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第五章 最後の証言
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1
全校集会の日。
体育館に全校生徒が集まった。美鈴は、もう誰からも認識されていなかった。職員室の自分の机は空席扱いになっていた。出勤簿にも名前がない。
しかし、美鈴はそこにいた。確かに存在していた。
校長の話が終わり、生徒たちが席を立とうとした時、美鈴は壇上に上がった。
「皆さん」
誰も反応しない。美鈴の声は、彼らには聞こえていないかのようだった。
「私は森内美鈴。2年B組の副担任です」
それでも、美鈴は語り続けた。
「この学校には、一人の生徒がいます。出席番号23番、田中透さん。彼は毎日学校に来ています。授業を受けています。しかし、誰も彼を見ることができない」
ざわめきが起きた。わずかだが、生徒たちの一部が美鈴の方を見た。
2
「10年前、この学校で田中透子さんという生徒が亡くなりました。彼女は、生きながらにしてクラスメイトの認識から消されていった。誰も彼女を見なかった。誰も彼女の声を聞かなかった」
体育館が静まり返った。
「それは誰の責任でしょうか? いじめた生徒たちの責任? いいえ、彼らは悪意を持っていなかった。ただ『見えなかった』だけです」
「では、教師の責任? それもある。しかし、教師たちも『見えなかった』。気づけなかった」
「この学校全体が、集団として、無意識に機能している。見たくないものを見ないようにする。知りたくないことを知らないようにする。その結果が、一人の生徒の死だった」
生徒たちは、今、確かに美鈴を見ていた。美鈴の姿が、彼らの目に映り始めていた。
「そして今、同じことが起きています。田中透さんは、姉の死の真相を知るためにこの学校に来ました。しかし、この学校は彼を拒絶した。『見ないようにした』」
「私も同じです。真実を見ようとした。だから、私も消されようとしている」
3
美鈴は体育館を見渡した。数百人の生徒たちの顔。一人一人が、今、美鈴を見ている。
「お願いします。田中透さんを見てください。彼はここにいます。あなたたちと同じ、血の通った人間です。消えていい存在なんて、この世界にはいない」
その時、体育館の後方から、声が聞こえた。
「先生」
か細い、しかし確かな声。
生徒たちが一斉に振り返る。そこに――。
少年が立っていた。痩せた体、大きな目、黒い制服。
「僕は、田中透です」
ざわめきが広がる。生徒たちは、初めて透の姿を見た。いや、正確には、「思い出した」。
「あれ……浅尾って、いたっけ?」
「いた、いた。確かにいた。なんで忘れてたんだろう……」
透はゆっくりと前に歩み出た。その姿は、まだ薄く、半透明のように見えた。しかし、確かに存在していた。
「僕の姉、田中透子は、10年前にこの学校で死にました。誰にも見てもらえず、誰にも聞いてもらえず、ただ一人で消えていきました」
体育館は、シンと静まり返った。
「もう、誰も消さないでください。見ないふりをしないでください」
全校集会の日。
体育館に全校生徒が集まった。美鈴は、もう誰からも認識されていなかった。職員室の自分の机は空席扱いになっていた。出勤簿にも名前がない。
しかし、美鈴はそこにいた。確かに存在していた。
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「皆さん」
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それでも、美鈴は語り続けた。
「この学校には、一人の生徒がいます。出席番号23番、田中透さん。彼は毎日学校に来ています。授業を受けています。しかし、誰も彼を見ることができない」
ざわめきが起きた。わずかだが、生徒たちの一部が美鈴の方を見た。
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「10年前、この学校で田中透子さんという生徒が亡くなりました。彼女は、生きながらにしてクラスメイトの認識から消されていった。誰も彼女を見なかった。誰も彼女の声を聞かなかった」
体育館が静まり返った。
「それは誰の責任でしょうか? いじめた生徒たちの責任? いいえ、彼らは悪意を持っていなかった。ただ『見えなかった』だけです」
「では、教師の責任? それもある。しかし、教師たちも『見えなかった』。気づけなかった」
「この学校全体が、集団として、無意識に機能している。見たくないものを見ないようにする。知りたくないことを知らないようにする。その結果が、一人の生徒の死だった」
生徒たちは、今、確かに美鈴を見ていた。美鈴の姿が、彼らの目に映り始めていた。
「そして今、同じことが起きています。田中透さんは、姉の死の真相を知るためにこの学校に来ました。しかし、この学校は彼を拒絶した。『見ないようにした』」
「私も同じです。真実を見ようとした。だから、私も消されようとしている」
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美鈴は体育館を見渡した。数百人の生徒たちの顔。一人一人が、今、美鈴を見ている。
「お願いします。田中透さんを見てください。彼はここにいます。あなたたちと同じ、血の通った人間です。消えていい存在なんて、この世界にはいない」
その時、体育館の後方から、声が聞こえた。
「先生」
か細い、しかし確かな声。
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「僕は、田中透です」
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「あれ……浅尾って、いたっけ?」
「いた、いた。確かにいた。なんで忘れてたんだろう……」
透はゆっくりと前に歩み出た。その姿は、まだ薄く、半透明のように見えた。しかし、確かに存在していた。
「僕の姉、田中透子は、10年前にこの学校で死にました。誰にも見てもらえず、誰にも聞いてもらえず、ただ一人で消えていきました」
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「もう、誰も消さないでください。見ないふりをしないでください」
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