神の剣~ミスガルド11世紀の戦い~

ジロ シマダ

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5章:デドナンの戦い

デドナンの戦い

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—ドッ! ド―ン!

 爆発音とともに地響きがあたりに伝わった。そして爆熱と爆風で舞い上がった砂煙がドーム状に渦巻いた。敵と共に砂煙に消えたベレヌスにデドナン王都に馬を走らせるデドナン兵は後ろを振り向きベレヌスのみを案じた。
「げっほ! げっほ!」
激しく咳込む音と共にベレヌスが砂煙の中から現れ、すぐに一行と轡を並べた。
「やりすぎだよ」
カムロスの言葉にベレヌスは苦笑を浮かべ、再び先頭で兵を率いた。



 デドナン首都を囲む塀の上ではデドナンの兵や民たちが外を見ていた。近づいてくる一団の中にデドナン兵の甲冑を身に着けていないものが混ざっていることに気が付く。そして、4人の中にデドナン宰相家三男ベレヌスがいることに気が付いた兵は目を輝かせ、同時にその横にトールの姿がないことに絶望を覚えた。
 重たい音を立て開く門。開き始めた隙間からベレヌスたちはデドナン王都に入った。
「すぐに閉めよ」
ベレヌスは最後尾にいたテオーナが入ったことを確認し半分も開いていない門を閉めるよう、指示を出した。ベレヌスは自分たちを囲う民の中に見知ったものを見つけ懐かしい思いを抱くが、懐かしい再会をする時ではない。
「カムロス、ドルドナ、テオーナ様は私と共にこのまま城に。ほかの者はけが人の手当てを。警戒を怠るな。些細な変化も見逃さず報告せよ」
ベレヌスの言葉に兵は敬礼し、動き出す。その姿を確認するとベレヌスは馬から降りることなく城に向かうべく環状区を駆け上った。

「ベレヌス!」
送り出したトールのことが心配で城門で立っていたラヴァルはベレヌスの姿に驚き、駆け寄った。
「父上、兄上が」
顔を伏せたベレヌスの肩をラヴァルは優しく抱きしめた。ラヴァルはわかっていた。トールが生きて戻ってくる可能性が低いということを。
「そうか」
ラヴァルはそれしか言えなかった。しばらくベレヌスを抱きしめていたラヴァルだが、すぐに宰相の心に切り替え、ベレヌスから離れると背を向けた。
「これからのことを話そう」
「はい、父上」

ベレヌスは伏せていた顔を上げ、ラヴァルの背をみた。その背は力なく倒れていくように見えた。ベレヌスは低く呻く声に予知でも幻でもないことに気が付いた。
「父上!」
ベレヌスはラヴァルが地面にぶつかる前に抱き留め支える。心臓のあたりを押さえ苦しそうに顔を歪めるラヴァルに、ベレヌスはただ事ではないとテオーナを振り返った。テオーナもすぐにラヴァルに駆け寄り、診察をする。脈をはかり、ラヴァルの手に額をかざすテオーナをベレヌスは不安げに見つめた。テオーナはゆっくり額から手を離した。
「どうですか」
「死ぬことはないが」
ベレヌスはテオーナの死ぬことはないという言葉にわずかに安堵した。兄を失い、ここにきて父親まで失うことになるなど考えたくもなかった。
 ベレヌスはいまだ苦し気な息を繰り返すラヴァルを見つめた。ベレヌスは悩んだ。親子の情を優先させるか。宰相家としての務めを果たすかを。悩むベレヌスの腕を震えながらも力強い手が掴んだ。ベレヌスの悩みは消えた。
「父上をお部屋に。医者を手配してくれ」
ベレヌスは不安げに囲んでいる兵に命じた。兵はすぐにベレヌスからラヴァルの体を預かると頭を下げ、城の中に消えた。ベレヌスはその背を見送り、背を向けた。
カムロスとドルドナは戸惑ったようにベレヌスを見た。
「行かなくていいのかい」
カムロスの問いかけにベレヌスは首を横に振った。
「俺にはすべきことがある」
ベレヌスの力強い声にテオーナだけが満足そうに頷いた。ベレヌスは先ほどまでラヴァルを支えていた手をみた。頼りになりそうな手ではない。
「しかし、自分には仲間がいる。なんとかしてみせる」
手を握り絞め、仲間を見た。
「皆、手を貸してくれ」



 ベレヌスは駆け付けた警備隊長を連れ、来た道を戻った。ラヴァルが倒れた以上、城で話し合う必要はない。ベレヌスは戦いの地になるであろう環状区外を目指した。
「ベレヌス、どうするつもりだ」
「戦うしかない。今から逃げたところで追いつかれるのが関の山だ」
ドルドナの問いかけにベレヌスは答えた。
ドルドナは確かにと頷くとすがるような眼でベレヌスを見る民たちを見た。ドルドナはどのような気持ちでこの視線を受け止めているのかとベレヌスを思いやった。
「警備隊長」
「はっ!」
「兵士の数は」
「1000ほど」
ベレヌスは1000という数字に悩んだ。1000という数字は少ない。水の都グラスでみた敵の数は、1000はいなかった。しかし、さらに増援が来ることは必定。しかも相手は人間ではない。
「どんな手を使っても勝たねば」
ベレヌスはたどり着いた王都と外を遮る門を見上げた。そして振り返り、ベレヌスは決心した。
「油とわら、それに火薬を用意しろ」
「まさか、ベレヌス」
カムロスはベレヌスがしようとしていることが分かった。テオーナはいい案だと頷き、ドルドナは首を傾げカムロスを見上げた。警備隊長も不安そうに命令を承ることができずにいた。そんな反応を示す仲間を気にせず、ベレヌスはこう続けた。

「すべての民を城に入れるぞ」
警備隊長はベレヌスが何をしようとしているのかを気が付いた。
「ベレヌス様!それはなりません!」
「なにがいけない。ものは壊れても直すことができる。人はそうはいかない」
ベレヌスは説くように警備隊長に言った。警備隊長はそれはそうだがと、食い下がりつつも発言をした。
「民を城に入れるなど、前代未聞」
民を入れ城で何か起きればそれこそ、ことだと警備隊長は難色を示す。ベレヌスは警備隊長から視線を外し、不安げに瞳を揺らしベレヌスたちを伺い続けていた民のほうへ向いた。
ベレヌスは空気を深く吸い込んだ。

「闇の軍勢が人間を滅ぼすべくここに向かってきている」

ベレヌスの言葉に民たちは息を飲み込んだ。

「激しい戦いになる。皆には城へ退避してもらいたい」

民たちは信じられないという表情を隠すことなくベレヌスを見た。

「食料と大切なものだけをもって城に行きなさい。困っているものがいたら手を差し伸べ、共に城に行きなさい。慌てることはない」


民は優しいベレヌスの声に落ち着きを取り戻し互いに顔を見合わせた。沈黙の後に大声が上がった。
「俺も戦います!」
「俺もだ!」
「私も」
民の中から威勢の良い声が上がり出し、それは勝鬨のように広がった。ベレヌスはその光景に目を丸くした。まさか、民が戦うと声を上げるとは思っていなかったからだ。ベレヌスはありがとうというと、あとの采配を警備隊長に任せ塀の上に上がった。塀の上に上がれば燻る煙を上げる水の都グラスが確認できた。
「必ず勝ってみせる」
その背をドルドナがバッシンと力強く叩いた。ベレヌスは思わぬ衝撃に驚きドルドナのほうに顔を向けた。
「当然だ。勝つぞ」
ドルドナは笑顔だ。今度はドルドナとは反対に立っていたカムロスがベレヌスの背を叩く。ベレヌスはすぐに反対を振り返った。
「勝つに決まってるじゃないか」
カムロスまでも笑顔であった。なぜか勝利を確信しているかのような2人にベレヌスは目を見開いた。そしてしばらくのち、小さく笑った。
「そうだな」
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