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5章:デドナンの戦い
グロッティの生き残り
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問題はどのように囮になるかだ。
4人はデドナンの領地に足を踏み入れた。そこは闇の手が掛かっておらず、野原が花を纏っていた。素晴らしい光景に3人は久しぶりに心がきれいなものになったような気がした。
「きれいなところだな」
ドルドナが小さな花を撫でるベレヌスに言った。ベレヌスは頷いた。
「ここは昔からきれいな場所で、俺のお気に入りだ」
デドナン南のエルト草原に何者かが近づいてきていた。エルフであるカムロスがすぐに音に気が付く。
「馬の蹄の音だ。かなりの数だ」
カムロスの言葉にベレヌスとドルドナは外套の中で獲物を握った。北西から向かってくる茶色の集団はどんどん姿をあらわにする。
「あの鎧はグロッティのやつだ」
茶色を基調とした鎧の腹部には太陽のマークが彫り込まれている。間違いなくグロッティの兵士だ。ベレヌスは眉間に皺を寄せ、近寄ってくるグロッティ軍の行く手を塞いだ。
グロッティの兵士は草原に立つ男に警戒し、馬を走らせながら槍を構える。
「隊長」
「油断するな」
兜の奥から油断なく行く手を塞ぐベレヌスを見据え、後ろに現れた者たちに戸惑いを覚えた。
「エルフにドワーフ・・・それに魔法使いか」
あり得ない取り合わせにグロッティの兵士は頭をひねるが、握る槍にさらに力を込めた。
「グロッティの方々とお見受けする。何故、デドナンにおられるか」
ベレヌスは完全に近づく前に声を張り上げた。少し離れたところで馬は止まり、互いに睨み合う。足元で花が軽やかに風に揺られている。まさに対照的な空気を醸し出していた。
「我らは国を失った。新たな場所を求めて旅をし始めたところだ」
ベレヌスは一番先頭にいる兵士の言葉に目を見開いた。
「どういうことだ!グロッティが滅びたというのか」
身を乗り出し尋ねるベレヌスに兵士はカブトの奥で悲痛な表情を浮かべた。
「そうだ」
その答えを聞き、ベレヌスは横の仲間を見た。カムロスもドルドナもどうすればいいかわからないという顔をしている。ベレヌスはテオーナを見た。テオーナは何かを考えているが、ベレヌスの視線になにも答えない。
「私はグロッティの元将軍 ハロルドだ。貴君らは一体」
兵士は名乗り、ベレヌスたちに尋ねた。返答次第ではすぐに槍を突き刺す心構えだ。ベレヌスは一瞬ためらったが、真っ直ぐ己を見る武人の目に嘘はいけないと名乗った。
「私はデドナン宰相家三男ベレヌス。そしてカムロスとドルドナ。魔法使いのテオーナだ」
ハロルドは急いで馬から降りた。そして兜を取り、顔を見せた。ベレヌスはその顔に覚えがあった。
「失礼いたしました、ベレヌス殿。覚えておられるか」
「数年前に手合わせをしていただいた方ですね。ハロルドとおっしゃるのですね。あの時は名乗ってくださらなかったので」
ベレヌスは思わぬ人物に驚いた。それはハロルドも同じだった。
「自分よりも下の者に負けて恥ずかしく、名乗りにくかったのです。それこそ恥ずかしいことです」
恥じ入るように頭を掻くハロルドとベレヌスは一度、親善試合で剣の腕を競ったことがあった。ハロルドは大国デドナンの宰相家三男の鼻をへし折ってやると血気していた。
ハロルドとベレヌスは手に汗握る試合をみせ、最後はベレヌスが勝利した。負けたばかりのハロルドは恥じた。
しかし数年が経過し、ベレヌスの礼を尽くす行為、相手を敬う態度、何より剣の腕に敬意を払っていた。
「ベレヌス殿、一体何を? ぼろぼろではありませんか」
宰相家の人間とは思えない汚れ具合にハロルドは不安げに聞いた。
「旅の途中なのです。ハロルド殿、オークや闇について何かご存知ありませんか」
神の剣のことを言えるわけもなく、ベレヌスはあいまいに答え、尋ね返す。
「闇は我が祖国を滅ぼしました。生き残ったのはここにいる者と後はわずかの民です。民は南のエルフのもとに」
「クヴァシル卿が」
ベレヌスはクヴァシルの行動に頭が上がらない思いだった。
「オークはデドナンの水の都グラスへ侵攻しようとしております」
言いづらそうに続けられた言葉にベレヌスから殺気が登る。ハロルドは思わず足を後ろに下げてしまいそうだった。
「グラスですね」
確認するベレヌスにハロルドが頷いた。
「グラスに行こう」
「だと思ったよ。ちょうどいいんじゃない」
「俺は賛成だ」
「私はもちろんついていく」
危険だとハロルドは止める。
「危険です!」
ハロルドは歯をむき出しにしてそう言ったが、人を引き付けると評価した目が見つめ返してきた。
「危険は承知しております。それでもグラスにいき、オークと戦います」
「死ぬかもしれませんよ」
「確かにグラスに行かなければ今は命が助かるでしょう。しかし、いつかは戦うことになります」
そこでベレヌスは言葉を切った。別れた仲間たちが進む方角を見つめた。
「私は戦います。大切なものを守るため。未来を切り開くために」
ハロルドは自分に顔を戻すベレヌスの表情に唇を噛み締めた。自分とは違う強い心がまぶしすぎて、ハロルドは焼かれてしまいそうだった。
「行こう! ベレヌス」
カムロスが若干不機嫌そうな声でベレヌスを促した。カムロスは目の前の武人が気に入らなかった。ベレヌスはカムロスに頷くとハロルドとその後ろの兵士たちを見渡した。
「皆さんのこれからに災いおきませぬように」
ベレヌスは別れの言葉を贈ると先に野原を駆け出したカムロスたちを追いかけた。自分たちが来た道を走る4人の姿はあっという間に消える。ハロルドは太ももの横で手を握り絞め、見送った。
「私は一体」
4人はデドナンの領地に足を踏み入れた。そこは闇の手が掛かっておらず、野原が花を纏っていた。素晴らしい光景に3人は久しぶりに心がきれいなものになったような気がした。
「きれいなところだな」
ドルドナが小さな花を撫でるベレヌスに言った。ベレヌスは頷いた。
「ここは昔からきれいな場所で、俺のお気に入りだ」
デドナン南のエルト草原に何者かが近づいてきていた。エルフであるカムロスがすぐに音に気が付く。
「馬の蹄の音だ。かなりの数だ」
カムロスの言葉にベレヌスとドルドナは外套の中で獲物を握った。北西から向かってくる茶色の集団はどんどん姿をあらわにする。
「あの鎧はグロッティのやつだ」
茶色を基調とした鎧の腹部には太陽のマークが彫り込まれている。間違いなくグロッティの兵士だ。ベレヌスは眉間に皺を寄せ、近寄ってくるグロッティ軍の行く手を塞いだ。
グロッティの兵士は草原に立つ男に警戒し、馬を走らせながら槍を構える。
「隊長」
「油断するな」
兜の奥から油断なく行く手を塞ぐベレヌスを見据え、後ろに現れた者たちに戸惑いを覚えた。
「エルフにドワーフ・・・それに魔法使いか」
あり得ない取り合わせにグロッティの兵士は頭をひねるが、握る槍にさらに力を込めた。
「グロッティの方々とお見受けする。何故、デドナンにおられるか」
ベレヌスは完全に近づく前に声を張り上げた。少し離れたところで馬は止まり、互いに睨み合う。足元で花が軽やかに風に揺られている。まさに対照的な空気を醸し出していた。
「我らは国を失った。新たな場所を求めて旅をし始めたところだ」
ベレヌスは一番先頭にいる兵士の言葉に目を見開いた。
「どういうことだ!グロッティが滅びたというのか」
身を乗り出し尋ねるベレヌスに兵士はカブトの奥で悲痛な表情を浮かべた。
「そうだ」
その答えを聞き、ベレヌスは横の仲間を見た。カムロスもドルドナもどうすればいいかわからないという顔をしている。ベレヌスはテオーナを見た。テオーナは何かを考えているが、ベレヌスの視線になにも答えない。
「私はグロッティの元将軍 ハロルドだ。貴君らは一体」
兵士は名乗り、ベレヌスたちに尋ねた。返答次第ではすぐに槍を突き刺す心構えだ。ベレヌスは一瞬ためらったが、真っ直ぐ己を見る武人の目に嘘はいけないと名乗った。
「私はデドナン宰相家三男ベレヌス。そしてカムロスとドルドナ。魔法使いのテオーナだ」
ハロルドは急いで馬から降りた。そして兜を取り、顔を見せた。ベレヌスはその顔に覚えがあった。
「失礼いたしました、ベレヌス殿。覚えておられるか」
「数年前に手合わせをしていただいた方ですね。ハロルドとおっしゃるのですね。あの時は名乗ってくださらなかったので」
ベレヌスは思わぬ人物に驚いた。それはハロルドも同じだった。
「自分よりも下の者に負けて恥ずかしく、名乗りにくかったのです。それこそ恥ずかしいことです」
恥じ入るように頭を掻くハロルドとベレヌスは一度、親善試合で剣の腕を競ったことがあった。ハロルドは大国デドナンの宰相家三男の鼻をへし折ってやると血気していた。
ハロルドとベレヌスは手に汗握る試合をみせ、最後はベレヌスが勝利した。負けたばかりのハロルドは恥じた。
しかし数年が経過し、ベレヌスの礼を尽くす行為、相手を敬う態度、何より剣の腕に敬意を払っていた。
「ベレヌス殿、一体何を? ぼろぼろではありませんか」
宰相家の人間とは思えない汚れ具合にハロルドは不安げに聞いた。
「旅の途中なのです。ハロルド殿、オークや闇について何かご存知ありませんか」
神の剣のことを言えるわけもなく、ベレヌスはあいまいに答え、尋ね返す。
「闇は我が祖国を滅ぼしました。生き残ったのはここにいる者と後はわずかの民です。民は南のエルフのもとに」
「クヴァシル卿が」
ベレヌスはクヴァシルの行動に頭が上がらない思いだった。
「オークはデドナンの水の都グラスへ侵攻しようとしております」
言いづらそうに続けられた言葉にベレヌスから殺気が登る。ハロルドは思わず足を後ろに下げてしまいそうだった。
「グラスですね」
確認するベレヌスにハロルドが頷いた。
「グラスに行こう」
「だと思ったよ。ちょうどいいんじゃない」
「俺は賛成だ」
「私はもちろんついていく」
危険だとハロルドは止める。
「危険です!」
ハロルドは歯をむき出しにしてそう言ったが、人を引き付けると評価した目が見つめ返してきた。
「危険は承知しております。それでもグラスにいき、オークと戦います」
「死ぬかもしれませんよ」
「確かにグラスに行かなければ今は命が助かるでしょう。しかし、いつかは戦うことになります」
そこでベレヌスは言葉を切った。別れた仲間たちが進む方角を見つめた。
「私は戦います。大切なものを守るため。未来を切り開くために」
ハロルドは自分に顔を戻すベレヌスの表情に唇を噛み締めた。自分とは違う強い心がまぶしすぎて、ハロルドは焼かれてしまいそうだった。
「行こう! ベレヌス」
カムロスが若干不機嫌そうな声でベレヌスを促した。カムロスは目の前の武人が気に入らなかった。ベレヌスはカムロスに頷くとハロルドとその後ろの兵士たちを見渡した。
「皆さんのこれからに災いおきませぬように」
ベレヌスは別れの言葉を贈ると先に野原を駆け出したカムロスたちを追いかけた。自分たちが来た道を走る4人の姿はあっという間に消える。ハロルドは太ももの横で手を握り絞め、見送った。
「私は一体」
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