神の剣~ミスガルド11世紀の戦い~

ジロ シマダ

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5章:デドナンの戦い

勝利

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 行動を開始した警備隊長各位に続きベレヌスたちも行動を開始する。
「カムロス! そっちを頼む」
 ベレヌスは王都外から続く鎖を剣で指示する。カムロスは得意げな顔で親指を立てると戦場には似合わないような軽やかなステップでベレヌスが示した鎖を走り出す。弓を背に戻すと二振りの湾曲した剣を取り出し、まるで踊っているかのように鎖の上で敵を殺していく。どんどんはるか下に落ちていく敵を見ることもなくカムロスは口に笑みを浮かべながら剣を撫でるように振るう。

「私はあっちに行こう」
「テオーナ様が!?」
ベレヌスは思わぬテオーナの言葉に驚いた。輝いていた銀の瞳が点滅するかのように瞬いた。
「集中は切らせない方がいいようだな。私のことは心配するな。任せておけ」
ベレヌスの肩を2度叩くとテオーナまでもカムロスとは別の鎖を攻めていく。衝撃の少ない魔法で敵を倒すテオーナにドルドナはベレヌスの横で少し肩を震わせた。光の魔法で目を焼かれた敵が悲鳴を上げながら下へ落下していく様は地獄のようだ。さしずめ、杖をかかげるテオーナは死神と言ったところだろう。
 ベレヌスは意識を集中させ、なすべきことを見て選択する。
「行くぞ! ドルドナ!」
「おう!」
斧を構え直したドルドナはベレヌスと共に第3環状区を飛び出した。

味方と敵が入り乱れる中、ベレヌスは強敵がいる場所を感じ取りそこへ迷わず進む。周りの敵にも味方にも目をくれない、ベレヌスに疑問を呈さずドルドナは無言で従った。
戦いは過激さを増しながら、士気を高めたデドナン兵が王都から敵を殲滅させるまであと少し。
     

 北の山の向こうから神殿の鐘の音が、デドナン王都に夜明けを知らせる。夜明けを知らせる鐘は鳴れど、日の出はまだだ。
 デドナン王都から敵を排除し、第5環状区でベレヌスたちは敵の侵入を阻止していた。敵の数は半分以下まで減った。攻めるならば今だと誰もが思っていた。ベレヌスもそう思っているが、ヴォルバの血が「まだだ。違う」と訴える。
そのせいでベレヌスは角笛を吹けずにいた。吹かれない角笛を警備隊長各位は静かに待っ。ベレヌスを信じて待っていた。
 ベレヌスは自分は予知が見せた未来の選択を誤ってしまったのではないかと思った。予知は予知であり、どの道を選択するかは己次第。焦りの汗がこめかみをつたう。
(間違っていたのか)
ベレヌスは焦りと恐怖を見せないために瞳を静かに閉じた。その時、ベレヌスは確かに聞いたのだ。
ばっと目を開け、うっすら汚れたカムロスを見た。突然の視線にカムロスは吃驚した顔でベレヌスに首を傾げた。
「聞こえたか」
「なにが」
エルフの耳は特に変わった音を拾っていなかった。変わらない環状区で火がくすぶる音。敵の息遣い、味方のうめき声。全ての匂いを持っていこうとする静かな風の音だけだ。ベレヌスは
(これは今から味方の耳に響く希望の音だ)
と確信した。ベレヌスは腰に下げていた角笛を掴み口に運んだ。

—ブゥォォォ!

 デドナン王都に角笛が響き渡った。そして、間を置かず兵士たちが雄叫びを上げて王都外に飛び出す。突然の攻撃に敵は動きを乱した。乱れた槍を躱し、敵を切り伏せベレヌスは敵の中心目指して進軍する。
「狙うのは大将だ!邪魔する奴は斬って捨てろ!」
ベレヌスの乱暴な言葉にまた雄叫びが上がり、デドナンの兵士がどんどん攻めていく。敵である闇の軍勢は戦力差があったのにも関わらず、敗北しそうになっている状況に混乱する。

そこに追い打ちをかける、突き抜ける角笛の音が鳴り響いた。

—トゥウォォォン!
ープウォォン!

 東より聞こえた音は軍団となってその姿を見せた。
「グロッティのハロルド! 国が滅びようとも武人であることに変わりない。我々も戦う!」
急に現れたグロッティの元兵士の軍団に敵は右往左往し、デドナンの兵の士気はこれまた向上する。
「突撃せよ!」
ハロルドの号令と共にグロッティの兵士たちが闇の軍勢に向かって馬を走らせた。
敵は慌てて槍をつきだすも、弾かれ馬上から攻撃を受け倒れる。もしくは挟み込む形で位置しているデドナンの兵に倒される。


「コンナ! バカナ コトナイ!」
闇の軍勢をスルトルの命により率いていたオークは地団太を踏みながら挟撃をしかけたグロッティを睨みつけていた。
「よそ見はいけないよな」
「ッ!」
オークが振り返るときにはすでに遅い。
オークは自分の見ている世界が一瞬回転したようだと、不思議に思いながら死んだ。足元に転がってきたオークの頭を蹴りのけ、剣についた汚い血を振り払い、ベレヌスは戦場を見渡した。朝日がまぶしく美しくない戦場を照らす。
「終わりだ!」
ベレヌスの宣言に兵たちは勝鬨をあげた。



「御助成助かりました、ハロルド殿」
「遅くなり申し訳ない」
 ベレヌスがデドナンを代表しハロルドと部下たちに頭を下げた。ハロルドはそれを慌てて止めて謝った。もっと早く来るべきだったのだと。
「それで、違う方が混じっているようですが」
ベレヌスはハロルドたちとは離れて立っているエルフに目をやった。そのエルフの前にはにやにやと意地悪そうな顔で笑うドルドナが立っていた。
 
「なんだ。俺たちが心配できてくれたのか?」
「別に心配なんか、そうです。気まぐれです」
 エントの森でドルドナを助けたローウェンは、口調を荒げ言い放った。ドルドナは汚れ、乱れた髭を撫でながらローウェンを覗き込む。ローウェンは顔をそらす。
 敵の死体が転がる戦場の後には似つかわしくない雰囲気が漂う。ベレヌスが遺体を回収し城に戻ろうかと声をかけようと手を挙げた時、ドルドナが信じられないことを口にした。
「俺と一緒になってくれんか」

 ベレヌスは手を軽く上げたまま目を見開きドルドナを見た。目を見開きベレヌスだけではない。カムロスも信じられない目でドルドナを見たし、ほかの兵士も同じだ。
「一目ぼれだ。だめか?」
「誰が、ドワーフなんぞ」
ローウェンの返事は拒否したものだが、耳を染める姿は脈ありだとわかる。
「まだ早かったか。わしは何度でも告白するぞ」
更に耳を赤く染めたローウェンはドルドナから体ごとよそを向くが、ドルドナは嬉しそうに笑っている。
 驚きで固まっていたベレヌスだが、すぐに今度は笑いがこみ上げてきたようではじけるような声で笑い出した。
「ここで告白するか、普通。ローウェン殿もまんざらでもない顔で、だめだ。はははは!」
「笑いすぎだ」
これにはドルドナも顔を赤くして恥ずかしそうに怒鳴った。その様子にベレヌスはさらに笑い。カムロスも笑い出し、それは伝染した。
「嬉しいし2人を応援するけど、タイミングが」
「うるさい!」
「ぐふふふ、あぁ痛い!」
ベレヌスは笑う度に痛む肩口の矢傷を押さえる。ドルドナは仕方がない奴だと、近づいてきたがカムロスに押し返された。
「身長差もあるし、僕が肩を貸すよ」
カムロスはそう言うとベレヌスを支えた。ベレヌスはありがたいと肩を借りた。傷の浅い兵士に敵の死体の処理を任せ、手当をするために城に行こうとドルドナに背を向けた。

「それに邪魔しちゃ悪いしね」
城へと歩き進めてすぐカムロスがドルドナにお茶目な声でそう言った。
「馬鹿にしよって! エルフなんぞ嫌いだ!」
ドルドナの返し言葉にベレヌスがにやりと笑うと、ドルドナへ顔だけ向けてこう尋ねた。
「ローウェン殿は?」
「この人は別だ」
顔を真っ赤にさせたドルドナの怒鳴り声と笑い声が戦いの終わりを感じさせた。



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