神の剣~ミスガルド11世紀の戦い~

ジロ シマダ

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5章:デドナンの戦い

予知の覚醒

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 デドナン王都第5環状区で闇の者たちはどんどん数を減らしていく。その様子を第4環状区より火矢を打ち込むベレヌスは見ていた。
「ベレヌス!」
カムロスの鋭い声が飛んだ。ベレヌスはカムロスが指さすを方角をみる。暗くてベレヌスには王都の外に何があるのかわからない。
「何が起きている」
「投石機だ!」
 ベレヌスや周囲の者たちは目を見開いた。そのようなもの、敵の陣地にはなかったはずだった。どこから持ってきたというのかとベレヌスは考えた。そして、一つの可能性が頭に思い浮かんだ。
「グラスの投石機だ」
「!?」
 ベレヌスは下唇を噛み締めた。グラスにおかれていた投石機はそれなりの精度。おそらく堀の向こうからでも第4環状区に届くことだろう。敵は第5環状区の味方がどうなろうと、躊躇なく投石することは目に見えていた。
「投石機を破壊し、第3環状区に撤退する。第4環状区にも爆薬をしかけろ!」
ベレヌスはすぐに指示を出した。今は悩み、考えているときはない。ベレヌスの指示は第4環状区をめぐり、すぐに最後の投石を放つ音と大きな破壊音が聞こえてきた。
「ベレヌス様!」
 警備隊長が未だに外壁から下と王都外を見るベレヌスに声をかけた。警備隊長やデドナンの兵からすれば一番に第3環状区に入ってほしい人物だからだ。しかし、ベレヌスは首を横に振る。
「先に撤退せよ」
「しかし!」
「大丈夫。皆が撤退したら僕たちも撤退するよ」
「心配せんでいい」
カムロスとドルドナがそれぞれの獲物を構えながらそう言った。警備隊長は悩んだそぶりを見せたが、頷き兵たちに檄を飛ばしながら任務を果たすべく動き出した。

「ベレヌス」
「燃えていくデドナン王都が」
カムロスの気を遣う声にベレヌスは胸の内をわずかに明かす。迷いなく命を発したが、ベレヌスの心に迷いがないはずもない。今まで暮らしてきた街に火をかけること等、誰がしたいと思う。項垂れるベレヌスに呆れたドルドナの声がかかった。
「何言ってんだ? お前のせいじゃないだろ」
「その通りだ。悪いのは闇の連中だ」
テオーナもドルドナの言葉に同意し、ベレヌスの頭を撫でた。全ての責を背負うことになった若者の頭を撫でる。逃げ出してもおかしくない状況で、守るべきものを守ろうと懸命に考え、動くベレヌス。そしてそれを助けるべく動く仲間。素晴らしいものだとテオーナは、この状況で微笑んでいた。

「ベレヌス様! 皆、第3環状区に入りました」
 警備隊長が第3環状区の外壁から叫ぶ。ベレヌスはその声に手を挙げ答えると、もう一度第5環状区を見下ろし、第4環状区を見渡した。
(ご先祖、先人たちよ。弱い私を許してください。あなた方の作り上げたものを壊します)
ベレヌスは心の中で謝ると第3環状区に撤退した。ちょうどその頃、第4環状区の門が破られ、敵の軍勢が第4環状区に足を踏み入れたのだった。








 第3環状区まで下がったベレヌスたちは籠城戦を強いられるしかなかった。第4環状区を繋げる門を守り、ひたすら敵の侵攻を食い止めている。

「第3環状区の壁が高くていくら敵が来ないといってもこのままでい続けることはできないよ。どうするつもり」
カムロスは敵を見つめるベレヌスに尋ねた。ベレヌスはそんなカムロスの声など耳に入っていなかった。ベレヌスの目に見えているものは余人とは違う。現実と予知が組み合わさった不思議な世界だ。気持ちわるさとだるさを押さえ、ベレヌスは耐えていた。
(見せるな)
自分の中に言い聞かせるベレヌスの肩にテオーナが優しく手を置いた。
「焦るな。それもお前の力、制することもできるはず」
 ベレヌスは馬鹿なことをいうなと思った。小さいころから苦しみを与えてきた力を制御できる等ありえない。悔しく顔を歪めるベレヌスに兵士の悲鳴が聞こえてきた。
「どうした!?」
ベレヌスたちが悲鳴のあったところにっ向かえば、信じられないものがあった。王都外から伸びる頑丈な鎖。第3環状区の外壁に突き刺さった鉤。

 そこからはあっという間の出来事だった。
次々に鉤が王都外から放たれ、外壁、もの、時にはデドナンの兵に突き刺さった。いくつかは最初の一撃と同じく、鎖が付いていた。その鎖を伝って敵がどんどんと近づき、ついに第3環状区に敵の侵攻を許してしまった。
 ベレヌスは侵入した敵を切り伏せる。しかし、鎖は6本も伸びている。ベレヌスが兵たちに指示を出そう振り返れば、そこには『怯え』があった。全ての兵が絶望し恐怖し、生を諦めていた。
(俺は予知できたはずなのに)

ベレヌスは役に立たない自分を憎んだ。
絶望の中、敵に蹂躙される味方。
必死に剣を振り回す味方。
ベレヌスの心にも絶望が滲む。
ベレヌスは父に謝らなければと城の方角へ顔をやった。
そこには城壁には民の姿があった。さぞ、悲惨な光景であろうに目をそらさずベレヌスたちを見守っている。ベレヌスの目に光が戻る。

(守らなければ)

 ベレヌスは力いっぱい剣を敵に振り降ろした。
外壁から侵入する敵を次々に倒し、鎖へと剣を振り降ろした。鎖と剣がぶつかり合う金属音が激しく空気を打ち鳴らした。鎖は信じられないことにベレヌスの一撃で壊れ、しがみ付いた敵ごと落ちていく。

「デドナンの兵たちよ!」

ベレヌスは大声を張り上げた。

「ここであきらめるのか!」

デドナンの兵に怒鳴りつけるベレヌスに2本の矢が突き刺さった。しかし、ベレヌスは叫び声も苦痛の表情も浮かべず引き抜き、地面に投げ捨て鏃が軽い音を立て落ちる。
「ここで死ぬのが我々の運命か、違う!それはだれが決めた!これは運命ではない!俺は運命を動かす。今日は滅びの時ではない!」

 兵士たちの目にも光と力が戻ってきていた。敵に押しつぶされそうになっていたものは、逆に押しつぶしていた。

「闇と戦う勇気がある者はいるか!俺と共に戦う者はいるか!」
へたり込んでいた兵士たちも立ち上がり、剣や槍を手に取る。
「戦う者は剣を奮え奮え!槍を突き刺せ!雄叫びを上げよ!戦いの時だ!」
「「「うをぉぉぉ!」」」
デドナン王都を震わせるほどの雄叫びが上がった。
ベレヌスの言葉とその力強さにデドナンの兵の士気は高まり、攻めてきていた敵を倒し、第3環状区の敵を殲滅させた。
「ヴォルバの血よ。俺の体に流れているというのなら俺に従え。俺はこの国をこの世界を救いたい。俺が望む未来を示せ」
 ベレヌスは初めて自分の中に流れるヴォルバの血に念じた。自分の中で何かが変わるのを感じる。それは奥から湧きでる水のようにあふれくる。
「ベレヌス!?」
カムロスの驚愕の声に誰もがベレヌスのほうをみた。
ベレヌスの体を白い何かが包み込んでいた。それは夜の空気の中でぼんやりとベレヌスを浮かび上がらせた。
「ベレヌス」
カムロスがもう一度呼ぶとベレヌスは振り返った。
その目は銀色に輝いていた。カムロスたちは目を見開いた。そしてカムロスとドルドナはまたベレヌスが倒れてしまうと駆け寄ろうとしたが、テオーナに止められてしまった。

『警備隊長、近衛兵長、並びに副隊長各位』
静かなベレヌスの呼び声に呼ばれた者たちが剣を握りしめたまま前に出た。
『警備隊長、副隊長2名は兵を率い敵が造った道をまっすぐ第5環状区まで向かえ。そして、第5環状区を死守せよ。近衛兵長、副隊長2名を率い第4環状区から敵を殲滅せよ』

「「「「はっ」」」」

『俺の角笛を合図に王都外の敵を攻める』

ヴォルバの血を覚醒させたベレヌスの目に映っていたのは敗北、勝利の分かれ道。
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