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第一章 出席番号23番
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1
四月の朝、森内美鈴は私立瓢箪学園の正門をくぐった。
二十九歳。国語教師として採用され、今日から2年B組の副担任を務めることになっている。新しい環境への期待と不安が入り混じった気持ちで、美鈴は校舎へと向かった。
職員室で主任の田宮から出席簿を受け取る。
「2年B組は40名です。活発な子が多いから、最初は大変かもしれないけど、すぐに慣れますよ」
田宮の言葉に頷き、美鈴は出席簿に目を通した。名前が整然と並んでいる。
たなか・とおる。
出席番号23番。その名前を見たとき、美鈴は妙な既視感を覚えた。どこかで聞いたことがあるような、ないような。
気のせいだろうと思い、美鈴は教室へと向かった。
2
2年B組の教室は3階の廊下の奥にあった。ドアを開けると、生徒たちのざわめきが止まり、一斉に視線が集まる。
「おはようございます。今日から副担任を務める森内美鈴です」
簡単な自己紹介の後、美鈴は出席を取り始めた。
「青木」
「はい」
「秋山」
「はい」
順調に進む出席確認。やがて、その名前にたどり着いた。
「田中」
沈黙。
誰も返事をしない。美鈴は顔を上げて教室を見渡した。生徒たちは皆、何事もないという顔で座っている。
「田中さん、いますか?」
再び沈黙。美鈴は座席表を確認する。窓際の最後列、その席には誰も座っていなかった。
「田中さんは今日、お休みですか?」
前の席に座っていた女子生徒が、不思議そうな顔で答えた。
「先生、田中さんって誰ですか?」
美鈴は出席簿を見せた。
「ほら、ここに。出席番号23番、田中透さん」
女子生徒は首を傾げた。
「そんな生徒、いましたっけ? 私たち39人ですよ」
39人。しかし出席簿には40名の名前が記されている。
美鈴は違和感を覚えながらも、出席確認を続けた。全員が出席している。欠席者はいない。しかし、確かに教室には39人しかいなかった。
3
昼休み、美鈴は職員室で田宮に尋ねた。
「田中透という生徒のことなんですが」
「ああ、田中さんね」と田宮は普通に答えた。「どうかしましたか?」
「その……どんな生徒さんなんでしょうか」
田宮は少し考える素振りを見せた。
「そうですね……普通の子ですよ。可もなく不可もなく」
「顔は?」
「顔?」田宮は困ったように笑った。「言われてみると、はっきりとは思い出せないな。でも、確かにいますよ。出席簿にも名前がありますし」
他の教師にも聞いてみたが、答えは同じだった。皆、田中透という生徒の存在を認識している。しかし誰も、その生徒の具体的な特徴を答えられない。
美鈴の中で、不安が膨らんでいった。
四月の朝、森内美鈴は私立瓢箪学園の正門をくぐった。
二十九歳。国語教師として採用され、今日から2年B組の副担任を務めることになっている。新しい環境への期待と不安が入り混じった気持ちで、美鈴は校舎へと向かった。
職員室で主任の田宮から出席簿を受け取る。
「2年B組は40名です。活発な子が多いから、最初は大変かもしれないけど、すぐに慣れますよ」
田宮の言葉に頷き、美鈴は出席簿に目を通した。名前が整然と並んでいる。
たなか・とおる。
出席番号23番。その名前を見たとき、美鈴は妙な既視感を覚えた。どこかで聞いたことがあるような、ないような。
気のせいだろうと思い、美鈴は教室へと向かった。
2
2年B組の教室は3階の廊下の奥にあった。ドアを開けると、生徒たちのざわめきが止まり、一斉に視線が集まる。
「おはようございます。今日から副担任を務める森内美鈴です」
簡単な自己紹介の後、美鈴は出席を取り始めた。
「青木」
「はい」
「秋山」
「はい」
順調に進む出席確認。やがて、その名前にたどり着いた。
「田中」
沈黙。
誰も返事をしない。美鈴は顔を上げて教室を見渡した。生徒たちは皆、何事もないという顔で座っている。
「田中さん、いますか?」
再び沈黙。美鈴は座席表を確認する。窓際の最後列、その席には誰も座っていなかった。
「田中さんは今日、お休みですか?」
前の席に座っていた女子生徒が、不思議そうな顔で答えた。
「先生、田中さんって誰ですか?」
美鈴は出席簿を見せた。
「ほら、ここに。出席番号23番、田中透さん」
女子生徒は首を傾げた。
「そんな生徒、いましたっけ? 私たち39人ですよ」
39人。しかし出席簿には40名の名前が記されている。
美鈴は違和感を覚えながらも、出席確認を続けた。全員が出席している。欠席者はいない。しかし、確かに教室には39人しかいなかった。
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昼休み、美鈴は職員室で田宮に尋ねた。
「田中透という生徒のことなんですが」
「ああ、田中さんね」と田宮は普通に答えた。「どうかしましたか?」
「その……どんな生徒さんなんでしょうか」
田宮は少し考える素振りを見せた。
「そうですね……普通の子ですよ。可もなく不可もなく」
「顔は?」
「顔?」田宮は困ったように笑った。「言われてみると、はっきりとは思い出せないな。でも、確かにいますよ。出席簿にも名前がありますし」
他の教師にも聞いてみたが、答えは同じだった。皆、田中透という生徒の存在を認識している。しかし誰も、その生徒の具体的な特徴を答えられない。
美鈴の中で、不安が膨らんでいった。
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