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本編
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国を追放されて彷徨っていたら隣の帝国に拾われて、神の子と呼ばれています。
無様に落ちぶれていく自国の崩壊の報を聞いていたら、元婚約者の王子が帝国に攻め込んできました。
◆◇◆
私は神の子として祀られている神殿を出て、皇帝の住まう宮殿に急ぎます。
宮殿では誰も神の子を止める者はなく、皇帝のいると思われる自室まで真っ直ぐに走りました。
扉を開けるとそこには皇帝ではなく、血と泥に塗れた男が床に転がっていました。
「王子!」
私は思わず叫ぶと王子に駆け寄ります。
『無能は去れ』
そう言って私を国から追放した気高い王子の面影はなく、哀れなただの男がそこにいるだけです。
「聖女を返せというから連れてきた。あなたを追放して俺のところまで導いてくれた男だ。処分はあなたに任せましょう、神の子」
皇帝はそういうと家臣に男を神殿まで運ばせました。
神殿までの道で、王子は何度も呻き声をあげました。
見た目からしても酷い状況だけど、身体は想像以上に傷ついているのでしょう。
「神の子の神罰は俺も怖い、あなたが気の済むようにしてください」
皇帝は私の意を汲んで王子を治さなかったのです。
私は王子を私の部屋に寝かせると、回復魔法の使える者を呼び寄せます。
しかし、上位の回復師は王子の仕掛けた戦争の負傷者を治療するために出払っていて、下位の少しの回復力しか持たない回復師しかいませんでした。
完全に回復させられなかった王子は一晩中苦しんでいました。
しかし、苦しめるだけ幸せなのです、王子。
あなたに連れられて戦争をした兵士は全員が亡くなったのですから。
◆◇◆
次の日の昼頃に王子は目を覚ましましました。
ぼんやりと辺りを見回して、見知らぬ天井に状況が掴めない様子です。
「王子、身体の痛みはありますか?」
私がそう聞くと、こちらに視線を向けます。
私の姿を捉えた王子の目は一瞬で血走り、狂気が満ちました。
「会いたかった、聖女」
そう言って私を強く抱きしめます。
王子の指が私の背中に食い込んで、傷をつけます。
けれど、身体が回復していない王子は血を吐いて、ベッドに倒れます。
王子の吐いた血が私の首筋からお腹にかけてをべっとりと濡らします。
皇帝に頂いた神の子としての神聖なドレスが真っ赤に染まって、血の飛沫が顔にもかかりました。
「俺のものだ、聖女……。愛している……」
はっきりと力強い王子の声が私を揺さぶると、王子はまた眠りに落ちていきます。
私はすぐにドレスを着替えます。
顔についた血を拭った指先が王子の血で濡れています。
帝国で神の子と呼ばれるようになって知った私の本当の力……王子を狂気に駆り立てているのはこの力なのでしょうか?
◆◇◆
私の力は存在するだけで国の天候の偏りを是正して、農産物の収穫を安定させるという神の祝福です。
亡くなった先代の聖女だけがそれを知って、ただの転生した村娘だった私を聖女に指名しました。
干ばつの時には雨を降らせて奇跡を見せて欲しかった人々には、結果だけ安定させる私の力は無能に映ったのでしょう。
私自身さえ、皇帝に聞いて現象を確認するまでは自分を無能だと思っていました。
だから、王子も、私を無能と罵る一人だと思っていたけれど……。
「愛してる、聖女」
血を吐く事はなくなったらけれど、王子は血走った目で私を捉えると私を抱きしめました。
食事を与えようとなんとか離れてスプーンを王子の口に運ぶと、王子は両手で私の手を押さえると、私の手を舐め回すようにしてからスプーンを口に入れるのです。
血走った目は私を狙う獣のように鋭く、手を舐め回されなが見つめられるとゾッと背筋が寒くなります。
食事が終わるとまた王子は私を抱き締めて、背中や腕にアザを残します。
体力の続く限り抱きしめると、不意にまた眠りに落ちます。
そんな、日々がしばらく続くと、だんだんと王子の狂気に満ちた目に光が差してきました。
◆◇◆
「聖女……? なぜ君が? 俺が追放したはずなのに……」
ついにこの時が来たようです。
王子の目には光が戻り、血走った狂気はどこにもありません。
「ここは……?」
改めて神殿の私の部屋を見回す王子は、だんだんと青ざめていきます。
自分がした事を忘れたわけではないようです。
私の能力は神の祝福以外にもう一つありました。
強く手に入れたいと思うのに思い通りにいかないものへ与える神の罰です。
全てのもの事が、私がそれを手に入れるために動いていくのです。
「王子は私のものになるために、自らここへ来たんですよ」
王子の顔がみるみると絶望に染まっていきます。
国を衰えさせて、兵を死に追いやったことを王子は反芻しているのでしょう。
「狂気にうなされていた間に愛してると私に囁いたことも、全てあなたの意思ではありませんでしたか?」
王子の目から涙が溢れました。
王子は雨の量と収穫量を調べて、私の能力をあの国で唯一知っていたのです。
だからこそ、無知で無能で何も理解出来ない人々から、私を守るために婚約を破棄して私を追放したのです。
操られていたとはいえ王子の狂気は全て私への愛が引き起こしたものです。
「俺は、あなたを愛しています……」
ただ一つだけ、その真実だけが残っています。
王子は私の身体を抱きしめます。
もう爪が食い込んでアザを残すようなことはないけれど、王子のこの執着だけは本物です。
追放された日の人々の嘲笑が、アザよりも深い傷を私に残しています。
王子に愛されていた日々を上書きする程の悔しさをあの日の人々が私に残しました。
感情のない夜に溢れてくる悔し涙に、私が求めているものを強く意識します。
死を——。
彼らに残酷な死を——。
愛する王子が絶望しても構わない——。
涙をこぼして私への愛を確認した王子には、神罰を手伝ってくれたご褒美をあげましょう。
私は永遠にあなたのものです。
◆◇◆
俺は彼女を愛していない。
愛していると思ったこともあった。
守るために追放したと俺自身も思っていた。
でも、違った。
俺は、彼女が俺の考えているようなものであることを証明したかっただけだ。
今、目の前で俺の愛を手に入れたと微笑んでいる彼女は、俺の考える厄災そのものだった。
だから、俺は怯えたふりをして永遠に彼女に愛を囁く。
俺を信じない奴らを一掃してくれてありがとう。
悔しさで眠れない夜はもう終わりだ。
俺と聖女は手を繋いでいる。
この手は永遠に離れない。
無様に落ちぶれていく自国の崩壊の報を聞いていたら、元婚約者の王子が帝国に攻め込んできました。
◆◇◆
私は神の子として祀られている神殿を出て、皇帝の住まう宮殿に急ぎます。
宮殿では誰も神の子を止める者はなく、皇帝のいると思われる自室まで真っ直ぐに走りました。
扉を開けるとそこには皇帝ではなく、血と泥に塗れた男が床に転がっていました。
「王子!」
私は思わず叫ぶと王子に駆け寄ります。
『無能は去れ』
そう言って私を国から追放した気高い王子の面影はなく、哀れなただの男がそこにいるだけです。
「聖女を返せというから連れてきた。あなたを追放して俺のところまで導いてくれた男だ。処分はあなたに任せましょう、神の子」
皇帝はそういうと家臣に男を神殿まで運ばせました。
神殿までの道で、王子は何度も呻き声をあげました。
見た目からしても酷い状況だけど、身体は想像以上に傷ついているのでしょう。
「神の子の神罰は俺も怖い、あなたが気の済むようにしてください」
皇帝は私の意を汲んで王子を治さなかったのです。
私は王子を私の部屋に寝かせると、回復魔法の使える者を呼び寄せます。
しかし、上位の回復師は王子の仕掛けた戦争の負傷者を治療するために出払っていて、下位の少しの回復力しか持たない回復師しかいませんでした。
完全に回復させられなかった王子は一晩中苦しんでいました。
しかし、苦しめるだけ幸せなのです、王子。
あなたに連れられて戦争をした兵士は全員が亡くなったのですから。
◆◇◆
次の日の昼頃に王子は目を覚ましましました。
ぼんやりと辺りを見回して、見知らぬ天井に状況が掴めない様子です。
「王子、身体の痛みはありますか?」
私がそう聞くと、こちらに視線を向けます。
私の姿を捉えた王子の目は一瞬で血走り、狂気が満ちました。
「会いたかった、聖女」
そう言って私を強く抱きしめます。
王子の指が私の背中に食い込んで、傷をつけます。
けれど、身体が回復していない王子は血を吐いて、ベッドに倒れます。
王子の吐いた血が私の首筋からお腹にかけてをべっとりと濡らします。
皇帝に頂いた神の子としての神聖なドレスが真っ赤に染まって、血の飛沫が顔にもかかりました。
「俺のものだ、聖女……。愛している……」
はっきりと力強い王子の声が私を揺さぶると、王子はまた眠りに落ちていきます。
私はすぐにドレスを着替えます。
顔についた血を拭った指先が王子の血で濡れています。
帝国で神の子と呼ばれるようになって知った私の本当の力……王子を狂気に駆り立てているのはこの力なのでしょうか?
◆◇◆
私の力は存在するだけで国の天候の偏りを是正して、農産物の収穫を安定させるという神の祝福です。
亡くなった先代の聖女だけがそれを知って、ただの転生した村娘だった私を聖女に指名しました。
干ばつの時には雨を降らせて奇跡を見せて欲しかった人々には、結果だけ安定させる私の力は無能に映ったのでしょう。
私自身さえ、皇帝に聞いて現象を確認するまでは自分を無能だと思っていました。
だから、王子も、私を無能と罵る一人だと思っていたけれど……。
「愛してる、聖女」
血を吐く事はなくなったらけれど、王子は血走った目で私を捉えると私を抱きしめました。
食事を与えようとなんとか離れてスプーンを王子の口に運ぶと、王子は両手で私の手を押さえると、私の手を舐め回すようにしてからスプーンを口に入れるのです。
血走った目は私を狙う獣のように鋭く、手を舐め回されなが見つめられるとゾッと背筋が寒くなります。
食事が終わるとまた王子は私を抱き締めて、背中や腕にアザを残します。
体力の続く限り抱きしめると、不意にまた眠りに落ちます。
そんな、日々がしばらく続くと、だんだんと王子の狂気に満ちた目に光が差してきました。
◆◇◆
「聖女……? なぜ君が? 俺が追放したはずなのに……」
ついにこの時が来たようです。
王子の目には光が戻り、血走った狂気はどこにもありません。
「ここは……?」
改めて神殿の私の部屋を見回す王子は、だんだんと青ざめていきます。
自分がした事を忘れたわけではないようです。
私の能力は神の祝福以外にもう一つありました。
強く手に入れたいと思うのに思い通りにいかないものへ与える神の罰です。
全てのもの事が、私がそれを手に入れるために動いていくのです。
「王子は私のものになるために、自らここへ来たんですよ」
王子の顔がみるみると絶望に染まっていきます。
国を衰えさせて、兵を死に追いやったことを王子は反芻しているのでしょう。
「狂気にうなされていた間に愛してると私に囁いたことも、全てあなたの意思ではありませんでしたか?」
王子の目から涙が溢れました。
王子は雨の量と収穫量を調べて、私の能力をあの国で唯一知っていたのです。
だからこそ、無知で無能で何も理解出来ない人々から、私を守るために婚約を破棄して私を追放したのです。
操られていたとはいえ王子の狂気は全て私への愛が引き起こしたものです。
「俺は、あなたを愛しています……」
ただ一つだけ、その真実だけが残っています。
王子は私の身体を抱きしめます。
もう爪が食い込んでアザを残すようなことはないけれど、王子のこの執着だけは本物です。
追放された日の人々の嘲笑が、アザよりも深い傷を私に残しています。
王子に愛されていた日々を上書きする程の悔しさをあの日の人々が私に残しました。
感情のない夜に溢れてくる悔し涙に、私が求めているものを強く意識します。
死を——。
彼らに残酷な死を——。
愛する王子が絶望しても構わない——。
涙をこぼして私への愛を確認した王子には、神罰を手伝ってくれたご褒美をあげましょう。
私は永遠にあなたのものです。
◆◇◆
俺は彼女を愛していない。
愛していると思ったこともあった。
守るために追放したと俺自身も思っていた。
でも、違った。
俺は、彼女が俺の考えているようなものであることを証明したかっただけだ。
今、目の前で俺の愛を手に入れたと微笑んでいる彼女は、俺の考える厄災そのものだった。
だから、俺は怯えたふりをして永遠に彼女に愛を囁く。
俺を信じない奴らを一掃してくれてありがとう。
悔しさで眠れない夜はもう終わりだ。
俺と聖女は手を繋いでいる。
この手は永遠に離れない。
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