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第11話「娘の存在」
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ある週末。
晴夏が、突然熱を出した。
朝から体調が悪そうで、学校を休ませた。
「ママ、頭が痛い」
「分かった。今、冷やすね」
亜由美は、看病に追われた。
でも、その日は土曜日。
店の予約が五件入っていた。
キャンセルすることはできない。
亜由美は、大家さんに連絡した。
「すみません。晴夏が熱を出して。店に連れて行ってもいいですか」
「もちろん。大丈夫?」
「なんとか」
亜由美は、晴夏を連れて店へ向かった。
店の奥には、小さな休憩スペースがある。
そこにソファを置いて、晴夏を寝かせた。
「ママ、ここにいる」
「うん。何かあったら、すぐ呼んでね」
「はーい」
晴夏は、ぐったりとソファに横になった。
亜由美は、仕事を始めた。
でも、心は晴夏のことでいっぱいだった。
大丈夫だろうか。
熱は下がるだろうか。
そんなことを考えながら、お客の髪を切る。
午後三時。
四人目のお客を終えた時、店の扉が開いた。
「いらっしゃいませ」
振り返ると、信幸が立っていた。
「信幸?」
「こんにちは」
信幸は、大きな紙袋を持っていた。
「予約外ですみません。でも、連絡が取れなくて」
「ごめんなさい。バタバタしてて」
「大丈夫です。それより、これ」
信幸は、紙袋を差し出した。
「子供用の薬と、ゼリーと、スポーツドリンクです」
「え?」
「娘さん、体調崩してるんですよね」
「どうして」
「SNSに書いてたので」
亜由美は、ハッとした。
朝、つい愚痴のように「娘が熱を出した」と投稿していた。
「わざわざ、ありがとうございます」
「いえ。役に立てば」
その時、奥から晴夏の声がした。
「ママー」
「ごめんなさい。ちょっと待ってて」
亜由美は、奥へ向かった。
晴夏が、目を覚ましていた。
「どうしたの?」
「喉が渇いた」
「今、持ってくるね」
亜由美が戻ろうとすると、信幸が後ろにいた。
「失礼します」
「え?」
信幸は、晴夏に近づいた。
「こんにちは」
晴夏は、驚いて信幸を見た。
「誰?」
「信幸っていいます。ママの、友達」
「友達?」
晴夏は、亜由美を見た。
亜由美は、少し慌てて頷いた。
「そう。友達」
信幸は、紙袋からスポーツドリンクを取り出した。
「これ、飲める?」
「うん」
晴夏は、素直に受け取った。
信幸は、ペットボトルの蓋を開けてあげた。
「ゆっくり飲んでね」
「ありがとう」
晴夏は、少し飲んで、信幸を見上げた。
「優しいね」
「そう?」
「うん。パパと違う」
その言葉に、亜由美はドキリとした。
でも、信幸は笑顔のままだった。
「そっか。じゃあ、よかった」
「名前、何?」
「信幸」
「のぶゆき?」
「そう」
「難しいね」
「そうかな」
信幸は、晴夏の額に手を当てた。
「まだ、熱があるね」
「うん」
「じゃあ、ちゃんと休んでね」
「はーい」
晴夏は、また横になった。
信幸は、亜由美に向き直った。
「大丈夫そうですね」
「はい。ありがとうございます」
「いえ。じゃあ、僕は帰ります」
「本当にありがとうございます」
信幸は、店を出ようとした。
でも、晴夏が声をかけた。
「のぶゆき」
「はい?」
「また来る?」
信幸は、少し驚いた顔をした。
そして、亜由美を見た。
亜由美は、小さく頷いた。
「うん。また来るよ」
「やったー」
晴夏は、嬉しそうに笑った。
信幸は、優しく微笑んで、店を出た。
一人になった亜由美は、晴夏の隣に座った。
「晴夏」
「なあに」
「信幸さんのこと、どう思った?」
「優しいと思った」
「そう」
「ママの彼氏?」
亜由美は、驚いて晴夏を見た。
「どうして、そう思うの」
「だって、ママ、嬉しそうだったもん」
晴夏は、にこっと笑った。
「違う?」
亜由美は、少し迷ってから、頷いた。
「うん。彼氏」
「やっぱり!」
晴夏は、興奮した様子で起き上がった。
「ママ、彼氏できたんだ!」
「うん」
「いいなー。私も
続ける
1月5日
彼氏欲しい」
「晴夏はまだ早い」
「えー」
二人は、笑い合った。
そして、晴夏が真剣な顔で尋ねた。
「ママ、のぶゆきと結婚するの?」
「それは、まだ分からない」
「でも、好きなんでしょ?」
「うん。好き」
「じゃあ、結婚したらいいじゃん」
晴夏は、単純に言った。
「そんなに簡単じゃないの」
「どうして?」
「色々、あるの」
亜由美は、晴夏の頭を撫でた。
「でも、のぶゆきは、いい人だよ」
「知ってる。優しかったもん」
「うん」
「だから、ママ、頑張ってね」
「何を?」
「のぶゆきと、仲良くすること」
晴夏は、真面目な顔で言った。
「私、ママに幸せになってほしいから」
亜由美は、涙が出そうになった。
「ありがとう、晴夏」
「どういたしまして」
晴夏は、また横になった。
「ママ、仕事頑張ってね」
「うん」
亜由美は、晴夏にブランケットをかけた。
そして、仕事に戻った。
心は、温かかった。
晴夏が、信幸を受け入れてくれた。
それが、何よりも嬉しかった。
その夜、信幸から電話があった。
「晴夏ちゃん、大丈夫でしたか」
「はい。熱も下がってきました」
「よかった」
「今日は、本当にありがとうございました」
「いえ。でも、驚きました」
「何にですか」
「晴夏ちゃんに、気に入られたみたいで」
信幸は、嬉しそうに笑った。
「また来てって言われました」
「はい。嬉しかったです」
「私も、嬉しかったです」
亜由美は、正直に言った。
「あなたと、晴夏が仲良くしてくれて」
「これから、もっと仲良くなりたいです」
「はい」
「亜由美」
「はい」
「僕、真剣です」
信幸の声は、いつになく真剣だった。
「あなたと、晴夏ちゃんと、家族になりたい」
亜由美の胸が、熱くなった。
「信幸」
「まだ早いかもしれません。でも、僕の気持ちを知っておいてほしくて」
「ありがとう」
「焦らせるつもりはないです。ただ、僕の本気を」
「分かりました」
亜由美は、微笑んだ。
「私も、真剣です」
「本当ですか」
「はい」
二人は、しばらく電話で話し続けた。
他愛のない話。
でも、その一つ一つが、二人の絆を深めていった。
電話を切った後、亜由美は晴夏の寝顔を見つめた。
この子を、幸せにしたい。
そして、自分も、幸せになりたい。
信幸となら、それができる気がした。
亜由美は、晴夏の頬にキスをした。
「おやすみ」
そして、自分もベッドに入った。
明日からも、頑張ろう。
そう思いながら、亜由美は眠りについた。
晴夏が、突然熱を出した。
朝から体調が悪そうで、学校を休ませた。
「ママ、頭が痛い」
「分かった。今、冷やすね」
亜由美は、看病に追われた。
でも、その日は土曜日。
店の予約が五件入っていた。
キャンセルすることはできない。
亜由美は、大家さんに連絡した。
「すみません。晴夏が熱を出して。店に連れて行ってもいいですか」
「もちろん。大丈夫?」
「なんとか」
亜由美は、晴夏を連れて店へ向かった。
店の奥には、小さな休憩スペースがある。
そこにソファを置いて、晴夏を寝かせた。
「ママ、ここにいる」
「うん。何かあったら、すぐ呼んでね」
「はーい」
晴夏は、ぐったりとソファに横になった。
亜由美は、仕事を始めた。
でも、心は晴夏のことでいっぱいだった。
大丈夫だろうか。
熱は下がるだろうか。
そんなことを考えながら、お客の髪を切る。
午後三時。
四人目のお客を終えた時、店の扉が開いた。
「いらっしゃいませ」
振り返ると、信幸が立っていた。
「信幸?」
「こんにちは」
信幸は、大きな紙袋を持っていた。
「予約外ですみません。でも、連絡が取れなくて」
「ごめんなさい。バタバタしてて」
「大丈夫です。それより、これ」
信幸は、紙袋を差し出した。
「子供用の薬と、ゼリーと、スポーツドリンクです」
「え?」
「娘さん、体調崩してるんですよね」
「どうして」
「SNSに書いてたので」
亜由美は、ハッとした。
朝、つい愚痴のように「娘が熱を出した」と投稿していた。
「わざわざ、ありがとうございます」
「いえ。役に立てば」
その時、奥から晴夏の声がした。
「ママー」
「ごめんなさい。ちょっと待ってて」
亜由美は、奥へ向かった。
晴夏が、目を覚ましていた。
「どうしたの?」
「喉が渇いた」
「今、持ってくるね」
亜由美が戻ろうとすると、信幸が後ろにいた。
「失礼します」
「え?」
信幸は、晴夏に近づいた。
「こんにちは」
晴夏は、驚いて信幸を見た。
「誰?」
「信幸っていいます。ママの、友達」
「友達?」
晴夏は、亜由美を見た。
亜由美は、少し慌てて頷いた。
「そう。友達」
信幸は、紙袋からスポーツドリンクを取り出した。
「これ、飲める?」
「うん」
晴夏は、素直に受け取った。
信幸は、ペットボトルの蓋を開けてあげた。
「ゆっくり飲んでね」
「ありがとう」
晴夏は、少し飲んで、信幸を見上げた。
「優しいね」
「そう?」
「うん。パパと違う」
その言葉に、亜由美はドキリとした。
でも、信幸は笑顔のままだった。
「そっか。じゃあ、よかった」
「名前、何?」
「信幸」
「のぶゆき?」
「そう」
「難しいね」
「そうかな」
信幸は、晴夏の額に手を当てた。
「まだ、熱があるね」
「うん」
「じゃあ、ちゃんと休んでね」
「はーい」
晴夏は、また横になった。
信幸は、亜由美に向き直った。
「大丈夫そうですね」
「はい。ありがとうございます」
「いえ。じゃあ、僕は帰ります」
「本当にありがとうございます」
信幸は、店を出ようとした。
でも、晴夏が声をかけた。
「のぶゆき」
「はい?」
「また来る?」
信幸は、少し驚いた顔をした。
そして、亜由美を見た。
亜由美は、小さく頷いた。
「うん。また来るよ」
「やったー」
晴夏は、嬉しそうに笑った。
信幸は、優しく微笑んで、店を出た。
一人になった亜由美は、晴夏の隣に座った。
「晴夏」
「なあに」
「信幸さんのこと、どう思った?」
「優しいと思った」
「そう」
「ママの彼氏?」
亜由美は、驚いて晴夏を見た。
「どうして、そう思うの」
「だって、ママ、嬉しそうだったもん」
晴夏は、にこっと笑った。
「違う?」
亜由美は、少し迷ってから、頷いた。
「うん。彼氏」
「やっぱり!」
晴夏は、興奮した様子で起き上がった。
「ママ、彼氏できたんだ!」
「うん」
「いいなー。私も
続ける
1月5日
彼氏欲しい」
「晴夏はまだ早い」
「えー」
二人は、笑い合った。
そして、晴夏が真剣な顔で尋ねた。
「ママ、のぶゆきと結婚するの?」
「それは、まだ分からない」
「でも、好きなんでしょ?」
「うん。好き」
「じゃあ、結婚したらいいじゃん」
晴夏は、単純に言った。
「そんなに簡単じゃないの」
「どうして?」
「色々、あるの」
亜由美は、晴夏の頭を撫でた。
「でも、のぶゆきは、いい人だよ」
「知ってる。優しかったもん」
「うん」
「だから、ママ、頑張ってね」
「何を?」
「のぶゆきと、仲良くすること」
晴夏は、真面目な顔で言った。
「私、ママに幸せになってほしいから」
亜由美は、涙が出そうになった。
「ありがとう、晴夏」
「どういたしまして」
晴夏は、また横になった。
「ママ、仕事頑張ってね」
「うん」
亜由美は、晴夏にブランケットをかけた。
そして、仕事に戻った。
心は、温かかった。
晴夏が、信幸を受け入れてくれた。
それが、何よりも嬉しかった。
その夜、信幸から電話があった。
「晴夏ちゃん、大丈夫でしたか」
「はい。熱も下がってきました」
「よかった」
「今日は、本当にありがとうございました」
「いえ。でも、驚きました」
「何にですか」
「晴夏ちゃんに、気に入られたみたいで」
信幸は、嬉しそうに笑った。
「また来てって言われました」
「はい。嬉しかったです」
「私も、嬉しかったです」
亜由美は、正直に言った。
「あなたと、晴夏が仲良くしてくれて」
「これから、もっと仲良くなりたいです」
「はい」
「亜由美」
「はい」
「僕、真剣です」
信幸の声は、いつになく真剣だった。
「あなたと、晴夏ちゃんと、家族になりたい」
亜由美の胸が、熱くなった。
「信幸」
「まだ早いかもしれません。でも、僕の気持ちを知っておいてほしくて」
「ありがとう」
「焦らせるつもりはないです。ただ、僕の本気を」
「分かりました」
亜由美は、微笑んだ。
「私も、真剣です」
「本当ですか」
「はい」
二人は、しばらく電話で話し続けた。
他愛のない話。
でも、その一つ一つが、二人の絆を深めていった。
電話を切った後、亜由美は晴夏の寝顔を見つめた。
この子を、幸せにしたい。
そして、自分も、幸せになりたい。
信幸となら、それができる気がした。
亜由美は、晴夏の頬にキスをした。
「おやすみ」
そして、自分もベッドに入った。
明日からも、頑張ろう。
そう思いながら、亜由美は眠りについた。
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