳を岩から離すとカムロスをみた。カムロスも同様に岩に耳を当て相手との距離を測る。
「逆に速度を上げている。ばれたかも」
ベレヌスとカムロスは顔を見合わせ、すぐに再び走り出す。ルグドゥム達と別れてからずっと休みなしで走り続けている。それでも追いつくことができない。草原から東のエルフの地に重たい足跡が続き、それはエントの森に続いていた。エントの森に入った頃からだろうか、敵の速度が落ちた。

「今のうちに追いつこう」
「そうだね」
木々、岩を飛び越え、追いかける。ドルドナとゴヴニュを救うために。
 ドルドナはオークに荷物のように担がれ、走る地面を憎らしく見つめていた。草原の草地から穏やかな森へと変わり、今は鬱蒼とした苔むした森だ。少し離れたところで担がれるゴヴニュを見れば、地面を睨みつけていた。その目はあの時の虚ろに囚われた目ではなかった。ドルドナはいっその事、あの状態のままのほうが良かったのかもしれないと思った。ゴヴニュの心は罪の意識で焼き切れるだろう。
 しばらくして、走り続けていたオークの足が鈍った。平坦ではないエントの森に速度は落ち、エントの威嚇音に耳が壊れそうだ。
「ココデ イッタン ヤスム」
頭格のオークの一声でオークたちはしゃがみ込む。ドルドナもゴヴニュは地面に捨てられ、転がった。いたるところを飛び出した根と岩、石でぶつけ痛みが走る。
「大丈夫か、ゴヴニュ」
「すまない」
未だに自分のことを気遣うドルドナにゴヴニュは目を合わせることができない。ゴヴニュはあの時の自分はどうかしていたと憎悪していた。
「ドルドナだけではない。仲間を危険にさらしたのは自分だ」
自分のことを憎んだ。
「仲間じゃないか」
ドルドナの言葉にゴヴニュは伏せていた目をドルドナに向けた。自分と同じ髭もじゃの顔はくしゃりと笑っていた。擦りむいたのか血が眉の上で滲んでいる。
ゴヴニュは緩く頷き、心の中で謝罪を繰り返した。


「アレハ マズソウ」
「クウナ! アルジハ トラエヨ ト ゴメイレイサレタ」
 物騒な会話を繰り広げるオークを2人は伺った。後ろ手に縛られ武器を奪われていてはどうすることもできない。死ぬ前に一矢報いてやりたかった。しかし、どうすることもできず、また2人は担がれる。
「ちくしょう!」
思わずドルドナは呻いた。その声に気が付いたのか頭格のオークが口角を歪め、ドルドナを覗き込んだ。その顔はところどころ返り血が変色し、不気味にまばら模様だった。
「チイサイヤツ モットワメケ! キャハハハハハ!」
腕を広げて笑い出したオークにドルドナは唇を噛み締めた。口の中に血の味が鈍く広がる。ドルドナは暴れ出した。短い脚をバタバタとさせるが担いでいるオークはびくともしない。その滑稽な姿にオークが笑う。その笑い声はエントの森に響き渡る。
一筋の空気を斬る音が笑い声の中に侵入し、ドルドナを担ぐオークの額に突き刺さった。若木と緑の羽でできたエルフの矢がオークを笑い顔のまま縫い留めた。

頭格のオークが怒号を放った。

「コロセ!」

 ドルドナは射抜かれたオークと共に地面に崩れ、下敷きにされる。苦しいがそれどころではないとあたりを見渡す。姿なき刺客から矢を放たれる。1体、1体、また1体と鋭い矢筋にオークはどんどん貫かれる。
「クッソドモ! アワテルナ!」
流石は頭を張るだけのことはある。すぐに意味不明な行動をするオークを統制し、油断なく周囲を見渡す。ドルドナはオークの体の下からずり出た。姿なき刺客ばかり警戒するオークたちにばれないように倒れているオークの剣で手を縛る縄をほどく。
小さく動くドルドナの行動に気が付くオークはいなかった。
 ドルドナはわずかに自分の肉も斬りつつ、縄を切り外した。ドルドナは転がるゴヴニュのそばに這い寄り、縄を切る。その時、1体のオークがドルドナとゴヴニュの動きに気が付いた。
「チイサイヤツガ ニゲルゾー!」
ドルドナとゴヴニュは走った。落とされて地面とぶつかった体は痛い。ずっと縛られていた腕は上手く動かない。それでも走った。しかし、オークとドワーフの対格差ではすぐに追いつかれる。ドルドナは迫りくる錆びついた剣を倒れているオークの剣で受け止めた。
錆びた剣同士が鈍い音を響かせることなくぶつかる。
身の丈に合わぬ剣をドルドナは必死に操りオークの打撃を躱す。何度も何度も打ち合い、ドルドナは後ろへとバランスを崩した。迫りくる刃が一本の線に見えた。

「しっかりしなさい」
 厳しくも優しい声が上から舞い降りた。その声の主はオークの脳天に短剣を突き刺し、引き抜くと空中で回転し着地した。ドルドナの目には、舞い降りる花びらのように美しく映った。
「あんた!」
ドルドナは驚いた。いつか見た彫刻象より冷たい表情ではなく、厳しく激しい殺意を抱く顔はドルドナを縄で縛りあげたエルフの女だった。
 エルフは左手に持っていた小斧をドルドナに投げ、不揃いの歯をむき出すオークに走る。ドルドナは小斧を手にすると女のエルフに続いた。その姿をゴヴニュは見ていた。
 ゴヴニュも立ち上がり近くの剣を手に取り、迫りくるオークの手を切り払う。腕を錆びた剣で殴りつける。骨がひしゃげる音、つぶれる肉の感覚がゴヴニュに伝わる。ゴヴニュは構わず殴り続けた。自分にできることをするのだと。
「一団が近づいてきている」
 女のエルフはよく聞こえる耳で近寄るオークの足音を聞き取った。すでにドルドナは疲弊し、肩で息をしている。ここに新たな敵が来ればひとたまりもない。ゴヴニュはそう思った。ゴヴニュは女のエルフが見た方向へ走った。突然走り出したゴヴニュにドルドナと女のエルフはぎょっとした。

「ゴヴニュ!?」
ドルドナの叫び呼ぶ声に振り返ることなくゴヴニュの背は小さくなり止まった。ドルドナは迫ってきた剣を防ぎながら、ゴヴニュの背を見た。その背は深く息を吸い込んだように見えた。

「神の剣は俺が持っているぞ!」
大声で叫びゴヴニュは再び走りだした。ドルドナは押される剣を押し返し、オークの腹に斧を刺した。

「ゴヴニュ!」
追いかけようとするドルドナを遮るように、次のオークの剣が迫る。女のエルフは近寄ってきたオークの足音が離れていくことを聞いていた。オークの数は自分たちよりも多い。ドワーフ1人のために悪い道を選ぶなどありえない。戦闘に集中せねばと双剣を構え、油断なく女のエルフは周囲を見ていた。

「くそ!」
ドルドナは小斧をふるい続ける。殺傷能力の低い小斧ではなかなかオークは倒れない。
ゴヴニュを追いかけたいとドルドナは焦燥にかられ、後ろが厳かになっていた。
「後ろ!」
エルフの声にドルドナは振り返った。振り返った先にあったのは、脳天をカチ割る剣ではなく、生暖かく酷い悪臭を放つオークの血だった。
ドルドナは細身の剣を口から生やしたオークの血を頭からかぶった。思わぬ光景に固まるドルドナは嬉しい声を聞いた。
「ドルドナ!」
別れたはずの2人の仲間の声だった。頼もしさに目が輝くが、ドルドナは自分たちのせいで仲間が戻ってきてしまったと、すぐに顔をしかめた。
 オークの口から生えた剣が抜かれ倒れるオークの後ろには汗で髪の毛を張り付かせたベレヌスが肩で息をしながら立っていた。ベレヌスはドルドナの肩を一度叩くと、先に戦闘を始めたカムロスの後ろに立った。そこからはあっという間だった。
 切れ味の良い剣でオークは首をはねられ、その体を分けて横たわる。肩から両腕を飛ばされ蹲る。半時間であたりはオークの血の匂いで充満した。
「ゴヴニュは?」
 すべてのオークの処理が終わってすぐ、ベレヌスがドルドナに聞いた。ドルドナはあっちだと指さした。その顔はあきらめの色が濃く出ていた。
「追いかけなければ」
ベレヌスがそう言うとドルドナを手当てしていた女エルフが首を振った。
「間にあいません」
ベレヌスはその言葉に眉間に皺を寄せドルドナの目を見た。その目は激しく燃えるような熱を含んでいた。
「何もしなくていいのか」
迷惑をかけるとドルドナは首を横に振ろうとした。しかし、ベレヌスの目は真っ直ぐドルドナの心を見ていた。後ろで見下ろすカムロスも似たような眼をしている。
「助けたい! 助けたいんだ!」
ドルドナは言った。本当はどうしたいのかを。その答えにベレヌスは頷いた。
「行くぞ!」
「このままだと本当に間に合わないから、こうすべきだね」
カムロスはそう言うとドルドナを脇に抱え上げた。細身の体のどこにそんな力があるのかと思う姿だった。
 
 そんな3人の姿に女のエルフは複雑な思いを抱いた。戦いに情けも甘えもいらないはずだと。しかし、どこかで羨ましいと思う自分がいる。そのことに気持ち悪さが募る。
「私はこれで」
これ以上一緒にいてはいけないと女のエルフは背を向けた。その背にドルドナが問いかけた。
「助けてくれたことに感謝する。名前を教えてくれないか」
「助けたのはたまたまです。ローウェン」
名前を言うか悩んだようだったが、それでも名前を言い森の木々の中に消えていく背にドルドナは頭を下げた。

「行くぞ」


 ゴヴニュは生きてきた69年の年月の中で一番、早く走った。ウサギのように飛び出す障害物を超え、脱兎した。垂れ下がる枝に髭が引っ掛かるが、気にせず引きちぎり走った。そう走り続けた。
「モウイイ、コロセ」
 小さいものに追いつかないことに腹を立てたオークが仲間たちに命じる。捕えるように命令は受けているが、命の有無はどうでもいいとオークは走りながら矢をつがえた。
刺さりたくないような鏃が弦に弾かれオークの弓から飛び出す。その矢はゴヴニュの太ももに突き刺さった。
 ゴヴニュは後ろから殴られたような衝撃に前のめりに倒れ、転がった。顔から地面に突っ込んだが、ドワーフにはあるまじき俊敏さで立ち上がった。筋肉でも切れたのかぎこちない動きだったが、それでも矢が刺さっていないかのように動き出した。
その姿にオークはぎょっとし、次の矢をつがえ、放つ。その矢は肩甲骨のあたりに突き刺さるがそれでも止まらない。

 ゴヴニュはただ遠くに行くことしか考えていなかった。
(死ぬまで止まらない)
ゴヴニュは歯を喰いしばった。下腹部にとてつもない熱を感じた。今にも倒れ呻きたい激痛にゴヴニュは足がもつれる。
「止まるな!」
自らに言い聞かせ、ゴヴニュは傷を確認せず足を動かす。
しかし、ゴヴニュの気持ちに反して体は悲鳴を上げ速度は落ちていく。どんどん近づいてくる乱暴な足音、呼吸音、怒号。そして空気を切り裂く音がはっきりとゴヴニュの耳に聞こえた。
「・・・・・・っ!?」
ゴヴニュの喉が引きつり、空気が体中から抜けたかのように呼吸ができなかった。何が起きたかわからないゴヴニュは近づく地面に自分が倒れていくことに気が付いた。全てがゆっくりに見え、視線を動かし近づく汚い足をみた。

 木の葉に埋もれるように倒れたゴヴニュをオークたちは囲んだ。俯せに倒れるゴヴニュの脇腹はかぎ爪のような剣で貫かれている。その剣を抜いたオークは剣についた血を舐めとった。2回ほど唇を舐めると顔を黒い顔を顰め、ゴヴニュの脇腹を踏みつけた。張り合わせたような金属の靴に踏まれゴヴニュは音のない悲鳴を上げた。
「マズイ。ドワーフ、サイアクダ」
 そう言うと剣を部下に渡し、ゴヴニュの体を回転させた。
ゴヴニュは囲むオークの顔を睨みつける。額に模様を浮かばせ、オークは楽し気になにかを相談し合っていた。ゴヴニュは何とかもっと遠くへと拳を握りこむとそれを軸に地面を少しずつ這う。木の葉の上でそのようなことをすれば、ばれるのは当たり前。まして囲んでいるオークの目の前だ。
 1体のオークが下げていた剣をゴヴニュの丹田のあたりに突き刺した。鈍い音を立て突き刺さった剣は背骨を削る。そして腰の皮膚を突き破り地面にまで到達した。ゴヴニュは目と口を大きく開けて叫び声を上げた。ゴヴニュの頭が激しく警告の鐘を叩きならす。不快な音がゴヴニュの耳と頭にこだまし、視界でちかちかと光が飛び散る。

 叫び声が消え、虚ろな目で空を見上げるゴヴニュにオークたちは笑った。そして矢を放ったオークがゴヴニュのそばに落ちている小斧を拾った。ゴヴニュはかすむ目でそれを見ていた。自分が何をされようとしているのかゴヴニュは理解した。オークから視線を外し、空を見上げる。
「すまない」
仲間に謝った。振り降ろされる小斧を見つめ、ゴヴニュはもう一度謝った。
「すまない」
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