家族の靴を磨いていた私が、実は【神の加護を磨き上げた聖女】だった件。隣国の冷徹皇帝に「君の献身は世界を救う」と誘拐、24 執着されています

唯崎りいち

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 家族の靴を毎日磨く私が、磨くことで加護を与える聖女だったなんて知らなかった。

「陰気な女だ。だが、靴が光っていると褒められた。何か出世の足がかりになるかもしれない」

 兄が帰ってくるなり靴を磨いていた私を貶し、家族と話している。

 兄の靴は古いのに発光しているように輝いてる。

 私は、家の雑用を全てやらされているけど、靴を磨く事だけは好き。

 褒めてくれる人が居たなら、嬉しい。

「ここに聖女がいるな」

 いきなりドアが開かれる。

 圧倒的なオーラを放つ男性が入って来るなり、靴を磨く私を見た。

 靴はやっぱり輝いている。

「神の加護だ……! 探していたんだ、聖女」

 男性の冷徹な顔が私に向けられると、私を抱きあげて外に出る。

「な、なんだ、さっき靴を褒めてくれた人が、妹を誘拐する気か!?」

 兄が慌てている。

 何も分からずに連れていかれそうになる私。

 男性の腕の逞しさを掴まれた身体で感じて、胸が早鐘の如く高鳴るけど、どこに連れていかれるのか怖い。

 あんな兄でも今だけは頼りになる。

「俺は隣国の皇帝だ。俺の聖女にした仕打ちはこの国の王に伝える。処分を楽しみに待っていろ」

 冷たく刺すような瞳で兄や家族を鋭く見つめる皇帝。

「こ、皇帝だと……」

 呆然と崩れ落ちて、膝をつく兄や家族。

「妹が……聖女……まさか……」

「俺の聖女……」

 冷徹な皇帝の腕からは逃げられない。

 私が家族を見た最後になりました。

◆◆

 馬車に乗せられて皇帝の膝に抱かれた私。

 怖くて震えていました。

「怖がることはない。俺はあなたの味方だ。ずっと俺のそばで暮らすあなたが欲しいものはなんでも言うんだ、全て叶えてやろう。俺のものには不自由はさせない」

 皇帝は甘く囁くけど、冷徹な顔が怖いままです。

 ただ、馬車に揺れながら皇帝が私の髪を撫でてくれて、触れる身体に胸がドキドキしました。

 撫でられる心地さに、目を瞑って身を委ねると、いつの間にか眠ってしまいました。

 転生者って気づいてからは、ずっと家族の面倒を見て掃除や雑用をしていたから、ちゃんと寝る暇がありませんでした。

 皇帝の腕の中はとても暖かくて幸せです。

◆◆

 隣国の宮殿に着くと皇帝の優しい手に起こされる。

 顔は冷徹で険しいままだった。

「あなたが、一生俺のものになって、閉じ込められる場所だ」

 閉じ込められると言う割には、広すぎる場所です。

「もっと狭い所じゃないと、馬車の中みたいに密着できません……」

 私はまだ寝ぼけたままで何か言うと、皇帝の腕の中で眠りに落ちる。

「あなたも俺に独占されたいと思っていてくれて嬉しいよ」

 皇帝は冷徹な笑みを浮かべる。

 顔にキスされる感覚がくすぐったくて、避けようと私は皇帝にもっと抱きついて密着した。

◆◆

 ベッドの上で目を覚ますと目の前に皇帝の顔があった。

 私は驚いて飛び起きる。

 皇帝の少し乱れた黒髪が美しい顔にかかって、寝顔に色気を与えている。

 飛び起きる前には、その黒髪が私の顔にかかるくらい近づいていた。

 皇帝の寝息が、私の唇を揺らす感覚で目が覚めた事を思い出す。

 全てが私には刺激が強すぎて、胸がバクバクとなって壊れてしまいそう。

 それなのに、皇帝の腕が私を再び彼の胸のなかに戻す。

 皇帝の腕の筋肉が私の鼻先から背中に回されている。

 温かくて逞しい匂いと熱気が柔らかく顔にかかる。

 筋肉の硬く滑らかな感触の慣れなさに、私はますます心臓が激しく動揺している。

「あなたの希望通りに、俺との密着から離れられないようにした。俺の腕からはもう逃げられない、聖女」

「き、希望ってなんですか!? く、苦しいです! 皇帝」

 皇帝はそれでも離してくれません。

 私は苦しいのに、顔が熱くなって独占される喜びに身体が震えています。

 ベッドの上から皇帝が移動すると密着して抱かれている私も一緒に動きます。

 皇帝が靴を履いてそのまま私を抱き上げて部屋を出ようとします。

「あの、皇帝、私の靴はどこですか?」

「あなたは聖女だ。俺がこうしてどこにでも連れて行くのだから、靴は必要ない」

 怖い顔で冷たく言います。

「あ、あります! 皇帝がいない時は裸足で移動することになってしまいます!」

「いない時などない。俺とあなたは二四時間一緒なんだから。俺は自分のものをかた時も離すことはない」

 ええ!!?

「靴を履かずに地面を歩く事はこの国では禁止されているから、やらないように、聖女」

 冷徹な皇帝がさらに真面目な顔をして深刻そうに言います。

 冗談ではなそうです……。

「あなたは聖女としてこの国の神器や俺の剣を磨いて加護を与えるのが仕事だ。あなたの加護が全てに宿れば国どころか世界を救えるほどの力になる」

「み、磨くだけで、ですか? 靴磨きは大好きだけど……」

「その飾らない献身が必要なんだ。あなたになら俺自身をどれだけ与えても惜しくない」

「さ、流石に二四時間密着は……」

「あなたが一人の姿を、他の男に一瞬でも見せたくない。俺のものだということを全ての男の瞳に刻みつける」

◆◆

 食堂に行くと長いテーブルにたくさんの椅子が並んでいます。

 それなのに、私と皇帝は一つの椅子に座っています。

 皇帝の膝の上に乗っかっている私。

 皇帝が冷徹な動作で私に食事を運んでくれます。

「あの……自分で食べた方が早いです……」

 皇帝はピタッと動きを止めます。

 冷徹な瞳で顔を覗き込まれて、怖い!

「あなたはこの国の至宝だ。俺が食べさせなければ問題がある」

 また真面目で深刻そうに言います。

 この国には独自の決まりが多そうです。

「皇帝もこの国の至宝でしょう? 私が食べさせていいの?」

 私はパンをちぎって皇帝の口に入れる。

 冷徹な顔を崩さずに、もぐもぐと咀嚼する様子が可愛い。

 皇帝が私にスプーンで食べさせて、私が皇帝パンを千切って食べさせる。

 お互いに唇を意識しながら食べさせあっていると、どっちが自分の唇か分からなくなる。

 気づくと皇帝と私は抱き合って、お互いの唇を求めていた。

◆◆

 次に、私は聖女としての初仕事に神器を渡されます。

 ここは皇帝の玉座の間で皇帝と皇妃の椅子が並んでいます。

 私は皇帝が玉座に座った上に置かれて、背中から抱きしめられています。

「神器だけには、聖女との正面からの密着は譲らなけらばいけないな」

 皇帝がぼやいてますが、背中にくっついた皇帝の胸の筋肉や腹筋、お腹を包んで交差する両腕、手元を覗き込む顔からかかる息。

 密着する角度が違うだけで、密度は同じかそれ以上です。

 たくさんの侍従が私と皇帝を見ていて、皇帝の体温を感じている自分が恥ずかしくて真っ赤になってしまいます。

 さらに、私の胸はドキドキと鼓動を早くします。

 それでも、渡された神器を磨くうちに、皇帝よりも神器を感じる感覚が強くなっていきます。

 磨けば磨くほど輝いて、丸い陶器のような中心が怪しく色を放ち始める。

 クリーム色や白身の大量に入ったピンクや水色、紫が混じり合って丸い陶器の上にマーブル模様を描きます。

 ざわざわと王座の間に侍従たちのどよめきが広がるのを遠くに感じます。

 神器の上で、色のついた煙たちが混ざるように動き出した模様の先に、何かが見えました。

「これは……!」

 皇帝が声を上げると同時に、神器が眩く光を放ちました。

 皇帝の私を抱く腕の力が強くなります。

 光を放った後の神器が静かになります。

 表面は動かないただの陶器に戻っています。

 それともさっきに模様が現れたのが幻だったのか……。

 表面だけは磨かれて渡された時より綺麗になっています。

 皇帝が合図すると神器は侍従が持って行っきます。

 渡された時と同じ侍従だと思うけど、持って行く時は恍惚の表情で私を見ていました。

 皇帝が私の顔に手を這わせて、侍従から隠そうとします。

「大丈夫か、聖女。疲れていないか?」

 皇帝が自分で作った私を隠す手のひらの檻の中を心配そうに見つめる。

 けど、私は特に何事もなく元気です。

「靴を磨くように磨いただけだけど……」

「あれを普通にやってしまえる、あなたがすごいんだ……。神器に映ったのは未来の出来事で、見せられた俺の方が疲れてしまったくらいなのに」

 後ろを振り返ると皇帝は疲れた顔をしていた。

「大丈夫? 私が降りた方がいいですね……」

 そう言って離れようとする。

「ダメだ、聖女。靴を履かずに地面に降りる事は重罪だ!」

 皇帝に強く抱きしめられる。

 そうだった!

 変わった神器の現象といい、この国の事を私はまだ知らない。

「他の神器は明日以降にしよう」

 私はまだやれるけど、皇帝が疲れる……。

 未来のことを見ても、それだけで全てがわかるわけじゃないから、皇帝の頭の中では未来の出来事への答え合わせが高速で展開しているんだろう。

「皇帝が疲れるなら、皇妃の椅子に座って磨くようにするけど……」

「あなたは皇妃の座を御所望か。是非、なってもらいたい」

 皇帝が背中から抱きしめた私にキスしている。

「べ、別に皇妃の座が欲しいわけじゃ!」

 慌てて否定するけど、冷徹だった皇帝の瞳だけがとろけるように甘くなって、後ろから抱きしめた私に何度も何度もキスをする。

 使用人が見ている前でキスされて、私の顔が真っ赤に染まって行く。

「や、やめてください……見られているのに……」

 でも、言いながらも、皇帝から背中から抱かれてどこも掴めない私の手が、私のお腹を包む皇帝の腕に必死でしがみつく。

 私の手が寂しそうにしているのに気づいた皇帝に、私の身体は向きを変えさせられる。

 皇帝の身体と正面から向かい合って、私は私の身体が皇帝の身体に重なるように皇帝の首に手を回してギュッと抱きしめます。

 皇帝の鼓動が身体に響いてきます。

「ずっとこうしていたいです」

「あなたを永遠に離すつもりはないのだから、ずっとこのままだ」

 皇帝はそう言うと私をベッドの上に連れて行きます。

◆◆

 もっと強く皇帝の鼓動を感じる。

 皇帝に抱きしめられながら、私は皇帝の髪を手ですきます。

「聖女は俺を磨いてくれるのか」

「はい。大好きない皇帝のことは私が磨きます」

「では、俺が……あなたを磨こう……」

 皇帝の手が私を撫でる。

 全身を順番に撫でられて、裸足の足を掲げて撫でられます。

 家族にはボロボロの靴しか貰えなくて、私の足は硬くなっている。

 靴を磨いても、空いた穴は防げなかった。

「この足が他の場所のように滑らかになるまで、俺が磨こう。その後もずっと美しいまま、俺があなたの全てを管理しよう」

 磨かれて心地よい暖かさに包まれる……。

◆◆

 皇帝の膝の上の抱かれて、私が皇帝の髪を撫でて磨く。

 皇帝は部下の訴状に次々と判断を下していく。

 冷徹な表情は変わらないけれど、以前より優しい判断になっている。

「あなたが磨いてくれるから、より広い判断が出来るようになった。時には問題を先送りして活かすことも必要なのだ」

 なんだか私にはよくわ分からないけど、役に立っているならよかった。

「皇帝陛下、隣国より聖女様のご家族についての書簡が届いております」

 私はビクッと大きく身体を跳ね上がらせた。

 皇帝が強く抱きしめてくれる。

 書簡によると、家族は皇帝の国の聖女の力を私的に使った罪で祖国で投獄されたらしい。

 私が小さな頃に、私の磨いたものに神聖な輝きが宿るという指摘を術師からされていたらしい。

 それを、家の雑用をさせたいからと無視していた。

 私の磨いた家の物は、神聖な加護が宿っており隣国で国宝として祀ることの許可を求めている。

 一度磨いただけでも加護が宿るのに、何度も何度も磨いたものたちは神器にも匹敵する程の神聖を持つようになっているらしい。

「我が帝国には聖女がいる。加護を受けた物は隣国で祀ることを許可しよう。聖女の磨いたものは神具として無駄なく利用すべきだ」

 皇帝が言うけど、そんなにすごい力が宿っているのかしら?

「あなたの磨かれた物は極上の滑らかさで、触れた人に優しさと余裕を与えるんだ。私にあなたが与えているように」

 ささやかでも、全ての人に届くときに、世界が救われる。

 私の家族はその優しさを私には向けてくれなかった。

 それどころか、他人にも向けずにただ無駄にしていただけだった。

 その罪を、皇帝や祖国の王が重くみている。

 些細なことでも認めてもらえて嬉しい。

 数日後に届いた兄からの手紙には後悔と謝罪の言葉が綴られていた。

 他の家族の手前、お前を虐げるしかなかった。

 本当はお前を可哀想に思って助けたかった……。

 他の家族からも同様に自分以外の家族のせいだと言う手紙が届く。

 誰一人として私への謝罪はなく自分自身の保身のみ。

 私の磨く能力を見落として当然の家族だったと確認できました。

「永遠に投獄するのがいいと思います」

 皇帝が冷徹にうなづいた。

「あなたが頼れるのは俺だけだ。俺だけを一生頼ればいい」

◆◆

 移動も一緒でずっとくっついてる皇帝と私だけど、お風呂だけは別です。

 お風呂は、空の浴槽に私を置いて皇帝が出て行った後に、服を脱いでメイドたちにお湯を入れて洗ってもらう。

 十分以上は皇帝がイライラし出すから入っていられない。

 私も、皇帝の腕が腰にないと不安で仕方がなくなる。

 もう、あなたなしじゃ生きられない。

 メイドの一人の靴が濡れてしまって裸足になる。

「え!? 裸足で床を歩くのは禁止でしょう!?」

「なんですか、それ?」

 メイドたちがキョトンとしている。

◆◆

 着替えて皇帝が風呂に来るのを待つ。

 皇帝に抱き抱えられて寝室へ。

 まだ濡れた髪を皇帝が私を抱きながら拭いてくれる。

 ムッとして私が怒っていることに皇帝はまだ気づいていないみたい。

「どうかしたのか? 聖女。なぜ、俺を抱きしめない」

 やっと皇帝が私が怒っていることに気づいてくれた。

「皇帝、裸足で床を歩く事はこの国では禁止されてるって嘘だったんですね」

「ああ……。嘘ではない。聖女だけが守る特別ルールだ。ずっと俺と密着できるように、
俺があなたのために咄嗟に作った」

 皇帝は冷徹な表情に、真面目さと深刻さを付け加えて言う。

 ふざけてます?

「もしかして皇帝って顔だけで中身は楽しい人なんですか?」

「あなたが思うならそうなんだろう」

 皇帝は冷徹に言って私を抱きしめるけど、触り方が優しい。

 思い返せば、皇帝はずっと私の望む通りの抱き方をしてくれていた気がします。

「……あなたが作ってくれたルール、絶対に守ってください」

 私は靴を捨てた靴磨きの聖女です。

「あなたは永遠に俺のものだから、二十四時間、一生離さない」

 磨くほど強くなる私の加護で、皇帝の執着が神レベルです。

 二十四時間体制で私が磨いている——

 最強の靴は、皇帝でした。
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