鏡の中の他人

北大路京介

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第25話「裁判の勝利と敗北」

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亜由美は、弁護士に相談した。

接近禁止命令を取るために。

弁護士は、証拠を集めるように言った。

「写真、メール、全て記録してください」

「分かりました」

亜由美は、毎日、信幸の行動を記録した。

店の前にいる写真。

家の前にいる写真。

送られてきた花の写真。

そして、二週間後、裁判所に申請を出した。

裁判の日。

亜由美は、一人で法廷に立った。

信幸も、来ていた。

久しぶりに、間近で見る信幸。

やつれていた。

髪は伸び、スーツは皺だらけ。

まるで、別人のようだった。

裁判官が、亜由美に尋ねた。

「被告の行為によって、どのような被害を受けましたか」

「精神的な苦痛です」

亜由美は、答えた。

「毎日、監視されている気がして、怖くて」

「被告は、何か危害を加えましたか」

「いえ、でも」

「脅迫などは?」

「いえ」

裁判官は、信幸に尋ねた。

「被告は、何か言いたいことは?」

信幸は、立ち上がった。

「僕は、彼女を愛しています」

「それは、分かりますが」

「だから、見ていたいんです」

「それは、ストーカー行為です」

「違います」

信幸は、首を横に振った。

「これは、愛です」

「でも、相手は嫌がっています」

「それは、誤解です」

信幸は、亜由美を見た。

「彼女は、僕を愛しています。ただ、今は混乱しているだけです」

「それは、あなたの解釈です」

裁判官は、ため息をついた。

「被告に、接近禁止命令を出します」

「待ってください」

信幸は、必死に訴えた。

「僕には、彼女しかいないんです」

「それでも、法律は法律です」

「お願いします」

信幸の声が、震えていた。

「彼女に会えなくなったら、僕は」

「被告、落ち着いてください」

でも、信幸は落ち着かなかった。

「僕は、死にます」

その言葉に、法廷が静まり返った。

「彼女なしでは、生きられない」

信幸は、亜由美を見つめた。

その目には、絶望があった。

「だから、お願いです」

でも、裁判官は判決を下した。

「被告は、原告から百メートル以内に近づくことを禁じます」

「そんな」

「これは、命令です。違反した場合、罰則があります」

信幸は、その場に崩れ落ちた。

「亜由美」

その声は、か細かった。

「お願いです」

でも、亜由美は振り返らなかった。

振り返ることができなかった。

裁判が終わり、亜由美は法廷を出た。

勝った。

接近禁止命令が出た。

これで、信幸は近づいてこられない。

でも、亜由美の心は重かった。

信幸の、あの絶望した顔。

あの言葉。

「僕は、死にます」

それが、頭から離れなかった。

亜由美は、タクシーに乗り込んだ。

そして、窓の外を見た。

法廷から出てきた信幸が、呆然と立っていた。

その姿は、あまりにも哀れだった。

でも、亜由美は目を背けた。

これで、いいのだ。

これが、正しいのだ。

自分に、そう言い聞かせた。
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