3 / 7
第二章 映らない影
しおりを挟む
1
その日の放課後、美鈴は事務室を訪れた。
「防犯カメラの映像を見せていただけますか」
事務員の中村は快く承諾してくれた。学校のセキュリティシステムは充実しており、廊下、階段、昇降口など、あらゆる場所にカメラが設置されている。
「今日の朝の映像をお願いします」
モニターに映し出される映像。登校する生徒たちの姿。美鈴は食い入るように画面を見つめた。
そして、それを見つけた。
3階の廊下を歩く生徒たち。その流れの中に、まるで「空白」があった。他の生徒たちが、何もない空間を自然に避けて歩いている。ぶつかるでもなく、気づくでもなく、ただ無意識に、その「空白」を迂回している。
「これ……」
美鈴は息を呑んだ。確かに、そこには誰かがいる。しかしカメラには映らない。
「中村さん、これ、見えますか?」
「何がですか?」中村は不思議そうに画面を覗き込んだ。「普通に生徒たちが歩いてますけど」
「ここです。この、何もない空間」
「ああ……言われてみれば、確かに不自然ですね。でも、カメラの死角とか、そういうことじゃないですか?」
美鈴は何も答えられなかった。
2
美鈴は田中透について、さらに調べ始めた。
入学書類を確認する。確かに「田中透」という名前で入学手続きがなされている。しかし、写真の部分だけが白く飛んでいた。印刷ミスだろうか。それとも――。
成績表を見る。すべての科目で平均的な点数。60点台から70点台。可もなく不可もなく。あまりにも「普通」すぎる成績だった。
提出物を確認するため、美鈴は2年B組の国語のロッカーを開けた。「田中透」名義の課題が入っている。しかし、筆跡が微妙に違う。まるで、複数の人間が代わる代わる書いたかのように。
「先生、何してるんですか?」
声に振り返ると、クラスの女子生徒、桜井優花が立っていた。
「桜井さん。ちょっと聞きたいんだけど、田中透さんって、どんな子?」
優花は首を傾げた。
「田中……さん?」
「出席番号23番の」
「ああ……」優花は何かを思い出そうとするように目を細めた。「いるような、いないような……」
「顔は?」
「思い出せません。でも、確かにいるはずです。だって、この席、いつも空いてるけど、誰も座ろうとしないから」
優花は窓際の最後列を指差した。
「その席に座ったらどうなるの?」
「わかりません。ただ、なんとなく、座っちゃいけない気がするんです」
美鈴は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
3
その夜、美鈴は図書館で瓢箪学園の歴史を調べた。
創立50年の伝統校。特に問題もなく、平和に運営されてきた学校――のはずだった。
しかし、10年前の新聞記事を見つけたとき、美鈴は凍りついた。
『私立瓢箪学園で中学2年女子生徒が自殺 いじめの有無、調査へ』
記事を読み進める。美鈴の手が震えた。
被害者は中学2年の女子生徒。クラス全員が加害者として名前を挙げられたが、不思議なことに、誰もいじめた記憶がないと証言した。
「誰もその子のことを覚えていないんです」と、当時の担任教師がインタビューで答えていた。「クラスにいたはずなのに、まるで最初からいなかったかのように……」
そして、被害者の名前を見たとき、美鈴は息が止まりそうになった。
田中透子。
透――。
その日の放課後、美鈴は事務室を訪れた。
「防犯カメラの映像を見せていただけますか」
事務員の中村は快く承諾してくれた。学校のセキュリティシステムは充実しており、廊下、階段、昇降口など、あらゆる場所にカメラが設置されている。
「今日の朝の映像をお願いします」
モニターに映し出される映像。登校する生徒たちの姿。美鈴は食い入るように画面を見つめた。
そして、それを見つけた。
3階の廊下を歩く生徒たち。その流れの中に、まるで「空白」があった。他の生徒たちが、何もない空間を自然に避けて歩いている。ぶつかるでもなく、気づくでもなく、ただ無意識に、その「空白」を迂回している。
「これ……」
美鈴は息を呑んだ。確かに、そこには誰かがいる。しかしカメラには映らない。
「中村さん、これ、見えますか?」
「何がですか?」中村は不思議そうに画面を覗き込んだ。「普通に生徒たちが歩いてますけど」
「ここです。この、何もない空間」
「ああ……言われてみれば、確かに不自然ですね。でも、カメラの死角とか、そういうことじゃないですか?」
美鈴は何も答えられなかった。
2
美鈴は田中透について、さらに調べ始めた。
入学書類を確認する。確かに「田中透」という名前で入学手続きがなされている。しかし、写真の部分だけが白く飛んでいた。印刷ミスだろうか。それとも――。
成績表を見る。すべての科目で平均的な点数。60点台から70点台。可もなく不可もなく。あまりにも「普通」すぎる成績だった。
提出物を確認するため、美鈴は2年B組の国語のロッカーを開けた。「田中透」名義の課題が入っている。しかし、筆跡が微妙に違う。まるで、複数の人間が代わる代わる書いたかのように。
「先生、何してるんですか?」
声に振り返ると、クラスの女子生徒、桜井優花が立っていた。
「桜井さん。ちょっと聞きたいんだけど、田中透さんって、どんな子?」
優花は首を傾げた。
「田中……さん?」
「出席番号23番の」
「ああ……」優花は何かを思い出そうとするように目を細めた。「いるような、いないような……」
「顔は?」
「思い出せません。でも、確かにいるはずです。だって、この席、いつも空いてるけど、誰も座ろうとしないから」
優花は窓際の最後列を指差した。
「その席に座ったらどうなるの?」
「わかりません。ただ、なんとなく、座っちゃいけない気がするんです」
美鈴は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
3
その夜、美鈴は図書館で瓢箪学園の歴史を調べた。
創立50年の伝統校。特に問題もなく、平和に運営されてきた学校――のはずだった。
しかし、10年前の新聞記事を見つけたとき、美鈴は凍りついた。
『私立瓢箪学園で中学2年女子生徒が自殺 いじめの有無、調査へ』
記事を読み進める。美鈴の手が震えた。
被害者は中学2年の女子生徒。クラス全員が加害者として名前を挙げられたが、不思議なことに、誰もいじめた記憶がないと証言した。
「誰もその子のことを覚えていないんです」と、当時の担任教師がインタビューで答えていた。「クラスにいたはずなのに、まるで最初からいなかったかのように……」
そして、被害者の名前を見たとき、美鈴は息が止まりそうになった。
田中透子。
透――。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~
榊シロ
ホラー
【1~4話で完結する、語り口調の短編ホラー集】
ジャパニーズホラー、じわ怖、身近にありそうな怖い話など。
八尺様 や リアルなど、2chの 傑作ホラー の雰囲気を目指しています。現在 150話 越え。
===
エブリスタ・小説家になろう・カクヨムに同時掲載中
【総文字数 800,000字 超え 文庫本 約8冊分 のボリュームです】
【怖さレベル】
★☆☆ 微ホラー・ほんのり程度
★★☆ ふつうに怖い話
★★★ 旧2ch 洒落怖くらいの話
※8/2 Kindleにて電子書籍化しました
『9/27 名称変更→旧:ある雑誌記者の記録』
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/2/10:『ふりかえ』の章を追加。2026/2/17の朝頃より公開開始予定。
2026/2/9:『ゆぶね』の章を追加。2026/2/16の朝頃より公開開始予定。
2026/2/8:『ゆき』の章を追加。2026/2/15の朝頃より公開開始予定。
2026/2/7:『かいぎ』の章を追加。2026/2/14の朝頃より公開開始予定。
2026/2/6:『きんようび』の章を追加。2026/2/13の朝頃より公開開始予定。
2026/2/5:『かれー』の章を追加。2026/2/12の朝頃より公開開始予定。
2026/2/4:『あくむ』の章を追加。2026/2/11の朝頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる