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第12話「元夫の再訪」
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晴夏が元気になってから、一週間が経った。
その間、信幸は何度か店に顔を出した。
いつも、晴夏へのお土産を持って。
絵本だったり、お菓子だったり。
晴夏は、すっかり信幸に懐いた。
「のぶゆき、また来た!」
「こんにちは、晴夏ちゃん」
二人の会話を見ていると、亜由美は幸せな気持ちになった。
こんな日常が、ずっと続けばいい。
そう思っていた。
でも、その日常は、突然壊れた。
ある土曜日の昼下がり。
店には、お客が一人いた。
亜由美が髪を切っている最中、扉が勢いよく開いた。
「亜由美」
その声に、亜由美は凍りついた。
俊介だった。
元夫が、店に来た。
「ちょっと、いいか」
「今、お客さんが」
「すぐだ」
俊介は、店の奥を見た。
そこには、晴夏がいた。
「パパ?」
晴夏は、驚いて立ち上がった。
「晴夏、久しぶり」
俊介は、晴夏に近づこうとした。
でも、亜由美が遮った。
「待って。今は困る」
「何が困るんだ」
「お客さんがいるから」
「じゃあ、終わったら話そう」
俊介は、待合のソファに座った。
「待ってるから」
亜由美は、動揺を隠してカットを続けた。
でも、手は震えていた。
お客も、気まずそうな顔をしている。
なんとか、カットを終え、お客を見送った。
そして、亜由美は俊介と向き合った。
「何の用?」
「晴夏に会いたくて」
「事前に連絡してって言ったでしょ」
「急だったんだ」
俊介は、言い訳がましく言った。
「それに、お前に確認したいことがあって」
「何?」
「お前、本当にあいつと付き合ってるのか」
亜由美の心臓が、ドクンと跳ねた。
「あいつって?」
「吉村だよ」
俊介は、苛立った声で言った。
「お前の客の、弁護士」
「それが、何?」
「お前、俺を馬鹿にしてるのか」
俊介の声が、大きくなった。
「俺を訴えた弁護士と、付き合うなんて」
「私が誰と付き合おうと、あなたには関係ない」
「関係ある。俺は、晴夏の父親だ」
「だからって」
「晴夏を、あんな男に会わせるのか」
「あんな男って」
亜由美は、怒りが湧いてきた。
「信幸さんは、いい人よ」
「いい人?」
俊介は、嘲笑った。
「お前、騙されてるんだ」
「騙されてない」
「あいつは、仕事のためなら何でもする男だぞ。俺がどんなに苦しめられたか」
「それは、裁判だからでしょ」
「裁判だから、何をしてもいいのか」
俊介は、立ち上がった。
「あいつは、俺の人生をめちゃくちゃにした」
「それは、あなたが悪いことをしたからでしょ」
「俺は悪くない!」
俊介の声が、店中に響いた。
晴夏が、怯えた顔をしている。
「声を下げて。晴夏が怖がってる」
「晴夏」
俊介は、晴夏に近づいた。
「パパは、悪くないんだ。分かるよな」
晴夏は、亜由美の後ろに隠れた。
「ママ」
「大丈夫よ」
亜由美は、晴夏を抱きしめた。
「俊介、帰って」
「まだ話は終わってない」
「終わったわ。帰って」
「亜由美」
俊介は、亜由美の腕を掴んだ。
「痛い、離して」
「お前、後悔するぞ」
「離して!」
その時、扉が開いた。
「何をしているんですか」
信幸だった。
俊介は、信幸を見て顔色を変えた。
「お前」
「手を離してください」
信幸の声は、冷たかった。
「彼女が、嫌がっています」
「お前に、関係ない」
「関係あります」
信幸は、亜由美に近づいた。
「彼女は、僕の恋人ですから」
俊介は、信幸を睨んだ。
「お前、よくも」
「裁判は終わりました。あなたと僕は、もう何の関係もない」
「関係ある。お前は、俺の人生を」
「あなたが、自分で選んだ道です」
信幸は、毅然と言った。
「不当なことをして、訴えられた。それだけです」
「不当じゃない!」
俊介は、信幸に掴みかかろうとした。
でも、信幸は冷静に避けた。
「暴力は、やめてください」
「お前」
「これ以上続けるなら、警察を呼びます」
信幸は、スマートフォンを取り出した。
俊介は、歯ぎしりをした。
そして、亜由美を睨んだ。
「お前、本当に後悔するぞ」
「しないわ」
亜由美は、きっぱりと言った。
「私は、信幸さんを選ぶ」
俊介は、何かを言いかけた。
でも、信幸の冷たい視線に押されて、黙った。
そして、扉を乱暴に開けて出て行った。
静寂が、店を包んだ。
亜由美は、その場に崩れ落ちそうになった。
でも、信幸が支えてくれた。
「大丈夫ですか」
「はい」
亜由美は、信幸にもたれかかった。
「ありがとうございます」
「いえ。間に合ってよかった」
「どうして、ここに?」
「予感がしたんです」
信幸は、亜由美の髪を撫でた。
「何か、よくないことが起きる気がして」
「信幸」
亜由美は、信幸を見上げた。
「ごめんなさい。巻き込んで」
「謝らないでください」
信幸は、優しく微笑んだ。
「僕が、選んだことですから」
二人は、抱き合った。
そして、晴夏の声がした。
「のぶゆき、かっこよかった」
二人は、晴夏を見た。
晴夏は、目を輝かせていた。
「ヒーローみたいだった」
信幸は、照れたように笑った。
「ヒーローなんかじゃないよ」
「でも、ママを守ってくれた」
「それは、当然のことだから」
信幸は、晴夏の頭を撫でた。
「怖かったね」
「ちょっとだけ」
晴夏は、強がった。
「でも、のぶゆきが来てくれたから、大丈夫だった」
「そっか。よかった」
信幸は、晴夏を抱き上げた。
「これから、パパが来ても、僕が守るから」
「約束?」
「約束」
晴夏は、嬉しそうに笑った。
亜由美は、その光景を見て、涙が出そうになった。
この人なら、信じられる。
この人なら、任せられる。
そう思った。
その間、信幸は何度か店に顔を出した。
いつも、晴夏へのお土産を持って。
絵本だったり、お菓子だったり。
晴夏は、すっかり信幸に懐いた。
「のぶゆき、また来た!」
「こんにちは、晴夏ちゃん」
二人の会話を見ていると、亜由美は幸せな気持ちになった。
こんな日常が、ずっと続けばいい。
そう思っていた。
でも、その日常は、突然壊れた。
ある土曜日の昼下がり。
店には、お客が一人いた。
亜由美が髪を切っている最中、扉が勢いよく開いた。
「亜由美」
その声に、亜由美は凍りついた。
俊介だった。
元夫が、店に来た。
「ちょっと、いいか」
「今、お客さんが」
「すぐだ」
俊介は、店の奥を見た。
そこには、晴夏がいた。
「パパ?」
晴夏は、驚いて立ち上がった。
「晴夏、久しぶり」
俊介は、晴夏に近づこうとした。
でも、亜由美が遮った。
「待って。今は困る」
「何が困るんだ」
「お客さんがいるから」
「じゃあ、終わったら話そう」
俊介は、待合のソファに座った。
「待ってるから」
亜由美は、動揺を隠してカットを続けた。
でも、手は震えていた。
お客も、気まずそうな顔をしている。
なんとか、カットを終え、お客を見送った。
そして、亜由美は俊介と向き合った。
「何の用?」
「晴夏に会いたくて」
「事前に連絡してって言ったでしょ」
「急だったんだ」
俊介は、言い訳がましく言った。
「それに、お前に確認したいことがあって」
「何?」
「お前、本当にあいつと付き合ってるのか」
亜由美の心臓が、ドクンと跳ねた。
「あいつって?」
「吉村だよ」
俊介は、苛立った声で言った。
「お前の客の、弁護士」
「それが、何?」
「お前、俺を馬鹿にしてるのか」
俊介の声が、大きくなった。
「俺を訴えた弁護士と、付き合うなんて」
「私が誰と付き合おうと、あなたには関係ない」
「関係ある。俺は、晴夏の父親だ」
「だからって」
「晴夏を、あんな男に会わせるのか」
「あんな男って」
亜由美は、怒りが湧いてきた。
「信幸さんは、いい人よ」
「いい人?」
俊介は、嘲笑った。
「お前、騙されてるんだ」
「騙されてない」
「あいつは、仕事のためなら何でもする男だぞ。俺がどんなに苦しめられたか」
「それは、裁判だからでしょ」
「裁判だから、何をしてもいいのか」
俊介は、立ち上がった。
「あいつは、俺の人生をめちゃくちゃにした」
「それは、あなたが悪いことをしたからでしょ」
「俺は悪くない!」
俊介の声が、店中に響いた。
晴夏が、怯えた顔をしている。
「声を下げて。晴夏が怖がってる」
「晴夏」
俊介は、晴夏に近づいた。
「パパは、悪くないんだ。分かるよな」
晴夏は、亜由美の後ろに隠れた。
「ママ」
「大丈夫よ」
亜由美は、晴夏を抱きしめた。
「俊介、帰って」
「まだ話は終わってない」
「終わったわ。帰って」
「亜由美」
俊介は、亜由美の腕を掴んだ。
「痛い、離して」
「お前、後悔するぞ」
「離して!」
その時、扉が開いた。
「何をしているんですか」
信幸だった。
俊介は、信幸を見て顔色を変えた。
「お前」
「手を離してください」
信幸の声は、冷たかった。
「彼女が、嫌がっています」
「お前に、関係ない」
「関係あります」
信幸は、亜由美に近づいた。
「彼女は、僕の恋人ですから」
俊介は、信幸を睨んだ。
「お前、よくも」
「裁判は終わりました。あなたと僕は、もう何の関係もない」
「関係ある。お前は、俺の人生を」
「あなたが、自分で選んだ道です」
信幸は、毅然と言った。
「不当なことをして、訴えられた。それだけです」
「不当じゃない!」
俊介は、信幸に掴みかかろうとした。
でも、信幸は冷静に避けた。
「暴力は、やめてください」
「お前」
「これ以上続けるなら、警察を呼びます」
信幸は、スマートフォンを取り出した。
俊介は、歯ぎしりをした。
そして、亜由美を睨んだ。
「お前、本当に後悔するぞ」
「しないわ」
亜由美は、きっぱりと言った。
「私は、信幸さんを選ぶ」
俊介は、何かを言いかけた。
でも、信幸の冷たい視線に押されて、黙った。
そして、扉を乱暴に開けて出て行った。
静寂が、店を包んだ。
亜由美は、その場に崩れ落ちそうになった。
でも、信幸が支えてくれた。
「大丈夫ですか」
「はい」
亜由美は、信幸にもたれかかった。
「ありがとうございます」
「いえ。間に合ってよかった」
「どうして、ここに?」
「予感がしたんです」
信幸は、亜由美の髪を撫でた。
「何か、よくないことが起きる気がして」
「信幸」
亜由美は、信幸を見上げた。
「ごめんなさい。巻き込んで」
「謝らないでください」
信幸は、優しく微笑んだ。
「僕が、選んだことですから」
二人は、抱き合った。
そして、晴夏の声がした。
「のぶゆき、かっこよかった」
二人は、晴夏を見た。
晴夏は、目を輝かせていた。
「ヒーローみたいだった」
信幸は、照れたように笑った。
「ヒーローなんかじゃないよ」
「でも、ママを守ってくれた」
「それは、当然のことだから」
信幸は、晴夏の頭を撫でた。
「怖かったね」
「ちょっとだけ」
晴夏は、強がった。
「でも、のぶゆきが来てくれたから、大丈夫だった」
「そっか。よかった」
信幸は、晴夏を抱き上げた。
「これから、パパが来ても、僕が守るから」
「約束?」
「約束」
晴夏は、嬉しそうに笑った。
亜由美は、その光景を見て、涙が出そうになった。
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