誰そ彼

北大路京介

文字の大きさ
6 / 7

第五章 最後の証言

しおりを挟む
1

 全校集会の日。
 体育館に全校生徒が集まった。美鈴は、もう誰からも認識されていなかった。職員室の自分の机は空席扱いになっていた。出勤簿にも名前がない。
 しかし、美鈴はそこにいた。確かに存在していた。
 校長の話が終わり、生徒たちが席を立とうとした時、美鈴は壇上に上がった。
「皆さん」
 誰も反応しない。美鈴の声は、彼らには聞こえていないかのようだった。
「私は森内美鈴。2年B組の副担任です」
 それでも、美鈴は語り続けた。
「この学校には、一人の生徒がいます。出席番号23番、田中透さん。彼は毎日学校に来ています。授業を受けています。しかし、誰も彼を見ることができない」
 ざわめきが起きた。わずかだが、生徒たちの一部が美鈴の方を見た。


2

「10年前、この学校で田中透子さんという生徒が亡くなりました。彼女は、生きながらにしてクラスメイトの認識から消されていった。誰も彼女を見なかった。誰も彼女の声を聞かなかった」
 体育館が静まり返った。
「それは誰の責任でしょうか? いじめた生徒たちの責任? いいえ、彼らは悪意を持っていなかった。ただ『見えなかった』だけです」
「では、教師の責任? それもある。しかし、教師たちも『見えなかった』。気づけなかった」
「この学校全体が、集団として、無意識に機能している。見たくないものを見ないようにする。知りたくないことを知らないようにする。その結果が、一人の生徒の死だった」
 生徒たちは、今、確かに美鈴を見ていた。美鈴の姿が、彼らの目に映り始めていた。
「そして今、同じことが起きています。田中透さんは、姉の死の真相を知るためにこの学校に来ました。しかし、この学校は彼を拒絶した。『見ないようにした』」
「私も同じです。真実を見ようとした。だから、私も消されようとしている」


3

 美鈴は体育館を見渡した。数百人の生徒たちの顔。一人一人が、今、美鈴を見ている。
「お願いします。田中透さんを見てください。彼はここにいます。あなたたちと同じ、血の通った人間です。消えていい存在なんて、この世界にはいない」
 その時、体育館の後方から、声が聞こえた。
「先生」
 か細い、しかし確かな声。
 生徒たちが一斉に振り返る。そこに――。
 少年が立っていた。痩せた体、大きな目、黒い制服。
「僕は、田中透です」
 ざわめきが広がる。生徒たちは、初めて透の姿を見た。いや、正確には、「思い出した」。
「あれ……浅尾って、いたっけ?」
「いた、いた。確かにいた。なんで忘れてたんだろう……」
 透はゆっくりと前に歩み出た。その姿は、まだ薄く、半透明のように見えた。しかし、確かに存在していた。
「僕の姉、田中透子は、10年前にこの学校で死にました。誰にも見てもらえず、誰にも聞いてもらえず、ただ一人で消えていきました」
 体育館は、シンと静まり返った。
「もう、誰も消さないでください。見ないふりをしないでください」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ
ホラー
【1~4話で完結する、語り口調の短編ホラー集】 ジャパニーズホラー、じわ怖、身近にありそうな怖い話など。 八尺様 や リアルなど、2chの 傑作ホラー の雰囲気を目指しています。現在 150話 越え。 === エブリスタ・小説家になろう・カクヨムに同時掲載中 【総文字数 800,000字 超え 文庫本 約8冊分 のボリュームです】 【怖さレベル】 ★☆☆ 微ホラー・ほんのり程度 ★★☆ ふつうに怖い話 ★★★ 旧2ch 洒落怖くらいの話 ※8/2 Kindleにて電子書籍化しました 『9/27 名称変更→旧:ある雑誌記者の記録』

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

怪談実話 その4

紫苑
ホラー
今回は割とほのぼの系の怪談です(笑)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

奇談

hyui
ホラー
真相はわからないけれど、よく考えると怖い話…。 そんな話を、体験談も含めて気ままに投稿するホラー短編集。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/2/10:『ふりかえ』の章を追加。2026/2/17の朝頃より公開開始予定。 2026/2/9:『ゆぶね』の章を追加。2026/2/16の朝頃より公開開始予定。 2026/2/8:『ゆき』の章を追加。2026/2/15の朝頃より公開開始予定。 2026/2/7:『かいぎ』の章を追加。2026/2/14の朝頃より公開開始予定。 2026/2/6:『きんようび』の章を追加。2026/2/13の朝頃より公開開始予定。 2026/2/5:『かれー』の章を追加。2026/2/12の朝頃より公開開始予定。 2026/2/4:『あくむ』の章を追加。2026/2/11の朝頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

『ショート怪談』訪れるもの

見崎志念
ホラー
一話完結のお話をぽつぽつとしたためております。ドロッとしたよくわからないものに対しての恐怖をお楽しみください

処理中です...