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5章:デドナンの戦い
水の都陥落
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水の都グラスはまさに戦いの最中だった。状況は思わしくない。闇の軍勢オークとゴブリンがデドナン兵を圧倒し、清廉な水が流れているはずの水路を赤い筋が流れ、侵食していく。
闇の軍勢の進行を抑えるため、宰相家次男トールもグラスで戦っていた。次々に倒れていく同胞にトールは苦々しい表情を浮かべた。
「閣下!」
「状況は!」
トールは副官に報告を求めた。副官は肩口を怪我していたが、それに気が付いた様子もなくトールに報告する。その間も闇の軍勢との交戦は続く。
「北、西地区が落ちました!ここも時間の問題です」
「っくそ!」
トールは目の前のオークを切り伏せるとあたりを見渡す。投石や火により落ちた建物の下にも、そこら辺の地面に、噴水の中にオークとゴブリンの死骸。そして同胞の遺体が転がっている。トールはどうすべきか悩み、握る剣で迫りくる敵を斬り払う。その背後に静かに近寄るものにトールは気が付いていなかった。
デドナン兵は絶望の中、死にたくないただその思いを抱き、剣をふるい続けていた。
「死にたくない。撤退はまだか」
「しっかりしろ!」
南地区で敵の侵攻を防いでいる兵士たちは両手で足りるほどの数まで減らし、円陣戦法を取っていた。すでに侵攻を防げてはいない。このまま自分たちを囲む敵が輪を狭め、刃に倒れることになるだろうと誰もが想像した。ここで自分たちは終わる。
諦めた時、囲んでいる敵の後ろに変化が起きた。オークの断末魔がいくつも聞こえ、ゴブリンたちがざわめく。
「邪魔だ!」
兵士達の上から声が聞こえたかと思えば、降ってきたゴブリンが地面に激突した。デドナン兵はゴブリンがいたであろう場所を見て歓喜した。
「ベレヌス様!」
「耳を塞ぎ、口を大きく開けろ」
ベレヌスはそれだけ言うとポーチから小瓶を取り出し、敵の中に投げ込む。小瓶は地面に弾けると、とてつもない音と熱を放ち、周囲を吹き飛ばす。
飛び散る肉片やがれきに構うことなくベレヌスは追加で2瓶を敵に投げる。
ベレヌスは崩れかけの建物2階から飛び降りると、そのまま剣を抜き去り敵を切り伏せる。その姿にデドナン兵も柄を握り絞め、剣を振り上げ敵に立ち向かった。
「ベレヌス!北と西はすでに落ちているみたい!」
ほかの地区の確認に向かったカムロスたちがベレヌスのもとに来た。ベレヌスはカムロスの報告に舌打ちする。ベレヌスはすぐに判断を下す。
「撤退だ! 東地区の仲間を助けつつ撤退せよ!」
ベレヌスの命令にデドナン兵は頷き、命令を大きな声で復唱しもしかすれば生きているかもしれない仲間に伝えた。声を張り上げ、東地区に移動するベレヌスの前に信じたくないものが見えた。
地区を区切る生垣を越えた先には背中から剣で突き刺されているトールが居た。ベレヌスは右手の剣をトールの背後で笑う小さなゴブリンに放った。その剣はゴブリンの首筋に命中し、その小さな頭を地面に転がした。
「兄上!」
ベレヌスは倒れたトールを抱き上げた。トールは聞きなれた声に目を開けた。そこには会えないと思っていた弟の姿があった。死ぬ前に家族に会えたことに、トールはとても穏やかな気持ちになった。泣きそうな顔をするベレヌスの頭を「撫でてやりたい」と思うが、腕が上がらない。
「兄上・」
ベレヌスにもわかっていた。トールが助からない。これが最後だと。
「ベレヌス、最後に会えてよかった。父上を」
「わかりました」
「うっ」
「兄上」
「ベレヌス デドナンを、デドナンを頼むぞ」
トールは息を引き取った。ベレヌスは見開いた目を優しく閉じさせて、トールの体を地面に横たえた。
「撤退だ! 撤退せよ!」
ベレヌスは全軍に聞こえるように声を張り上げる。兄弟の最後を邪魔させないように戦っていたカムロスたちも頷いた。ベレヌスはすぐに放った双剣の一振りを拾い上げると、行く手の敵を倒し、道を作る。
「トールを置いていくのか!」
カムロスはベレヌスがトールの遺体をここに置いていくことに気が付いた。ベレヌスはカムロスのほうに向くことなく、前の敵を切り払い答えた。
「兄上だけを連れて帰ることはできない」
カムロスはベレヌスの答えにはっとしたような顔をした。そして周囲を見渡し下唇を噛み締めベレヌスに続いた。
ベレヌスたちも馬に跨り、水の都グラスからデドナン王都に敗走する。その後ろを猪のような生物に跨ったオークが追いかけていた。その生物は太い体格に似合わず、馬よりも早い速度で迫る。
「あれは何だ!?」
「カリュドンだ!」
ドルドナの怒鳴り声にテオーナが答えた。カリュドンは伸びる鋭い歯を生やす口から涎をまき散らしていた。目の前のベレヌスたちを獲物だと確実に認識している。
先頭を進んでいたベレヌスはデドナン兵に先に行くよう合図を送り、速度を緩める。最後尾に移動しカリュドンとの距離と動向を確認する。速度を緩めたベレヌスを始めの獲物だと認識したような雰囲気がカリュドンから溢れた。
ベレヌスは残りの小瓶をすべて取り出すと上に投げた。小さな小瓶はカリュドンとその背に跨るオークの目には映っていなかった。ただベレヌスを喰う、殺すということしか頭にないまま速度を速め、ベレヌスにとびかかった。
闇の軍勢の進行を抑えるため、宰相家次男トールもグラスで戦っていた。次々に倒れていく同胞にトールは苦々しい表情を浮かべた。
「閣下!」
「状況は!」
トールは副官に報告を求めた。副官は肩口を怪我していたが、それに気が付いた様子もなくトールに報告する。その間も闇の軍勢との交戦は続く。
「北、西地区が落ちました!ここも時間の問題です」
「っくそ!」
トールは目の前のオークを切り伏せるとあたりを見渡す。投石や火により落ちた建物の下にも、そこら辺の地面に、噴水の中にオークとゴブリンの死骸。そして同胞の遺体が転がっている。トールはどうすべきか悩み、握る剣で迫りくる敵を斬り払う。その背後に静かに近寄るものにトールは気が付いていなかった。
デドナン兵は絶望の中、死にたくないただその思いを抱き、剣をふるい続けていた。
「死にたくない。撤退はまだか」
「しっかりしろ!」
南地区で敵の侵攻を防いでいる兵士たちは両手で足りるほどの数まで減らし、円陣戦法を取っていた。すでに侵攻を防げてはいない。このまま自分たちを囲む敵が輪を狭め、刃に倒れることになるだろうと誰もが想像した。ここで自分たちは終わる。
諦めた時、囲んでいる敵の後ろに変化が起きた。オークの断末魔がいくつも聞こえ、ゴブリンたちがざわめく。
「邪魔だ!」
兵士達の上から声が聞こえたかと思えば、降ってきたゴブリンが地面に激突した。デドナン兵はゴブリンがいたであろう場所を見て歓喜した。
「ベレヌス様!」
「耳を塞ぎ、口を大きく開けろ」
ベレヌスはそれだけ言うとポーチから小瓶を取り出し、敵の中に投げ込む。小瓶は地面に弾けると、とてつもない音と熱を放ち、周囲を吹き飛ばす。
飛び散る肉片やがれきに構うことなくベレヌスは追加で2瓶を敵に投げる。
ベレヌスは崩れかけの建物2階から飛び降りると、そのまま剣を抜き去り敵を切り伏せる。その姿にデドナン兵も柄を握り絞め、剣を振り上げ敵に立ち向かった。
「ベレヌス!北と西はすでに落ちているみたい!」
ほかの地区の確認に向かったカムロスたちがベレヌスのもとに来た。ベレヌスはカムロスの報告に舌打ちする。ベレヌスはすぐに判断を下す。
「撤退だ! 東地区の仲間を助けつつ撤退せよ!」
ベレヌスの命令にデドナン兵は頷き、命令を大きな声で復唱しもしかすれば生きているかもしれない仲間に伝えた。声を張り上げ、東地区に移動するベレヌスの前に信じたくないものが見えた。
地区を区切る生垣を越えた先には背中から剣で突き刺されているトールが居た。ベレヌスは右手の剣をトールの背後で笑う小さなゴブリンに放った。その剣はゴブリンの首筋に命中し、その小さな頭を地面に転がした。
「兄上!」
ベレヌスは倒れたトールを抱き上げた。トールは聞きなれた声に目を開けた。そこには会えないと思っていた弟の姿があった。死ぬ前に家族に会えたことに、トールはとても穏やかな気持ちになった。泣きそうな顔をするベレヌスの頭を「撫でてやりたい」と思うが、腕が上がらない。
「兄上・」
ベレヌスにもわかっていた。トールが助からない。これが最後だと。
「ベレヌス、最後に会えてよかった。父上を」
「わかりました」
「うっ」
「兄上」
「ベレヌス デドナンを、デドナンを頼むぞ」
トールは息を引き取った。ベレヌスは見開いた目を優しく閉じさせて、トールの体を地面に横たえた。
「撤退だ! 撤退せよ!」
ベレヌスは全軍に聞こえるように声を張り上げる。兄弟の最後を邪魔させないように戦っていたカムロスたちも頷いた。ベレヌスはすぐに放った双剣の一振りを拾い上げると、行く手の敵を倒し、道を作る。
「トールを置いていくのか!」
カムロスはベレヌスがトールの遺体をここに置いていくことに気が付いた。ベレヌスはカムロスのほうに向くことなく、前の敵を切り払い答えた。
「兄上だけを連れて帰ることはできない」
カムロスはベレヌスの答えにはっとしたような顔をした。そして周囲を見渡し下唇を噛み締めベレヌスに続いた。
ベレヌスたちも馬に跨り、水の都グラスからデドナン王都に敗走する。その後ろを猪のような生物に跨ったオークが追いかけていた。その生物は太い体格に似合わず、馬よりも早い速度で迫る。
「あれは何だ!?」
「カリュドンだ!」
ドルドナの怒鳴り声にテオーナが答えた。カリュドンは伸びる鋭い歯を生やす口から涎をまき散らしていた。目の前のベレヌスたちを獲物だと確実に認識している。
先頭を進んでいたベレヌスはデドナン兵に先に行くよう合図を送り、速度を緩める。最後尾に移動しカリュドンとの距離と動向を確認する。速度を緩めたベレヌスを始めの獲物だと認識したような雰囲気がカリュドンから溢れた。
ベレヌスは残りの小瓶をすべて取り出すと上に投げた。小さな小瓶はカリュドンとその背に跨るオークの目には映っていなかった。ただベレヌスを喰う、殺すということしか頭にないまま速度を速め、ベレヌスにとびかかった。
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