神の剣~ミスガルド11世紀の戦い~

ジロ シマダ

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5章:デドナンの戦い

火に飲まれる都

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「申し上げます! 敵の数およそ2万、進軍中!」
斥候に出ていた兵士が戻り、そう報告した。円卓を囲む者たちは信じられない表情で斥候をみた。
「わかった。報告、ありがとう。休めるうちに休みなさい」
ベレヌスは斥候の兵士にそう声をかけ、円卓の地図をみながら、冷静に考えを進める。
(敵の数が多すぎる。一度に多くを消す必要がある。こちらの戦力は2000にもみたない。油と火薬でどうにかなるものではない)
「敵を喰いつかせるものがあれば・・・あ」
ベレヌスは敵が食いつく餌があることに気が付いた。何かを思いついた様子のベレヌスに期待の目が集中する。
「敵の数を始めのうちに減らしておきたい。第5環状区に敵を閉じ込め、火で殺す。それで少なくとも半分は減らすことができるはずだ。
第4環状区には弓兵、投石を配置する。敵が第4環状区の半分まで進行した場合は第3環状区まで下がる。第3環状区の壁は高い。梯子で上がることはできないはずだ。門を守り上から攻撃を仕掛ける。」
「そんなにうまく第5環状区になだれ込むかな」
カムロスは言った。カムロスの言葉にベレヌスはにやりと笑った。
「こさせるんだ。餌で釣ればいい」
「餌? そんなもんがあるのか?」
ドルドナが首を傾げカムロスと顔を見合わせた。テオーナはベレヌスのいう餌の正体に気が付き、額に手を当て首を横に振った。

「餌ならあるじゃないか。ここに」

ベレヌスは腕を開いた。
「やはりか」
テオーナは呟き、カムロスとドルドナがくわっと目をかっぴらき、ベレヌスに詰め寄った。
「だめだ!」
「危険すぎる!馬鹿か!」
「でもこれ以外に手はないと思うんだが」
ベレヌスの言葉にカムロスとドルドナはぐっと息を詰まらせる。
危険ではあるが、一番効果的な手だ。脳が小さい敵はベレヌスの存在に気が付けばスルトルの命を優先させるはず。状況を把握できないのはデドナンの兵たちだ。警備隊長は小さく手を挙げた。
「ベレヌス様、どういうことでしょうか」
「つまり、私が囮となり第5環状区に敵をおびき寄せるということだ」
「いけません!」
今度は警備隊長やほかの兵が詰め寄るがベレヌスは苦笑を浮かべるだけだ。
「これが一番確実だ。スルトルは私を捕らえるよう命を出した。確実に敵は喰いつく」



 太陽が沈む少し前に敵はデドナン王都の外に姿を現した。夜より濃い闇を引き連れて
「手筈通り頼む」
「わかった」
「おう」
ベレヌスはカムロスとドルドナにもう一度頷くとテオーナのほうをみた。
「魔法はそう長く続かないからな」
「わかりました。行ってまいります」
ベレヌスがひとり第4環状区をでて第5環状区、敵に最も近いところに向かう。1人遠ざかる背を皆が見つめた。
 ベレヌスは走りながら、周囲を確認していく。あらゆる想定と対策を考える。それでも不足があることは承知していた。第5環状区の門に近づくにつれ、敵の踏み鳴らす足音が大きくなるのを感じる。ベレヌスは塀の上から敵を見渡した。うじゃうじゃと地面が見えない程の軍勢が広がっている。

「闇の者たちよ! スルトルが捕えよと命じた男がここにいるぞ! 捕らえられるなら捕えてみよ!」

 ベレヌスは敵に言い放ち、一本の矢をひと際巨体のオークに放った。
矢は真っ直ぐ飛び、オークの目玉に突き刺さった。ベレヌスはもう1本矢をつがえると岩の上に立ち怒りをあらわにしている立派ななりのオークに放つ。その矢も目玉に突き刺さたが、のたうち回ることなく矢を目玉から引き抜きオークは剣を突き上げた。
 敵の軍勢は剣が突き上げられると同時に一斉にデドナン王都への侵攻を開始した。蟻のように子汚い群がやってくる様子にベレヌスは寒気を覚える。
 敵の先頭が堀の手前まで来たのを確認するとベレヌスは行動を開始した。塀を飛び降り藁の上に落下するとすぐに体制を立て直し、用意していた松明を掴むと第4環状区に合図を送った。第4環状区では合図を受けにテオーナが杖を一振りさせる。
その杖の先から白い靄のようなものが流れ出た。靄は人の形を作り第5環状区に降りていく。

 ベレヌスは塀の向こうでざわめく敵の音、門を破ろうと叩きつける音を聞きながら、タイミングを計っていた。敵の「穴が開いた」という声にベレヌスは走り出す。
 ただ逃げるだけでは罠だとばれる可能性も捨てきれないため、ベレヌスは時折矢を放つ。くるっと1回転する間にベレヌスから放たれる矢はしっかり敵を捕らえていた。さすがエルフのもとで過ごし、鍛錬した男だといえる。
 まるでダンスを踊るかのように敵を殺し、第5環状区を進む姿に第4環状区ではらはらしているデドナン兵は信じられない思いだった。今までも討伐などでベレヌスと共に戦ったものもいたが、それとはまったく異なる戦い方だ。完全に1人で戦うことを念頭に置いた、型など存在しない戦い方。

 駆け抜けるベレヌスの前に敵が現れた。
「思ったより早いな」
すぐに梯子で塀を越えてきていたのだ。想定以上の敵の動きの良さに、ベレヌスは不安が募る。自分の生死へ不安ではなく、この戦いの勝敗への不安だ。塀を越えてきた敵の姿にデドナン兵は駆け付けようとした。それはテオーナによって止められた。
「待ちなさい。君たちが動けば作戦が壊れる」
テオーナはそれだけ言うと再び杖を動かした。
「長くはもたないよ、ベレヌス」

 ベレヌスの前から迫ってくる敵は人の形をした靄に阻まれた。敵が剣を振り降ろしても手ごたえはない。そして倒れることも消えることもない。しかし、靄からの攻撃は敵にあたっていた。いくら靄が敵を押さえてくれていても、ベレヌスが行こうとする方向から敵は消えない。そして後ろからも敵は迫ってきている。
 ベレヌスは左の路地に入った。デドナン王都のすべての道を知り尽くしていた。迷路のように入り組む第5環状区の家を進む。敵もなだれ込んだのか、怒鳴り声が狭い路地の壁に響き渡った。ベレヌスの動きを見ていたカムロスはドルドナの肩を叩き場所を移動した。
 ベレヌスは壁に体をぶつけながら路地を進み、ある家の外階段を上り屋上へ上がる。勢いを殺さず道を挟んだ家の2階の窓に飛び込んだ。窓ガラスは割れ、ベレヌスの頬を切って飛んでいく。第4環状区から驚愕の声が上がる。ベレヌスの危ない行動は見ていたものの肝を冷やした。
 2階に飛び込んだベレヌスがその建物の屋上に上がってきた姿にデドナン兵の誰もが胸をなでおろす。屋上に上がったベレヌスにカムロスの声が聞こえた。
「ベレヌス! こっちだ!」
ベレヌスが上を見上げると少し先にロープを垂らしたカムロスがいた。ベレヌスがいる建屋の横には第4環状区の外殻塔があり、ロープは少し離れた位置で垂れていた。下から近づいてくる足音に迷っている暇はないかと助走をつけて屋上から跳んだ。
「掴んだ」
 ベレヌスは届かないかと思ったが、ロープをしっかりつかむことができた。片手に自分の全体重がかかり若干の痛みを肩に感じるが、両手でつかみ直し壁に足をつける。屋上に群がる敵の姿を見ながらベレヌスは上に上がる。そしてある程度上がったところでベレヌスは号令を出した。
「やれ!」
ベレヌスの号令のすぐ後に第5環状区は爆発と火に包み込まれた。ベレヌスは下から上がってくる熱を感じながら第4環状区へと足をつけた。
「助かった。カムロス、ドルドナ」
「たっく、ひやひやしたぞ」
「ほんとだよ」
ベレヌスは苦笑を浮かべながら第5環状区を見た。敵の断末魔が火の中から聞こえる。ベレヌスは攻めの手を緩めてはいけないと次の号令を出した。
「投石を開始せよ!」
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