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5章:デドナンの戦い
宴
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「皆、よく戦ってくれた。多くの尊い命が失われこの国は何とか勝った。復興と戦いは続く。だが今宵はべつだ。戦ったすべての仲間たちを湛え大いに飲もうではないか。仲間に!」
「「「「仲間に!」」」」
デドナン城の広場は宴の空間に変わっていた。ベレヌスの挨拶で始まった宴は戦いの話や死んだ仲間の武勇伝等がそこらから聞こえてくる。ジョッキ片手に話す者たちの中には目に涙を浮かべる者もいる。しかし、皆笑っていた。勝利の宴は死んでいったものも楽しめるように馬鹿なほどに騒がしいものにする。今日の宴もそうだ。どこからか打楽器の音が聞こえだし、それに合わせて踊り出す。
「助かったよ」
ベレヌスは宴を楽しむデドナンの者たちを見渡しながらそばで飲んでいるカムロスたちに礼を言う。
「当然のことをしたまでだ」
「仲間じゃないか」
「そうだとも」
ドルドナ、カムロス、テオーナも騒ぐ者たちを見ながら言った。ベレヌスはもう一度礼を言うとジョッキを大きく傾け、エールを流し込んだ。上を向いた目には晴れ渡る空が見えた。どこからか鳥のさえずりが聞こえてくる。ここでの戦いが終わったことを感じさせる空気がそこにあった。
無言でゆっくりとジョッキを傾けるベレヌスたちのそばにラヴァルとハロルドが近づいてきた。ベレヌスは長椅子から立ち上がり頭を軽く下げた。
「ハロルド殿、援軍まことにありがとうございました」
「実のところベレヌス殿言葉があったからなのです」
「私ですか?」
ベレヌスはハロルドが何を言いたいのかわからず首を傾げた。ハロルドはどこか情けない様子で後頭部を小さく掻く。
「あの時ベレヌス殿は『未来を切り開くために』とおっしゃった。その言葉を聞いて私は自分が情けなくなりました。そして同時に戦意が湧いたのです、戦わなければと」
「それは」
「ベレヌス殿おかげでさらなる羞恥を晒すことも、自分を殺すこともしなくて済みました」
ハロルドはベレヌスの手を救い上げるように持つと自分の額につけた。本当に感謝していると体で表した。ここまで感謝の意を示されてはベレヌスも固辞できない。
「ではお互いに感謝しましょう。ありがとうございます、ハロルド殿」
「どうか私のことはハロルドとお呼びください」
ベレヌスの手を握り絞めたままハロルドは言った。ベレヌスはどうすればいいのかわからず、何も言えない。
「お願いします!」
力強く懇願する目にベレヌスは諦める。
「わかりました、ハロルド。ではわたしのこともベレヌスとお呼びください」
ベレヌスの返す言葉にハロルドはベレヌスの手をパッと離して、手を横に振った。
「それはできません。尊敬しているベレヌス殿を呼び捨てになど」
「え」
尊敬しているのかと驚いた顔をして固まるベレヌスをカムロスたちは肴にして、エールを飲み下す。尊敬していますと輝くハロルドにベレヌスは困ったように笑うしかなかった。
「ベレヌス」
困った笑いをこぼすベレヌスにラヴァルが静かに声をかけた。ベレヌスはすぐに笑いを奥に下げ、ラヴァルへと体を向けた。未だに顔色は悪いが倒れた時よりは大分ましになっている。
「父上、この度は損失大きく、また王都に火をかけるという愚かな策を講じた私をお許しください」
ベレヌスはラヴァルに頭を深く下げた。それはラヴァルだけでなく祖先に向けた謝意だった。ラヴァルは頭を下げた息子に手を伸ばした。優しく肩に手が置かれベレヌスはゆっくり顔を上げた。ラヴァルは苦しそうな悲しそうな、そしていて嬉しそうな顔をしていた。
「何をいうか。突然の重責からも逃げず、先陣切って兵を率いてくれた。十分だ
。それに責められるのは私だろう。このような時にたおれるなど」
「今までの過労が祟ったのですよ、父上」
ベレヌスはラヴァルを優しく抱きしめた。
ラヴァルは今にも泣いてしまいそうだった。度重なる悲劇に己の息子2人を失い、不利な戦いの陣頭に1人の息子を追いやった。そして、その1人の息子は見事に敵を打ち払いデドナンに勝利をもたらした。
「ベレヌス、王にならないか」
「な、なにをおっしゃっているのですか」
親子を見守っていた周囲もわずかに驚いたが、頷いた。
特にデドナンの兵や民たちは賛成だった。亡き王に迫害されながらもデドナンのために働き、そして今回の戦いでは先頭にたち兵を指揮し、なおかつ剣を振るった。
「ヴォルバの血も引いているのだ。問題ないだろう」
「そう言うことではありません。それに父上も血は引いておられるはず」
「私は王には向いていない。お前ならば皆も納得する」
ベレヌスはラヴァルの言葉に周囲を見渡す。頷いたり期待の目でみてくる者たちにベレヌスは眉をひそめた。ベレヌスは王になる気等、全くない。ベレヌスの心は仕える王を決めていた。
「私は王にはなりませんしなれません」
「ベレヌス」
「俺の王はあいつだけだ」
ぼそりとつぶやかれた言葉にラヴァルも見守っていたデドナンの者たちも息をのんだ。今まで王を『王』とも『陛下』とも言わなかったベレヌスが『王』と言った。ベレヌスはすんなりと出た言葉に苦笑する。
「今、なんといった!?」
「王はあいつだけだと申しました」
ベレヌスは一気に距離を詰めてきたラヴァルたちに身を引く。カムロスとドルドナは顔を見合わせて頷いた。
「ねぇ、あいつってアルロのことだよね」
「なるほどな。あいつなら問題ないな」
ヴォルバの血を引き、トゥア国元王太子なら問題ない。しかし、デドナンの王になる意志が本人にあるかはわからない。
喰いついてくるラヴァルたちにアルロの素性と人物像を伝えながら、ベレヌスは思いをはせた。
(今頃はどこにいるだろうか。アルロ、ミーミル、ドンナトール様、ダグザ。どうか無事で)
「「「「仲間に!」」」」
デドナン城の広場は宴の空間に変わっていた。ベレヌスの挨拶で始まった宴は戦いの話や死んだ仲間の武勇伝等がそこらから聞こえてくる。ジョッキ片手に話す者たちの中には目に涙を浮かべる者もいる。しかし、皆笑っていた。勝利の宴は死んでいったものも楽しめるように馬鹿なほどに騒がしいものにする。今日の宴もそうだ。どこからか打楽器の音が聞こえだし、それに合わせて踊り出す。
「助かったよ」
ベレヌスは宴を楽しむデドナンの者たちを見渡しながらそばで飲んでいるカムロスたちに礼を言う。
「当然のことをしたまでだ」
「仲間じゃないか」
「そうだとも」
ドルドナ、カムロス、テオーナも騒ぐ者たちを見ながら言った。ベレヌスはもう一度礼を言うとジョッキを大きく傾け、エールを流し込んだ。上を向いた目には晴れ渡る空が見えた。どこからか鳥のさえずりが聞こえてくる。ここでの戦いが終わったことを感じさせる空気がそこにあった。
無言でゆっくりとジョッキを傾けるベレヌスたちのそばにラヴァルとハロルドが近づいてきた。ベレヌスは長椅子から立ち上がり頭を軽く下げた。
「ハロルド殿、援軍まことにありがとうございました」
「実のところベレヌス殿言葉があったからなのです」
「私ですか?」
ベレヌスはハロルドが何を言いたいのかわからず首を傾げた。ハロルドはどこか情けない様子で後頭部を小さく掻く。
「あの時ベレヌス殿は『未来を切り開くために』とおっしゃった。その言葉を聞いて私は自分が情けなくなりました。そして同時に戦意が湧いたのです、戦わなければと」
「それは」
「ベレヌス殿おかげでさらなる羞恥を晒すことも、自分を殺すこともしなくて済みました」
ハロルドはベレヌスの手を救い上げるように持つと自分の額につけた。本当に感謝していると体で表した。ここまで感謝の意を示されてはベレヌスも固辞できない。
「ではお互いに感謝しましょう。ありがとうございます、ハロルド殿」
「どうか私のことはハロルドとお呼びください」
ベレヌスの手を握り絞めたままハロルドは言った。ベレヌスはどうすればいいのかわからず、何も言えない。
「お願いします!」
力強く懇願する目にベレヌスは諦める。
「わかりました、ハロルド。ではわたしのこともベレヌスとお呼びください」
ベレヌスの返す言葉にハロルドはベレヌスの手をパッと離して、手を横に振った。
「それはできません。尊敬しているベレヌス殿を呼び捨てになど」
「え」
尊敬しているのかと驚いた顔をして固まるベレヌスをカムロスたちは肴にして、エールを飲み下す。尊敬していますと輝くハロルドにベレヌスは困ったように笑うしかなかった。
「ベレヌス」
困った笑いをこぼすベレヌスにラヴァルが静かに声をかけた。ベレヌスはすぐに笑いを奥に下げ、ラヴァルへと体を向けた。未だに顔色は悪いが倒れた時よりは大分ましになっている。
「父上、この度は損失大きく、また王都に火をかけるという愚かな策を講じた私をお許しください」
ベレヌスはラヴァルに頭を深く下げた。それはラヴァルだけでなく祖先に向けた謝意だった。ラヴァルは頭を下げた息子に手を伸ばした。優しく肩に手が置かれベレヌスはゆっくり顔を上げた。ラヴァルは苦しそうな悲しそうな、そしていて嬉しそうな顔をしていた。
「何をいうか。突然の重責からも逃げず、先陣切って兵を率いてくれた。十分だ
。それに責められるのは私だろう。このような時にたおれるなど」
「今までの過労が祟ったのですよ、父上」
ベレヌスはラヴァルを優しく抱きしめた。
ラヴァルは今にも泣いてしまいそうだった。度重なる悲劇に己の息子2人を失い、不利な戦いの陣頭に1人の息子を追いやった。そして、その1人の息子は見事に敵を打ち払いデドナンに勝利をもたらした。
「ベレヌス、王にならないか」
「な、なにをおっしゃっているのですか」
親子を見守っていた周囲もわずかに驚いたが、頷いた。
特にデドナンの兵や民たちは賛成だった。亡き王に迫害されながらもデドナンのために働き、そして今回の戦いでは先頭にたち兵を指揮し、なおかつ剣を振るった。
「ヴォルバの血も引いているのだ。問題ないだろう」
「そう言うことではありません。それに父上も血は引いておられるはず」
「私は王には向いていない。お前ならば皆も納得する」
ベレヌスはラヴァルの言葉に周囲を見渡す。頷いたり期待の目でみてくる者たちにベレヌスは眉をひそめた。ベレヌスは王になる気等、全くない。ベレヌスの心は仕える王を決めていた。
「私は王にはなりませんしなれません」
「ベレヌス」
「俺の王はあいつだけだ」
ぼそりとつぶやかれた言葉にラヴァルも見守っていたデドナンの者たちも息をのんだ。今まで王を『王』とも『陛下』とも言わなかったベレヌスが『王』と言った。ベレヌスはすんなりと出た言葉に苦笑する。
「今、なんといった!?」
「王はあいつだけだと申しました」
ベレヌスは一気に距離を詰めてきたラヴァルたちに身を引く。カムロスとドルドナは顔を見合わせて頷いた。
「ねぇ、あいつってアルロのことだよね」
「なるほどな。あいつなら問題ないな」
ヴォルバの血を引き、トゥア国元王太子なら問題ない。しかし、デドナンの王になる意志が本人にあるかはわからない。
喰いついてくるラヴァルたちにアルロの素性と人物像を伝えながら、ベレヌスは思いをはせた。
(今頃はどこにいるだろうか。アルロ、ミーミル、ドンナトール様、ダグザ。どうか無事で)
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