鏡の中の他人

北大路京介

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第24話「ストーカーの境界」

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それから、亜由美は信幸を完全にブロックした。

電話も、メールも、SNSも。

全てを遮断した。

でも、信幸は諦めなかった。

店に、花が届いた。

毎日、違う花が。

カードには、「愛してます」とだけ書かれていた。

亜由美は、全て捨てた。

受け取り拒否をしようとしたが、送り主の名前は書かれていなかった。

ある日、常連客が言った。

「篠塚さん、外に誰かいますよ」

「え?」

窓の外を見ると、信幸が立っていた。

ただ、じっと店を見つめている。

亜由美は、無視した。

でも、信幸は一日中、そこにいた。

仕事が終わって店を出ると、信幸が近づいてきた。

「話を聞いてください」

「聞かない」

「お願いです」

「もう、終わったの。分かって」

亜由美は、信幸を避けて歩いた。

でも、信幸はついてきた。

「あなたなしでは、生きられないんです」

「それは、あなたの問題」

「お願いです。戻ってきてください」

「戻らない」

亜由美は、振り返った。

「あなたは、変わった。もう、前の信幸じゃない」

「変わってません」

「変わったわ。怖い人になった」

「怖い?」

信幸は、傷ついた顔をした。

「僕が、怖いんですか」

「怖いわ」

亜由美は、正直に言った。

「あなたの執着が、狂気が」

「狂気?」

信幸の目が、暗くなった。

「僕の愛を、狂気と呼ぶんですか」

「愛じゃない」

「じゃあ、何ですか」

「病気よ」

その言葉に、信幸は固まった。

「病気」

「そう。あなたは、病んでる」

亜由美は、続けた。

「だから、もう近づかないで」

「それは、できません」

信幸は、首を横に振った。

「あなたは、僕の人生そのものだから」

「違う」

「あなたがいなければ、僕は僕じゃない」

信幸の目には、涙があった。

「だから、お願いです」

でも、亜由美は心を鬼にした。

「さようなら、信幸」

そして、歩き出した。

信幸は、その場に立ち尽くしていた。

それから、事態はさらに悪化した。

信幸は、亜由美の行動を把握するようになった。

朝、店に行く時間。

昼、晴夏を迎えに行く時間。

夜、家に帰る時間。

いつも、どこかに信幸がいた。

見てるだけ。

話しかけてこない。

ただ、じっと見ている。

それが、恐怖だった。

亜由美は、警察に相談した。

「ストーカー行為で、訴えたいんです」

でも、警察は言った。

「彼は、何か危害を加えましたか」

「いえ、でも」

「見てるだけでは、まだ証拠が不足しています」

「でも、怖いんです」

「分かります。でも、法律上、まだ」

警察は、同情的だったが、動けないと言った。

亜由美は、絶望した。

どうすればいいのだろう。

ある夜、亜由美は晴夏を寝かしつけた後、一人リビングにいた。

窓の外を見ると、向かいのマンションの階段に、人影があった。

信幸だった。

ずっと、こちらを見ている。

亜由美は、カーテンを閉めた。

そして、その場に座り込んだ。

怖い。

信幸が、怖い。

かつて愛した人が、今は恐怖の対象になっている。

亜由美は、涙を流した。

どうして、こんなことになったのだろう。
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