24 / 30
第24話「ストーカーの境界」
しおりを挟むそれから、亜由美は信幸を完全にブロックした。
電話も、メールも、SNSも。
全てを遮断した。
でも、信幸は諦めなかった。
店に、花が届いた。
毎日、違う花が。
カードには、「愛してます」とだけ書かれていた。
亜由美は、全て捨てた。
受け取り拒否をしようとしたが、送り主の名前は書かれていなかった。
ある日、常連客が言った。
「篠塚さん、外に誰かいますよ」
「え?」
窓の外を見ると、信幸が立っていた。
ただ、じっと店を見つめている。
亜由美は、無視した。
でも、信幸は一日中、そこにいた。
仕事が終わって店を出ると、信幸が近づいてきた。
「話を聞いてください」
「聞かない」
「お願いです」
「もう、終わったの。分かって」
亜由美は、信幸を避けて歩いた。
でも、信幸はついてきた。
「あなたなしでは、生きられないんです」
「それは、あなたの問題」
「お願いです。戻ってきてください」
「戻らない」
亜由美は、振り返った。
「あなたは、変わった。もう、前の信幸じゃない」
「変わってません」
「変わったわ。怖い人になった」
「怖い?」
信幸は、傷ついた顔をした。
「僕が、怖いんですか」
「怖いわ」
亜由美は、正直に言った。
「あなたの執着が、狂気が」
「狂気?」
信幸の目が、暗くなった。
「僕の愛を、狂気と呼ぶんですか」
「愛じゃない」
「じゃあ、何ですか」
「病気よ」
その言葉に、信幸は固まった。
「病気」
「そう。あなたは、病んでる」
亜由美は、続けた。
「だから、もう近づかないで」
「それは、できません」
信幸は、首を横に振った。
「あなたは、僕の人生そのものだから」
「違う」
「あなたがいなければ、僕は僕じゃない」
信幸の目には、涙があった。
「だから、お願いです」
でも、亜由美は心を鬼にした。
「さようなら、信幸」
そして、歩き出した。
信幸は、その場に立ち尽くしていた。
それから、事態はさらに悪化した。
信幸は、亜由美の行動を把握するようになった。
朝、店に行く時間。
昼、晴夏を迎えに行く時間。
夜、家に帰る時間。
いつも、どこかに信幸がいた。
見てるだけ。
話しかけてこない。
ただ、じっと見ている。
それが、恐怖だった。
亜由美は、警察に相談した。
「ストーカー行為で、訴えたいんです」
でも、警察は言った。
「彼は、何か危害を加えましたか」
「いえ、でも」
「見てるだけでは、まだ証拠が不足しています」
「でも、怖いんです」
「分かります。でも、法律上、まだ」
警察は、同情的だったが、動けないと言った。
亜由美は、絶望した。
どうすればいいのだろう。
ある夜、亜由美は晴夏を寝かしつけた後、一人リビングにいた。
窓の外を見ると、向かいのマンションの階段に、人影があった。
信幸だった。
ずっと、こちらを見ている。
亜由美は、カーテンを閉めた。
そして、その場に座り込んだ。
怖い。
信幸が、怖い。
かつて愛した人が、今は恐怖の対象になっている。
亜由美は、涙を流した。
どうして、こんなことになったのだろう。
0
あなたにおすすめの小説
密会~合コン相手はドS社長~
日下奈緒
恋愛
デザイナーとして働く冬佳は、社長である綾斗にこっぴどくしばかれる毎日。そんな中、合コンに行った冬佳の前の席に座ったのは、誰でもない綾斗。誰かどうにかして。
たとえ夜が姿を変えても ―過保護な兄の親友は、私を逃がさない―
佐竹りふれ
恋愛
重なる吐息、耳元を掠める熱、そして——兄の親友の、隠しきれない独占欲。
19歳のジャスミンにとって、過保護な兄の親友・セバスチャンは、自分を子供扱いする「第二の兄」のような存在だった。
しかし、初めてのパーティーの夜、その関係は一変する。
突然降ってきた、深く、すべてを奪うような口づけ。
「焦らず、お前のペースで進もう」
そう余裕たっぷりに微笑んだセバスチャン。
けれど、彼の言う「ゆっくり」は、翌朝には早くも崩れ始めていた。
学内の視線、兄の沈黙、そして二人きりのアパート――。
外堀が埋まっていくスピードに戸惑いながらも、ジャスミンは彼が隠し持つ「男」の顔に、抗えない好奇心を抱き始める。
「……どうする? 俺と一緒に、いけないことするか?」
余裕の仮面を被るセバスチャンに、あどけない顔で、けれど大胆に踏み込んでいくジャスミン。
理性を繋ぎ止めようとする彼を、翻弄し、追い詰めていくのは彼女の方で……。
「ゆっくり」なんて、ただの建前。
一度火がついた熱は、誰にも止められない。
兄の親友という境界線を軽々と飛び越え、加速しすぎる二人の溺愛ラブストーリー。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
君と暮らす事になる365日
家具付
恋愛
いつでもぎりぎりまで疲れている主人公、環依里(たまき より)は、自宅である築28年のアパートの扉の前に立っている、驚くべきスタイルの良さのイケメンを発見する。このイケメンには見覚えがあった。
何故ならば、大学卒業後音信不通になった、無駄に料理がうまい、変人の幼馴染だったのだから。
しかし環依里は、ヤツの職業を知っていた。
ヤツはメディアにすら顔を出すほどの、世間に知られた天才料理人だったのだ!
取扱説明書が必要な変人(世間では天才料理人!?)×どこにでもいる一般人OL(通訳)の、ボケとツッコミがぶつかりあうラブコメディ!(予定)
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる